魔法少女リリカルなのは ~コード・イレイザー~   作:長谷川広軌

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第5話:消去の魔光、イレイズ・シュート

夜空を二分するほどの白銀と桜色。

二つの規格外の砲撃が激突し、凄まじい閃光と爆風が海鳴市の空を揺るがした。

「くっ……ぁあああっ!」

「……っ!」

爆炎が晴れた後、空中に踏みとどまっていたのは両者だった。

なのはは肩で大きく息をし、バリアジャケットのあちこちに煤をつけているものの、その瞳の光は全く衰えていない。

一方の紗雪は、無傷であった。しかし、その内面ではかつてないほどの驚愕が渦巻いていた。

(私の全力の砲撃を……相殺しただと……?)

紗雪の視界で、ファイル「MOIRA網」 が警告のアラートを明滅させている。目の前の9歳の少女――高町なのはの魔力値は、先ほどの激突を経てなお下がるどころか、無尽蔵に上昇し続けていた。

未来の時空管理局で積み上げた3万時間もの過酷な実戦訓練。その膨大な戦闘経験を持つ紗雪の演算機能が、冷酷な事実を告げる。

――純粋な『出力』のぶつかり合いでは、いずれこの天才(なのは)に押し負ける。

(ならば、力押しではなく技術(スキル)で制圧する)

紗雪は短く息を吐き、手にしたノーブル・コレッジを構え直した。

「いいだろう。君のその無謀なほどの真っ直ぐさに敬意を表して……私の『本質』を見せてやる」

『My Lord. Limit Unlock. Conversion aptitude... Stand by.』

ノーブル・コレッジの冷たい電子音声と共に、紗雪の周囲を取り巻いていた白銀の魔力が、突如として色を失った。

同時に、先ほどの激突で空間に漂っていた膨大な魔力残滓が、一瞬にして綺麗に拭い去られる。物理的な破壊は一切ない。ただ、まるでそこだけ空気が澄み渡ったかのように、夜空の星々が異様なほど鮮明に輝き始めた。

「な、なに……これ……?」

「魔力が……吸い込まれてるんじゃない。消えている……っ!?」

地上から見上げるユーノが、その異質な現象に息を呑む。

それこそが、芹葉紗雪というイレギュラーが持つ、唯一無二の切り札だった。

「私の魔力変換資質は『消滅』。対象の魔力構造を強制的に演算消去(デリート)する」

紗雪の杖の先端に、淡い灰色の光球が顕現する。

それは破壊の光ではない。あらゆる魔法現象を無に還す、純粋なアンチ・マジックの結晶。

「や、やめろ! 防げないぞなのは、逃げろ!!」

ユーノの叫びを背に受けながら、なのはは逃げるどころか、震える両手でレイジングハートを構え、残る全魔力を前面のシールドに集束させた。絶対に防いでみせる。その強い意志が、桜色の防壁を何層にも分厚く展開する。

「無駄だ。これは力と力のぶつかり合いではない」

紗雪が引き金を引く。

「イレイズ・シュート」

放たれたのは、轟音を伴う砲撃ではなく、ただの一筋の灰色の閃光。

それがなのはの展開した分厚い桜色のシールドに直撃した瞬間――。

「……え?」

なのはの口から、間の抜けた声が漏れた。

爆発は起きなかった。衝撃すらない。

灰色の光が触れた箇所から、なのはが全霊を込めたはずの魔力防壁が、まるで水彩画に水をこぼしたように「滲んで、消えた」のだ。

幾重にも重なった分厚い魔力の盾を紙切れのように通過したイレイズ・シュートは、なのはの顔のわずか数センチ手前で、ピタリと完全に停止した。

「……止まっ、た……?」

目を見開くなのはに、空中の紗雪は淡々と告げる。

「当然だ。君を撃つ理由はない」

寸分違わぬ完全な魔力制御。

それは、圧倒的な格上が見せる「手加減」という名の残酷な事実だった。バリアを完全に剥ぎ取られ、魔法を無力化されたなのはは、今の自分の力が全く通用しないことを悟り、その場へへたり込むように膝をついた。

「わかったか。これが私と君の決定的な差だ」

空中から静かに見下ろす紗雪。

「今の君の魔法では、私には届かない」

その時、彼女の網膜にあるファイル「MOIRA網」 が、赤い警告を叩き出した。

『My Lord. 第3セクター上空に次元震の兆候。時空管理局のパトロール艦隊、空間転移まで残り60秒』

「……時間切れか。この大規模な魔力消去(イレイズ)は、さすがにデバイスへの演算負荷が重すぎるな」

ノーブル・コレッジの排熱機構が微かな蒸気を上げているのを確認し、紗雪はマントを翻した。

「フェレット。今日はこれくらいで勘弁してやる。だが、シードは必ず私が全て回収する」

それだけを言い残し、紗雪は空へと溶け込むように姿を消した。

残されたのは、異常なほど鮮明な星空の下で、人生で初めての「埋めがたい技術の差」を痛感しながらも、決して諦めの色を失わない9歳の少女だけであった。

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