父ートの登場なので初投稿です。
手紙の送り先に到着した私は、そこで霧島 暁なる人物を探すために、人伝に聞いて回っていた。すぐにこの辺りに住む霧島性の人物が、アスカ工業という町工場の社長がそうだと知り、その関係者と踏んでアスカ工業へと向かった。そうして辿り着き、社員の1人にこの手紙を送った霧島暁という人物の心当たりを訊ねると、この会社に居るであろう当人を呼びに向かい、私は他の社員に応接室へ案内された。
少しして応接室の扉が開き入ってきたのは────子どもだった。まさか子どもが入ってくるとは思わなんだこともあって面を食らったが、それについては向こうも同じような顔をしている。有り得ない状況を理解しようと戸惑う様子を見せながら、その子どもは私に尋ねた。
「ッスゥー、あの、山野淳一郎博士で間違いありませんよね?」
「如何にも、私が山野淳一郎だ。君は……いや、君がこの手紙と封筒を送ったのかい?」
この2通を見せた途端、目の前の子どもは「はい」と言って肯定する。あぁ、と納得した。この子は会社のプロジェクトであるLBX開発計画に進展が無かった為に、子どもなりの善意から私にこれらを送ったのだろうと推察できた。
ソファから立ち上がり、彼と視線が合うようにしゃがむ。
「君が、霧島 暁君で間違いないかい?」
「はい。自分が霧島 暁で間違いないです」
「なら私から言えることは1つ、こういった事は勝手にしてはいけないよ。もしこれを利用したいと考える人の手に渡ったら、どうなるか分かったものじゃないからね」
「はい……」
「よろしい。ただ、君なりに会社の為に何かしてあげたいという気持ちは伝わったよ」
「…………ん?」
ふむ? 何やら考え事をし始めたようだ。口元を手で覆い隠しながら、何度も瞬きを繰り返して、彼は口を開いた。
「あの、その資料作ったの、自分です」
「む?」
「なんなら、そのバッファは自分が主導して制作してます」
「それを証明できるものはあるかい?」
気が付けば、そのように問いかけていた。あまりに荒唐無稽に感じられる彼の発言だったが、その目は嘘を言っているように思えなかった。
「じゃあ…………資料の35ページ、14行目。推進器の排熱問題について記述してるんですけど、本来想定していた素材と機構を使用した際、排熱の不具合によって推進器と装甲の一部が溶解したので、アスカ工業で研究中の素材を借用して推進器用の素材にチューニング。それを使用し推進器の構造を一部変化させたことで溶解問題を解決し、尚且つ推進力が想定より12%上昇された事が書かれてます」
彼の言う通りのページと行を確認し、そこに彼の発言内容と一致する記載内容があることを目の前で証明してみせた。
これは、ただ読んだだけで丸暗記できるようなものでは無い。実際にその目で見ていなければ、先程のように要点を押さえた出来ない語りのそれだ。もしや本当に彼が……。
「あの、これで如何でしょうか? 他にも証明を要するのでしたら、覚えている限りの説明は可能ですが」
この少年、どれだけの情報を記憶して。いや、それよりも。
「敬語は必要ないよ。普段通りに喋ってくれて構わない」
「えっ? いや、それはちょっと恐れ多いというか……」
「君ぐらいの歳の子が、大人の顔色を伺う必要も無い。好きなように話してほしいんだ」
「はぁ……」
まだまだ遠慮がちな返事が返ってくる。ふむ、私としてはもう少し彼と打ち解けてみたくなったのだが、ここは純粋に訊いてみようか。
「霧島 暁君」
「はい」
「君は、なぜこのLBXを作ろうと思ったんだ?」
「────ロマンです」
「ロマン?」
「はい!」
その目が、宝石のように輝きを帯び始める。
「だって、見てみたいじゃないですか! 作ってみたいじゃないですか! 博士や企業の方々は、俺の考えなんて当たり前のように思いついているでしょうけど、飛行できるLBXを作ってみたいじゃないですか! 人のように二足歩行を実現させたLBXを、今度は大空へ羽ばたかせてみたいんです! それはきっと、とってもロマンに溢れて…………はっ!」
この子は誰よりもLBXを愛しているのだ。ともすれば、私以上に情熱を捧げられる子なのかもしれない。そんな子だからこそ、新たな機構を持ったLBXの自作という手段でもって、自分の理想を叶えようとしているのだろう。
「えぇっと、その、ついうっかり」
「いや、構わないさ。君がとても、LBXを愛してくれている事が十分伝わった」
だとすれば、ここに来たのも何かの縁なのだろう。この愛に、この情熱に、先を行く大人として応えるべきだ。
「暁君、今時間はあるかい?」
「えっ? えぇまぁ、ありますけど」
「君の問題解決の一助になりたい」
「それって……ッ〜! 良いんですか!?」
「ああ、もちろんだ」
歓喜に打ち震え、その表情の輝きが増していく。
「えと、えと! まず何から話せば!」
「ははっ、そう焦らなくてもいい。とはいえ、私も急がしい所を抜け出してきたようなものだから、重要な点に絞ってアドバイスしようか」
「お願いします!」
未来の技術者、霧島 暁君。
どうか、君の未来に幸多からんことを。
まさかまさかの来訪者、LBXの産みの親である山野博士とこうして話ができるなんて思ってもみなかった。いやそもそも返事だけでも貰えば超御の字な事したし、こんな結果になるとか誰が思い付くんだよって話なんだが。
でもこれで、バッファの実現に1歩近付く事が出来るかもしれない。何がバッファを飛ばせない要因になっているのか分かるかもしれない。目の前に座っている山野博士は、俺に資料を手渡して口を開いた。
「まず君の気になっている、バッファが空を飛べない理由についてだが」
ッ、来る!
「はい」
「アーマーフレームの重量、コアスケルトンの出力不足、推進機関の重量、内蔵されたCPUの性能不足、バッテリーの容量不足などなど。様々なアプローチから問題解決に導こうと試みているが、君は少々勘違いをしている」
「勘違い、ですか?」
「ああ」
松本さんが入れたお茶を1口飲み、一息ついてから話が再開される。
「1番君の答えに近づいたのは、コアスケルトンに対してのアプローチだ」
「コアスケルトンの」
「ああ。君は今まで既存の発売されているコアスケルトンを流用する形で事を成そうとしていた、そうだろう?」
「ええまぁ…………はっ!」
待て、待て待て待てそういう事か!? 既存の市販品の出力を極限まで引き上げたけど無理だったって事は、それを超える新たなコアスケルトンを使用する必要性があるってことで! ってなると俺のプロジェクトに最も必要だったのは!
「────まだ世に出ていない、新たなコアスケルトンの開発。それが正しいアプローチだったって事ですか!?」
「こうも頭の回転が早いと感心するよ」
「うはー! マジかー!」
近いアプローチ擦ってた事に気付かなかったってさー! 灯台もと暗し過ぎるわこんなの!
「他、何か変えた方が良い所ってあります?」
「いや。何度か見返したが、それ以外に目立った改善点は無かった。よくここまで作り上げたと思うよ」
「ありがとうございます! でも、俺だけの力じゃないですよ。アスカ工業の皆が居て、初めてやれたんですから」
俺1人でここまでやり切れたかと言われれば、ほぼ確実に無理だっただろうし。こんな子どもの荒唐無稽な夢物語に、アスカ工業の皆が協力してくれたからこそ、ここまでやり遂げられたんだ。
俺の話を聞いていた博士は、こちらを優しく見つめていた。
それから時間の許す限り、博士と色々な事を話し合いを続け、ふと同じタイミングで時間を確認するともう17時になっていた。個人的にはそろそろ帰らないと晩御飯の時間になってしまう。母さん、怒るとちょっと怖いし。
「む、もうこんな時間か。暁君はもう帰る時間じゃないだろうか?」
「えぇ、まぁ、はい。まだまだ話したい事はあるんですけど、仕方ないですね」
「ふむ……少しだけ待っててくれるかい ?」
そう言うやいなや、博士はメモ帳を手に取って何かを書いたあと、それを破り取って俺に渡してきた。内容を見ると英数字に@マーク、その後にドメイン名を示す英字の羅列が。これ、もしかして……。
「私の個人用メールアドレスだ。もし何か聞きたい事があれば、ここに連絡するといい」
やっべ、直通じゃん(^q^)(?)
なんてもん渡してきてんのこの人(歓喜)
「い、良いんですか!? 山野博士のアドレスを貰っちゃって!?」
「勿論だ」
「金塊より価値あるものじゃないですかこれ!」
「いや、私のアドレスにそこまでの価値は無いと思うが」
無いわけねぇだろおるぁん!?
アンタ自分の価値を理解しろぉん!?
内心そのようにキレつつ、山野博士を見送った。
さて、ここからが正念場だ!