カーク・ヴェルフィリア。
最終階級は大尉。
シャアの反乱、つまり第二次ネオ・ジオン抗争後、軍を退役。
乗機であったジムⅢもまた、現役を退いた。
同機は戦争博物館へ寄贈となる。
エリーナ・ブライア。
最終階級は中尉。
第二次ネオ・ジオン抗争後、軍を退役。
乗機であったリゲルグは、カークのジムⅢと共に戦争博物館送りとなった。
宇宙世紀0094。
サイド3、17バンチコロニー。
新たに建設された戦争博物館。
市街地から少し離れているせいか、人の声は少ない。
周囲は木々に囲まれ、葉擦れの音が心地よく響く。
そこに二人の姿があった。
あの時以来の再会となる。
「元気そうだな」
「そっちもね」
カークが目線で促し、建物の中へ。
「館長じきじきの案内とは豪勢ね」
「何言ってんだ副館長」
中には艦船の模型や、実戦で運用されたMSが並んでいる。
二人がまず足を止めたのは艦船模型の前。
エンドラ級巡洋艦『リードラ』とサラミス改級巡洋艦『フェアランゲン』。
「お互い、よくまぁ生きて帰ってきたよな」
「そうね……あの時の艦長は忘れられそうにないわ」
それぞれが、母艦へ帰還した時の情景が脳裏に浮かぶ。
アクシズが謎の発光現象を起こし、地球からの落下軌道を外れた後。
帰還したエリーナを、ニックは安堵のため息とともに出迎える。
「よく……よく生きて、帰ってきた。良かった」
エリーナの両肩に手を置き、下を向いている表情はわからない。
だが、その周囲に浮かぶ水滴が全てを物語っていた。
フェアランゲンではカミラもまた、帰還したカークらを出迎える。
ニックとは異なり、実務的な対応ではあった。
だがその表情は、彼らの出撃前とは随分変わっていた。
「長年の荷が肩から下りた気がするよ」
その意味がわからず首をひねるカークとミーナだったが、エルドは一人納得の表情だった。
誰もいない館内に二人の足音が響く。
次に足を向けたのはMSエリア。
連邦とジオンが左右に分かれて並んでいる。
一番最初に目に入る、右側のザクⅢ。
ザクⅢの正面にはネモⅢの姿があった。
「ネモⅢの拡散ビームキャノンを正面突破したって?すげえ耐久性だなザクⅢ」
「上半身があちこち焦げてるのはそのせいね」
エルドのネモⅢと死闘を繰り広げたジュンのザクⅢ。
アクシズの落下を目撃した両者もまた、戦闘を途中で停止することになった。
そしてアクシズへ向かい動き出したMSの中に僚機を見つける。
「おい待てカーク!何をする気だ!」
「嬢ちゃん!?何やってんだ!」
通信で呼びかけるも届かず、両者はその場で立ち尽くす。
アクシズの状況的に、カークとエリーナの生還が絶望的だと悟る二人。
「こんな……こんな終わり方ってあるかよ……?」
ジュンの悲壮な声がコックピットに響く。
だが。
「あの光は何だ?」
「MSが弾かれてる?」
アクシズから引きはがされるように弾き飛ばされるMS。
それを見た二人がとる行動は同じだった。
全力でスラスターを吹かしてアクシズの元へ。
「「いた!」」
推進剤が尽き、漂うに任せるリゲルグとジムⅢの姿がそこにあった。
空調のきいた館内をゆっくりと進む。
次に見えてくるのはギラ・ドーガ。
その正面に立っているのはネロである。
「アッシュグレーのギラ・ドーガ。ほとんど無傷かよ」
「そっちのはネロだっけ?あまり見かけない機体よね」
高速機動で翻弄しながら一撃離脱を繰り返すネロ。
巧みに回避し続けながら、的確に反撃を繰り出すギラ・ドーガ。
ネロが一方的に攻撃を仕掛けている状況が続く。
しかし機体の傷はネロにばかり増えていた。
「本っ当に腹立つ!」
苛立ったミーナが吼える。
「いやこっちの台詞なんですが」
加速力で負けている以上、先手は常に相手側。
主導権を握れない戦いに神経を削られているバルもまた、忸怩たる思いを抱いていた。
そんな中、強制的に戦闘を中断させられるアクシズ・ショックが発生。
カークとエリーナがアクシズへ取り付くのを見て、しばし呆然とする二人。
ではあったのだが。
「何やってんのよ、と言いたいけど……らしいっちゃらしいか。そっちは?」
「思い切りの良さが持ち味の子ですから……」
「本当は自分も行きたいって感じね」
「……」
残してきた家族を思えば、自殺行為とわかっている行動はできない。
内心でバルの葛藤は続いていた。
そんな時、アクシズが光に包まれる。
「何よこれ?……え?隊長?」
「MSが弾き飛ばされてる。あの光のせいか?」
隊長たちを追いかけ、二人も機体をアクシズへ。
「エルド隊長!カーク!」
「隊長!エリーナ!」
その姿を見つけたバルは安堵の声を内心で漏らす。
(良かった……失わずに済んだ)
推進剤の尽きたリゲルグをザクⅢが。
ジムⅢをネモⅢが。
それぞれ牽引して向かってくるのが見えた二人は、歓喜の声を上げたのだった。
二人の足音が止まる。
音の無い空間で、両者が見上げるのはそれぞれの愛機。
一年戦争から戦い続けた、お互いの相棒である。
「んで、決着はこれでよかったのか?」
「ええ。貴方だってそう思ってるんでしょ?」
「まぁな。守るべきものを守れた。それでいい」
サイド3や地球に住む住民の命を守り。
最後は、お互いの意地と誇り、そして命を守れた。
「私もよ。一年戦争で、デラーズ紛争で、グリプスで。守り切れなかったものはある。けど」
「けど?」
「全力を出し切った。出し尽くせた」
互いに全ての武器を使い切るところまで。
それはこれ以上ない納得いく答えだった。
「何のために戦うのか。最初は復讐みたいなものだったけど」
「相手が個人でなきゃ八つ当たりにしかならんからなぁ」
「そうなのよね。でもその八つ当たりを何度も受け止めてくれた人がいた」
エリーナの目線がカークを向く。
気付いたカークは苦い顔だ。
「……すっげえ苦労したんだからな」
「当然でしょ?私を相手したんだから」
エリーナの挑発的な笑みに苦笑する。
そして、自分を最後まで守ってくれた盾へ目を向ける。
最後の出撃時に装備していたディフェンサーユニットは大破し放棄することになった。
しかし、ジムシールドは健在だったのである。
「ビームコーティングだなんだと手入れはしてたが、よくもまぁここまで耐えたもんだ」
自身を守り、機体を守り、部隊を守り、最後には地球を守る手助けをした。
彼はそんな盾に感謝をしつつ、一時の平穏を迎えた世界で生きる。
かつての仲間たちと、敵だった相手と共に。
それは奇跡と言えるだろう。
アクシズ・ショックという大きな奇跡の、その横で。
一年戦争から続く激戦を駆け抜け、生き延びたそれこそが、もう一つの奇跡である。
「結果的に私も守ってもらったようなものね、この『鷲盾』に」
「その呼び方、ホントに使ってたんだな……」
二人が見つめる盾の一点。
そこには、鷲の紋章が光を反射し輝いていた。
<完>
<あとがき>
宇宙世紀の歴史小説。
一言でいえば私が求めていたのはそういうものです。
公式で言うなら『クライマックスU.C.』ですね。
機体を改修しながら乗り続けるという要素は『クロスボーン・ガンダム』シリーズ。
ではそれらを合わせた、宇宙世紀前半の物語は無いか?
それがこの作品の出発点でした。
最初はジムだけでしたが、袖付きにリゲルグいたんならジムの対極にゲルググいてもいいよね。
そんな流れでダブル主人公に。
リゲルグのままで終わらせるか、ヴェルテクス化するかは悩みましたが、あれはキマイラ隊のもの。
勝手に持ち出すのは違うかな、と判断して見送りになりました。
なんだかんだで、落ち着くべき位置に着地はできたと思ってます。
需要のほどはわかりませんが、私と同じようなものを求めている方がおられたなら。
楽しんでいただけたのであれば幸いです。