宇宙世紀0088年、11月。
サイド3は地球連邦政府からネオ・ジオンに譲渡されることが決定。
「正式にネオ・ジオンの支配下になったか」
ニュース映像を見ながらニックが呟く。
「……そろそろ教えておいて欲しいんだが」
同じ映像を眺めながら、グラスを片手にジュンが問いかける。
「わからん。取り越し苦労かもしれん」
「構わねえよ。何事も無けりゃ心配性で済む。だが事が起きてからじゃ後悔すらできねえ」
その言葉を聞いたニックは、しばらく沈黙。
やがて意を決して口を開いた。
「今のアクシズ、どう思う?」
「良くはねえな。色んな意味で」
「その危うさに対する備えだ」
「……何か動きでもあったのか?」
「今のところはまだ。だが野心を隠さない者がちらほらいる」
うへ、と苦々しい顔になるジュン。
「お前さんとこは一応警戒部隊だが、サイド3防衛隊の戦力としてアテにしていいのか?」
「そのつもりだ。アクシズがどうなるにせよ、サイド3は守りたい。そのために無理を言った」
「承知してる。だからこそここ数か月はかなり必死に訓練したんだ」
「おかげでルスター准尉も戦力に数えられるようになったよ」
「とはいえガザCだからなぁ……ガザDもう一機なんとか都合つかんか?」
「難しいが、頼んでみよう」
この後、ニックがトワニングに相談。
結果としてガザDではなく別の機体が送られてくることになった。
数日後、リードラ格納庫。
「おい。俺はガザDって言わなかったか?」
「そう聞いた。そしてそう頼んだんだが……ザクⅢだな。これ」
AMX-011『ザクⅢ』
アクシズで開発されたザクの後継機。
汎用性に優れた、非常に高性能な機体となっている。
二人は目の前のMSを見て困惑していた。
「何をどうしたらザクⅢが配備されるんだよ!?」
ジュンの問いに、機体と一緒に受け取ったメモを見ながら答えるニック。
「准将曰く、ザク乗りがザクに乗らんでどうする。だそうだ」
「待て待て待て。なんか誤解されてねぇか?」
「開戦時から学徒兵を率いた時までずっとザクだったのが印象に残ってるんだろう」
「そもそも開戦時はザクしかねえし、学徒兵のはベテランと隊列組ませる訓練のためじゃねえか!」
「教える側が同じ機体でないと教えにくかろうという措置が裏目に出たな」
「ってかちょっと待て。今の話的にこのザクⅢは俺が乗るのか?」
「当然だろう。隊長殿」
固まるジュンに対し、実にいい笑顔で答えるニック。
「……はぁ、しゃーねえ。ルスターには俺が乗ってたガザD回してやってくれ」
「わかった。茶化してすまなかったな」
「いいさ。戦力が上がること自体に文句言う筋合いはねえしな」
そう言うと、腕を組んで黙り込む。
少しの間、沈黙が場を支配した。
ザクⅢを見上げるジュンの表情は、それまでの柔らかいものから徐々に変わっていく。
真剣であり、何かを憂いるようなそんな顔つきへと。
その理由に心当たりがあるニックは、表情を引き締めてから語りかけた。
「おそらくお前の想像通りだ」
「何も言ってねえよ」
「言わんでもわかる。同じ経緯を辿った仲だ」
同じ経緯。
かつて、ジオン軍で学徒兵を教え、率いて戦場に立った者同士。
そんな彼らがこの機体を見て思うことは同じであった。
「やっぱ、相当マズいんだろうな」
「ああ。あの時ゲルググが回ってきたのと同じものを感じる」
「准将はその危機感を持たせたくて選んだんだろうな、この機体を」
ジュンの言葉に頷いて同意するニック。
一年戦争当時、新鋭機ゲルググは熟練兵ではなく、学徒兵へ届けられた。
それは、事態が切迫していることを如実に表していたのである。
「バルの奴なら数日ありゃ乗りこなしそうだが」
「いや。さっきも言ったがこの機体はお前が乗ってくれ。可変機での高機動戦闘適性はバルの方が高いだろう?」
「そりゃまあ、な。……仕方ねえ。ちゃちゃっと機種転換するか」
「無理を言ってすまんな」
「他人事じゃねえんだ。むしろ感謝してるぜ?」
こうして、ジュン・ラーバルはその乗機を更新。
ザクⅢを隊長機としたガ・ゾウム、ガザD、リゲルグの混成部隊がここに誕生する。
そして、彼らの危機感が現実のものとなるのは、そう遠い話ではなかった。
一方、サイド3の譲渡は当然ながら連邦軍にも影響があった。
月軌道上、サラミス改級巡洋艦『フェアランゲン』。
今後のことを相談すべく、カミラがカークらをブリッジへ呼んでいた。
エルドが現状を整理する。
「さて、サイド3が譲渡されることになったわけだが」
「すっかりネオ・ジオンに制圧されちゃったわね」
「そのせいで任務範囲が狭まりましたね」
当初はサイド3も警戒範囲だったが、その任地は月近辺に限定され、情報収集もままならない。
(エリーナ・ブライアの所在を探すのは後回しだな)
内心で上手くいかない現状に苛立つカークだが、個人の感情はひとまず考えから追い出した。
「艦長、今後我々はどう動きますか?」
ニックの問いかけに、帽子をとり頭を掻きながらカミラは答えた。
「ルナツー、エゥーゴともに同じことを言ってきたよ」
「同じこと?」
「ああ。サイド3の偵察をしてこい、とな」
「ネオ・ジオン勢力圏での活動ですか」
「独立警戒部隊であることを利用したいのだろう」
独立の名が示す通り、ある程度の裁量権がこの艦には与えられている。
そしてそれは逆手に取れば、何かあった時に本部の命令でなく独断での行動だったと言い張れるのだ。
「難しい判断になりますな」
「要は不用意に仕掛けなければ良いだけだ。なに。何とでもなるさ」
軽く笑いながら帽子をかぶりなおすカミラ。
「でたわね。艦長の楽観論」
「それで今まで生き抜いてきたからな」
お決まりのフレーズで場を和ませつつ、当面の目標は決まった。
ブリッジから退出の途上、エルドがカークに声をかける。
「今は気持ちを切り替えろよ」
「わかってますよ。行方を追おうにもまずは生き延びなきゃ話になりませんから」
不穏な空気は収まるどころか気配を強め。
譲渡されたサイド3を中心にハマーンが動き始めた宇宙世紀0088年、12月下旬。
ニックが危惧していた事態が、現実のものとなった。
グレミー・トトによる謀反である。
「ハマーン様はコア3か……」
リードラのブリッジで報告を聞いたニックは難しい顔で考え込む。
予測していた事ではある。
しかし起きてほしくなかった事態であった。
(アクシズ占拠の後にグレミーがどう動くか……やはりサイド3の制圧に動くだろうな)
コア3はサイド3に属するコロニーの一つ。
そしてアクシズは現在、サイド3付近に存在している。
ハマーンが他コロニーと連携するのを阻止するために、部隊を動かすのは必然と言えた。
「艦長!副長から連絡です!」
「何と言ってきた?」
「グレミー軍から艦艇が進発。本隊とは別に動く部隊あり。以上です」
副長は現在、輸送艦を用いてトワニングから依頼のあった物資運搬の任についている。
(副長の現在地から考えると……2・3日後には接敵か)
情勢的に副長がこちらへ戻るのは難しいだろう。
となれば、やはり当初の予測通りMS隊はジュンに任せることになる。
(正念場だな)
背もたれに身を預けつつ、迫りくる戦いへ覚悟を決めるのであった。