スクライド二次   作:銀髪赤目のアンドロイドと女軍人が好き

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できた話を分けるのが微妙なので、合わせて一話にしました。


一話

 晴れ渡る青空と、広大な海。その境界に、奇妙な物体が浮上していた。巨大な四角柱のモノリス。

生命の躍動を感じさせる自然の中に、ぽつんと佇む無機質な石柱。その対比が、圧倒的な異物感を際立たせていた。寸分の狂いもなく成形され、人工物というにはあまりにも完璧すぎた。歪みも凹凸もない、黄金比を体現したそれは、まるで神の手によって創られたかのような、絶対的な完成形であった。

 

 そんなどこか神聖さを感じさせるモノリスに、黒い異形の影が跳びかかった。

赤い鬣に、肥大化した両腕。背中には左右非対称の突起を生やし、黄金の装甲を纏った異形。どこか獅子を連想させる。

 

傍目から見れば、それは神に唾を吐く悪魔のようであった。

 

 悪魔は右拳を振りかぶり、モノリスに向けて放つ。黄金の拳がその表面を穿とうとするが、見えない壁に阻まれたかのようにピタリと静止する。激突の轟音すら、吸い込まれたかのように消失する。

 

 その瞬間、沈黙を保っていたモノリスが動きを見せる。表面に幾何学的な紋様が蠢き、周囲の空間を悪魔諸共吹き飛ばした。吹き飛ばされた悪魔は空中で腰を捻りながら態勢を整える。四つん這いの姿勢で近くの岩盤へ着地し、その凄まじい衝撃で地面を陥没させた。

 

「―――コイツは、中々。久々に手応えのある」

睨みつけるように顔を上げる悪魔。―――いや、カズマは、目の前のモノリスに向かって呟いた。

再び、モノリスが動く。紋様が激しく流動し、カズマのいる岩盤を見えないナニカで押し潰した。

だがそれより早く、カズマは地面を殴りつけて高く跳躍していた。

 

 空に舞い上がったカズマ。その背中、右肩の長い突起が鞭のようにしなった。空間を歪めるような打撃音をたてて虚空を叩きつける。生み出された爆発的な推進力で、カズマはモノリスへ突撃した。

 

 その名の如く、弾丸となってモノリスを撃ち砕こうと右拳を突き出す。再び見えない壁にぶつかる、だが――。パリン、とガラスが割れるような音が響く。カズマの拳が障壁諸共、モノリスの外表を打ち砕いた。

 

 モノリスの表面が大きく陥没する。その凄まじい衝撃がモノリス全体を激しく震わせるた。だが―――。陥没箇所が突如、結晶で覆われる。次の瞬間、結晶が弾け飛ぶ。時間を巻き戻したかのように、そこには傷一つない外表が露わになった。

 

 「そうこなくちゃあな!!」

カズマはニヤリ、と凶悪に口元を歪ませる。重力に逆らい、滞空しながらも両拳を腰だめに構えた。再び、右肩の長い突起が唸りをあげ、空中に叩きつけた。拳を振り上げ、カズマは猛然と突撃した。

 

「うぉぉぉ――っ!!」

雄叫びを上げながら、渾身の拳を振り下ろす。衝突の瞬間、カズマの拳がモノリスの表面を突き抜けた。

力が伝播せず、水面を叩いたかのような、奇妙な感覚。勢いのまま、カズマの体はモノリスをすり抜けるように突き抜けていった。

 

 何が起きた――? カズマの思考が一瞬、止まる。それが致命的だと理解しながらも。刹那、真上から不可視の圧力がカズマに降り注ぐ。そのまま、抗う術もなく、押し潰され、海面へと叩きつけられた。

 

 激しい飛沫を上げ、海中へと沈み込むカズマ。拳を震わせながらも、固く握り締める。油断した―――。喧嘩の最中で。しかも相手に背中を向けたまま。カズマは怒りに身を震わせる。それはモノリスに対してではない。己の不甲斐なさへの怒りだ。

 

 モノリスはただ、その場で佇んでいた。海中へ沈み込んだカズマを追撃することもなく、不気味な沈黙を保っている。それはあたかも、カズマが這い上がってくるのを待ちわびているようであった。表面の幾何学模様が、規則正しく蠢いていた。

 

 海面が激しく泡立つ。巨大な水柱が巻き上がり、その中からカズマが姿を現した。

 

 「どんな小細工をしようが、こっちにはカンケェーねぇ!!」

黄金の獅子が咆哮する。

「まとめて打ち砕く!!」

 

 カズマは両腕を目の前で交叉させた。両手の甲のシャッターが開き、凄まじい速度で回転を刻む。連動するかのように、その全身が燦然と黄金の輝きに包まれる。深く腰だめに両手を構え、背中の右の突起が再び空中に叩きつけられた。

 

「俺の自慢の拳でぇ――っ!!」

両拳を突き出し、空間を置き去りにするほどの爆発的な加速をする。

 

 モノリスは悠然と待ち構えていた。迫りくるカズマの一撃を端から意に介していないのか、あるいは、それこそが目的なのか―――。

 

 カズマの両拳がモノリスを捉えた。幾何学模様が妖しく明滅し、その表面が静かに波立つ。

それは一回目の衝撃を殺す障壁と、三回目の流体のように力を拡散させる能力の合わせ技だった。

 

  ―――だが、カズマの拳はそれを凌駕する。その衝撃と輝きが、モノリスの障壁を強引に打ち砕き、全体に余すことなく、破壊のエネルギーが伝播していった。いかに流体になろうが、均一に拡散される圧倒的なエネルギーが確実にダメージを蓄積させて、破壊する。

 

 モノリスに無数の罅が走る。光の奔流がその亀裂を追う形で広がっていった。溢れ出した光が、弾けるように炸裂する。巨大な石柱は真っ二つにへし折れ、激しい水飛沫と共に海面へ沈んでいった。

 

 手応えはあった。だが、妙な胸騒ぎが収まらない。力もタイミングも、完璧だったはず。言葉にできない、モヤモヤとした感情がカズマの内に広がっていく。それは理屈ではない。カズマが本能的に感じたものだった。

 

海面から突如、現れたのは巨大な腕だった。

モノリスの同じ幾何学模様が刻まれた巨腕が、カズマを容赦なく捉える。

五指がその身体を完全に覆い、万力のように締め上げる。

「グァァァッ―――!?」

黄金の装甲に罅が走り、内側の骨が嫌な音を立てて軋む。

 

「ぐっ!?」

声を押し殺し、身体に力を込めるカズマ。

海面から飛び出した巨腕の全容は、未だにわからない。だが、それが海中に潜んでいることはわかる。

カズマは睨みつけるように、巨腕の根本を凝視する。

 

「こんなもんでなぁっ!!」

巨腕の握力が弱まる瞬間を見逃さず、一気に力を込め、強引に振り解いた。

そのまま、巨腕の親指にしがみつき、海面から引きずり出すように投げ飛ばした。

 

それは左右非対称の巨人だった。無理矢理、欠片を繋ぎ合わしたかのような外観。丸太のような右腕と、細枝のような左腕を持つ、継ぎ接ぎだらけの異形。

 

「怯むと思ってんのかっ!!」

 

再び、海面へと叩きつけられる継ぎ接ぎの巨人。激しい水飛沫を上げながら海中に沈む。

 

「どうした? こんなもんかっ!!」

カズマが吼えるように威嚇する。ひしゃげた罅だらけの装甲の姿は満身創痍だが、戦意はより一層燃え上っていた。

 

 海面から水飛沫を上げ、継ぎ接ぎの巨人が現われる。声ならぬ咆哮を上げ、無機質的だった存在が、確かに感情の色を見せ始めていた。

 

巨人が大きく振りかぶる。それは右巨腕による拳撃の構え。

 

「真っ向勝負ってか? 上等だぁっ!!」

カズマも拳を握り締め、振りかぶる。

 

圧倒的質量の拳と黄金の拳が激突する。

 

 その衝撃と余波が周囲の海面を激しく震わす。本来なら、より質量が大きい方が勝つ。だが、これは通常の法則では成り立たない、超常の力≪アルター≫を用いた戦いのだから、当て嵌まらない。

 

 それでも両者は拮抗していた。

カズマは己の全てを拳として撃ち出す≪自慢の拳≫を放ち、続けざまの戦闘。一方、巨人は砕かれた体を無理矢理繋ぎ止めての形態変化で大幅に力を消費していた。

 

―――その結果の痛み分けだった。

 

 カズマの拳の装甲が砕け、生身の腕が露出する。物理的な衝撃の余波が身体に打ちつけられ、陸地の方へと吹き飛ばされた。

 

 継ぎ接ぎの巨人の方も右巨腕に亀裂が走り、拳骨の部分が欠損していた。海面に膝を突き、辛うじてで倒れ込むのを防ぐ。

 

 (……まだ、だ!!まだ、終わっちゃいねぇ!!)

打ちつけられた衝撃と痛みを感じながら、必死に意識を繋ぎ止めようするカズマ。

だが、限界がきたのかそのまま意識を失った。

 

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