宇宙世紀0087年、3月。
サイド7にて事件が起きる。
反地球連邦組織エゥーゴがティターンズの試作MSを奪取。
この時から、エゥーゴとティターンズの武力衝突は本格化。
一部地域での紛争から、地球圏を巻き込んだ戦役へと発展することになる。
「サイド7で武力衝突があったって?」
ルナツー所属の第二十二独立警戒部隊。
中尉に昇進したカーク・ヴェルフィリアだが、その任務は変わっていない。
「ここからそう遠くないし、気になるわね」
こちらは大尉に昇進したミーナ・ラックスマン。
「報告では試作MS奪取後、サイド1の方向へ去っていったそうだ」
同じく昇進し、少佐となった隊長のエルド・ワースが情報を補足する。
「ティターンズも黙ってはいないでしょうね」
「メンツを潰されたわけだからな……」
このままでは終わらないだろうとは誰もが思った。
かつての模擬戦で見たティターンズのベテランは確かな腕を持っていた。
新人の方も、新人という括りであれば十分優秀だった。
エリート集団として組織に傲慢さが見えてはいても、その実力は確かだと思っている。
だからこそ、最後はティターンズが勝って終わるだろう。
その考えが覆されるのに、そう時間はかからなかった。
宇宙世紀0087年、5月。
連邦軍本部、ジャブローが核攻撃により壊滅。
ティターンズはエゥーゴによる暴挙として世界に発信した。
カツン、と空になっていたコップの落ちる音が響く。
顔はニュースの流れるスクリーンに向けたまま。
落としたコップを気にする余裕もない。
「……嘘だろ?ジャブローが?」
震える声で呟くカーク。
その情報はそれほどに衝撃を与えた。
乗機となったジムが創られた場所。
初陣となった場所。
そして、ジムⅡへの改修を行った場所。
カーク達の部隊にとっては故郷に等しい。
「随分な真似、してくれるじゃない」
拳を握りこみ不快感をあらわにするミーナ。
隊長であるエルドは、しばし瞑目した後、静かに口を開く。
「この情報、鵜呑みにするのは少し待った方がいい」
「え?」
予想外の言葉にカークとミーナの視線がエルドに集まる。
「ある筋から俺宛に送られてきた情報がある。これを見てくれ」
ブリーフィングルームのスクリーンを操作し映像を出力する。
「これは……ジャブローがもぬけの殻?」
「本部を移転する計画が極秘裏に実行されていた、という話だ」
「まぁ、移転完了まで情報を伏せるのは理解できるけど……て、あれ?」
何かに気づいたミーナ。
ほぼ同時にカークも何かを察した顔となる。
「二人とも気づいたな」
「はい。移転の話はこの映像の通りなら事実と判断します」
「そんな重要度を失った基地を核破壊する理由が無い……そもそも何で核が最後まで残ってるの?」
「最重要機密にあたる物資なら、一番先に輸送されていておかしくないはずですね」
「それもあるが、この状況なら使用するより所持する判断を行う。普通ならな」
核はそれそのものが交渉カードになるものだ。
一呼吸おき、二人に向き直ってエルドは言葉を続けた。
「環境破壊の批判まで受けて無人のジャブローを破壊するなんて、利がなさすぎる」
ティターンズの通達は本当に事実だったのか?
ならば、エゥーゴの蛮行とされてきた他の出来事は?
これまでの前提が崩れていく感覚を、三人は共有していた。
「しかし、こんな情報どこから入手したんです?佐官に昇進したおかげですか?」
「佐官の情報閲覧権限では最重要機密まで見ることはできんよ」
ではどこから?という疑問の視線がカークとミーナから注がれる。
「昔の知り合いがジャブロー勤務で少佐をやっててな。ジドレという名だが」
「隊長の知り合いからでしたか」
「それだけじゃない。連名でもう一人。カイ・シデン。覚えているか?」
きょとんとするミーナ。
対照的に驚愕の顔を見せたのはカークである。
「ア・バオア・クーの時の!?」
「うむ。今は退役してジャーナリストをやっているそうだ」
援護を受け、挨拶を交わした程度のかかわり。
しかし直接助けられたカークには、ガンキャノンの姿が印象に強く残っていた。
そして同時に、ア・バオア・クーからの連想がもうひとつ別の事を考えさせる。
(エゥーゴは反地球連邦組織。となればひょっとして彼女もエゥーゴに参加しているのだろうか?)
彼女―――エリーナ・ブライア。
ア・バオア・クーから続く因縁の相手。
実際のところ彼女はエゥーゴではなくアクシズにいるのだが、カークにそれを知る術はない。
彼女との決着も、この争乱の決着も、まだ終わる気配が見えなかった。
宇宙世紀0087年、11月。
クワトロ・バジーナ大尉、いやシャア・ダイクンのダカール演説を聞いた後、ブリーフィングルームは静まり返っていた。
重い沈黙の中、エルドが言葉を探しながら口を開く。
「彼の言葉が真実かはわからん。だが、まるきり嘘とも思えん」
エルドの言葉に同意するカークとミーナ。
「いずれにせよ、俺たちの仕事は変わりません」
「そういうことね」
第二十二独立警戒部隊の任務は、ルナツー周辺の治安維持だ。
ティターンズであるかないかにかかわらず。
エゥーゴであるかないかにかかわらず。
それが治安を、秩序を乱すものであれば取り締まる。
どちらに与することもない。
「隊長の昔の知り合いからは何か言ってきてないんですか?」
「一度だけ。少し話しづらい内容なんだが……」
「珍しいわね。隊長が言い淀むなんて」
少し迷いを見せたエルドだが、意を決したのか画面に一つの情報を映した。
「……なん、だ?これ」
「ニュータイプ研究所により作り出された人工ニュータイプ。強化人間の情報だ」
「強化、というより人体実験ねこれ」
困惑するカークと、不快感に眉を顰めるミーナ。
「俺はこれを見てティターンズを見限った」
その言葉に勢いよくエルドの方へ振り向くカークとミーナ。
聞き間違いかと我が耳を疑っている様子でエルドを凝視している。
「兵士として強くなること自体はまっとうだ。だが手段が人道を逸しすぎている……!」
吐き出した言葉はエルドの内に溜め込んだものを表していた。
軍人として、非人道的なことも目にすることはある。
個人の暴走であれば個人が、あるいは上官が責任をとる。
だが組織なら?
ましてそれが、ティターンズのような軍全体を支配する組織なら?
心情としてはエゥーゴに今すぐ参加したいとエルドは思う。
しかし、軍人として連邦軍の自浄作用を期待したいとも思う。
既に見限ってはいても、個人でできることはそう多くない。
ゆえに、今はまだティターンズでもエゥーゴでもない『正規の連邦軍人』として。
職務に忠実であろう。
言い訳のようだが、と自嘲気味に付け加えて。
エルドはそう、結論付けた。
そしてその隊長の理念に、カークとミーナも賛同。
エゥーゴに参加するにせよ、中立を保つにせよ。
今は治安維持という任務をまっとうする。
この時の彼らは、そう考えていた。
だが、彼らが思うよりも早く状況は動いた。
いや悪化したと言うべきか。
同年12月。
劣勢となったティターンズはスペースノイドへの支配力を強めようとする。
サイド2への恫喝として、完成したグリプス2のコロニーレーザーを使用。
この攻撃によりサイド2の18バンチコロニーが壊滅。
住人は全員死亡という惨劇となる。
続けて、グリプス2を移動させるための陽動としてサイド2の21バンチコロニーに毒ガス注入。
18バンチコロニーに続いて住民全員が死亡する結果となった。
「守るべき民間人を虐殺……?ティターンズは何を考えている!」
ブリーフィングルームにカークの怒声が響く。
「13バンチコロニーへもG3ガスを使おうとしたようだが、こちらはエゥーゴによって阻止されたようだ」
「これが連邦軍のエリート集団のやることだって言うんだから呆れるわね」
腕を組んで不快さを隠しもせずミーナが言う。
「隊長。これ以上ティターンズの暴挙を座視できません」
「同感だ。まずは艦長へ談判に行くぞ。今後の身の振り方にもかかわる」
エルドがカークの言葉に頷いて扉へ向かおうとしたその時。
扉が開き、壮年の男性が姿を見せる。
「ブリーフィング中、失礼するよ」
「カミラ艦長。今そちらに伺おうと」
現れたのは、まさに今、話をしに行こうとしていた艦長その人だった。
ふくよかな身体を揺らしながら、よっこらせ、と腰を下ろす。
「先ほど、ルナツーから連絡があった。サイド2宙域でのことについてだ」
「上層部は何と?」
「動くな。だそうだ」
少し言いにくそうに、だが余計な言葉を交えることなく艦長は言う。
「君たちの顔を見ればわかる。ティターンズの暴挙を許すなと言いたいのだろう?」
黙って頷く三人。
「気持ちは理解する。が、我々は軍人だ。命令には従わねばならん」
「それは、理解します」
「うむ。不服は承知している。が、まぁ心配するな。あのルナツーが動くなと言ったんだ」
言葉の意味がわからず、顔を見合わせる三人。
「ルナツーはな、一年戦争の頃から積極的には動けん組織だ」
視線を上にやり、何かを思い出すように語りだす艦長。
「ホワイトベースが助けを求めに来た時でさえ、民間人を乗せたままジャブローへたらいまわしせざるを得なかった」
「艦長は、その時現場に?」
「ああ。ホワイトベースを地球へ送るためにつけられた、護衛のサラミスに乗っていたよ」
「サラミス?ひょっとして……」
何か思うところがあったのか、ミーナが呟く。
「そう思うのも致し方ないが、この艦とは別のものだよ」
笑いながらカミラが言う。
「ソロモン、ア・バオア・クーと従軍した結果、昇進叶ってこの艦の艦長、というわけさ」
「ア・バオア・クーにも参戦されてたんですね……よくご無事で」
「お互いにな。さて話を戻すがルナツーは基本、本部の命令に逆らえん。先のホワイトベースの例のように」
言葉を区切って一同を見渡す。
「それが『動くな』だ。ティターンズに味方せよでなく。この違いは大きい」
政治的な動きは三人にはわからない。
しかし、今まで従うだけだったルナツーが自身の意思で動き始めているのは理解できた。
「今は待て。近いうちにティターンズからルナツーは離反するだろう。そうしたら大手を振ってエゥーゴに参加しようじゃないか」
「少し、楽観的すぎませんか?」
「自分はそれで生き残ってきた。と思っているよ」
それは現場の勘か、ゲン担ぎか。
兎にも角にも、艦長の意向を確認した三人は、ひとまず静観することに落ち着いた。
ほどなくして、カミラ艦長の楽観的な予想が当たった事を知る。
ルナツーの連邦正規部隊がティターンズから離反する旨を公表したのだ。
と、同時に。
第三勢力であるアクシズによりグリプス2が占拠された事も知らされる。
この情報でカークは確信に近いものを抱く。
彼女は、アクシズにいる。
つまり戦いの刻が迫っていると。
<おまけ>
ジドレ少佐
ジャブロー勤務の連邦仕官。
Zガンダム第12話にて、核が仕掛けられていることをエゥーゴに伝えた人物。
政府との繋がりもあるようで、核から助けられたことを政府に伝えようとする。
だがクワトロからは使い道があるから助けただけだと一蹴された。
カミラ
サラミス改級『フェアランゲン』艦長
機動戦士ガンダム第5話にて、リード中尉からサラミスの指揮を任された人物。
原作で年齢不明。原作では一年戦争時は少尉。本作では中佐まで昇進。
楽観的な思考で生き残ってきたと自負している。
が、それは状況をしっかり分析した上での判断である。