機動戦士ガンダム 因果巡合   作:霞 志輝

11 / 23
第十一話:逆転(前編)

 宇宙世紀0087年、3月。

サイド7にて事件が起きる。

反地球連邦組織エゥーゴがティターンズの試作MSを奪取。

この時から、エゥーゴとティターンズの武力衝突は本格化。

一部地域での紛争から、地球圏を巻き込んだ戦役へと発展することになる。

 

「サイド7で武力衝突があったって?」

ルナツー所属の第二十二独立警戒部隊。

中尉に昇進したカーク・ヴェルフィリアだが、その任務は変わっていない。

「ここからそう遠くないし、気になるわね」

こちらは大尉に昇進したミーナ・ラックスマン。

「報告では試作MS奪取後、サイド1の方向へ去っていったそうだ」

同じく昇進し、少佐となった隊長のエルド・ワースが情報を補足する。

「ティターンズも黙ってはいないでしょうね」

「メンツを潰されたわけだからな……」

このままでは終わらないだろうとは誰もが思った。

かつての模擬戦で見たティターンズのベテランは確かな腕を持っていた。

新人の方も、新人という括りであれば十分優秀だった。

エリート集団として組織に傲慢さが見えてはいても、その実力は確かだと思っている。

だからこそ、最後はティターンズが勝って終わるだろう。

その考えが覆されるのに、そう時間はかからなかった。

 

 

 宇宙世紀0087年、5月。

連邦軍本部、ジャブローが核攻撃により壊滅。

ティターンズはエゥーゴによる暴挙として世界に発信した。

カツン、と空になっていたコップの落ちる音が響く。

顔はニュースの流れるスクリーンに向けたまま。

落としたコップを気にする余裕もない。

「……嘘だろ?ジャブローが?」

震える声で呟くカーク。

その情報はそれほどに衝撃を与えた。

乗機となったジムが創られた場所。

初陣となった場所。

そして、ジムⅡへの改修を行った場所。

カーク達の部隊にとっては故郷に等しい。

「随分な真似、してくれるじゃない」

拳を握りこみ不快感をあらわにするミーナ。

隊長であるエルドは、しばし瞑目した後、静かに口を開く。

「この情報、鵜呑みにするのは少し待った方がいい」

「え?」

予想外の言葉にカークとミーナの視線がエルドに集まる。

「ある筋から俺宛に送られてきた情報がある。これを見てくれ」

ブリーフィングルームのスクリーンを操作し映像を出力する。

「これは……ジャブローがもぬけの殻?」

「本部を移転する計画が極秘裏に実行されていた、という話だ」

「まぁ、移転完了まで情報を伏せるのは理解できるけど……て、あれ?」

何かに気づいたミーナ。

ほぼ同時にカークも何かを察した顔となる。

「二人とも気づいたな」

「はい。移転の話はこの映像の通りなら事実と判断します」

「そんな重要度を失った基地を核破壊する理由が無い……そもそも何で核が最後まで残ってるの?」

「最重要機密にあたる物資なら、一番先に輸送されていておかしくないはずですね」

「それもあるが、この状況なら使用するより所持する判断を行う。普通ならな」

核はそれそのものが交渉カードになるものだ。

一呼吸おき、二人に向き直ってエルドは言葉を続けた。

「環境破壊の批判まで受けて無人のジャブローを破壊するなんて、利がなさすぎる」

ティターンズの通達は本当に事実だったのか?

ならば、エゥーゴの蛮行とされてきた他の出来事は?

これまでの前提が崩れていく感覚を、三人は共有していた。

「しかし、こんな情報どこから入手したんです?佐官に昇進したおかげですか?」

「佐官の情報閲覧権限では最重要機密まで見ることはできんよ」

ではどこから?という疑問の視線がカークとミーナから注がれる。

「昔の知り合いがジャブロー勤務で少佐をやっててな。ジドレという名だが」

「隊長の知り合いからでしたか」

「それだけじゃない。連名でもう一人。カイ・シデン。覚えているか?」

きょとんとするミーナ。

対照的に驚愕の顔を見せたのはカークである。

「ア・バオア・クーの時の!?」

「うむ。今は退役してジャーナリストをやっているそうだ」

援護を受け、挨拶を交わした程度のかかわり。

しかし直接助けられたカークには、ガンキャノンの姿が印象に強く残っていた。

そして同時に、ア・バオア・クーからの連想がもうひとつ別の事を考えさせる。

(エゥーゴは反地球連邦組織。となればひょっとして彼女もエゥーゴに参加しているのだろうか?)

彼女―――エリーナ・ブライア。

ア・バオア・クーから続く因縁の相手。

実際のところ彼女はエゥーゴではなくアクシズにいるのだが、カークにそれを知る術はない。

彼女との決着も、この争乱の決着も、まだ終わる気配が見えなかった。

 

 

 宇宙世紀0087年、11月。

クワトロ・バジーナ大尉、いやシャア・ダイクンのダカール演説を聞いた後、ブリーフィングルームは静まり返っていた。

重い沈黙の中、エルドが言葉を探しながら口を開く。

「彼の言葉が真実かはわからん。だが、まるきり嘘とも思えん」

エルドの言葉に同意するカークとミーナ。

「いずれにせよ、俺たちの仕事は変わりません」

「そういうことね」

第二十二独立警戒部隊の任務は、ルナツー周辺の治安維持だ。

ティターンズであるかないかにかかわらず。

エゥーゴであるかないかにかかわらず。

それが治安を、秩序を乱すものであれば取り締まる。

どちらに与することもない。

「隊長の昔の知り合いからは何か言ってきてないんですか?」

「一度だけ。少し話しづらい内容なんだが……」

「珍しいわね。隊長が言い淀むなんて」

少し迷いを見せたエルドだが、意を決したのか画面に一つの情報を映した。

「……なん、だ?これ」

「ニュータイプ研究所により作り出された人工ニュータイプ。強化人間の情報だ」

「強化、というより人体実験ねこれ」

困惑するカークと、不快感に眉を顰めるミーナ。

「俺はこれを見てティターンズを見限った」

その言葉に勢いよくエルドの方へ振り向くカークとミーナ。

聞き間違いかと我が耳を疑っている様子でエルドを凝視している。

「兵士として強くなること自体はまっとうだ。だが手段が人道を逸しすぎている……!」

吐き出した言葉はエルドの内に溜め込んだものを表していた。

軍人として、非人道的なことも目にすることはある。

個人の暴走であれば個人が、あるいは上官が責任をとる。

だが組織なら?

ましてそれが、ティターンズのような軍全体を支配する組織なら?

心情としてはエゥーゴに今すぐ参加したいとエルドは思う。

しかし、軍人として連邦軍の自浄作用を期待したいとも思う。

既に見限ってはいても、個人でできることはそう多くない。

ゆえに、今はまだティターンズでもエゥーゴでもない『正規の連邦軍人』として。

職務に忠実であろう。

言い訳のようだが、と自嘲気味に付け加えて。

エルドはそう、結論付けた。

そしてその隊長の理念に、カークとミーナも賛同。

エゥーゴに参加するにせよ、中立を保つにせよ。

今は治安維持という任務をまっとうする。

この時の彼らは、そう考えていた。

だが、彼らが思うよりも早く状況は動いた。

いや悪化したと言うべきか。

 

 同年12月。

劣勢となったティターンズはスペースノイドへの支配力を強めようとする。

サイド2への恫喝として、完成したグリプス2のコロニーレーザーを使用。

この攻撃によりサイド2の18バンチコロニーが壊滅。

住人は全員死亡という惨劇となる。

続けて、グリプス2を移動させるための陽動としてサイド2の21バンチコロニーに毒ガス注入。

18バンチコロニーに続いて住民全員が死亡する結果となった。

「守るべき民間人を虐殺……?ティターンズは何を考えている!」

ブリーフィングルームにカークの怒声が響く。

「13バンチコロニーへもG3ガスを使おうとしたようだが、こちらはエゥーゴによって阻止されたようだ」

「これが連邦軍のエリート集団のやることだって言うんだから呆れるわね」

腕を組んで不快さを隠しもせずミーナが言う。

「隊長。これ以上ティターンズの暴挙を座視できません」

「同感だ。まずは艦長へ談判に行くぞ。今後の身の振り方にもかかわる」

エルドがカークの言葉に頷いて扉へ向かおうとしたその時。

扉が開き、壮年の男性が姿を見せる。

「ブリーフィング中、失礼するよ」

「カミラ艦長。今そちらに伺おうと」

現れたのは、まさに今、話をしに行こうとしていた艦長その人だった。

ふくよかな身体を揺らしながら、よっこらせ、と腰を下ろす。

「先ほど、ルナツーから連絡があった。サイド2宙域でのことについてだ」

「上層部は何と?」

「動くな。だそうだ」

少し言いにくそうに、だが余計な言葉を交えることなく艦長は言う。

「君たちの顔を見ればわかる。ティターンズの暴挙を許すなと言いたいのだろう?」

黙って頷く三人。

「気持ちは理解する。が、我々は軍人だ。命令には従わねばならん」

「それは、理解します」

「うむ。不服は承知している。が、まぁ心配するな。あのルナツーが動くなと言ったんだ」

言葉の意味がわからず、顔を見合わせる三人。

「ルナツーはな、一年戦争の頃から積極的には動けん組織だ」

視線を上にやり、何かを思い出すように語りだす艦長。

「ホワイトベースが助けを求めに来た時でさえ、民間人を乗せたままジャブローへたらいまわしせざるを得なかった」

「艦長は、その時現場に?」

「ああ。ホワイトベースを地球へ送るためにつけられた、護衛のサラミスに乗っていたよ」

「サラミス?ひょっとして……」

何か思うところがあったのか、ミーナが呟く。

「そう思うのも致し方ないが、この艦とは別のものだよ」

笑いながらカミラが言う。

「ソロモン、ア・バオア・クーと従軍した結果、昇進叶ってこの艦の艦長、というわけさ」

「ア・バオア・クーにも参戦されてたんですね……よくご無事で」

「お互いにな。さて話を戻すがルナツーは基本、本部の命令に逆らえん。先のホワイトベースの例のように」

言葉を区切って一同を見渡す。

「それが『動くな』だ。ティターンズに味方せよでなく。この違いは大きい」

政治的な動きは三人にはわからない。

しかし、今まで従うだけだったルナツーが自身の意思で動き始めているのは理解できた。

「今は待て。近いうちにティターンズからルナツーは離反するだろう。そうしたら大手を振ってエゥーゴに参加しようじゃないか」

「少し、楽観的すぎませんか?」

「自分はそれで生き残ってきた。と思っているよ」

それは現場の勘か、ゲン担ぎか。

兎にも角にも、艦長の意向を確認した三人は、ひとまず静観することに落ち着いた。

ほどなくして、カミラ艦長の楽観的な予想が当たった事を知る。

ルナツーの連邦正規部隊がティターンズから離反する旨を公表したのだ。

と、同時に。

第三勢力であるアクシズによりグリプス2が占拠された事も知らされる。

この情報でカークは確信に近いものを抱く。

彼女は、アクシズにいる。

つまり戦いの刻が迫っていると。




<おまけ>
ジドレ少佐
 ジャブロー勤務の連邦仕官。
 Zガンダム第12話にて、核が仕掛けられていることをエゥーゴに伝えた人物。
 政府との繋がりもあるようで、核から助けられたことを政府に伝えようとする。
 だがクワトロからは使い道があるから助けただけだと一蹴された。

カミラ
 サラミス改級『フェアランゲン』艦長
 機動戦士ガンダム第5話にて、リード中尉からサラミスの指揮を任された人物。
 原作で年齢不明。原作では一年戦争時は少尉。本作では中佐まで昇進。
 楽観的な思考で生き残ってきたと自負している。
 が、それは状況をしっかり分析した上での判断である。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。