機動戦士ガンダム 因果巡合   作:霞 志輝

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◆グリプス戦役
第八話:RGM-79R


「それにしても、ばっさりいかれたなぁ」

両脚を失った愛機を眺めつつ、何度目かになる同じ感想をカークは呟いた。

「ま、確かに危ないところではあったな」

「隊長の援護で命拾いしました。改めて、ありがとうございます」

声をかけてきたエルドへ頭を下げる。

「でも両脚失うだけであんなに身動き取れなくなるものなのね」

「AMBACの感覚が違い過ぎて戸惑いました」

慣れれば動けなくはない。

言外にそう意図を込めて答えるカーク。

その意味を理解したミーナは肩をすくめることで返した。

「修理はルナツーに戻ってからだが、乗り換え検討もありか?」

「いえ、近代化改修計画の一環に使われそうすよ」

カークが答えるより先に言葉を発したのは整備担当のオックス。

「マグネット・コーティングに慣れるだけでも苦労したのに、またなのか……」

「逆すよ。その経験があるからこそ。すね」

「そういうのはテストパイロットでやってくれ」

「ジャブローでの先行量産機って時点で半分テストパイロットみたいなもんでしょ」

そう言われてしまえばぐうの音も出ず。

渋面を作るカークの周囲には笑い声が響くのだった。

 

 

 宇宙世紀0083年、12月。

オックスの予想は当たったが、少し方向性は違った。

カークのジムだけでなくエルド達のチーム全体が近代化改修を受ける対象となったからだ。

「いいんですか?ルナツー離れて」

「デラーズ・フリートの鎮圧も終わり、臨戦態勢が解除されてる今だからこそ、だろうな」

エルドが簡潔に状況を説明する。

宇宙世紀0083年10月から始まった、いわゆるデラーズ紛争は12月を待たずに鎮圧された。

「鎮圧したといっても、随分と手ひどくやられてますけどね」

「観艦式は核で無茶苦茶にされ、コロニーは北米に落とされ……2か月足らずで随分な被害ね」

「ま、終わったことだ。後のことは上の人間に任せるしかないさ。さて移動準備だ」

開発が行われるのは連邦軍本部、ジャブロー。

つまり地球。

ルナツーの警戒部隊に所属する彼らが地球へ移動するタイミングとしては、紛争が終結し平穏となった今が好機であった。

だが改修の完了と同時に、再び宇宙へ上がることになる。

「降りろと言ったり上がれと言ったり、忙しないわねえ」

「そもそも我々の任務は宇宙での警戒任務だからな。宇宙で使えなければ意味がない」

「オックス。その辺どうなんだ?」

「各部の強化はそれぞれ問題ないっす。ただソフトがまだ微調整必要っすね」

宇宙での動きは、当然ながら宇宙でしか確認はできない。

コンピュータにより疑似的に宇宙空間での動きを想定した開発はしているが、最後は現地での試験が必要になる。

「ミーナ中尉は軽量化してますし、エルド大尉はキャノン乗っけたままですし」

「ソフト調整不要そうなのは俺の機体くらいか」

「何言ってんすか。機体はともかくカーク少尉も運動性に偏った操縦するでしょうに」

一部の例外を除くが、一年戦争時は時間の制約上、機体にパイロットが合わせる形となった。

しかし平時においては、機体とパイロットを繋ぐソフトの調整が可能となる。

オーダーメイド、とまではいかないがパターンオーダーくらいにはできるのだ。

かくして第二十二警戒部隊はその本来の任務に加えて、近代化改修機体の実地試験を兼ねることになった。

 

 

 宇宙世紀0084年、7月。

宇宙へ上がり、調整と警戒任務を続けていた第二十二独立警戒部隊。

定期的な警戒任務を終えてルナツーへ帰投したある日のこと。

「第二十二独立警戒部隊のMS小隊というのは君たちか?」

その特徴的な黒服は彼らが何者かを如実に表していた。

(ティターンズが俺たちに何の用なんだ?)

「実は、模擬戦の相手を探していてな。よければ協力願いたい」

「模擬戦ですか」

聞けば、新型機のテスト相手になれということらしい。

 

RMS-106『ハイザック』

ザクの見た目とコンセプトを受け継いで連邦軍が開発した機体。

中身はジオンと連邦のハイブリッドという技術実験的な機体でもある。

ティターンズへ優先的に配備されていた。

 

 模擬戦の申し入れはエルドにより受理。

「新型機を相手にどれほどやれるか。お互いに得るものはあるからな」

「確かハイザックって言ったっけ。何でザク?」

「連邦がザクを使うことでスペースノイドの心を折る、て目的らしいです」

そううまくいくかしら、と懐疑的なミーナ。

「見た目はともかく中身は最新型だ。性能では負けていると考えた方がいい」

エルドの言葉にカークはふと疑問を抱く。

(……あれ?それっていつも通りなんじゃ?)

カークの疑問をよそに、模擬戦はすでに始まろうとしている。

通信はオープン。

これまでのジムでは拾えなかったであろう距離。

ジャブローで強化されたセンサーが、ティターンズ部隊のこちらを嘲る声を拾えてしまった。

「あんなロートル機体で相手になるのかよ?」

「仕方あるまい。手ごろな部隊がこいつらしか居なかったんだ」

(……まぁ、確かに見た目はほぼ変わってないからなぁ)

明らかに不機嫌となったミーナの表情を見なかったことにしつつ。

エルドのハンドサインで通信を味方機のみに切り替える。

「何様なのあいつら」

「エリート様だ。不愉快なのは同意だが」

「ま、お手並み拝見ですね」

かくして、模擬戦は開始された。

 

「速い。……だけじゃないな」

軽やかに散開するハイザックを見て呟くカーク。

「高機動化してたあのゲルググ並みね。ならまぁ、やりようはあるわよ!」

ミーナ機のスラスターが輝き、見る間に彼我の距離を詰める。

「なら牽制は散弾だ。右方向にばら撒く!当たるなよ?」

「誰に言ってんですか!」

ジムキャノンが散弾で牽制。

右側は一旦思考から除外。

上から接近警報。

「フォロー入ります!」

そちらはカークが受け持った。

「構えるのが遅いのよ!」

ハイザックが構えたマシンガンを蹴り飛ばす。

そのままライフルを斉射。

しかし。

「あの状況から躱した!?さすがは新型……けど!」

ミーナのジムが、増設された腕部と脚部のスラスターを噴射。

強引に慣性軌道を曲げ、離脱を試みた敵機に追随。

焦りからであろう、中途半端な機動を見せるハイザック。

「エリート様だか何だか知らないけど」

速度を落とすことなく突貫。

「経験不足じゃ、新兵と変わんないわよ!」

ビームサーベルの一撃を突き入れた。

 

 散弾で牽制の後、エルドは右手の敵へ詰め寄る。

ハイザックの武装では有効打撃とならない距離でも、ジムキャノンの砲撃ならば届く。

散弾ならば盾を構えれば致命傷にならない。

そう判断した相手もまた、エルドへ向かって詰めてきている。

「散弾だけではないぞ」

砲弾のマガジンを取り替え、炸裂弾頭へ切り替えたキャノン砲を放つ。

盾を破壊した判定。

だが撃墜には至らず。

しかし盾の破壊判定に戸惑いを見せた相手は一瞬の隙を見せた。

「そこで止まるから狙い撃たれる」

教官が教え諭すかのように呟きつつ。

エルドはビームライフルでハイザックを撃ち抜いた。

 

 機動力はこちらより上。

推力は上がっているにもかかわらず、だ。

Gによりシートに押し付けられつつ全速で追うが、それでも引き離される。

不意にハイザックが横へスライドした。

「このGがかかった状態で!?馬鹿な!」

中のパイロットにかかる負担を想像して、不可能だと声を上げる。

その時、戦闘前に聞いていたハイザックの情報を思い出す。

(そういやオックスがコックピット構造が違うとか言ってたな)

全天周モニター搭載のリニア・シート。

パイロットへかかるGを軽減し、なおかつ視界も360度見渡せる新機構。

「なるほど。機動性だけでなく操縦性もあちらが上か!」

減速したところを狙い撃たれるが、予測の範囲。

AMBACでの姿勢制御による機体をひねる回避運動により被弾判定なし。

「確かに強い。けど対処できないほどじゃない」

射線から敵機の方向を判断。

正面左斜め下。

迷うことなくペダルを踏み込む。

「何より、あのゲルググほどの圧力は無い!」

接近しつつライフルを撃つ。

しかし。

「……とはいえ流石に当てるのも難しいか」

反撃はハイザックを掠めるが、直撃を避けるあたりは流石ティターンズであった。

 

 戦闘機動の最中、ティターンズの隊長はため息をつく。

模擬戦開始前に相手を侮る発言をしていた部下は、あっけなく撃墜された。

「エリートといっても、しょせん新兵は新兵か。……とはいえ」

周囲を見渡し、敵機と自分の位置関係を再確認。

操縦桿を握りなおし、ペダルを目いっぱいに踏み込む。

「ティターンズがこの程度の集まりだと思われるのも業腹だ!」

対峙するカークのジムへ突貫。

「こいつは回避が上手い。なら」

視線はカークのジム……ではなく、その向こうにいたミーナのジム。

「この突貫に回避を選択。なら道は拓ける!」

回避する相手を無視してそのまま直進。

そこへ左側面からの危険を知らせるアラームが響く。

(当然、支援砲撃はこちらに向く。だがキャノンの位置は把握済みだ)

予測済みだったキャノンの攻撃を、最小限のスラスター使用で回避。

(キャノンの難点は速射性と機動力。一発回避できればそれでいい)

左方向へ迂回の軌道をとるミーナ機に合わせ追随する。

かと思えば突如上方向へ軌道を急激に変えた。

全天周モニターからはその動きがスラスター光とともに全部見えている。

「トリッキーな動きだが、それを踏まえて動けば!」

ロックオンのマーカーがジムを捉えたままスライド。

撃墜を確信してトリガを押し込んだ。

しかし。

「何だと!?」

そこに割り込んだのは、鷲の紋章だった。

「こいつら……しぶとい!」

 

 結局、どちらも決め手を欠いたまま模擬戦は終了。

「良い動きをしていた。さすが一年戦争からのベテランは違う」

ティターンズの隊長はそういって握手を求めてきた。

「俺もまだまだだと痛感した」

自嘲気味ではあったが、表情は晴れ晴れとしていた。

「まだまだ、ですか」

途中から彼は一人で三人を相手にしていたのだ。

それも劣勢になることなく、互角を保ったまま。

十分では?そう言外に含めたカークの言葉に、ティターンズの隊長は首を振りながら答えた。

「エースというのは撃墜王だ。相手を墜とせなければエースとは呼べん」

その発言にカークは感心すると同時に、ティターンズであることの大変さを垣間見た。

(ティターンズに在籍するというのも存外大変なんだな)

 

 

 少し時は流れ、宇宙世紀0085年、7月。

ティターンズは徐々にその権勢を増し、専横が目立つようになり始める。

比例するように、地球連邦に対しての反感も日々高まりつつあった。

「サイド1で大規模な反地球連邦デモ、か」

カークは電子端末のニュースを見てため息をつく。

「俺たちが地球に降りてる間に、随分とものものしい話になっているな」

「代わりってわけでもないんでしょうけど、ティターンズが鎮圧に出るって話ね」

休憩室のソファでドリンクを飲みながらミーナもため息をつく。

「ティターンズが……」

ティターンズが苛烈な取り締まりを行うという話は周知の事実。

これでまたスペースノイドの反感は高まるだろう。

(彼女がいれば、当然戦うことになるんだろうな。ティターンズと)

思い出すのは、一年戦争、デラーズ紛争と二度に渡って戦ったゲルググの姿。

迷いなく突っ込んでくるその圧力は忘れられるものではなかった。

と、同時に。

仲間を失い取り乱していた少女の慟哭もまた、耳に残っている。

(あの子の戦いは、どうやったら終わるのだろうか)

既に手加減などできる相手ではない。

出会えば撃たねばならないのは百も承知だったが、そうならない事を願わずにはいられなかった。

 

 

 昨年に一度、近代化改修を受けたカークのジム。

だが、ティターンズとの模擬戦でパイロットへかかる負担の大きさを痛感。

カークだけでなくミーナも同様の所感を述べており、その報告は技術部へ伝えられた。

その結果。

再度の近代化改修が行われることとなり、再びジャブローへと降りてきている。

整備兵たちの作業音が響く格納庫で、カークは愛機の横に鎮座する大きな球体を眺め回していた。

「……なぁ。オックス。あんなでかいの、本当に入るのか?」

「元々の設計だと、脱出機構としてコアブロックが入ってましたからね。スペース的には問題ありませんよ」

「いや、確かに試作機のRX-78はそうだったはずだが」

「RGMはその設計からコアブロック抜いて別のもの詰めただけなんで、差し替えればいいんすよ」

「コックピットを詰め物みたいに……ま、周囲全部が見えるのは視界が開けて良さそうだ」

「視界だけじゃないっすよ。シートの衝撃吸収力が大幅に上がってます」

「より複雑なGがかかっても大丈夫ってわけか」

複雑なG。

それは縦横無尽な機動と同義。

ハイザックの高機動、それを超える速さで動く影を思い浮かべる。

「同様の技術は、他でも開発とか採用とかされてたりするんかね?」

「他……ああ、アナハイム。技術はあるはずっす」

アナハイムが持っているなら、ジオン残党にも伝わっているだろう。

そう結論づけたカークは、あのゲルググが更に高速化・高機動化することを予感した。

「ロールアウトから6年……近代化改修でどこまで動けるようになるやら」

「先行で改修された機体のフィードバックも行われます。最新鋭とはいきませんが信頼性は保障しますよ」

「不安要素は、操縦感覚が変わることだな」

「その辺は慣れてもらうしか。幸いなことにデータはありますからシミュレーターで感覚は掴めますよ」

「全天周タイプになってるのか?」

「はい。そこはもう対応済っす。今からでも使用できますよ」

「ならまたシミュレーター生活に戻るとするか」

 

 シミュレーターには先客がいた。

黒い制服が目に入り、即座に敬礼の姿勢をとる。

カークの敬礼に満足そうに頷いた黒服はゆっくりその場を立ち去った。

(ティターンズか。最近横暴さが目立つようになったと聞くが……)

模擬戦でやりあった相手には新兵も混ざっていたが、それでもエリートである。

ベテランはまごうこと無きエースだった。

首を振って雑念を振り払い、座席につく。

「同じエース級でも、俺の相手はいつもの彼だ」

仮想敵:RX-78。

パイロットはアムロ・レイ。

瞬殺されたあの時から、本人も機体も経験を積み重ねた。

今度のジムⅡなら。

そんな淡い期待を心のどこかに抱きつつ訓練開始。

結果。

「……3分24秒」

「耐えれるようにはなったわねえ」

ミーナの言葉に、格納庫へ戻ったカークは渋面のままうなだれた。

時間こそ伸びたが、今回も完封負けである。

「テスト中の新装備とか試してみます?」

「それシミュレーションにデータ入ってる?」

「テスト中なんでまだっすね」

「じゃあ意味ないじゃん。……あ、でも実機には積んどいて」

「全天周の感じはどうだ?」

「そちらは良かったです。相手の位置や自分の向きが把握しやすいんですよ」

機体の追従性も上々。

あとは自分がどれだけ機体を操り切れるか。

脳裏に浮かぶ仮想敵と相対しながら、整備中の愛機を見上げた。

 

RGM-79R『ジムⅡ』

一年戦争の量産機、ジムに近代化改修を施した機体。

ジェネレーターの強化などが先行して行われ、後にリニア・シートも導入。

調達が容易であることに加え、その信頼性から大量の改修・新規生産が行われた。

 

カークはこの機体と共に、グリプス戦役を戦うことになる。

そこで逢う、因縁のゲルググとも。

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