魔法少女リリカルなのは ~コード・イレイザー~ 作:長谷川広軌
仮面の戦士たちが逃走し、静寂が戻った夜の廃ビル街。
シグナムとヴィータの元へ、空間転移によってシャマルとザフィーラが駆けつけてきた。
「シグナム! ヴィータちゃん! はやてちゃんが……っ!?」
「……ああ。仮面の奴らに、奪われた」
シグナムが、ギリッと拳を握りしめる。
シャマルとザフィーラは、その場に立つなのはたち三人の姿を認め、即座に臨戦態勢をとった。しかし、シグナムがそれを片手で制止する。
「やめろ、シャマル、ザフィーラ。彼女たちは敵ではない」
「え……?」
「彼女たちは……我々を縛る結界だけを撃ち抜き、救ってくれたのだ」
シグナムの言葉に、シャマルたちが驚愕の面持ちでなのはたちを見つめる。
なのははレイジングハートを下ろし、静かに、けれど真っ直ぐな瞳で四人の騎士たちを見据えた。
「はやてちゃんが連れ去られる時、すごく苦しそうだった。闇の書が、はやてちゃんの魔力を……命を吸い上げてるんでしょ?」
「……ッ」
「はやてちゃんを助けたい。ヴィータちゃんたちと一緒に、笑っててほしいの。……お願い、私たちに力を貸して!」
なのはが、ヴィータに向かって手を差し出す。
ヴィータは、その手を弾き飛ばそうとして――しかし、どうしてもできなかった。
あんなに自分たちを邪魔する憎い敵だったはずなのに、今のなのはの手は、どうしようもなく温かく、そして力強く見えたからだ。
「アタシたちと組んだって……お前らに、何の得があるんだよ」
ヴィータが、涙声でぽつりとこぼす。
それに答えたのは、黄金の騎士、フェイトだった。
「得なんて、いらない。……大切な家族を想って泣く悲しみを、私は知っているから。はやてちゃんも、あなたたちも、絶対に悲しませない」
「お前ら……」
シグナムが小さく息を吐き、そして、深く頭を下げた。
「……感謝する。我らの主、八神はやてを救うため……どうか、力を貸してほしい」
「当然だ。感動の和解の最中に水を差して悪いが、時間がないぞ」
背後から歩み出た紗雪が、空間に青白いホログラムを展開した。
それは、彼女の視界と直結している戦術情報支援システム、ファイル「MOIRA網」 が描き出した広域の次元マップだった。
「敵の仮面戦士が転移した際に生じた次元の航跡(ウェイク)は、すでにファイル「MOIRA網」 が完全に捕捉している。……現在地は、海鳴市上空数千メートルに発生した隔離次元空間。おそらく、あそこで強制的に魔力を注ぎ込み、闇の書を完成させるつもりだ」
紗雪の冷徹な状況分析に、騎士たちの顔色が変わる。
「闇の書が完成すれば、主の意識は防衛プログラムに呑み込まれてしまう……!」
「ああ。だから、そうなる前に『暴走コード』だけを消滅させる」
紗雪は、自らの白銀のデバイス『ノーブル・コレッジ・イグニッション』を掲げた。
「作戦を伝達する。……この隔離空間に突入後、仮面の戦士たちを排除。そして、暴走状態に移行しようとする闇の書の『外殻防壁』を全員の最大火力で粉砕する。私が必要なのは、防壁の奥にある『暴走コード』までの射線が通る、わずか数秒間だ」
紗雪の瞳に、揺るぎない覚悟が宿る。
「その数秒間、私は術式の位相を同期させるために完全に無防備になる。……私の背中を、君たち全員に預ける」
かつては一人で全てを背負い込み、未来を変えようとしていた孤独な軍人。
その彼女が今、二人の親友だけでなく、かつて敵対していたヴォルケンリッターたちにまで、自分の命と作戦の成否を委ねようとしているのだ。
シグナムが、炎の魔剣を力強く握り直した。
「承知した。烈火の将の名にかけて、貴様の射線は我らが死守する」
「アタシも! ハヤテを助けてくれるなら、なんだってやってやる!」
ヴィータも、グラーフアイゼンを肩に担いで力強く頷く。
なのはとフェイトが顔を見合わせ、とびきりの笑顔を咲かせた。
「よし。……時空管理局アースラ、エイミィ曹長。目標座標の固定完了。全機、突入(トランスファー)を要請する!」
紗雪の号令と共に、空から七色の転送光が降り注ぐ。
白銀、桜色、黄金の三連星。そして、四人の鉄十字の騎士たち。
「いくよ、みんな! はやてちゃんを、助け出そう!」
なのはの力強い掛け声と共に、七つの流星が夜空を駆け上がり、禍々しい魔力の渦巻く隔離空間へと一斉に突入していった。
誰も死なせない未来をもぎ取るための、真の最終決戦が今、幕を開ける。