機動戦士ガンダム 因果巡合   作:霞 志輝

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第二十二話:悪因悪果、善因善果(後編)

 エンドラ級巡洋艦リードラはアクシズ周辺ではなく、ルナツー方面を警戒する任務に就いていた。

(フェアランゲンはルナツーに不在だった。となれば必ず出てくるはず)

艦長席に座るニックは、じっとルナツーの方角を睨む。

後方に位置するアクシズではロンド・ベル隊との戦闘がこの瞬間も続いている。

だがそちらを一顧だにすることなく、ただただ正面を注視し続けていた。

(問題は連邦軍艦隊だ。再編してまとまった数で来た場合にどう動くべきか)

警戒任務である以上、情報を本部へ通達して撤退がセオリーである。

しかしそれでは第二十二独立警戒部隊との接敵もままならない。

(戦場を私物化か。およそ軍人のやることではないな)

自嘲した笑みが浮かぶ。

「眉間に皴が寄ってっぞ」

真横から飛んできた声で意識がブリッジへ戻る。

声の主は、いつの間にかブリッジに上がってきていたジュン・ラーバル少佐だった。

ニックは眉間を揉み、シートに身体を預けながらボヤくように答える。

「そういう役職だ」

「違ぇだろ?……嬢ちゃんは生きる目的を戦い以外に見つけようとしてる」

「そのようだな」

「思い当たる節でもあんのか?」

「アクシズに居た頃、任務で各コロニーを一緒に回る機会があった」

「ほう」

「立場も思想も違う様々な人を見て、何か思うところがあったんだろう」

「それでか。嬢ちゃんはコロニーを大事なモノと認識してた」

「アクシズでもそうだ。慣れない教官役は守るべき仲間や後輩を意識するに十分だった」

「でもそれならグリプス戦役んときに終わらせても良かったんじゃねえのか?勝ったんだろ?」

「機体性能差で勝てていながら、逃げられた。あれでは勝ったと思えないと言っていたよ」

「今なら条件は五分だと?」

「先の思いがけない共闘で、対等に渡り合える動きができるのは確認できたからな」

「あー」

先の戦いを思い出して納得するジュン。

「ならこれが最後になりそうだな……お前も折り合いか区切りかつけろよ?」

「そう、だな」

あまり自覚はなかったが、ジュンの言葉で否応なく理解する。

ニック自身もまた、長く続く戦いの着地点を探していたのだと。

「ったく。何でも器用にこなすくせに、なんで生き方だけ不器用なんだ」

「さてな。それは俺が聞きたいよ」

苦笑しながらジュンへ返答したその時、オペレーターのテレジアから声が飛ぶ。

「レーダーに感あり!敵艦です!」

「数と艦種はわかるか?」

「数は一隻。艦種はサラミス!」

顔を見合わせ、頷き合うニックとジュン。

「来たな」

「ああ。恐らくはフェアランゲンだ。すぐに出撃を」

「承知した!」

「艦内に通達!第一種戦闘配置!メガ粒子砲の発射準備も急がせろ!」

 

 

 スラスター光が駆け抜ける。

最初に接敵したのはニックたちの部隊ではない別の部隊のMS。

カークは戦術モニタに浮かぶ敵機の情報に目を走らせる。

「敵影は三機。識別は……ドライセンか」

 

AMX-009『ドライセン』

旧ジオン公国軍『ドム』の設計思想を受け継ぐアクシズの量産機。

第一次ネオ・ジオン抗争後半におけるアクシズ軍の中核を担った。

 

敵機を確認後、エルドが手短に指示を飛ばす。

「いつも通りだ。ミーナ。斬り込め」

「了解!さーて。いくわよっ!」

最大速度で一気に詰め寄るミーナのネロ。

ネロの先には、カークのジムⅢに向かっている先頭のドライセン。

勢いよく迫るネロに、その向きを変えヒート・ランサーを抜き放つ。

「せえーのっ」

ネロがビームサーベルを振りかぶりながら突撃。

だが斬り結びに身構えたドライセンを掠めるように、ミーナの機体は通り過ぎた。

ミーナ機に意識を取られた敵機は、そこで致命的な隙を見せることになる。

「いただく!」

その隙を待っていたカークがロング・ライフルの引き金を引く。

大出力のビームが敵機を貫いた。

「わぉ。いい威力してんじゃない!」

「こっちのビームキャノンといい勝負だな」

言いながら、エルドはネモⅢのビームキャノンで他の二機に牽制射撃。

回避する敵機だが、その目の前にはミーナのネロが銃口を向けて待ち構えていた。

「いらっしゃい。そしてサヨナラ」

言葉と同時にライフルのトリガーを押し込む。

放たれたビームは、狙い過たず相手を撃ち抜いた。

一連の戦闘を見ていたエルドは、手ごたえの無い理由に思い至る。

「この脆さ……そうか。アクシズ軍で新兵だった連中か」

戦闘機動が拙いわけではない。

しかし、場数が足りないと思しき動きが見てとれる。

残りの一機もネロに追われ動きが乱れたところに、ネモⅢのビームキャノンが命中。

爆散こそしなかったが、両脚が吹き飛び戦闘続行は不可能な状態になった。

敵部隊の沈黙を確認したカークは、先へ進もうと機体の向きを変えた。

「よし、このまま先に……。いや。本命がきたか」

操縦桿を握る手に力が籠もる。

視線の先には、ザクⅢを先頭に灰色のギラ・ドーガと、リゲルグの姿があった。

 

 

 ロックオンマーカーがジムⅢを捉える。

「また随分ゴツいの背負ってるわね……」

捉えた姿に感想を言いながらビームライフルを放つ。

吸い込まれるように伸びたビームは、しかし相手に当たることは無く。

バレルロールのような動きで回避されていた。

「そうこなくっちゃね!」

ペダルを踏み込む。

シートに押し付けられる身体が加速を伝えてくる。

「決着つけましょう!カーク・ヴェルフィリア!!」

「望むところだ!エリーナ・ブライア!!」

距離が詰まる。

視線の先にいるジムⅢが、構えたロング・ライフルで迎え撃った。

先ほどのジムⅢと同じようなバレルロールで、ビームを回避するリゲルグ。

リゲルグを追随していたザクⅢとギラ・ドーガは回避のため散開の動きをとる。

「当たったら一発で消し飛ぶわね、これ」

一撃でも当たれば終わり。

その緊張感に、エリーナの口元が緩む。

「けど、懐に潜り込めば!」

ジムⅢは迎撃の発砲後に上方向へ加速。

追いかけるべくリゲルグの加速を強める。

しかし。

「差が縮まらない!?」

「ディフェンサーシステムの推進力を舐めんな!」

(追い付けない相手とか、考えてみれば初めてか……どうする?)

飛来するビームを回避し続けながら、エリーナは状況の打破を模索していた。

 

 ミーナのネロは散開した敵機を追った。

狙うは灰色のギラ・ドーガ。

「あの気持ち悪い動き!デラーズ紛争んときのやつね!」

「……気持ち悪いは酷くないか?」

たまらずバルがこぼす。

聞こえるはずの無い声に困惑するミーナだったが、すぐに原因を突き止めた。

「え?……あ、サイド3防衛隊の回線か。って危ない!」

その隙を突くかのように、ギラ・ドーガから放たれる射撃。

間一髪で回避するネロを見て、バルが残念そうな声を上げる。

「惜しい。お互いに回線を開きっぱなしにしていたようですね」

「このっ!」

ミーナがお返しとばかりにライフルを撃つ。

しかしするりと躱すバル。

「熱烈なお返しは嫌いじゃないけど、控えてもらえると嬉しいな!」

普通に会話を続けながら、攻撃の手も回避の動きも疎かにならないバル。

「ナンパで落とすか、撃ち落とすか。どっちかにしなさいよ!」

「残念ですが俺は妻帯者なんで」

「腹立つわね!その言動も機動も!」

ミーナのネロから射撃が飛ぶ。

「そう言われましても。貴方の機動は放置すると厄介なんでね」

「評価いただいて光栄ね!」

ネロが更に加速。

その速さはサイド3の防衛戦で見て知っていた。

しかし、相対してみればその圧の強さに驚愕する。

余裕があるように見えるバルだが、内心では焦りを見せていた。

(この動きで援護されるとエリーナが不利だな)

(この機体に援護されるとカークが辛いわね)

互いに相手を厄介だと認識した二人の結論もまた、同じであった。

 

 散開後、ネロに捕まるバルを確認してジュンは舌打ちした。

(あの速いのを相手にするなら、嬢ちゃんの援護は無理か)

バルに代わって自分が援護にと考えるものの、視界に映る敵機に断念を余儀なくされる。

「支援機なら支援機らしく後ろで構えてろよな!」

迫ってくるネモⅢを見て悪態をつきながら回避機動。

こちらの射程外から飛んでくるビームキャノン。

(近づいてきてくれるなら、かえって好都合だが……)

迎撃すべく身構えるジュン。

しかしその迎撃は読まれていたようだ。

ネモⅢは接近を停止。

距離を保って砲撃を撃ち込んできた。

「だろうな!」

相手が停止するのを見て、即座にスラスターを全開にする。

キャノンの砲口を確認。

射線を避けるよう上下左右に機体を振りつつ接近。

キャノンでなくライフルでの迎撃にシフトするネモⅢ。

「この距離での撃ち合いなら、こっちに分があるぜ!」

片手でライフルを。

空いた片手で腰部ビーム・キャノンを。

更に頭部ビーム・キャノンも斉射。

一機で弾幕を形成して制圧にかかる。

たまらず回避から距離をとろうとする敵機。

「逃がさねえよ!嬢ちゃんの邪魔させるわけにゃいかねえんでな!」

ビームキャノンによる中・遠距離からの支援砲撃を阻止すべく。

ジュンは自らの射程内に常に相手を捉え、張り付くようにネモⅢを相手取っていた。

 

 一方、ジュンと対峙しているエルドはと言えば。

「やりにくい!いい腕をしてる!」

愚痴をこぼしながら相手を賞賛していた。

(これではカークの支援は無理か)

そう判断して気持ちを切り替え、目の前の敵機を落とすべく意識を切り替える。

だが、反撃の隙が見当たらない。

「単機で弾幕形成とは恐れいる!」

細かく機体を動かし、何とか回避しているがこのままではジリ貧の状態。

(拡散モードで弾幕に対抗するしかないか)

捻る挙動で機体が回転。

相手を正面に捉えたその刹那。

キャノンからビームの光が広がる。

「一発の威力は落ちるが、怯んでくれれば……っ!?」

エルドの願いも空しく、拡散ビームの中を正面突破してくるザクⅢ。

「被弾覚悟の踏み込みだと!?」

ビームコーティングによる装甲を信じての突貫に、意表を突かれるエルド。

そのままザクⅢはネモⅢに衝突した。

「ぐあっ!」

激しく揺さぶられるシート。

失いかける意識を気合いで引き戻し、エルドは反射的にビームサーベルを選択。

ザクⅢもまたビーム・ランサーを選択し、斬りかかってきていた。

ぶつかるビームの刃が、コックピットの目の前で激しいスパークを起こす。

「!?」

かつてない悪寒。

次の瞬間、エルド躊躇うことなくキャノンの引き金を引いた。

狙いは定めていない。

だがその選択は正しかった。

砲身の動きを見た敵機は即座に離脱。

ザクⅢが回避機動をとったことで、発射寸前だった頭部ビーム砲があらぬ方向へ消えてゆく。

「際どかった……」

冷や汗をかきながら、仕切り直しとばかりに距離を取るエルド。

それを追うザクⅢ。

両者の銃口は互いを捉えたまま、機体の動きは激しさを増していった。

 

 ジムⅢはディフェンサーシステムの推進力でリゲルグと互角以上に張り合っていた。

「速度負けしないってのは有り難いな!」

ロング・ライフルが幾度となく放たれる。

その全てを回避しながら、追撃の手を緩めないリゲルグ。

「大したもんね!このリゲルグと張り合えるなんて!」

「お褒めの言葉ありがとうよ!」

(とはいえ、このままじゃ埒が明かない)

武器の差がある分、有利は間違いない。

しかしそれも当たればの話だ。

「ならこいつで!」

ダミーバルーン射出。

「二度も同じ手が通じるかっ!」

気を取られる気配なし。

その理由は思い当たる節があった。

「モニタのCG処理をOFFにしたのか。ならこっちだ!」

ディフェンサーシステムの肩部増加装甲先端が開く。

射出されるミサイルの束。

「ミサイル!?ええい!」

ジムⅢを追う機動から、回避の機動へ。

同時に、リゲルグ両肩のウイング・バインダーから機雷が撒かれた。

「機雷なんて仕込んであったのかよ!」

機雷群に吸い込まれるようにミサイルが突入。

どちらも盛大に爆発して消えていった。

その爆発に紛れ、リゲルグはジムⅢに接近。

「くっ!爆発が目くらましになったか!」

振りぬかれるリゲルグのビーム・ランサー。

「長物は流石に避けきれなかったか……くそっ」

切断されたロング・ライフルの銃身を見て舌打ちするカーク。

次の瞬間、リゲルグへ向かってライフルを投げつけると自身もサーベルを構えた。

「お返しよ!」

「んな!?」

リゲルグのバックパックから飛ぶミサイル。

意表を突かれたカークだったが、対処は冷静だった。

頭部バルカンにより迎撃、全て撃ち落とす。

再び爆発に紛れての接近を試みるリゲルグに対してもバルカンで迎撃。

リゲルグが持つライフルの破壊に成功する。

「まだまだあっ!」

ビームの刃で斬り結ぶ両者。

「一年戦争の頃とはホント別人だな!」

「あの頃はこれしか生きる目的が無かったからね!」

斬り結びながらの対話は続く。

「今は色々違うらしいな!」

「帰る場所を!皆が暮らしてる場所を守りたいって目的ができたのよ!けどその前に!」

軌道をスラスターでずらしてリズムを乱す。

ジムⅢはディフェンサーシステムのシールドをAMBAC肢として活用。

常にリゲルグを正面に捉え、振るわれるビーム・ランサーをサーベルで受け止める。

「私は納得いく決着が欲しい!力の限り!力尽きるくらいに戦った結果が!」

「……始めたのは俺だからな。来いよ!受け止めてやる!」

想いを叫び。全てをぶつけ。一進一退の攻防は続く。

幾度目かのぶつかり合い。

「そこおっ」

リゲルグの回し蹴りがジムⅢのサーベルを弾き飛ばす。

「もらった!!」

蹴りの勢いをそのままに一回転。

ビーム・ランサーでの薙ぎ払い。

だが。

鷲の紋章が描かれたシールドによる体当たりがリゲルグの回転を止めた。

「シールドバッシュ……っ!」

懐かしさと悔しさ、そしてわずかな納得感の混じるエリーナの声が響く。

機体同士の衝突はお互いを弾き飛ばす。

「はぁ……はぁ……手持ちの武装は予備のビームサーベルのみ、か」

「こっちも同じね……」

互いにほとんどの武器を失うところまで出し尽くした。

残った最後のサーベルを手にするも、刃はまだ出さない。

エネルギー切れは即、敗北を意味する。

((どう仕掛ける?))

そんな思いに二人が至ったその時。

アクシズが落下軌道に入ったのが両者の目に映った。

 

 

 ロンド・ベルの抵抗むなしく、アクシズは地球落下の軌道に入る。

その光景を見た者の動きが止まる。

つい先ほどまであった爆発光も、MSの動きも無く。

戦場であったはずのそこには静寂が広がっていた。

「アクシズが落ちる……って何だ?」

落下するアクシズを呆然と見ていたカークは、一機のMSが動くのを捉える。

MSはアクシズの下に張り付いてスラスターを噴射。

押し返そうとする動きを見せていた。

すぐさまそのMSの識別を確認する。

「識別はRX-93、νガンダム……アムロ大尉!?」

 

RX-93『νガンダム』

ロンド・ベル隊の中核を成すMS。

パイロットであるアムロ・レイの意見が設計に組み込まれている。

 

νガンダムの姿を見たカークは、腹を括る。

何も言わず、アクシズの元へジムⅢを向かわせた。

その間にも他の機体が続々とアクシズに取り付き、νガンダムと共に押し返そうとしている。

カークのジムⅢもまた、同様に取り付きスラスターを全力で噴射。

各種アラートが、危険信号をけたたましく響かせる。

スピーカーからはアムロの声が響いていた。

「こんなことに付き合う必要はない!」

「やってみる価値ありますぜ!」

誰かが答える。

「できるかどうかじゃないよな、こういうことは」

通信でのやり取りを聞きながら呟くカーク。

その呟きに返答する声があった。

「ま、そういうことよね」

「!?その声」

横を見れば、リゲルグの姿。

エリーナ機がカークの機体に並んで、アクシズを押していた。

「……今日はもう相手してやらんぞ」

「この状況でいう台詞がそれ?」

このままいけば二人とも機体ごと爆散するであろう状況。

そんな中で、二人は笑いあっていた。

他人から見れば、その行動に意味はなくとも。

二人にとって、いやその場のパイロットたちにとって。

その行動こそが、全ての想いを示す証であった。

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