魔法少女リリカルなのは ~コード・イレイザー~   作:長谷川広軌

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第3話:【紗雪式結線記法と、戦術的リンクノード】

ミッドチルダ・第2演習場。

「いっけええええええっ!!」

「はああああああっ!!」

スバル・ナカジマとエリオ・モンディアルの二人が、模擬標的に向かって同時に突進する。

しかし、二人の魔力が交わる直前、バチバチッと激しい干渉ノイズが走り、魔力光が弾け飛んで二人は地面に転がった。

「うう……また干渉しちゃった……」

「ごめんなさい、スバルさん。僕が突っ込むタイミングが……」

後方で待機していたキャロ・ル・ルシエが心配そうに駆け寄る。

そこへ、静かな足音と共に芹葉紗雪が歩み寄ってきた。

「タイミングの問題ではない。お前たちの魔力パスの『結線』が間違っているだけだ」

紗雪は手元の端末を操作し、空間にホログラムの複雑な幾何学図形を展開した。

「スバル、お前の魔力は常に交差と衝突を前提とする性質だ。対してエリオの魔力は、一直線に目標を貫く性質を持っている。この二つの異なるプロトコルを無調整で直結させれば、当然干渉を起こして自壊する」

紗雪は図形を指差しながら、淡々と説明を続ける。

「厳密にはLANケーブルそのものではないが、お前たちに理解しやすいよう、魔力の連携を通信網の概念へ写像(マッピング)して考えろ。情報を伝送し、経路を繋ぎ、干渉を避ける。魔法陣も通信網も、抽象化すれば根本的な伝送理論は同じだ」

「しゃぞう……? まっぴんぐ……?」

スバルの頭上に巨大なクエスチョンマークが浮かぶ。

紗雪は静かにため息をついた。

「……キャロ、間に入って二人を仲良くしろ」

「最初からそう言ってください!」

キャロが涙目で抗議する。

「お前は後衛で待機するだけの回復役ではない。スバルとエリオ、二人の異なる魔力を中継し、干渉を防いで威力を増幅させる『戦術的リンクノード(ハブ)』になれ。そのための経路設定がこれだ」

紗雪が展開したホログラムには、見慣れない記号が羅列されていた。

「これは、私が魔力の直進と交差を制御するために定義した『紗雪式結線記法』だ」

「また独自規格ですか!? 魔法陣の標準規格を使ってください!!」

見学していたティアナがたまらずツッコミを入れる。

「互換性はどうするんですか!?」

「互換性はない。だが生存率は上がる。文句を言うな」

「保守(メンテナンス)する人間のことも考えてくださいよ!!」

ティアナの悲鳴を無視し、紗雪の有無を言わさぬ圧力に押され、キャロは目を閉じて二人の魔力を自身の陣へ引き込んだ。

「エリオ君の直進パスを受信……スバルさんの交差パスへ位相を変換して……出力しますっ!」

キャロを「ハブ」として経由した瞬間、スバルとエリオの魔力が見事に噛み合った。

二人が再び標的に向かって突撃すると、今度は一切の干渉を起こすことなく、むしろ互いの魔力を増幅させながら、標的を跡形もなく粉砕した。

一人一人を強くするのではなく、組んだ時に初めて成立する力。

それはかつて、未来知識を失った紗雪が、なのはやフェイトの背中から学び取った生存戦略だった。

「……芹葉教官」

ティアナがおずおずと、手元に転送された教導マニュアルを指差す。

「これって魔法の理論書ですよね? なんで参考文献の項目に『Ethernet規格における伝送制御手順』って書いてあるんですか?」

「参考文献だ」

「参考文献の主張が強すぎます!!」

同刻。時空管理局本局・技術部特命課ラボ。

「……芹葉君。ファイル「MOIRA網」の最新アップデートを受信したのだがね」

通信モニター越しに、ジェイル・スカリエッティがこめかみを押さえながら口を開いた。

「ああ。新人たちの連携パスを最適化した。実戦で十分に機能する」

紗雪は訓練場から淡々と答える。

「それ自体は結構だ。君の現実工学を魔法系へ再定式化するその抽象化能力には、設計者である私も素直に感心している」

スカリエッティは手元の端末を操作し、コレッジの稼働ログを大写しにした。

「だからこそ、私には君が『何を勝手に実装したか』が全部分かってしまうんだよ。……待て。その結線記法の処理、コレッジの『第六補助演算器』を勝手に通信交換機(スイッチ)として使ったな?」

「稼働率が平時2.1%だった。空いているリソースを有効活用しただけだ」

即答する紗雪に対し、スカリエッティはバンッと机を叩いた。

「未使用の演算リソースは、勝手に別用途へ再割当していい領域ではない!! その演算器は緊急時の冗長系だぞ!」

「だから平時は暇だろう」

「冗長系というものは暇だから無駄なのではない! 暇であることに意味があるんだ!!」

『マスター。私の内部通信層の一部に、TCP/IPの思想を参考とした階層化プロトコルが追加されています』

コレッジの無機質な報告がラボに響く。

「ほら見ろ! 構造化、アドレス管理、経路選択……私の最高傑作がすっかりインテリジェントな通信インフラ機器になりかけているじゃないか!」

スカリエッティは頭を抱えた。

「頼むから、時空管理局の若手育成にこれ以上オーパーツ(狂った電子工学)を混ぜるのはやめてくれないか……。次に君が帰還した時、コレッジの内部構造を初期化してOSから再インストールしてやるからな……っ!」

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