機動戦士ガンダム 因果巡合   作:霞 志輝

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第七話:終わらぬ戦い(後編)

 ルナツー近辺の宙域で、第二十二独立警戒部隊がその敵影を掴んだ。

「敵MSと思われる熱源接近。数は9」

「小隊規模でなく中隊規模か……。機種は特定可能か?」

「ミノフスキー粒子が濃いためそこまでは」

例の機体は混じっているのか。

出たとこ勝負となる事に不安はあるが、やるしかない。

エルドは腹を括った。

「承知した。MS隊を出す」

「お気をつけて。発進どうぞ!」

サラミスのハッチが開く。

「カーク・ヴェルフィリア。ジム。出撃します」

「やっぱりカタパルト射出の機構が欲しいわね……」

「いいから早く出ろ」

エルドに急かされ、画面越しに笑って誤魔化すミーナ。

「ミーナ・ラックスマン、ジム・コマンド・ライトアーマー出ます」

「エルド・ワース、ジムキャノン出る」

ハッチの外で合流し、隊列を組む。

周囲を見れば同じように僚艦からも出撃の光が見えた。

「こちらも9機。あちらも9機。増えないで欲しいもんだ」

様々な不安を抱きつつエルドは敵機迎撃のため機体を加速。

一年戦争以来、およそ3年ぶりとなる部隊同士での激突が始まろうとしていた。

 

 

「連邦機の出撃を確認。以降は打合せ通りに。各隊、武運を祈る」

手短に他部隊への通信を終わらせるニック。

「さて、3年ぶりの再会だな」

「エリーナ。好きに切り込め。俺たちがサポートする」

「……ありがとう」

二人の優しさに感謝する。

父のように見守ってくれるニック。

兄のように気安く相手してくれるバル。

一年戦争の決着に囚われるエリーナが、心を壊さずにいられたのは彼らのおかげだった。

やがて、因縁の相手が目に映る。

「シールドに鷲のパーソナルマーク……見つけた!」

高機動型となったゲルググ。

その速度は以前の比ではない。

 

「速い!?」

予想外の速さで近づくゲルググに驚くカークだが、操縦は乱れない。

機体をひねり射撃を回避。

そのまま突っ込んできた相手は通りすぎ、直線的な動きでターン。

再度接近してくる敵機に記憶が反応した。

「この機動……まさかア・バオア・クーで会ったあのゲルググか?」

「そのようだ。灰色のザクもいるぞ」

エルドの通信で確信する。

相手はあの時の学徒兵であると。

「何でまだこんなとこにいるんだよ、学生が!」

戦争が終われば親元に帰るだろう、そう考えていたカーク。

しかし彼は知らない。

エリーナが両親を既に喪っていることを。

 

「あの時と同じにはさせない!」

操縦桿を握る手に力が入る。

帰るべき場所も無く、身寄りも無く。

生きる目的も連邦への復讐。

それを手加減の上で無理やり終わらされた。

「このままで終われるものかあっ!」

仲間を失い、生きる目的も奪われる。

そんな結末では納得できない。

勝つにせよ負けるにせよ。

手加減抜きの真剣勝負の結果を求める。

生きる目的は、連邦への復讐からカークとの決着へと変わっていた。

 

「相変わらず無茶な機動。速さはあの時とは比較にならない。私でもついてけないわよあんなの」

隙を伺いつつ牽制射撃を行うミーナ。

だが、有効なものとは言い難かった。

「それに、何なのこの灰色は!速くはないけど的確にこっちの邪魔をして!」

援護しづらい理由はバルの存在である。

無駄撃ちも、無駄な動きもない。

圧力のようなものは感じずとも、不気味な存在感を放っていた。

更に。

「危ないっ!?」

少しでも意識を外せば容赦なく飛んでくる狙撃。

「これじゃ、あの時みたいに情けをかけるのはもう無理よ。わかってるんでしょうねカーク」

「……わかっている、つもりです」

絞り出すような声が通信機から届く。

「割り切れとは言わない。けどできなきゃ死ぬのは貴方よ」

躊躇いは死に直結するのが戦場である。

「後悔はあとでするから後悔なの。だから撃つ時は迷うな」

「はい」

迷いはまだあるのだろう。

だが何かを決めた声での返事に、ひとまずミーナは納得した。

「隊長の方はどうです?」

「支援ポジションは確保した。が、こいつは……」

敵の陣容を確認したエルドは、納得とともにその厄介さに舌を巻く。

「遊撃1、援護1、狙撃1。何とも似たようなチーム編成になったもんだな!」

自分に向かって放たれた狙撃を盾で防ぐ。

エルドが砲撃で応戦するも、そこにニックはもうおらず。

狙撃機と砲撃機の違いが如実に表れていた。

「こうなると、機動性で劣る分キャノンでは厳しいか……」

高機動で展開される戦闘についていけず、苦慮するエルド。

それでも砲撃の手は緩めず、支援に徹する。

「焦るな。好機はあるはずだ」

冷静でいるよう自分に言い聞かせ、支援砲撃の手は緩めずにその機会を待つのだった。

 

 エリーナのゲルググはその高機動をフルに活かし、カークのジムに肉薄する。

しかし。

「機動力で勝っているのに、なんで当てられない!?」

エリーナの行動を先読みで回避し続けるジム。

「射撃じゃラチがあかない……なら!」

焦れたエリーナは勝負に出た。

シールドバッシュである。

あの時のお返しとばかりに、シールドを構えて突撃をかけた。

「受ける側に回ってみなさいよ!」

高機動型バックパックの推進力をフルに活かし、その巨大な盾を突き出しながら質量兵器と化したゲルググ。

「シールドバッシュ!?」

かつて自分がやった無茶な戦法を、より圧倒的な速度で返される。

驚きとともに、やはり相手はあの学徒兵なのだと再度確信するカーク。

激しい衝撃にシートベルトが食い込む。

警告音が耳朶を打つ。

肺から押し出された空気を求め、呼吸が乱れる。

悲鳴を上げる機体と身体。

しかしエリーナはそれらを無視し、次の攻撃へ移った。

「崩れた体制では避けられないでしょう!」

ゲルググがビームナギナタを振りかぶる。

「まずい!」

かつて、同じように危機に陥った際。

カークは何も考えることができず、無我夢中で動いたら終わっていた。

だが今は自ら選んで、バルカンのトリガを引き絞る。

「メインカメラを潰せば!」

トタン屋根に受ける雷雨のような激しい音と振動がエリーナを襲う。

「きゃあっ」

メインカメラを損傷したゲルググは攻撃の態勢を崩す。

それでも振りぬかれたナギナタはカーク機の両足を斬り飛ばした。

「映像切り替え!サブカメラ……きた!」

だが、その切り替えを待つ一瞬。

エリーナ機は動きを止めてしまっていたのだ。

動きを止めたゲルググ。

追撃の好機ではあったが、カークのジムも満足に動けない。

「くっ機体の向きを変える事すら困難になるのか」

四肢を動かし機体を制御するAMBACシステム。

その四肢のうち両足が無いのは致命的であった。

「カーク!離れろ!」

エルドの通信。

ジムキャノンがその照準をゲルググへ向けていた。

ニックのゲルググがエルド機を狙撃して止めようとする。

しかし、狙撃は防がれたシールドを破壊するに留まり。

肩部240ミリロケット砲が火を噴いた。

 

「まずい!」

エリーナが動きを止めたのを見たバルは即座に動いた。

「間に合え!」

ザクの手を伸ばし、ゲルググを突き飛ばす。

と、同時に機体をひねり右肩のシールドを射線へ合わせる。

結果、ゲルググへ向かっていた砲撃はザクの右半身へ直撃した。

被弾箇所の装甲は引き裂かれ、火花を散らしながら右腕ごと吹き飛ぶ。

コックピット内でも小規模ながら爆発は発生。

けたたましいアラートと共に爆風が襲い掛かる。

「ぐあっ」

即死でこそなかったが、バルは血を吐きながら意識を手放した。

ようやく映ったサブカメラに映ったのは、被弾したバルのザクⅡF2型。

「嘘……バル!?返事を!」

返ってこない返事が、あの日マーカーが消えた戦術モニタをフラッシュバックさせる。

取り乱しそうになるエリーナ。

だがニックからの通信が彼女の正気を引き留めた。

「エリーナ!バルの機体を引っ張って退却しろ!生体反応はまだある!」

「!!……了解!」

唇を噛みしめながら、バルの機体を連れて撤退する。

バルとほぼ同時に動いていたニックは、二人の状況を見て撤退を決断。

指示を出した後は撤退を援護すべくビームライフルをマシンガンモードに切り替え、弾幕を張る。

「あちらさんも撤退判断か。……正直助かる」

 

 

 サラミスへと戻ったカークは、両足を失った愛機を見上げていた。

「あと一歩踏み込みが深ければコックピットごと斬られてたか……」

「バルカンの判断は正しかったな」

エルドが肩を叩きつつ慰める。

「成長してるってことね」

ジャブローでの戦闘を比較対象に持ち出すミーナ。

「あの時は無我夢中でしたからね」

「もし次に出会っても、もう大丈夫?」

「ええ。今日は戸惑いましたが、次は迷いません」

執着されているのは、今回の戦いで理解した。

ならば次もあると考えるべきだ。

相手が年少であれ何であれ。

戦いに身を置くならば覚悟しなければならない。

討つことも、討たれることも。

覚悟を決めたその表情にエルドは安堵する。

兵士として、戦士として。

一人前になったのだな、と。

 

 

 バルは母艦で治療を受けたことで一命はとりとめた。

しかし、依然として意識不明の状態が続いている。

「私が……あんな被弾しなきゃ」

「自分を責めるな。戦場ではままあることだ」

自分をかばい被弾したのを気に病むエリーナ。

ニックの慰めも耳に届かない。

「……この艦はこのままサイド3へ向かう。バルはどっちにしろ入院が必要だ」

「はい」

「お前は……まだ戦う、か?」

半ば確信しながら問いかける。

「はい……皆がそれを望まないのは、理解してるんですが」

「理解と納得は別物だ」

無理に心を抑えつけても壊れるだけ。

戦場での死の恐怖を無理やり抑えつけ、壊れた兵士を見てきたニックは経験則でそれを知っていた。

自責の念に囚われた今の彼女を、無理やり戦いから引き離すのは得策とは言えない。

危ない精神状態ではあるが、生きる目的として『倒すべき敵』の存在を消すべきではないと判断。

エリーナの意志を尊重する形で、ニックは受け入れた。

「バルのことはジュンに任せる、そうしたらアクシズへ向かう」

「アクシズ、ですか?」

「ああ。戦い続けることを選ぶならそこしかあるまい」

エリーナ・ブライア、この時十七歳。

彼女の戦争はまだ、終わらない。

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