機動戦士ガンダム 因果巡合   作:霞 志輝

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第二十話:歴戦の証明(後編)

 エリーナたちがキュベレイを抑え、ジュンとバルがバウを二機相手取っている頃。

サイド3防衛隊は一機のバウに翻弄されていた。

ムサイ級のブリッジでオレイユは歯噛みしつつ拳を握りこむ。

「性能差でここまで押し込まれるとは……」

ハイザック三機は既に残り一機。

リック・ドム三機も残り二機。

それを見て相手をしていた二機のバウは一機が離脱、ジュン達の戦闘支援に回っている。

「ハイザックやリック・ドムの武装では正面から装甲を抜くのは難しいのでしょう」

入った通信に顔を上げれば、モニタに映るのは連邦軍のエルド。

「相手も回避からの反撃は行えていますが、一撃で仕留めるのは難しいようで。余裕は無いと見えます」

「エルド殿。貴殿は部隊の支援に回らずとも良いのか?」

「高機動戦闘への支援砲撃に集中するために、先にこちらを片づけたいのです」

と言う割に戦闘に参加しないエルド。

だがオレイユは気付く。

(彼は何かを待っている……何をだ?)

エルドのネモⅢはムサイの陰から戦闘空域を睨む。

その照準は防衛隊と交戦するバウに向けられていた。

(耐えてくれよ。防衛隊……)

ハイザックが左腕を失いながらも敵機に接近を試みる。

リック・ドム二機が十字砲火で支援を行う。

そのことごとくを、バウは回避。

じわじわと追い詰められる防衛隊に焦燥が募る。

(来たか!)

背部モニタがわずかなスラスターの噴射光を捉える。

「よく耐えた防衛隊!」

エルドがペダルを踏み込む。

ネモⅢがムサイの陰から飛び出した。

バウはハイザックの残った右腕を斬り落とした直後にネモⅢに気付く。

「そっちは届かずともこちらは届くんでな!」

ビームキャノンが火を噴いた。

バウに吸い込まれるように伸びた光の筋は、しかし回避により掠めるに留まる。

その火力は防衛隊よりも驚異であると認識させるに十分だった。

エルドの方向へ向き直ると、一気に距離を詰めてくるバウ。

「さぁ来い!」

ビームキャノンで更に追撃。

更にビームライフル。

そしてビームサーベルを抜き放つ。

(ここで確実に仕留める)

エルドは腹を据えてバウを迎え撃った。

バウもサーベルを抜き放ち、両者は激突。

サーベル同士のぶつかり合いがスパークを起こす。

その時。

横合いからバウのコックピットをビームが貫いた。

エルドはバウを蹴り飛ばし、反動を利用して距離を取る。

少しの間を置き、バウは爆散した。

「さすがの腕前でした。ニック中佐」

「いや。相手の動きを止めてくれたエルド少佐のおかげです」

「何を待っているのかと思えば、そういうことでしたか」

オレイユが会話に混ざる。

「確実に仕留めるために、ニック中佐の出撃を待ちました。防衛隊には無理をさせてしまい申し訳ない」

「何。お互いそれが仕事でしょう……こちらこそ申し訳ないが、後はお任せします」

防衛隊の残りはリック・ドムが二機。

艦の直掩に残さなければならないのは、エルドもニックも承知していた。

「後はお任せを」

「艦の事はお願いします」

「承知した。ご武運を」

その会話を契機に、エルドとニックは機体を戦闘空域へと向かわせた。

 

 

 ミーナのネロとエリーナのリゲルグによる高機動一撃離脱。

その速さは波状攻撃に近いプレッシャーを与えていた。

「こいつら……調子に乗るなあっ!」

しびれを切らし、ファンネルを展開。

だがそこにするりと現れるジムⅢ。

バルカンによりまた二基のファンネルが墜ちる。

残りのファンネルはジムⅢへ照準を変更。

乱れ討ちを狙おうとすると、突如現れるジムⅡの機影。

ダミーバルーンによる攪乱である。

射線は乱れ、当然ながら直撃は無く。

盾に防がれるか、装甲を掠めるに留まる。

「何なんだあの鷲盾は!」

複数機による攻撃は過去に経験がある。

しかしこうも隙を埋めてくる相手はいなかった。

もう何度目かわからない接近警報。

エリーナのリゲルグが迫っている。

ジムⅢへの追撃を諦め、ファンネルを収容しつつ再び回避行動。

「ラングの馬鹿はどこ行った!ここで負ければ後が無いのは私も貴様も同じだろう!」

この程度の任務に失敗したとなれば、待っているのは処分か再強化。

ラングとて信用の失墜は今後に響くはずなのだ。

後がない状況への恐怖。

本来護衛機としてこの状況に対処すべき味方への憤慨。

展開するたびに確実に数を減らされるファンネルに焦燥。

冷静さを欠き集中を乱した状態でなお、彼女はカーク達と渡り合っていた。

 

 

 ジュンとバルによる連携を受けながらも、ラングのバウは奮戦していた。

「中々の腕だ。だがその程度に追い付けんバウではない!」

自身を鼓舞するためか。

それとも本当に自信があるのか。

目的は不明だがラングの声が響く。

その声を拾ったバルは疑問符を浮かべた。

(オープンチャンネル?余裕のつもりか?)

実際はただの操作ミスである。

が、結果としてラングの声高な主張はオープンチャンネルで響き渡った。

「自信家なのか何なのか……」

相手の声に呆れつつも、的を絞らせないよう稲妻のような機動で一旦距離を取る。

バウの射撃はガ・ゾウムが通りすぎた後を貫いていく。

それはつまり、攻撃が届く距離でもあるということだ。

「直進の加速で追いつけなくとも!」

「攻撃が届けばなんとかなる?甘く見られたものだな!」

機体の向きをバウへ向け突貫。

「ほう!正面からやりあおうと言うのか!この俺と!」

「生憎だが、誰なのか知らないな!ルスター!」

「はい!」

戦闘開始からずっと、射程距離ギリギリで息を潜めていたルスターに合図を送る。

バウに向けてガザDから支援射撃が飛ぶ。

「はっ。笑わせるな!声かけが必要になる程度の連携で墜とせるものかよ!」

ガザDからの射撃は回避。

「なら声かけのない砲撃ならどうかね」

そこに割り込むエルドの声。

ネモⅢのビームキャノンが放たれる。

「おおっ!?」

紙一重で回避。

「二度あることは三度あるってかあっ?」

ラングはそう言いながら続けて回避行動をとる。

すると元居た場所を更にビームが駆け抜けた。

「ちっ……勘のいい。バル!任せるぞ!」

ニックが舌打ちと共にバルへ後事を託す。

「数的不利があろうと!このバウならば!」

迫るガ・ゾウムを見て、気を吐きつつ引き金を引くラング。

「墜ちろよ!」

「当てられるものならな!」

ビームが飛ぶが、ガ・ゾウムはバレルロールの動きで回避しながら突進を継続。

格闘戦の距離でMSへ変形する。

「ちっ。ガザDと違って変形の隙も狙いにくい!」

射撃を諦め、サーベルでの薙ぎ払いを選択するラング。

しかしそれは読まれていた。

「おおぉっ!」

バルもまたサーベルを振るい、ビームの刃がぶつかり合う。

(ここだ!)

レバーを引きペダルを踏み込み、ガ・ゾウムを急上昇。

ぶつかり合うサーベルを基点に半円を描くようにぐるりと。

「離脱失敗か?下手を打ったな!」

だが。

「そんなヘマする可愛げなんざコイツにあるかよ」

オープンチャンネルに飛び込んでくる別の声。

ガ・ゾウムが上に消え、その後ろから現れたのはザクⅢ。

「な!?これはまさかジェットスト……」

「あばよ」

ザクⅢのビームライフルが至近から撃ち込まれ、バウは四散した。

「お見事です隊長。最後何か相手が言いかけてましたが」

「ルウムんときに黒いのがやってた戦法使ったせいだな。あっちは三機でやってたが」

「お疲れ様、と言ってやりたいが。エリーナたちの援護に向かうぞ」

ニックが通信に割って入り、次の行動を促す。

その場の全機がエリーナたちの戦域に目を向けた。

 

 

 量産型キュベレイによるファンネルの攻撃。

最初こそその攻撃基点を読みづらく何度か機体を掠めたが、徐々にカークは慣れてきていた。

(ミーナ大尉とエリーナの波状攻撃でプレッシャーを与えられているからだな)

戦況を分析していると、敵機の動きが変わるのがわかる。

(焦りと怒り。冷静さを失った動きは単調になりやすい)

ゆえに。

エリーナの機体が接敵してから離脱を始めた際に行われる追撃も、容易に読めるようになった。

「この程度なら凌げる。彼女の機動に比べりゃ楽なもんだ」

自分に向けられたものは回避し、エリーナたちに向けられたものは射線に割って入り防ぐ。

「さすがねえ。当たらないし防がれるしで焦れてくるのよね。あれ」

エリーナの経験則は外れることなく、キュベレイは攻撃だけでなく機動も直線的なものになっていく。

それを追いかけようとキュベレイの目線が動くのを見て、ミーナのネロが加速を強める。

キュベレイの視界をかすめるような位置から突撃。

常に気を散らせるような位置取りから距離を詰め、そして離脱を繰り返す。

「とはいえ流石は強化人間。なかなか背後はとらせちゃくれないわね……っ!避けて!!」

エリーナが警告を発したが一瞬遅く。

量産型キュベレイの背面にあるビームキャノンが輝いた。

「嘘!?あんなところに?」

離脱途中を狙い撃たれる、ミーナのネロ。

「大尉!」

「舐ぁめんなぁっ!」

螺旋を描くような動きでビームを回避。

「わぁ……凄……」

思わず見惚れるエリーナ。

「ジムと同じと思ってもらっちゃ困るのよ!」

そこから反転して今度は一気に敵機へ突っ込んだ。

「いや大尉!無茶しないで!」

「無理と無茶は押し通してナンボでしょ!」

ライフルを撃ちながら接近、更にサーベルで斬りかかる。

が、両肩のウイングバインダーを全開にしてネロの軌道から回避するキュベレイ。

「ったく。器用な避け方するんだから」

ネロはそのまま加速を緩めず離脱。

代わってジムⅢからライフルの射撃が飛ぶ。

(ファンネルの相手も骨が折れるが、大尉のフォローも大概だな。……それに比べて)

敵機の意識がこちらに向いたその瞬間、エリーナのリゲルグが襲い掛かっていくのが見える。

即座に機体を移動。

サーベルで二度三度と斬り結んだ後に離脱するリゲルグと敵機の間に滑り込ませる。

リゲルグがどの方向へ離脱するか、カークには手にとるように理解できた。

「何だろうな。味方より連携がしっくりくるのが釈然とせん」

勝手知ったる相手の動きである。

どこをフォローしてどこを譲ればいいか。

長年の経験から互いに理解できていた。

「同感ね。けどここでは……」

「ああ、心強い!」

リゲルグが動き、ジムⅢがフォローする。

そしてその結果。

「ファンネルの数が減っている?」

「弾切れってとこかしらね」

「追い詰められた相手は何するかわからないわよ。二人とも気を抜かないで」

ミーナから注意が飛ぶ。

「承知しています。それでどっかの誰かに逃げられましたから」

「死に物狂いの相手は怖い、てのは万国共通だよな」

エリーナはグリプス2防衛戦でのカークを。

カークはア・バオア・クー攻略戦でのエリーナを。

それぞれ思い出していた。

「とはいえ、厄介さなら上には上がいるのよ。そんなのを相手してきた私から逃げられると思うな!」

キュベレイの気を散らす機動から、突如として襲い掛かる機動へ動きを変えるリゲルグ。

「これだよ。緩急が巧いっつーか。攻撃の起こりが急なんだよな」

リゲルグの機動を視界に収めつつフォローできる位置からは外れないジムⅢ。

推力で負けていても、敵機を中心とした軌道であるなら敵機との距離を詰めておけば良い。

そしてリゲルグの機動は、もう目に焼き付いている。

迎撃しようと展開するファンネルを確認。

カークが機体をリゲルグとの射線上に配置し盾で防ぐ。

と同時にジャブローから使い続けたバルカンが反撃。

また一基、ファンネルを撃ち落とした。

ファンネルの数も減り、動きに精細さを欠き始めたキュベレイ。

「悪いけどもらうわよ!」

ミーナのネロが突撃。

サーベルで受け止め、激突する。

次は離脱、というタイミングだがネロはその場を離れず。

「そろそろ決着といきましょう?」

そのままスラスターを吹かして機体を押し込んだ。

突然の行動変化に、敵機が戸惑うのがわかる。

「動きを止めたのが命取り」

横合いから突っ込んでくるのはエリーナのリゲルグ。

リゲルグを迎撃に向かうべく、残り少ないファンネルを展開。

しかし。

「読めてしまえば落とせるもんさ」

展開した瞬間、ジムⅢのバルカンがファンネルを撃ち落とした。

キュベレイとリゲルグの間に、遮るものはもう何もなく。

「仕留める!」

ビームライフルの一撃が、キュベレイのコックピットを貫いた。

 

 

 その光景は戦場にいた全員が目撃していた。

「おぉ……か、勝てたのか」

序盤の劣勢から戦死を覚悟していたオレイユは、どさりとシートに身をうずめる。

緊張感から解放され、このまま意識を手放したいとさえ思える程に脱力していた。

「さすがのオレイユさんも疲れたかい」

通信が回復し、ジュンの憎まれ口が響く。

「そりゃな。……だが、お前たちも無事で良かった」

そして居住まいを正すと、通信を繋いで謝辞を述べる。

「エルド少佐。助力に感謝する」

「お気になさらず。治安維持が我々の部隊の任務ですので」

「でも疲れたわー。休暇欲しい」

真面目な空気を意にも介さず、ミーナが愚痴を述べる。

「同感ですね。というか俺らそもそも軍属じゃないはずなんですが」

「無理を言って済まなかった。だが本当に助かった」

ミーナに同意するバル、そしてそれに礼を言うニック。

戦いの緊張感からは開放され、ひと時の安らぎが訪れようとしていた。

そして。

勝利の余韻から、再びそれぞれの地へと向かう別れ際。

「今回は助かったわ。ありがとう」

「どういたしまして」

「けどそれはそれとして……次は決着、つけるわよ」

「ああ。それはこちらも望むところだ。……次があれば、だが」

「そうね。でもきっとその機会はある。そう信じる」

「その時までは生きてろよ」

「言ってなさい」

憎み合っているわけではない。

殺したいと願っているわけでもない。

ただ。

兵士として。

戦士として。

これまで積み上げた自分というものに納得のできる決着を。

お互いが望んでいた。

 

 

 思いがけない共闘ではあったが、グレミー軍の撃退には成功。

決着を望むエリーナとカークは最後の決戦に向け意識を切り替えていた。

しかし、その数日後。

グレミー・トトおよびハマーン・カーンの戦死により抗争は終結。

二人は決着をつける舞台を失ったかに思われた。

しかし。

「エリーナ。鷲盾との決着を諦めるつもりはないんだな?」

「……ええ。もうこれは理屈じゃない。戦争でもない。これまでの自分に対しての決着が欲しいの」

できるならば。

叶うならば。

周囲に迷惑をかけてまで無理を押し通すつもりはない。

それでも諦めきれてはいない。

未練に近い感情だと理解していた。

それを汲み取ったニックは提案をもちかけた。

「なら、ひとつだけまだ道はある」

「え?」

「いつぞやの縁だ。大佐に繋ぎをとってみよう」

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