機動戦士ガンダム 因果巡合   作:霞 志輝

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第十九話:歴戦の証明(中編)

 抜群の加速力を利用し、エリーナは一気にキュベレイへ突っ込んだ。

対するキュベレイは左肩のスラスターを吹かし、サイドステップでも踏むような動きで回避機動をとる。

「だろうね!」

リゲルグの右肩スラスターを横方向へ。

キュベレイの回避機動と同じ方向へ機体をスライドさせる。

「同じ機構持ってるんだから同じ動きができて当然でしょう!」

ライフルを放つが、キュベレイは更に踊るような動きで回避。

「っ!」

更に踏み込もうとしたエリーナが何かに気づく。

肩部バーニアを最大噴射。

強引に右方向へ機体をスライドさせると、つい先ほどまで自機がいた場所をビームの光が貫いた。

「背面にビームキャノン仕込んであるなんてね」

仕切り直しとばかりに距離をとろうとする。

そんなエリーナに追撃をかけようとキュベレイが動く。

このままこちらを追撃に移ってくれれば、バルたちが背後をとれる。

「かかったかな?……それほど甘くはないか。やっぱり」

一旦はこちらを向いたキュベレイではあったが、次の瞬間には上方向へ回避運動。

いなくなったキュベレイの位置をバルのガ・ゾウムが駆け抜けた。

 

 エリーナが斬りこんだのを見て、バルは機体をMA形態へ変形させる。

「この形態でないと追い付けんな」

リゲルグのスラスター光を追いかけるべく、ペダルを踏み込む。

近づいてくる敵機をよく観察する。

エリーナの攻撃を回避、反撃。

そして追撃の姿勢を見せたキュベレイへ、加速を緩めることなく突進した。

「このままぶつかってくれれば楽なんだが!」

バルの接近に気付いたキュベレイは上昇しての回避を選択。

「可変機体ならではの動きってのを見せてやるよ!」

MA形態での高速移動から途中変形しMS形態へ。

慣性に逆らわず滑るように移動。

機体の向きだけAMBACで変え、敵機を照準に収める。

スラスターは吹かさない。

横を向いた水平移動の状態を維持する。

ブレる照準を手動で無理やり合わせ、ハイパー・ナックルバスターの引き金を引いた。

「ちっ!虚を突いたはずだろうに!」

不意を突いた攻撃であったが、敵機はこれを回避。

即座の反撃を警戒するも、無茶な動きで避けたらしく。

一瞬ではあるが、機体制御の間が空いた。

バルは撃ち終わるや否や、間を置かず再びMA形態へ変形。

今度はそれまでの進路から、ほぼ直角の機動で敵機の視界から消えてゆく。

「さて、追いかけてくるかな?……まずっ!?」

後方モニタに映る、キュベレイを取り囲むように動く小さなスラスター光。

それはファンネルが展開されたことを意味していた。

しかし、その瞬間にファンネルの一基がビームに貫かれ爆散する。

直後、ファンネルはガ・ゾウムではなく別の方向へ展開を始めた。

その先に見えた機影は―――ザクⅢ。

 

 バウを防衛隊に任せたジュンは、リゲルグとガ・ゾウムの後を追う。

「さて、噂に聞くサイコミュ兵器を出される前に仕留めたいが……」

接敵するリゲルグを見て、キュベレイへの進行方向はそのままに慣性飛行へ。

スラスター光が消え、ザクⅢが宇宙の闇に溶け込んだ。

リゲルグを追うそぶりを見せた相手に突っ込むガ・ゾウム。

可変機ならではの動きを利用した戦いを見てボヤく。

「ったくアイツは……天才め」

呆れながらも笑っていたジュンは次の瞬間、表情を一変させた。

「あれか!」

即座にライフルを拡散モードへ切り替え。

ザクⅢのスラスター光が爆発したかのように輝く。

突然の発光に敵機が停止した。

そう、ファンネルの動きも。

「少しでも数を減らさせてもらう!」

ファンネルとキュベレイへ向けてライフルを斉射。

拡散した光の筋が走る。

と同時に、敵機が回避行動に動く。

しかしファンネルは動き出すのが一拍遅れ、ビームに貫かれた数基が爆散。

「さすがに本体には当たらんか……うぉ!?」

キュベレイは回避行動をとりつつも、ファンネルの照準をザクⅢへと変えるのがわかる。

「なんつう殺気だ!」

展開するファンネルの砲口が、まっすぐにザクⅢを向いていた。

「ファンネル相手の回避機動は理解しちゃいるが!」

的を絞らせたら負け。

接近してプレッシャーを与えファンネルの制御を乱せ。

そんな参考になるのかならないのかわからない教えではあるが、一応話に聞いてはいた。

前に、横に、上に。

細かく軌道を変えながらもキュベレイへの接近を試みる。

あらかじめパターン化して組み込んである複数の回避機動。

自分の意思とは無関係に動くことで思考を読ませない対策。

これらが功を奏したのか、ファンネルの攻撃は機体を何度も掠めても、直撃はない。

しかしこのままでは長くはもたない、そうジュンが焦り始めた時。

キュベレイがファンネルを回収して急速に離れた。

視界の端に映る高速で動く両肩からスラスター光を放つ機影。

「嬢ちゃんか!助かる!」

 

 三機からの波状攻撃に、キュベレイは苦戦を強いられていた。

エルピー・プルという少女のクローンの二十六番目。

プルトゥエンティシックスは苛立ちながら戦闘を継続。

「ラングの奴は何をしている!」

支援のひとつもない状況に、悪態が口から放たれる。

性能差の無い機体。

それも数的不利の状況。

これではいかな強化人間と言えど分が悪い。

「おいラング!支援はどうした!」

「何だ。手伝いが欲しいのか」

「貴様!」

「……冗談だ。今向かう」

部下にハイザックとリック・ドムの相手を任せ、ラングのバウがこちらへ向く。

(判断が遅いんだよ!)

その間も波状攻撃は続き、ファンネルも既に六基落ちている。

(搭載ファンネルは残り二十四基か。ええい!)

彼女が戦闘機動中に扱えるファンネルの数は八基が限度。

まだ戦える。

しかし援護があれば失わずに済んだ被害。

腹立たしさは隠せなかった。

 

 

 地球連邦宇宙軍、第二十二独立警戒部隊。

サラミス改級巡洋艦『フェアランゲン』は定期任務の途上にあった。

グレミーの反乱を受け、本来行うはずだったサイド3方面の警戒である。

その艦橋では、17バンチコロニーの戦闘光が確認されていた。

「MS隊!準備できた機体から順次発進!」

艦長のカミラ中佐から出撃命令を受けたエルドは疑義を呈する。

「どちらの味方を?」

ブリッジのモニタに映るエルドへカミラは告げる。

「コロニーを守っている方だよ。我々の本義を忘れたかね?」

「独立警戒部隊の任務は治安維持。……なるほど。確かに」

「ネオ・ジオンがどうのはこの際関係ない。コロニーの住人を守るのが目的だ」

「了解しました」

「サイド3の防衛部隊が使っている通信チャンネルは共有できているな?」

「無論です」

「よろしい。では武運を祈る」

「エルド・ワース。ネモⅢ、出る!」

エルドの機体が先陣を切って射出。

「ミーナ・ラックスマン。ネロ、出ます!」

エルドに続きミーナの機体も射出されてゆく。

新設されたカタパルトによる発艦は順調に進む。

ミーナ機の射出後、格納庫から甲板へカークの機体がせりあがってきた。

カタパルトとの接続が完了し、機体は前傾姿勢へ。

「カーク・ヴェルフィリア。ジムⅢ、出撃します!」

勢いよく押し出されつつ、更にペダルを踏み込む。

加速を加えて一気に交戦宙域へと向かってゆくのだった。

 

 

 ニックは判断に迷っていた。

「連邦の部隊がなぜここに来る?」

敵なのか味方なのか。

なぜこのタイミングなのか。

だがその迷いは長くは続かなかった。

「こちら地球連邦宇宙軍、第二十二独立警戒部隊、MS小隊長のエルド・ワース少佐」

サイド3防衛隊の通信チャンネルで呼びかけがあったためだ。

「これより防衛隊を支援する。こちらの認識信号を味方機にするよう伝達を」

エルドの名前を聞いてニックは目を見開いた。

「こちら防衛隊のオレイユ・オルバンだ。協力に感謝する!」

防衛隊のMSは、既に半数を失っていた。

そこへきての援軍である。

オレイユは歓喜の声で受け入れた。

「ネオ・ジオン警戒艦隊、ニック・タノウエ中佐だ。すまない。助かる」

「ニック殿!?となるとまさか」

「そのまさかだ。ニュータイプ専用機とやりあってる。できれば助けてやって欲しい」

「確約はできませんが、可能な限りは」

敬礼とともにエルドとの通信が切れる。

「オレイユ殿。すまないがこちらの艦を少し下げる」

「何かあったか?」

「私もMSで出ます。艦は少し後方から支援射撃!格納庫はリゲルグの準備を!」

 

 

 ラングの量産型バウが参戦したことで、戦況は逆転。

エリーナたちが劣勢を強いられる状況となっていた。

「くそっ!あんな頭悪い会話してたくせに操縦の腕はありやがる!」

ザクⅢと接敵するバウ。

ビーム・サーベルが何度もぶつかり合い、スパークの光が周囲を照らす。

「隊長!……くそっ!」

支援に向かおうとするバルだが、少しでも意識を離せばファンネルが死角から襲い掛かる。

ギリギリで回避するも、反撃までは手が回らない。

「このっ!」

攻撃を受けるバルを助けるべく、キュベレイへ突っ込むエリーナ。

だが予想されていたのか、ビームキャノンにより牽制を受け、間合いは詰められない。

「まずいな。こちらの動きを読まれ始めている」

バルの声に焦りが混じる。

その呟きを拾ったエリーナは、先のグリプス戦役を思い出した。

(あの時、無意識に動いたこちらの動きは完全に読まれた)

癖を読まれるような戦い方ではマズい。

エリーナもバルも考えることは同じだった。

(このままじゃ打つ手がない。何かないか……え?)

違和感を覚え、戦術モニタを確認する。

(敵機の数が増えてる?違う!こっちに一機回ってきたんだ!)

慌てて周囲を確認すれば、視界の端に映る量産型バウの姿。

「な!?」

その銃口はすでにエリーナを捉えている。

「エリーナっ!」

「嬢ちゃん!」

「舐めるなっ!」

機体を旋回させ、バウの射撃を回避。

それによりキュベレイから意識が外れる。

リゲルグの死角に忍び寄るファンネル。

必殺を期した一撃がリゲルグに向けられたその時。

ファンネルとリゲルグの間に、割って入る機影がひとつ。

放たれたビームは盾に防がれ四散。

その盾には鷲の紋章が刻まれていた。

 

 

 エリーナは自身に向けられた致命打となったであろう一撃が遮られるのを目撃した。

その機体は様変わりしているものの、誰が乗っているかは不思議と予測がつく。

隙だらけの姿を晒しているリゲルグではあったが、追撃の気配はなし。

慌てて回避機動を再開。

周囲を確認すれば、見慣れない機体がキュベレイへ肉薄していた。

「ちょっとカーク!無理してまでかばう必要ないでしょ!?」

サイド3防衛隊の通信に飛び込む声。

連邦軍のミーナであった。

接敵したかと思えば一撃離脱により通り過ぎる。

そこに間髪入れず長距離からのビーム砲撃。

そしてバルのガ・ゾウムによる追撃が重なり、敵機はこちらに意識を割く余裕は無い。

再びスピーカーから響いた声は、いつぞや聞いた宿敵のものだった。

「自然と身体が動いてました。けど、あの黒いのを相手にするなら彼女の協力が必要です」

そう、なぜ自分を助けたのか。

だがその理由『彼女の協力が必要』という言葉が驚くほど腑に落ちた。

逆に自分も『彼の協力が必要』だと直感で理解できたから。

「こうして顔を合わせるのは初めてね?連邦の鷲さん」

「ああ。声を聴いたことはあったが顔合わせは初めましてだな。お嬢さん」

「さっきは助かったわ。あの攻撃は引き受けてくれるのよね?」

「そのつもりだ。死角を突かれれば怖い攻撃だが、その分出力は低いからシールドなら防げる」

ファンネルはそのサイズ的に、出力そのものは抑えめである。

ゆえにビームコーティングを施した盾であれば防ぐことは可能であった。

「死角を突かせないために、相手の気を散らす必要があるのはこちらも認識しているわ」

「そのための君とミーナ大尉だ」

「バル……ガ・ゾウムで通じる?あの可変機もいるわよ?」

「あの機体にはあっちの緑色をなんとかしてもらいたい。チームで連携する方がやりやすいだろ?」

「そういうことか。了解した。大事な妹分なんだ。頼むぜ」

バルが通信に割って入る。

「任された。決着つける前に勝ち逃げなんてされるわけにはいかないからね」

カークの口から出た決着の二文字。

「ははっ……はははっ」

(同じ想いでいてくれてたなんてね)

色々な感情が混じっての破顔一笑。

エリーナの目に闘志が燃える。

「なら全員揃ったままで終わらせないとね!」

二機が同時に加速する。

バルのガ・ゾウムはジュンの援護に。

エリーナのリゲルグはミーナの援護に。

これまで干戈を交えてきた宿敵同士がここに手を組んだ。

 

 

 サイド3防衛隊の数が減ったことで、ラングの援護に一機が回る。

「あのバウの動き……教習通りだな」

ザクⅢの姿を視界に捉えると、バルは自機の位置取りを特定のポイントへ。

その位置は、学徒教練で教わったフォーメーションの一つ。

「隊長ならこれで気付くはず」

量産型バウの部隊はそれぞれが連携して動いている。

ラングの機体が鋭い動きをする一方、僚機は教科書的。

教練と同じ動きを見せればジュンなら気付く。

一呼吸の後、ザクⅢが加速。

バルは自分の意図が通じたことを確信した。

「よし、このまま近づけば次の動きは」

接近を嫌ったバウは散開を選択。

ラングは迫る二機との間合いを測りながら動いているのがわかる。

しかし、僚機は教本通りの動きに過ぎない。

「お手本通りなのは優秀だけど、ここは戦場なんでね」

ザクⅢが制御スラスターを全開にし、機動を敵機の散開方向へ。

ラングの機体は敢えて放置した。

ジュンが狙いを定めた敵の僚機は、攻撃を回避しながら近接戦に切り替える。

そしてジュンの動きを見て挟み撃ちを選択したラング。

「こちらを牽制せずに僚機の支援。それじゃダメだろ」

近接戦を挑んできた相手を、ザクⅢが蹴り飛ばす。

その反動で機動を強引に変えてラングの射撃を回避。

「そしてこちらへ押し出される敵機、と」

ラングの援護射撃がこちらを向く。

それを阻止すべく、ザクⅢがラングを狙い撃つのが見える。

だがロックオンアラートは鳴り響いたままだ。

「隊長の攻撃を避けながらこっちに射撃できるのかよ!」

紙一重で避けながらも、バルへの照準は外さないラングの技量に思わず舌打ちする。

機体を変形させ、直前まで脚があった場所をビームが駆け抜けた。

再びMS形態に戻しつつ、前方に飛び出していた敵機へ引き金を引く。

「回避したか。だが!」

バルは錐もみの動きで、前方と後方からの射撃を避けつつ接近。

敵機の動きに、わずかな乱れが見えた。

「慌てたか。ここで操縦ミスは致命的だったな」

通り過ぎつつビームサーベルで斬り裂くと、即座に変形して離脱。

背後で爆散する敵機を確認していると、同様の爆発光が別の場所でも起きるのが視界に映った。

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