魔法少女リリカルなのは ~コード・イレイザー~ 作:長谷川広軌
ミッドチルダ山岳部・未査定遺跡群。
ロストロギア『レリック』の反応を検知し、機動六課のフォワード陣が初のスクランブル出動を果たした現場には、異形の機械兵器――ガジェット・ドローンの群れが展開していた。
「な、なんですかアレ!? 虫みたいな機械がいっぱい……!」
スバルが身構える中、上空から数十機のガジェットII型が一斉に魔力弾を放ってくる。
「散開して! キャロ、エリオとスバルのリンクを維持!」
ティアナの指示が飛び、若手たちが一斉に動く。
前回の教導で叩き込まれた「紗雪式結線記法」――キャロをハブ(戦術的リンクノード)とした魔力の最適化ルーティングにより、スバルとエリオは互いの射線を一切邪魔することなく、凄まじい速度で敵陣を切り裂いていく。
そして後方に陣取るティアナの足元には、本来のミッドチルダ式魔法陣とは少し異なる、幾何学的な光のラインが展開されていた。
(芹葉教官の独自規格……確かに性能は最高だけど、互換性のないブラックボックスのままじゃ、他の部隊との連携が取れない!)
ティアナは愛機クロスミラージュを構えながら、頭の中で数式を高速展開する。
「教官!!」
通信機越しに、待機位置にいる紗雪に向かってティアナが叫ぶ。
「『結線記法』の第七パターン、標準の魔力変換式にコンパイルできるように、独自のアダプタ層(変換インターフェース)を噛ませました! これで管理局の標準術式システムとも互換性が取れるはずです!!」
ティアナが引き金を引くと、紗雪の独自規格で極限まで最適化された魔力弾が、ティアナの構築した互換層を経由して見事な広域制圧射撃(ファランクス・シフト)となって空を覆い尽くし、ドローンの群れを撃ち落とした。
『……ほう』
通信の向こうで、紗雪が微かに感心したような息を吐く。
『私の理論をただ鵜呑みにするのではなく、保守性と運用環境に合わせて自ら改良(アダプト)したな。……よくやった、ティアナ』
「えへへ……保守する人間の身にもなってくださいよね!」
息を切らしながらも、ティアナの顔に誇らしげな笑みが浮かんだ。
同刻。上空の指揮用ヘリ内。
紗雪は手元の端末を操作し、戦場に展開するガジェット・ドローンの残骸データと、その通信波形を傍受していた。
彼女の脳内に展開されたファイル「MOIRA網」の戦術データが、敵の動きをリアルタイムで解析していく。
(……おかしいな。こいつらの群制御(スウォーム)アルゴリズム、あまりにもお粗末だ)
紗雪は眉をひそめ、秘匿回線を一つ開いた。接続先は当然、本局技術部特命課である。
『……何かね、芹葉君。こちらは今、上(最高評議会)への報告書作りで忙しいのだが』
通信の向こうで、ジェイル・スカリエッティがコーヒーを啜る音がする。
「課長。現在交戦中の敵性兵器についてですが」
紗雪は端末のデータを睨みながら、淡々と報告を始めた。
「機体強度と動力源の設計は悪くない。だが、群制御のネットワーク層が酷すぎる。再送制御は雑、経路更新は固定化され、ノード脱落時の動的な再構成も遅い。しかも帯域競合への回避処理すら実装されていないぞ。おかげでドローン同士で勝手にパケット衝突(コリジョン)を起こして、無駄な処理落ちが発生している」
『ブホッ!?』
モニターの向こうで、スカリエッティが盛大にコーヒーを噴き出す音が響いた。
「どこの三流技術者が組んだプログラムだ? ハードのポテンシャルを、ソフトのクソコードで完全に台無しにしている」
『……っ、ゴホッ! い、いや、それは……開発現場にも、厳しい納期という色々な事情があってだね……』
「納期が厳しいなら機能を切れ。未検証のクソコードを本番環境へ投入するな」
『…………』
「返事は?」
『はい。』
最高評議会(無茶振り)→ スカリエッティ(妥協と胃痛)→ 紗雪(ガチのコードレビュー)という、一切の慈悲もない技術継承の食物連鎖が完成した瞬間であった。
紗雪は冷酷に端末のキーを叩き、指示を飛ばす。
「まあいい。こんな脆弱性だらけのシステム、六課の新人たちへの教材(デバッグ作業)にちょうどいい。……ティアナ、キャロ! 敵の通信プロトコルに偽装パケットを流し込み、同期情報と経路選択を誤誘導して編隊行動を崩せ! 物理的なとどめはお前たちが刺せ!」
『はいっ!』『了解です、教官!』
通信の向こうで、六課の新人たちによって「自分の妥協の産物(クソコード)」が嬉々として物理デバッグ(粉砕)されていく音を聞きながら、スカリエッティは胃薬の瓶へそっと手を伸ばした。
「……私の胃に、穴を開ける気か……あの娘は……」
技術部特命課のラボに、哀愁漂う黒幕の呟きが虚しく響き渡った。