あれから2年の月日が経った。何か似たような事を前にも言った気がする。
話を戻して。そう、2年だ。2年も経ってしまった。博士に助言された通り、俺はあれから新型のコアスケルトンを開発作業に取り掛かっていた。時に自力で解を出し、時にアスカ工業の皆と解を探し、時に山野博士に解の助言を貰ったりした。
そうしてようやく、俺が求めるスペックのコアスケルトンを完成させることが出来た。名前は、ASK-00。アスカ工業と、このプロジェクトを手伝ってくれた皆への感謝を詰め込んだ名前だ。
そのASK-00に、創り上げたバッファのアーマーフレームとプラズマジェットエンジンを取り付けて、今ここにLBXバッファは誕生した。その過程と結果を見た他の皆から、感嘆の声が揃って口に出る。
「何度見ても、奇抜な格好だなぁ」
「ちょっと頭が丸見えってのはどうにかならなかったのかしら?」
「違うんすよ! 敢えて顔が見えるように透明にさせてるから牛型の戦闘機に乗ってるみたいでイケてるじゃないっすか! デザインかっこいいっすよこれ!」
「スゲェ喋るじゃん幡中」
「いやでもカッケェのは分かる。俺たち皆で作り上げたみたいなもんだから余計カッコよく見える」
分かってんじゃん。でも主導してたのは俺だからね! そこんとこ勘違いしないでよ! 皆で作った事に変わりないけど!
さて、こうしてずっと見てみたいのは山々だけど、すぐにやる事やって結果を見てみたいので、すぐに全員を現実に引き戻して飛行テストの準備に入らせる。俺も必要な物を持って敷地内の外に出て、えっちらおっちら滑走路やカタパルトを組み立てたり、バッファとCCMを同期させて内部のデータを確認したりする。
一通りの確認が終わって、用意した専用滑走路にセットし、パソコンが置かれた仮設テントにまで退避。バッファを起動させる。
「ではこれより、第21回バッファ飛行試験を開始しまーす! 全員十分な距離を保ってくださーい!」
周囲から反応が返ってきた事を聞いて確認し、プラズマジェットエンジンを点火。試験的に単体で動かした時に感じた肌を僅かに痺れさせる空気に加え、轟々とした噴射音が脳内を反射する。頬が上がるのをグッと堪えてCCMに映された情報を処理。
メインエンジン出力、安定的に上昇中。
飛行可能推力到達まで、残り62%──ん、揚力が発生しかけている。固定が十分じゃ無かったのか? 或いはいや、その前に姿勢を前傾気味に調整して、よし。
飛行可能推力到達まで残り12%、飛行可能まで残り15秒。カウントスタートまで5、4、3、2、1────
「カウントスタート、10! 9!」
いよいよ、この日が来たんだな。正直現実感が薄くて、本当に目の前で起きているのか疑ってしまう自分が居る。
この世界に産まれ落ちて、早10年。前世の記憶が目覚めて約5年。まさか俺が、ダンボール戦機の世界に転生するだなんて思ってもみなかったなぁ。
「カウント5秒前!」
そして今ようやく、多くの協力者の手を借りて、俺のやりたかった事が実現する。
バッファ、この世界に初めて実現する。飛行可能なLBXが、今ここに!
カウント──0!
「固定部パージ! LBXバッファ、フライトオフ!」
カタパルトの勢いを借りて、メインのプラズマジェットエンジンと、太ももとふくらはぎに取り付けたサブバーニアによって発生する推力で滑走路を移動し、白く輝くプラズマが吹き荒れながら空へと飛んだ。
バッファが飛んだ。それだけで、何よりも心が震えた。けどすぐにCCMとの通信距離限界が近付いている事を確認し、すぐに進行方向を変えて通信圏内にまで戻す。
戻したあとは、飛行時における姿勢制御機能の働きや飛行時のバッテリー及び燃料消費の確認、バッファに掛かる空気抵抗などを計測し、CCMに映し出される景色を夢中になって堪能した。
およそ10分間バッファを飛行させ、そろそろと考えて着陸態勢を整える。減速機能が十全に作動している事を一安心に思いつつ、慎重にバッファを滑走路に着陸させた。
「スゥ──────成功だあ!!」
『おおおおお!!』
そう叫んでいた。叫ばざるを得なかった。だってそうだろう、こんなにも嬉しいんだから! アスカ工業の皆も、父さんも大きく声を挙げて喜んでいる! 更に嬉しくなるじゃないか!
「LBXバッファ、完成したぞー!」
俺の理想が、1つ叶った。
「次はどうしよっかなー? バッファの武装を作る? それとも新しいLBXを作る? いやー迷っちゃうなー!」
「早速次のことを考えてる……」
「楽しみを噛み締めるより、新しい楽しみを見つけようとしてる……分からない訳じゃないけど」
「何かくねくねしてる……」
「アッハハハハ! 社長、将来の楽しみな御子息ですな!」
「あはは……」
何か外野が言ってるけど、まぁそんな気にしなくて良いか。それより次何しよっかなー。武装は何を装備させたら面白いかなー? 剣とか槍とかだと色々と無理があるしやっぱり銃が良いかー。機関銃タイプのを装備させて上空から撃つのも良いかー? いやでもそれはちゃちくない? ミサイルタイプにするかー? それはそれでちょっとつまらんか? あと残るはライフルタイプとかバズーカタイプとか? んー迷っちゃ〜う!
「ちょっ、マジで!?」
うん? 何か驚いてんな、誰だー……って、幡中さんじゃん。携帯の画面を食い入るように見てるな、何を見たんだろ。
幡中さんは父さんにも携帯の画面を見せて……あ、父さんも驚いてる。こっち向いた。はて、今日何かあったっけか? んー。今日が何の日かだよな。カレンダーだと……特に何も無し。至って普通の平日。日付に問題はなくて…………今月に何かある? いや月で考えても分かんねぇや、あと考えられるのは年だけど、今年は────2045年。
にせんよんじゅうごねん。
2045年……いや、待て。まさかとは思うが。
CCMを操作し、今日のニュースを確認する。冷や汗と嫌にデカく聞こえる自分の心音、制御が覚束無い自分の指が、予想される出来事を直視するのが怖い。そうして俺は、それを見つけた。見つけてしまった。
LBX発売中止の一文を。
そしてそれに伴い、LBXによる遊戯を行ってはならない条例が政府から発表された。
「あ、暁君……」
「暁……」
分かってはいた。何時か来ることは分かっていたはずだ、俺。歴史のターニングポイントってヤツを。だが今の今まで、バッファに入れ込みすぎててすっかり忘れてしまっていた。
「暁!大丈夫だ! ほら、発売中止とか遊ぶの禁止とかってあるが、開発とかはまだ禁止されてない書き方じゃないか! だからそう気を落とすことは無いぞ!うん!」
父さんが俺を慰めようとしてくれている。こうして心配してくれるのはありがたいが、そうじゃない。
この世界で起きる出来事を、俺はその目で見て知っていて、それが我が身にも降りかかる事を想像して、覚悟を決めなければならない事実を直視することが怖いから。
強化ダンボール。この夢の新素材に関わる、大きな悪意をその身で味わうことに。