魔法少女リリカルなのは ~コード・イレイザー~   作:長谷川広軌

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第1話:【生ける伝説と、見えない首輪】

「――気をつけ!」

ミッドチルダ郊外に新設された、部隊施設『機動六課』。

そのブリーフィングルームには、ピンと張り詰めた空気が満ちていた。

整列する4人の若きフォワード陣――ティアナ、スバル、エリオ、キャロの視線の先には、八神はやて部隊長と、この部隊の「顔」とも言える教導官たちが並んでいる。

「高町なのは一等空尉だ。よろしくね!」

「フェイト・T・ハラオウン執務官。みんなのサポートをしていくから、よろしく」

二人のエースの挨拶に、新人たちの目に尊敬と憧れの光が宿る。

しかし、その隣に立つ「三人目」が口を開いた瞬間、室内の温度が数度下がったような錯覚が起きた。

「本局技術部特命課からの出向となる。機動六課・戦術教官の芹葉紗雪一尉だ。よろしく頼む」

黒を基調としたバリアジャケット。腰に帯びた白銀のデバイス。

そして、歴戦の猛者であることを隠そうともしない、静かで冷徹な眼差し。

(この人が……あの「AAA+」の……!)

ティアナは息を呑んだ。

昨夜、スバルと共に読んだ『第4演習場・特別使用規定』。そこには、高町なのはとフェイト・T・ハラオウンの全力攻撃を相手に、10年間無傷で生き残り続けたバグのような戦歴が記載されていた。

(優しそうな人だね、ティア!)

(バカ、スバル! 騙されるな! あの人は次元が違うのよ!)

ティアナが心の中で叫んだ直後、紗雪の視線がスッと彼女たちを射抜いた。

「……挨拶は終わりだ。ただちに第1演習場へ移動。お前たちの『現在地』を計測する」

数時間後、第1演習場。

「はい、スバル! 今の動きよかったよ! じゃあその感覚を忘れないうちにもう一回いこう!」

なのはの明るくも容赦ない(物理的な)追い込みが響き渡る中、紗雪はコンソールパネルの前に立ち、無表情でデータと睨み合っていた。

「ティアナ・ランスター」

「ひゃ、ひゃいッ!!」

不意に名前を呼ばれ、ティアナが直立不動になる。

「今の射撃姿勢、右への体重移動が0.12秒遅い。ファイル「MOIRA網」の解析ログと照合した結果、関節の稼働限界ではなく判断の迷いだ。……理由は?」

魔法的な圧力ではない。純粋な「理詰めによる論理の暴力」だ。

「あ、あの……着弾予測地点の計算に気を取られ……」

「実戦での0.12秒は命に直結する。特に広域魔法の着弾地点ではな」

紗雪は静かにため息をついた。

「私はお前たちを壊すつもりはない。だが、生き残るための『最適化』は叩き込む。……次」

その様子を遠巻きに見ていたエリオとキャロが震え上がる。

「芹葉教官、魔法を使っていないのに……すごい圧力ですね」

「うん……なのは教官とは違う意味で、逃げ場がないよ……」

同日・夕刻。紗雪の個人執務室。

新人たちのデータを整理していた紗雪は、手元の端末に施された厳重なプロテクトを解除し、一つの秘匿回線を開いた。

『やあ、芹葉君。そちらの「幼稚園」の様子はどうだい?』

モニターの向こう側から、白衣を着た男――ジェイル・スカリエッティの呆れたような声が響く。

「……課長か。新人たちは優秀だ。だが、まだ死線を知らない。それより、三脳(老人たち)からのオーダーは」

『相変わらずだよ。上の老人たちは「全環境アーコロジー化の論文」の進捗だの、戦闘機人計画のデータだのと無茶ばかり要求してくる。全く、私の頭脳を何だと思っているのか』

スカリエッティは心底面倒くさそうに眼鏡を押し上げた。

「苦労をかける。だが、こちらも遊びではない。私とコレッジがこの10年でこなしてきた、3万時間にも及ぶ訓練試験の指標と実戦データ……それを元に、新人たちを『壊さずに』最前線で生き残らせる必要がある」

紗雪が淡々と告げると、スカリエッティはフッと笑みをこぼした。

『やれやれ。君のその「最適化」への執念には、設計者である私でさえ舌を巻くよ。……ああ、それと芹葉君』

「何だ」

『コレッジの駆動ログを見たがね。初日から負荷率が異常なんだが。新人相手に何をどうしたらあんな数値になるんだい?』

「高町なのはの指導に巻き込まれただけだ。サージカル・イレイズで砲撃の余波を相殺した」

『……私の最高傑作を、相変わらず防波堤か何かと勘違いしていないかね? 次から特命課の予算を削るよ?』

『課長の言う通りです、マスター。私の関節駆動部が悲鳴を上げています』

デバイスの無機質な声まで加わり、紗雪は深く額を押さえた。

「……明日、本局に帰った時に調整する。通信終了だ」

回線を切ると、窓の外にはミッドチルダの夕暮れが広がっていた。

未来の知識というチートはもうない。あるのは、この10年で培った狂気的なまでの戦術と、背後にいる厄介な上司だけ。

「……さて。明日の地獄(メニュー)を組むか」

生ける伝説となった19歳の教官は、微かに口角を上げ、再び端末に向かい合った。

 

 

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