鈴ノ風(X:@seserizawa)さまに感謝いたします
「なんだこれ、虫か?」
ノブナガは親指の腹ほどの大きさのものを指で摘んだ。
「ああ、奴はその中から出られない。間違っても壊すなよ」
「私もそれの記憶を読んだわ。
「はぁ……、ちょこまかとウザい奴だと思っていたが、まさか本当に虫とはな」
「ノブナガは戦ってないでしょ」
「うるせぇ」
マチとノブナガのじゃれ合いを無視してクロロは思案する。
ノブナガに手渡したそれはうねうねともがいているが、少し力むだけで潰れてしまうような非力さだ。
彼はこの生物の名前に検討が付いていたが、大きさは通常のそれとは明らかに違う。
しかし、
「パク。こいつらを調べろ。早急にだ」
クロロの目線の先には腕を縛られたゴンとキルア。
彼は用心していた。
仮説の裏付けを取るまで
「聞くことはすでに決めてある。奴に
時計の長針が12を指そうとしていた。
◇
「……ちっせえ」
珍しく大通りに出たとき、オレはガキみたいに店前に飾られた世界地図を見つめていた。
「オイ、うす汚ぇガキが
商売のジャマだ!」
ぼうっとしすぎたのか、雑貨屋の店主だろう男が石を投げつけてきた。
この街じゃ親に連れられていない子供はスリ予備軍だ。
世知辛いねえ、と石を避けて逃げる。
「ウチのケツモチはマフィアだ!
次妙なマネを見せたらお前の腕をちょん切ってやるからな!」
「ご主人様にうかがわなきゃスラムのガキひとり相手にできねえのかーァ!?」
「テメエ! 戻ってこい!」
商売のジャマなんじゃねえの?
そう頭の中でつっこんだときにはスラムに通じる路地裏に戻っていた。
表通りの奴が裏で生きている奴の逃げ足にかなうはずもない。
負ける奴は死んでいるからな、ガハハ。
「しっかし、やっぱハンタ世界だったか」
見慣れた道を歩きながら一人ごちる。
先ほどの世界地図に目を奪われたのは、それがどうみても
この世界に生まれ落ちて早6年ほど。
よくある発展途上国のスラムに産まれ、自由に歩けるようになった頃には親もおっ
スラム産まれに頼れる親戚がいるわけもなく、晴れて天涯孤独の身の上である。
日本が恋しいと嘆きながら日々の飢えを凌いでいると、ゴミ箱のチラシや死体の
いわゆるハンター文字、と前世で呼ばれていた文字である。
オレは前世でそれなりにハンタ(=ハンターハンター)を嗜んでおり、
ハンター文字と先ほど見た世界地図、メビウス湖内にある小島の集まりを見てこの世界がハンタのそれと確信に至ったわけである。
この確信に至った今、オレの心には今までにないほどの活力が湧いている。
今までただ死なないために生きていた。
前世のオレの
一度目の生から持ち越したものは、クソほど高い生活満足度の水準と、もう二度と死ぬのは御免だ、という強い恐怖だけだった。
そんな呪いは、たった今裏返った。
ゴンやキルア達といった面白い奴らが世界で繰り広げる生の
そして、世界の外。
それを見るまでは死ねない。死なないままでもいられない。
生きているのと死んでいないのは違う。
生きるとは活きること。心が発する言葉に耳を傾けることだ。
オレの心は言っている。
この
そこに自分が立ち会っていたいと。
であれば、目的は一つである。
「暗黒大陸か……遠いな」
許可、手段、資格、契約。
いずれも手に入れてみせよう。
死なないこと。生きること。
この世界で、世界の外でこの両方を達成するのは難しい。
だけどオレはやってみせる。
100%勝つ気で
◇
人肉、特に脳を食べるとプリオン病というものにかかり死に至る。
タンパク質が変質し脳を壊す不治の病となるそうだ。
そのことを経験から知っているのか、単に風習か、常に飢えてるスラムの人間でも人肉はあまり常食しない。
しかし、毎日誰かがのたれ死んでいる中でこれに手をつけなきゃ飢えは凌げない。
死体をあさるのにも順番があり、オレに残るのは大体金品、見ぐるみをはがされた丸裸の腐りかけだけだからだ。
そこで、オレは考えた。
6歳のガキにでも運べるよう死体の一部を切り取ってアジトに持ち帰る。
そこに湧いているウジを焼いて食べるのだ。
ウジであればネズミの方がマシと考える奴もいるだろうし実際いたが、そういうガキは死んだ。
ネズミは多数の病原菌を持つ上、捕まえる際に反撃される恐れがある。
げっ歯類の牙に噛まれた奴は大抵熱を出して下痢を垂れ流して死ぬ。
その点、ウジはいい。病原菌を持つのは変わらないが発生源が明確で、なにより反撃してこない。
十分焼けば殺菌できる上に昆虫は栄養も豊富だ。
オレはこれのおかげで日々ご飯一杯ほどの満足感を得ている。
スラムの中に野犬がいないのも僥倖だった。全員の命にかかわるから必死で追い出してるんだろうな。
因みにオレの真似をしていた奴は死んだ。
ヤク漬けの死体から湧いたウジを食べて死ぬまでラリってたそうだ。
あとは鉛やガラスを扱うことを生業にしていた奴とか、そういうのは避けた方がいい。
「ま、そんなことよりハンタの話だな」
日課の死体あさりをこなしてアジトのバラックに帰ってきた夜。
お椀にこんもりと盛ったウジを食べながら、オレはあるものを耳に近づけた。
『──ザッ──から世界のニュースをお届けします────』
「ふむ……」
これはポケットラジオを修理したものだ。
このスラムは都市部に隣接していることもあり、使えなくなった電子機器は比較的手に入りやすい。
単純な構造のものを修理して高値で売ることを生業とする奴もいるからあさるのも一苦労だがな。
余談だが、オレも修理はできるがこれを生業にしようとは思わない。
殴られて盗られるのがオチだからネ。
子供がレモネードを売れるのは治安がいい地域だけなんだ。
ラジオでオレがなにをしようとしているかというと、今が原作のどの時系列にあるか確定させることだ。
オレが見たいのは暗黒大陸編の続きで繰り広げられる物語だ。
それに至るまでどの程度時間があるのか、もしくはないのかを知りたい。
原作の200年前とかだとだいぶ苦労するだろうからな。
今が暗黒大陸編より遠い未来だとは考えていない。
先ほど見た世界地図に暗黒大陸らしき大陸が描かれてなかったからだ。
暗黒大陸とは、ハンターハンター選挙編にて初出の単語である。
ジャンプ読者向けにざっくり言うと、トリコのグルメ界のような、人間世界の外にある、人間世界がちっぽけな小島に思えるほど広大で危険な大陸だ。
グルメ界と違う点は、その存在が世間一般に秘匿されていることだろう。
ゆえに、その存在が世界地図に載っていないことは当たり前なのだが、その状況を覆す事態が原作中で起きた。
彼らカキン帝国側とV5(人間世界における五大陸の同盟)の交渉の結果、暗黒大陸は比較的安全な他より少し大きい程度の大陸として世間に公表された。
そこより未来であるなら、店頭に出すような目玉商品の世界地図には「暗黒大陸」が載って然るべきということだ。
ゆえに、オレが主に確認したい情報は重要度順で並べられる。
入手のしやすさは前後するだろうが、上の情報ほど欲しい。
①ナスビ=ホイコーロによる「暗黒大陸」進出の宣言がないか
→暗黒大陸編が直近に迫っていないかを測る
②ハンター協会の会長がネテロであるか
→12代会長アイザック=ネテロの就任より後か(=原作開始より大昔でないか)を測る
③電脳ページ(インターネット)の普及度合い
→クロロと同年代か(=原作開始の十数年前か)を測る
④ハンター試験の実施回数
なぜ最も指針としやすい④が最も下かというと、ぶっちゃけ覚えてないからだ。
大体200回代か700回代かのどっちかだった気がする。
ハンター協会会長が12代も続いているから後者の方が確度が高いか? ネテロもえらい長寿だし。
ハンター試験という形式がいつ頃から始まったのか明確ではないのもつらい。
ハンターハンターは好きだし考察も好きだったけど、念能力やキャラクターの考察を主としていたからそれ以外の細かい数値は覚えてない。
ネテロが何代目かを覚えていたのが奇跡なほどだ。
世界史の授業とか苦手だったんだよな……、歴史は好きだけど年号を全く覚える気になれなかった。
あとはトンパの年齢とかもあるが、それはハンター試験を受けられるようにならなきゃ分からない。
ラジオから得られる情報はこれくらいだろう。
とりあえず、オレはこれらの情報を集めながら、今が原作開始よりおよそ数年から数十年前だと仮定して動く。
あらゆる残酷な想定をしておかないといけないが、これがベストな行動だろう。
もしも①で
どれだけの誓約があれば本物の暗黒大陸に同行できるようになれるか想像もつかない。
さて、方針が決まれば準備である。いわゆる修行パートだ。
といっても、行うのは
それにオレは思うのだ。
プロハンターと違って裏ハンター試験も受けられないわけだし。
ゆえにまずは
行うのは瞑想であり、
ただ、あくまで目的は精神修行。早く
結果的に無意識に放っていたオーラに気づくくらいがちょうどいいだろう。
さっそく座禅を組み、息を深く吐く。
元日本人としてはこの姿勢がちょうどいい。
深く、深く、心をひとつに──。
────。
◇
最強の
多くのハンタ読者が一度は浮かべた疑問だろう。
ハンターハンターという作品において
特に六つの系統からなる
多くの観点から議論されるそれであるが、すべての議論で前提として当人がどのような系統に適しているかというものがある。
念能力者は
この取捨選択の幅が実に絶妙で、これこそが読者を惹きつけるひとつの大きな要素なのだ。
まあ、特質系という全ての系統に適した上で特殊な
つまりなにかというと。
「具現化系かあ……」
最強の念能力を思いついてもそれが己の適性に合っているかは別の話ということだ。
あれから3年。目の前の水の入ったコップには煤のような黒い粉末が沈んでいった。
オーラを自覚するまで2年と10ヶ月。
急いだつもりはないが、ゴンやキルアと比較するとどうしても見劣りしてしまう。
まず
スラム街という環境で精神を統一しようとしても、どうしても周囲への警戒心というのが拭えない。
オレの中では死なないと生きるという二つの
安全な寝床を確保してからは1ヶ月ほどで自らのオーラを自覚したのだが、才能の指針にはならなそうだ。
ちなみに、現在の時系列はおおよそ把握できた。
電脳ページの前身となる軍用技術が数年後に民間に公開されるらしい。
オレが今9歳ほどなので、クロロの発言と合わせると彼らより少し歳上になるだろう。
こちらについては余裕を持って実力と経験を積むのにほとんどベストな状況だ。
あと普通に暦もあり、今は1979年だ。いつだよ。
しかし、具現化系なんてな。
オーラに実体を持たせることができるがかなりピーキーな系統だ。
系統として特質系と隣り合っているが特質系は使えず、強化系とも離れているため肉弾戦も不得手。
放出系とは最も離れているので具現化したものを遠くに飛ばすことも難しい。
原作の強い能力もくせが強いものが多く、どうしても状況に合わせるより型にはめることに長けている印象になる。
できれば放出系か特質系がよかったなあ。
別におおざっぱでもカリスマ性があるわけでもないけど。
オレにとっての最強の能力は放出系にこそあるんだよ。こと暗黒大陸に行くにあたってはな。
特質系ならなおよし。特質系が強すぎるだけであるが。
「はあ………………。ま、なんとかなるか」
頭を切り替えよう。
ハンターに必要なのは都合がいいもしもにこだわることじゃない。
それに、具現化系なら
そう頬を叩いていると、ノックもなしに扉が開いた。
「入るぞ」
「ヘイ。アニキ、なに用で?」
「ボスがお呼びだ。遊んでないで役員室に行け」
「ウッス」
オレは宛がわれた物置部屋を出て、同じ中層ビルの中にある事務所の役員室へ向かう。
扉をノックし許可が下りた後に部屋に入ると、重厚な執務机の向こうで革張りの回転椅子に深々と座る中年の男がいた。
「オウ、坊。まあこっちきいや」
「ウッス」
呼びかけがあった後にはじめて扉から机を回って男の前まで近づく。
序列を分かっていることを示し、相手が寛容さを見せる機会を与える礼儀のようなものだ。
背丈があれば机の前の方がいいんだが、子供だからネ。
「そんな堅苦しゅうのうてええんだがのう。のう坊、ここに来て何年経った?」
「3ヶ月です」
「まだそんだけか。赤ん坊ころから見とる気になってたわ!」
男はそう笑い、手に持っていた葉巻をくわえなおす。
オレは今、この男をボスと呼び、そのもとでギャングの下働きをしている。
ここはスラム隣の都市部を仕切るギャングの下部組織にあたるグループだ。
オレがここに身をよせた喫緊の理由としては、修行ができる安全な寝床を確保するためであった。
このグループは都市部に居を構えており、スラムと違って格段に治安がいい。
組織の内情や拾われる兄貴分の性格や序列は事前に調べていたため、身内から下手にちょっかいを出されることもなく、数日も経てば修行には最適な環境が整った。
あと、普通の飯が食えるのがいい。本当にいい。
また、もう一つ、考察からくる大きな理由がある。
原作を読んでいた際、ハンターに対して思ったことはないだろうか。
こいつらなんで銃を持たないんだ、と。
ハンター試験編やヨークシン編を読んでいる段階では、そういう世界観、パワーバランスなんだなと納得していた。
しかし、
受けるのに工夫が必要で、口径が上がれば強化系でも無傷ではないほどである。
となれば、ハンターが念能力の補助として火器を持たないのは不自然だ。
生前にもいくつかの考察は見かけたが、この世界で初めて気づいたことがある。
この世界では、おそらく正規の方法で銃を持つことが生前の日本並みに難しいということだ。
都市部にガンショップはなく、スラムですらギャングの構成員以外に銃を持つものはいなかった。
こんな貧富の差が極端な社会においてすら、である。
全世界の戸籍や生体情報を管理できるような世界だ。
銃の世界的な流通経路ですら、ある程度統制できるのだろう。
この世界で銃を持つ方法を大別すると、軍や警察に所属するか、政府と関わりのあるような裏家業の内側に属するの二つになる。
あとは傭兵になるとかか。
ま、スラムのガキには裏家業以外に選択肢はないわけだな。
オレは念能力をどのような構成にするとしても、サブの火力として銃を使うつもりでいる。
火力・射程ともに下手な
暗黒大陸の生物相手に効くとは考えていないから、ほんとにサブだけどな。
つまり、オレが今ここにいるのは
当然、ここは仮宿に過ぎない。
「どや、坊。ゴミ収集車ついてくんは慣れたか」
「ウッス、いいトレーニングになってます」
「そかそか。坊は素直でわきまえてるところがええ。
兄貴とちごうところでつこうて悪いけど、こっちも大事な仕事や。かんにんな」
そういって再び一服した男は、思いついた素振りで口を開いた。
「そうや。お前ん兄貴から聞いたで。最近水う眺める変な遊びばっかしとるいうて。
けったいや。子供はもっと子供らしい遊びをせえ」
「ウス」
「ん。それでええ」
水見式を気味悪がられたか。
あれは発の修行にもなるわけだが、系統もわかったしやめてしまっても問題はない。
当たり前だが、系統別の修行は外でした方がいいな。
「素直な坊には褒美やったる。なんか欲しいもんあるか?」
「……それじゃあ」
系統もわかったし都合がいいな。
具現化系なんだ。これから数年、下手したら十数年かけて作る
「水槽と、ルーペをください」
本日21時に二話を投稿します
初回なので二回行動です