機動戦士ガンダム 因果巡合   作:霞 志輝

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第十二話:逆転(後編)

 宇宙世紀0088年、1月。

アクシズによるグリプス2占拠は各地に波紋をもたらした。

ルナツーをはじめとする連邦軍正規部隊がティターンズから離反。

エゥーゴに参加する者、どちらにも与しない者、対応は様々ではあった。

しかしティターンズに協力する者は日を経るごとに減っていく。

それはここ、第二十二独立警戒部隊でも同様だった。

「我々はこれよりエゥーゴに助力する。異議あるものは脱出艇でルナツーへ戻るように」

艦長の指令が艦内に響く。

一部の士官が説明を求めた際、艦長はこう述べた。

「我々の任務は何か?」

「ルナツー近辺の警戒です」

「そうだ。治安維持と言い換えてもいい」

「ではなぜ?」

「グリプス2だよ。コロニーレーザーを抑えられたままでルナツーの安全は確保できん。ゆえにグリプス2の奪還あるいは破壊が必要だ」

この説明で士官たちは納得。

そしてこの発言はすなわち、グリプス2を巡る戦いに加わることを意味していた。

そう、メールシュトローム作戦への参加である。

 

 

 脆い。

エリーナが、かつてティターンズと干戈を交えた際に抱いた感想である。

その感想は組織としても同様であった。

グリプス2の制圧と同時に瓦解していく姿は、どこがエリートなのかと首をかしげてしまう。

権勢を誇っていたらしいが、時勢が少し傾いただけでこうも崩れるものか。

(敗戦してなお、各地に潜み抵抗を続けるジオンとは真逆ね)

格納庫で整備中の愛機を見つめながら、そんなことを思う。

思えばこの機体とも長い付き合いだ。

高機動型のバックパック追加に始まり。

全天周モニタ、リニア・シートの導入。

ウイング・バインダーへの換装などなど。

手を入れてない箇所の方がもはや少ない。

更にはゲルググからリゲルグへと、名前すら変わった。

だが初陣から8年を過ぎた今も、折れず曲がらず共に戦い続けてくれている。

アクシズで開発中の新型へ乗り換えを薦めてくれる整備兵もいた。

しかし、どの機体も今一つしっくり来ない。

かつて学徒兵として訓練していた際、ベテランが乗り換えを拒んだ話を思い出す。

(命を預けるなら乗りなれた機体がいい、か。今ならわかる)

決着がつくまで、最後までこの機体と共に。

予感でも願望でもない、確信めいたものを感じていた。

「ここにいたか」

呼びかけの主は、新兵の部隊を任されることになったニック。

エリーナも同じ部隊である。

「どうしました?」

「鷲盾の所在が掴めた」

その言葉でエリーナの目つきが変わる。

「気合を入れるにはまだ早いぞ。とはいえ、すぐに会えそうだ」

「というと?」

「ここの奪還戦に参加するという話だ。エゥーゴに参加した元ジオン兵からの情報だ」

「奪還戦。大規模な戦いになりそうですね」

「ああ。……チームとして一緒には居てやれん。すまんな」

ニックの心遣いに心が温かくなる。

軽く首を振り、わずかに笑みを浮かべながらエリーナは答える。

「率いる人数が多いのですから仕方ありません。大丈夫ですよ。私にはこの機体があります」

「相性のいい機体に仕上がったな。とはいえ、無謀な真似だけはするなよ」

「無理するな、ではなく?」

「無理も無茶も押し通すくせに何言ってる」

「ひどい」

笑い声が格納庫に響く。

それは、嵐の前の静けさがもたらした和やかな時間だった。

 

 

 グリプス2を巡る攻防戦。

ハマーン率いるアクシズの軍勢。

更にその中で、ニックが率いるガザC部隊の護衛として、エリーナの姿があった。

なおニックもゲルググJをリゲルグに改修しての参戦である。

部隊として組み込むより、護衛・遊撃の位置づけに置いた方が本人も動きやすい。

そんなニックの配慮に、エリーナは感謝しつつ戦術モニターへ目を走らせる。

鷲盾ことカークの情報は既に入手済。

その情報に合わせ、配属先はなるべく第二十二独立警戒部隊に近い位置へ。

幸いなことに、この配置希望は受理された。

やがて戦術モニタ内に一つの艦影を見つける。

サラミス改級『フェアランゲン』。

それは、第二十二独立警戒部隊の母艦であった。

 

 メールシュトローム作戦、開始。

と同時に、アクシズのMS隊から凄まじいビーム砲撃が飛ぶ。

その中から単騎飛び出す機影が一つ。

エリーナのリゲルグである。

ニックは新兵のガザC隊を率いるためチームとしては動けず。

エリーナについてこれる機体もパイロットもここにはいない。

結果として一人突出した状態でカーク達に襲い掛かる。

 

「……来たか」

来るだろうと予想はしていたため、突っ込んでくる機体を迎え撃つカーク。

「単騎だと!?」

随伴する機体は無く、単独での特攻。

「随分と肩の張った機体になったわね」

「!いかん、散開しろ!」

異変を察したエルドが指示を飛ばす。

疑問などなく即座に散開するカークとミーナ。

そこに、一瞬で速度を上げたリゲルグが通りすぎる。

(想定を遥かに上回る速さだ!目で追いかけるのがやっとかよ!)

機体の加速性能は言うに及ばず。

旋回性能でも追い付くには厳しい。

攻撃を当てようと思えば、ぶつかるくらいの接近戦で無ければ難しいだろう。

数的有利など、一瞬で吹き飛んだ。

背筋が凍りつく機体性能を見せられ。

カーク達はいきなり劣勢を強いられる。

 

 今回の戦いは、明らかにエリーナが優勢となっていた。

「更に速くなってるのはもちろんだけど!」

敵機を追いかけるも、追い付けずに歯噛みするミーナ。

焦る心を無理やりに抑え込み、敵機の動きを観察するエルド。

「ああ。回避機動が今までとは違うな……というかあれは」

援護の砲撃。

進行方向はそのまま、機体を捻って回避するリゲルグ。

AMBACを利用したその動き。

エルドもミーナも同じ答えに行き着いた。

「カークの動きね。あれ」

「ただでさえ高機動なところにカークの回避技術まで加わったか……なら散弾で!」

だが、今度は盾により防がれる。

「なんてやり辛い!」

エルドの悲鳴に似た叫びがスピーカー越しに響いた。

加速性能で負けていても、こちらを墜とすためにはある程度の接敵は必要。

ならばこちらからも接近すれば、ある程度は相手の行動は絞れる。

(俺の動き、か。なら……)

回避運動とともに射撃しつつ接近を試みる。

迷いなく突っ込んでくるエリーナ。

正面きっての射撃戦。

盾を構えつつ、ライフルを撃つ。

(いつもの自分なら、ここで横へ回避しつつ射撃。だが)

横ではなく前へ。

機体は螺旋を描くような軌道を描く。

(相手が自分と似た動きをするなら、動きを読むことだって可能なはずだ)

操縦桿を握る手に力が籠もる。

相手の動きを見逃さぬよう集中を高め、カークはライフルのトリガを押し込んだ。

 

 

 幾度かお互いに射撃を交わした後、詰めてこようとするジムⅡ。

いつもとは違う動きを見て一瞬、怪訝に思うエリーナだが感情が思考を押し出した。

「間合いをとらずに詰めてくる?望むところ!」

機動力で圧倒できる今、決着をつけるなら今。

そう意を決した彼女がペダルを踏みこもうとしたその瞬間。

正面からの射撃が撃ち込まれる。

「っ!?ええい!」

出鼻をくじかれた形となり、咄嗟に機体を捻って回避。

機体の真横を駆け抜けるビームを確認することなく、再度の攻勢を仕掛けようとする。

だが。

「回避方向を読まれてる!?」

敵機のライフルがブレることなく追いかけてくる。

銃口の奥に見える闇が、ひどく目立って感じた。

スラスター加速のペダルは既に踏み込んでいる。

盾はAMBAC制御のため動かした腕が持っており、構えるまではまだかかる。

回避運動は続けているが、敵機の照準からは逃げられない。

エリーナは初めて、死を感じ、そして覚悟した。

そんな彼女を一条の光が救う。

「無事か!エリーナ!」

ニックによる狙撃である。

「助かりました!」

九死に一生を得たエリーナ。

その双眸に闘志が宿った。

 

 

 千載一遇の好機を逃したカークに、逆転の目はもう残されていなかった。

動きが読まれるなら、読まれることを織り込んで動く。

撃たれるとわかっていれば、盾で防ぐなり回避方法を変えるなり手段はある。

エリーナの思い切りの良さがここで活きた。

「二度も同じ手は通じないか!」

回避方向を読もうとするも、左右上下に激しく動く相手を捉えきれない。

紫電が迸るかのような動きは射撃では止められず、格闘戦の間合いへ。

「そんな旧式機でこのリゲルグの相手になるもんですか!」

サーベル同士がぶつかり合い、接触回線が開く。

「旧式機はお互い様だろうが!」

「なら技術力の差ね!」

元の機体で考えれば確かに旧式機。

しかし近代化改修後の違いが歴然であった。

威勢で張り合っても、性能差はいかんともしがたく。

「当てられる!この機体なら!」

「くそっ!」

鍔迫り合いから間合いを取ると同時、リゲルグのライフルがジムⅡの左脚部を吹き飛ばした。

姿勢制御が難しくなるが、今のカークであれば動かすことに支障は無い。

とはいえ、どうにもならない状況である。

逃げるにしても加速性能で負け。

戦うにしても機動性で負け。

おまけにライフルの威力でも負けている。

「ぐあっ?」

何度目かの交差の後、ライフルごと右腕部が吹き飛ぶ。

「カーク!」

ミーナの機体が援護に入ろうとするが、ニックの狙撃がそれを阻止。

エルドの援護砲撃もエリーナの動きを止められない。

右腕部と左脚部を失ったことで運動性も低下したカークのジムⅡは、もはや風前の灯だった。

「今日こそ決着を!」

迫るエリーナ。

(やられる!?)

瞬間、カークの脳裏にフラッシュバックしたのはジャブローでの初陣。

そして感じた己の未熟さと悔恨。

(あんな無様を二度も晒せるか!)

焦りの中でわずかながらの冷静さを取り戻したカークは最後の切り札を切った。

「……悪いが雨天順延でお願いするよ」

微細な粉末が撒かれ、光が乱反射する。

「めくらまし?この期に及んで!」

構わず突っ切ろうとするエリーナ。

だが、次の瞬間。

「何よこいつら!どこから?」

そこに映ったのは、数機のジムⅡ。

突然現れた敵機に回避機動をとるエリーナ。

「違う。これ、ダミー?」

動きのおかしな相手に戸惑いつつ、正解へ辿り着く。

全天周モニタはその性質上、カメラ映像をCG処理してモニタに映している。

そのCG処理を騙す塗料と熱源を内蔵することでバルーンでもMSに映ってしまうのだ。

「なら、虱潰しに!」

片っ端からサーベルで切り裂いていくエリーナ。

しかし、カークのジムを捉えることはできない。

「見失った?くそっ!」

因縁のカークには勝利した。

逃げられこそしたが、大破に追い込んだのだから勝利であることに間違いはない。

諦めきれず、引き続き探そうとしたその時、戦術モニタの状況が目に飛び込んだ。

そこに映ったのは、劣勢となったアクシズ軍。

「ガザC隊が!?……あと、一歩なのに!」

カークへの執着を振り払い、味方の援護に回る。

しかし劣勢は覆せず、少なくない犠牲を払い、アクシズ軍は撤退を余儀なくされる。

グリプス2もエゥーゴに奪取され、軍全体で見れば負け戦。

散っていった仲間や同僚はもう数えきれない。

「勝った、はずなのに。何なの?この納得できない感情は……」

彼女の戦争は、まだ終わったと言えそうにはなかった。

 

 

「試作ダミーバルーン。積んでもらっといて大正解だったな」

しかしその機体はもはや修理でどうこうなるレベルではなく、大破状態であった。

「死んでこそいないが、完敗か……」

ギリ、と歯を食いしばる。

機体の性能差はもちろんある。

だが、それ以上に打つ手がなさすぎた。

虚をつく形で一瞬の優位こそとったが、それだけ。

射撃戦にせよ格闘戦にせよ、もっと技量があれば勝負になったはず。

『たら、れば。』ばかりが頭に浮かぶ。

そんな自分が不甲斐なかった。

「それに……機体にも無理させすぎた」

戦域離脱までボロボロになりつつも頑張った愛機をねぎらう。

あれこれ考えた後、最後に思うのは相手のパイロットのことだった。

悔しさはある。

だが、それだけではなく。

妙な嬉しさも感じていた。

ア・バオア・クーでの初顔合わせから既に8年以上が経過。

思い切りは良くとも甘かった機動だった相手が、今や熟練のパイロットである。

「これ以上、不甲斐ない姿は晒せない。……次は勝つ。今度は俺が追う番だ」

在りし日、アムロ・レイのデータを相手に奮い立ったあの時のように。

カークの心は沸き立っていた。

「とはいえ、さすがにこのジムはお役御免かね」

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