考察を書くという制約で小説を書いてます
オレの部屋にはアクアリウムがある。
コケの茂った陸地と淡水の水辺でできた小さな世界だ。
目につく生き物としてメダカと小エビがいて、ポンプが水を循環させている。
この5年間、オレの
ところで、いつか最強の
ナニカもたしかに強いがそうではなくて、最強の念能力を考えるには系統が念頭に入る、というものだった。
今回はそれをオレの系統に合わせて論じる。
具現化系の最強の念能力についてオレは明確な答えを持っている。
そう、ポットクリンである。
ここからは前置きだが長く論じるので、理由が不要な場合は区切り文字まで読み飛ばして欲しい。
ポットクリン、ナックルの
こいつはナックルに能力で貸し付けられたオーラの利息を教えてくれる役割を持つ。
ちなみに、借りたオーラを返せず破産した相手に取り憑くトリタテンもいる。こいつも最強だ。
ポットクリンには攻撃力が皆無な代わりに誰にも害せないという特性がある。
ナックルいわく「無害ゆえに無敵」。
この特性こそ、オレがポットクリンを最強に推す理由である。
こと火力という点において、念能力は代替可能である。
武を極めたアイザック=ネテロ。彼がたどり着いた
そのメルエムを瀕死に追いやり、復活を遂げた後も最期には葬ったのは、
つまり、念の最高峰より爆弾の方が強いということだ。
人ひとりの生命エネルギーと安価でも国家規模の予算が必要な爆弾であれば自然な成り行きだろう。
オレはこの時点で、
別の観点として、
その筆頭として挙げられるのがポットクリンのような防御力。いや、あえて訂正するのであれば、無敵性である。
ポットクリンは先に挙げたメルエムのオーラによる攻撃を受けても傷一つ受けず、オーラ相応の遠方へと吹き飛ばされることもなかった。
ゴンの攻撃もユピーの攻撃も、少なくとも原作の描写では攻撃を受けてからの再生ではなく、全くの無傷である。
メルエムの火力はその圧倒的なオーラ量と、攻撃を加える前の食事による成長から、戯れであっても
そのことから、ポットクリンの無敵性そのものが物理的攻撃に対して上限のある仮初のものだと疑う必要性も少ない。
代替可能な上限のある火力と比べて
オレはポットクリン、およびポットクリンが持つ無敵性こそが、具現化系における最強の
ここでひとつ疑問が残る。
ポットクリンの無敵性はなぜ成り立っているか? ということだ。
クラピカの師匠イズナビは言った。「絶対に千切れない鎖は具現化できない」と。
人間の能力を超えた神がかったものは具現化系を極めても具現化できない。
しかし、ナックルは具現化を極めていない段階でポットクリンを具現化できた。
この一見矛盾した状態を解消し、ポットクリンから無敵性を抽出するための仮定を立てる。
ひとつの素直な仮定として、「無害ゆえに無敵」をそのまま採用する。
ここでいう無害とはなにか。作中描写から考えると、無害というのは相手に対して無能という意味ではない。
モントゥトゥユピーはポットクリンを認識した際は正体不明なそれに明らかに思考のリソースをある程度奪われていた。
ナックルの「少し目障りだがな」という言葉から見ても、これは無害の範疇であると考えられる。
ここから導ける弱い仮定として「攻撃能力がなければ無害」というものがある。
これは言外に「攻撃能力がなければ相手にも干渉できる」という意味を含んでいる。
この弱い仮定を補強する材料として、
ノブナガは衛兵を無敵型と表現しており、ここではその性質がポットクリンに通じる無敵性であることを前提とする。
ポットクリンを盾にできるか、という議論は昔から見解が分かれる点であったが、
これは一見、弱い仮定の言外の含意を肯定しているように思える。
しかし、思い出して欲しい。
現在の弱い仮定はそのまま「絶対に千切れない鎖」とほぼ同義なのだ。
これは作中の描写と矛盾し、成り立たないことが分かる。
弱い仮定から抜けている要素とはなにか。
それは、「能力の発動・解除条件」と「能力のアフォーダンス」にある。
まず、能力の発動・解除条件について。
これらの事例から、無敵性を持つには一定の発動・解除条件が必要であることは自明だろう。
これだけでは能力と具現化物の関係性を示せておらず、無敵性を持つ具現化物が存在する理由にはならないが、重要な要素である。
そして、能力のアフォーダンスについて。
アフォーダンスとは認知心理学において環境が人物に行動を想起させる関係性を指す。
閉まった扉を見て人間が扉を開けるものだと知覚したとき、扉は人間に対して開けるという行動をアフォードした、ということになる。
ポットクリンは頭のカウンターで相手に対して利息の大きさを教える。
これによって、対峙した相手は能力の状況や、解除・発動させない条件を推測できるようになる。
このことは、これらの具現化物は相手との間に「能力を解除・発動させない」という行為をアフォードするといえる*2。
具現化物はその無敵性で能力の無効化を不可能にする存在ではなく、無敵性をもって能力を無効化する行為を示す存在なのである。
二つの要素と弱い仮定をまとめた強い仮定は、「能力についての、特に発動の阻止や解除のためのアフォーダンスを持ち、攻撃能力がなければ無害」となる。
ここで注意して欲しい点は、相手がアフォーダンスを正しく知覚しているかは関係がないということである。
ゴンやユピー、メルエムはポットクリンに対して、攻撃することで能力を解除するという間違った行為を試している。
この場合もポットクリンは無敵性を失っていない。能力を解除する(=利息を返済する)ための潜在的なアフォーダンスを持ち続けているためである。
また、常に相手に見えている必要もない。
これはユピーへの
現状強い仮定を否定する材料は作中に明示されておらず、強い仮定を満たす具現化物には同様の傾向が見られる(チードゥの砂時計にも当てはまっている)。
ゆえに強い仮定に当てはまる念獣は無害であることに包括されており、無敵性を適用するための十分条件であると推測できる。
発動・解除条件の厳しさ、アフォーダンスの強さは無敵性の適用範囲や
これこそが「無害ゆえに無敵」の正体だとオレは確信している!
ちなみに、同じように無敵性を持つように見える
無敵となった対象は時間経過によって三分の一のダメージを受けるため、正確には攻撃の減衰と遅延と考える方が自然だ。
これはオレの求める無敵性ではない。
◇
さて、話を戻そう。
肉眼では変わり映えのないこの水槽にルーペをかざし、目にオーラを集めて
すると水槽の中にある生物が見えてくる。
実を言うと、アクアリウム内の環境はコイツのために全てを整えていた。
それは、前世の地球にも存在し、世界のあらゆる環境に生息する微小生物。
0.1-1mmほどの小さな体躯だが、この生き物の能力は計り知れない。
クマムシは乾燥すると
乾眠中のクマムシは150℃ほどの高温、絶対零度に近い-273℃ほどの極低温、0気圧の真空状態、深海よりはるかに高い75,000気圧、数千グレイの放射線や宇宙空間にすら耐え、通常状態に復活することができることがわかっている。
体内の特殊な糖類やタンパク質によってこのような変質が起きるのだが、いくら調べても生命の神秘を感じさせてくれる。
オレはクマムシを具現化し、能力の起点にする。
かつ、その念獣に無敵性を筆頭とした具現化系の概念をこれでもかと組み込むつもりだ。
コンセプトは「具現化系四次元マンション」である。
そう。ノヴさんの四次元マンションだ。
具現化系に絞らず全系統でいえば、オレが最も欲しい
いやだって凄くないかあの能力?
広い念空間の出入り口を広範囲にたくさん作れて? 入った出入り口からしか出られないと思ったらマスターキーがあればどの出入り口からも出られて?
ノヴの命懸けの潜入があったとはいえ、念空間というセーフティハウスを経由した上で王宮に突入できて?
オマケに
強いことしか書いてない……。
加えて、キメラアントに通じるほど(すごい)の戦闘能力もある。
これでまだ自身の能力を極め切ってないんですよ、ノヴさんは。
恐ろしい話だ。
オレが暗黒大陸を目指すにあたり、自身に欲しかったのは「安全に、万全な状態で物資・人員を運ぶ能力」であった。
当たり前だが暗黒大陸へ一人で行くつもりなんて毛頭ない。
そもそもの目的は物語の続きを見ることだし、一人で一分一秒もいられるほど暗黒大陸が生易しい場所とは考えていないからだ。
強く聡い仲間を集めようと思うのは必然だろう。
その中でオレの存在意義を最も発揮する方法は、死なないという信念を仲間へと拡張することだと考えた。
自分も死なず、仲間も死なせず、仲間と目的地を目指す。
兵站こそオレの生きる道である。
それに最も近い四次元マンションを軸に能力を調整しようと考えていたのだが、
オレとノヴさんで二人分になりたかった……!
ただ、具現化系であることは幸いでもある。
少なくとも、「安全に」という部分については四次元マンションを超える能力を思い付いているからだ。
ここで、オレが今思い描く能力、
【
クマムシ型の念獣、
この念獣は人ひとりほどが収まる、収納物の状態を維持する個別の念空間を内部に作る。
能力者が念空間より小さな対象と念獣に同時に直接触れることで、対象を念獣に収納できる。
念獣は乾燥すると乾眠状態になり、乾眠状態の念獣はなにもできないが、無敵性を持つ。
乾眠状態のときに湿らせると通常状態に戻る。
念獣が破壊・死亡したとき念獣はオーラとして霧散し、収納物は念空間から排出される。
制約:
・念獣の破壊・死亡なしに収納物は念空間から出られない。
・念獣は1度に雌雄1匹ずつまでしか具現化できず、3匹以上に念獣を増やす場合は念獣同士を繁殖させる必要がある。
・念獣は能力者から10メートル以上離れると死亡する。
・通常状態の念獣を維持するためには自身のオーラによる定期的な給餌が必須である。
・通常状態の念獣には寿命がある。これは実在のクマムシと同程度である。
・意識のある対象は、本人の合意がなければ収納できない。
誓約:
なし。
ざっくりいうと、念空間の入り口となる微生物を作る能力だ。
対象を収納し、乾いている間は無敵になり、通常時に破壊することで対象を取り出せる。
可変的な無敵型、というよりは、無敵型の条件による可変だ。もしかしたら
極小の使い捨てモンスターボールのようなものと考えていい。
放出系と対極にある具現化系はオーラを切り離し、遠隔で操作することが極端に不得手だ。
四次元マンションの遠距離移動や瞬間移動のような挙動を無理に再現しようとしたら、いくら才能があってもカストロさんみたいに決定的な綻びが出てくるか、使い物にならない
そこで発想を転換し、移動中に対象の安全性を極限まで高める方向にシフトした。
ワープ+セーフハウスからポケモントレーナーにジョブチェンジした形だ。
収納、排出ができる携帯物という部分は
カード化の原理はこの能力と違う*4だろうが、ジンがゲームの仕様として汎用化するほどに使い勝手のいい能力だと感銘を受けた。
あとは梟の
この能力の良いところは無敵性を確保しながら、その看破が難しい点にある。
クマムシという見た目は少し知識があれば乾眠という無敵性と水という弱点を容易に
暗黒大陸の巨大な生物であればなおさら見つからないだろう。
不足する自衛能力については、人間相手なら収納した火器を取り出して使えば良い。
暗黒大陸では
マンチ気味だが、服に織り込んだら雨の日以外無敵の防護服もできるかもしれない。
念獣を盾に使っても、能力を解除できなくなるわけではないからな。
念獣、念空間、無敵型という具現化系の特色を織り込んだ能力なため、
少しでも
まずは操作能力。
オレはこの念獣に対する命令を一切行えない。乾眠状態と通常状態への移行や対象の収納も全て能力のルールに沿って干渉する形になる。
移動能力もただのクマムシ程度を想定しているので、持たせても意味がないというのもある。
これで浮かせたり移動を速くしたらNARUTOの
次に遠隔での維持。
操作能力がない分重要性も薄まるが、これも外す。
ヒンリギの牡蠣のように受け渡したりどこかに配置できることでオレ自身が
10メートルというのはヒソカの
オーラの分離ではなく距離を制約にしたのは、オレ自身が
異次元にある念空間からオーラを繋ぐというのはあまりイメージがつかない。
「念空間を内部に作る」という表現も、その場合のオレの座標を確定させるためのものだ。
それでも怖いのが複数の念空間を作るという、原作では未知の概念だ。
オレ自身の才覚次第では望むような効果を得られなかったり、想定外の無茶な制約、誓約が付きかねない。
そのせいでクラピカの強制
そこで、能力の調整弁として給餌と繁殖という制約を追加した。
これは念獣の維持と増殖のためのコストにかかわる要素であるが、オレはそこにあえて遊びを持たせる。
制約と誓約とは心への誓いである。
厳しい
ゆえにあえて
給餌と繁殖の制約によって、自分の身の丈にあった数の
最悪、3匹以上になってくれたらやりようはあるしな。
寿命はその安全弁を有効に作用させるための補助的な要素だ。
まあ、まだまだオレは修行の身だ。
念能力者とはそれだけで超人なのだ。
少なくとも自身の実力に納得できるまでは、じっくり
念獣の状態の切り替えを早める方法も欲しいしな。
「待つさ、いくらでもな」
言ってみたいだけのビヨンドの語録を口ずさみながらルーペをかかげた。
このアクアリウムとルーペにはイメージ修行とその偽装工作の意味がある。
ルーペで水槽の中(のクマムシ)を観察したり、水槽を叩いて(クマムシの)反応を見たり、水を(クマムシと一緒に)飲んでみたり。
オレが仮に有名になったときにも、ここのギャングへの聞き込みからオレの能力を当てることはそうできないというわけだ。
「また水槽か」
「アニキ」
すると、オレの兄貴分である男がノックもせず部屋に入ってきた。
無駄を嫌うこの男が来たということは、なにか用事だろうか。
「今日の仕事は俺について来い。車を準備しておけ」
「ウッス」
部屋を出て車をガレージからビルの前に移動させると、すぐに男もビルから出てくる。
男を助手席に乗せ、本日の仕事場らしいゴミ処理施設へと車を走らせた。
静かな車内で視界を通り過ぎる影が見えた。
緩やかに行っていた
まだ
「射撃はどうだ」
「ハイ、最近はハンドガンで25メートルを練習してます」
「そうか。筋がいいな」
珍しく兄貴分の男が車内で話しかけてくるので素直に答える。
身体が出来てきてからは彼らに頼み込み射撃場で銃を触るようになった。
ハンドガンは念能力者には効きづらいので、素の腕力で30メートル先の移動標的に当てられたら十分だろう。
それが終わればアサルトライフルや狙撃銃、マシンガンなど、一通りは触れるようにするつもりだ。
「歳はいくつになった」
「14です」
「そうか……、人を殺したことは?」
「まだですね」
「
「ウッス」
吹き出すように笑う男を見て訝しむ。今日は本当に珍しい日だな。
しかし、もう14か。
オレが欲しているのは銃火器を扱える裏社会のコネクションなので、見た目で舐められない歳になったら
そこである程度恩を売ったら、オレとの繋がりこそをエサに銃火器の購入経路とフリーハンドで行動できる立場を得る。
組織のバックを受けながら
今の自分の成長を見るに、そう遠くない話だろう。
「着いたな、そこに止めてくれ」
「ウッス」
屋内の駐車スペースに車を止めて兄貴分の男の側のドアを開ける。
ここは借宿の組織が持つゴミ処理施設だ。
無料ゴミ箱のようなスラムの近くにあるこの施設は、主に都市部のゴミや廃品を回収し、焼却する。
なんでもここの焼却炉は性能が高く、灰も残らないと評判だそうだ。
そのため、上部組織から
「お前、拳銃は持ってきたか」
「ハイ」
「そうか、ならいい」
そうして兄貴分の男に案内された先には、下にビニールシートが敷かれた椅子の上で手足を縛られた女がいた。
「…………だれ……?」
「上から依頼があった。ある日、組織の
ずさんな管理体制のせいだろう。侵入者はただの一般人だったそうだ」
男はなんでもないように、目線はオレから離すことなく語り続ける。
「許してください……、私はなにも知らないんです……」
「スラムの貧困層ならその場で処分できたが、難儀なことに彼女は元々都市部の中流層でな。
職をなくしたがスラムに移ることを良しとせず、飢えた幼い息子を食わせるために盗みを働こうとしたそうだ。
ゆえに本当に近づいては行けない場所も分からずに、ただの倉庫だと思い侵入した」
泣き叫ぶのも疲れたのだろう。女は掠れた声で懇願するだけだった。
「お前は知らないだろうが、都市部の人間というのはスラムと違い血縁や人間関係による追跡可能な結びつきが強い。
そして世の中には、そういう所から依頼を受け、なぜか手掛かりを見つけてしまうハンターという職種がある。
これがどういうことか分かるか?」
「女を辿るうちに集積場に辿り着かれる可能性があるということです」
「正解だ」
珍しく、兄貴分の男は笑った。
「よって上はこの女を跡形もなく消すためにウチの処理場を使いたいという訳だ。
ウチでの
教育ついでに俺の仕事を手伝ってもらいたい」
男は縛られた女を指差す。
「状況説明は以上、お前はこの女を撃ち殺せ。
これが出来ればいずれ抗争にも出してやる。名を上げるチャンスだぞ」
……なんとまあ、呆れるほど丁寧なOJTだ。
鉄火場に出す前に人殺しに慣れさせようという魂胆だろう。
説明責任もしっかり果たすために、普段からは考えられないほど長話を続けた。
相当期待されているんだな、オレは。
視線を前にやると、木のウロのように暗くなった瞳と目が合った。
女はオレの見た目の若さに一瞬期待するかのように目を見開き、オレの顔に焦点を合わせるとまた目を狭め、口を開いた。
「お願いします……、息子は……殺さないで下さい……」
これはもう諦めたな、と思い、オレは拳銃のスライドを弾いて薬室に弾を込めた。
借宿にギャングを選んだ時点で、こういう事態は予想していた。
表の仕事が廃品処理な時点で分かりきった話である。
状況説明を受けて心の底から納得したくらいだ。
オレだって
そして、オレはオレ以外を殺すのに、なんの感情も湧かない。
「……息子は……」
「じゃあな」
拳銃を構え照準を絞り、人差し指を引き金にかけ──。
(──!?)
しかし、オレの指はそこから一ミリも動かなかった。
なぜと疑問符が頭に浮かぶ。
外部の影響? いや、この指の硬直はオレ自身が起こしている。
半強制の操作系? んなはずがない。ここらで念能力者はオレ一人だ。
この女に同情したか? であれば、ここまで躊躇なく構えることはないだろう。
つまりオレは殺人、それも自ら行う殺人に強い忌避感を感じている?
思考が加速し、記憶を遡る。
体に現れるほどの行動原理である。その正体は必ず推察できる。
(──なんてこった)
推察は一点に絞られた。そう、
オレが
この二つを釣り合わせることで、心を一つにして意志を高めた。
死なないとは重く、そして強い思いだ。命をつなげばそれでいい。
では生きるとはなんだったか。オレはそれを活きると置いた。
生きる上で立てた目標。この
ここにひとつの綻びがある。
オレはこの世界を物語と見ている。
物語とは外から語られるものであり、中で実感するものではない。
物語に泣きも笑いもするが、それはオレという自我が物語の外から俯瞰するゆえに動く感情である。
あるいはそれだけでも簡単なことだったかもしれない。
今ある自身すらも俯瞰し、物語に干渉できなくなる代わりに全てを物語られるだけの
しかし、それはもう一つの
一度死に現実のものとなった死が、オレがこの世界に存在しているという実感を与えているのだ。
ゆえに、オレは己という
それを解消するために
物語に干渉するという
狂言回しという概念が分かりやすいかもしれない。観客に向けて物語を分かりやすく説明する進行役。
もちろんオレは観客なんて見ることはできない。
だが、オレは自身をオレという読者のためのメタ的なものと位置付けたのだ。
この内なる読者こそ、
死の
オレという読者はオレの干渉により、物語の続きが読めなくなることを忌避している。
干渉が許容できなくなる限界値が、己が経験したことのある死という
死の
つまり、この硬直は感傷ではなく実在する死への恐怖。
この指を引いたあとに自らが必ず下すであろう自らへの誓約。
そこから導き出せる答え。
──オレは
「いかれてやがる……」
そう、思わず口から溢れてしまう。
まさかゲンスルーの語録を自分に対して言うとは思わなかった。
分かりやすくまとめると、
誰かを殺しちゃうとかえって自死を選んじゃうくらい自分が特別だと思っているってわけ。
そりゃこの女を殺すことに対してなんの感情も湧かないわけだ、物語に登場しないモブだもんな。
前世の一般日本人からどんなに倫理観マヒしてんだって確かに思ったもん。
でもデッドプールだってモブ一杯殺してんじゃん! なんでオレはダメなんだよ!
ああ、原作への過度の干渉って曖昧な境界を、オレ自身が死んでイメージしやすくなった殺人行為というラインで固めたのね。
アホか!
決してガンギマリいかれ人間を作ろうってもんじゃねえんだわ!
「おい、どうした」
脳内で自分にツッコミを入れていると、誰かがオレに声をかけてきた。
誰だこいつ。ああ、オレの兄貴分の男ね。
「ぼうっと固まって、明らかに普段のお前じゃないぞ」
「すんません、殺せません」
「……初めてだからな。仕方ない。あとは俺が代わろう」
「あ、無理です。生かします」
「あ?」
「今敏感になってて……。
モブがモブを殺してて、余裕で助けられるのに助けないって、もしかしたら見殺しってことで殺すに含まれるかもなんですよ」
「……なに言ってやがる?」
なに言ってるんでしょうね。
でもこれがマジならオレがヤバいんだ。
「調整できたら直接的な殺人くらいまで緩められそうなんです。マジで調整する時間をください」
「意味わかんねえが、今コイツを
「ですよねー、ハハっ……」
乾いた笑いを浮かべながら、兄貴分の男と椅子に縛られた女の間に立つ。
男もそれに合わせるように懐の拳銃を抜いて構えていた。
「……本当におかしくなりやがったか」
「いや、ほんとに。おかしいっすよね、
「俺はお前のような
「童貞? いいっすねそれ……」
「は?」
「名前っすよ、名前。
そういやオレ、アンタの名前も自分の名前すら覚えてなかった」
ここには5年以上もいたのに馬鹿な話だ。
オレ自身、まだ
かえって童貞。
絶対に人を殺せなくなったオレを端的に表したいい言葉じゃねえか。
童貞……、いややっぱそのままじゃやだな。
童帝、マンモーニ、道程……!
「よし、決めたぜ、オレの名前」
「◽️◽️、キチガイのまま死にたいか」
「前から思ってたけどよお、なに言ってんのか全然聞き取れねえんだよッ!」
兄貴分の男は躊躇なく発砲したが、オレはそれを避けずにまっすぐ突っ込む。
「
男に身をよじる暇も与えず近寄り、拳を構える。
思えばこいつやボスの男には世話になった。
転生者の念能力者という爆弾を知らず知らないうちに抱えてもらっていたのだ。
こんな状況にならなければこれからもお世話になっていたほど、オレにとっては都合のいい人らだったのだ。
ゆえにあるのは怒りではなく感謝の
そうして、オレは男の顔面に向けて不可避の拳を振り抜いた。
「クソお世話になりましたァ!!!」
「ガアッッ!!」
兄貴分だった男は体を浮かせて後ろに吹っ飛んでいく。
立ち上がらないところを見るに、ちゃんと気絶してくれたらしい。
……うん、
当てるとき拳に
もしかしたら
頼むから死んでくれるなよ!
「……ん?」
すると、軽く握っていた拳の中に違和感があった。中でモゾモゾと動いているような感覚。
手を開いて中を見てみると、先ほど見えていた幻覚が、親指ほどの大きさで形を成していた。
「発現してるし……。全部の計画がパーじゃねえか……」
なんか思ったよりデカいし。
なにもかも上手くいってない。心の声に耳を傾けつづけた結果がこれか。泣いてもいい?
「仲間探しもあれだな、原作キャラしか無理だな……。モブだと絶対名前覚えらんねえし」
「あの……」
うなだれているオレに話しかける声がする。
後ろを振り返ると、椅子に縛られたままの女性が困惑した顔で口を開閉していた。
そういえばいたな。ショックが大きすぎて忘れていた。
……この人置いて行ったらヤバいんだろうな。
「あー、マダム。
とりあえず、この街のギャングの手の届かないところまで連れていくぜ。
世界で一番安全な逃走手段ができてしまってな」
「……! 息子をっ! 小さい息子がまだアパートにいるんです!」
「ああ、そっちも連れ出してくるとも。ちょうど二人分ある」
「ありがとうございます……!」
非能力者とはいえ能力の起点がバレるわけにもいかないし、気絶させて入れるか。
いい機会だと割り切ろう。人も殺せないのならこういうことを生業にしてコネクションを築けばいい。
そう考えながら女を縛る縄をほどいていく。
「あの」
「ああ、なんだ」
「なんとお呼びすれば……」
そう聞かれて、オレはたった今思いついた名前を思い浮かべる。
うん、いい。でもちょっと物足りないな。かといって苗字もない。
せっかくだし、今から行う事業の名前でも付けようか。
「逃がし屋のミチノリ、そう名乗らせていただこう」
オレはハッキリと、
【
書いていることが強すぎる!これは最強だな!
次回よりバトル!明日18時に投稿!
でかい感想、いい評価、うまいお気に入り、ここすき、しおり、うす汚ぇ考察バンバン待っています!
推薦もぜひ!
考察については割となんでも受け付けています
ポジティブなものはもちろん、「これ成り立つのかな?」みたいなものも欲しいです!
ただ、独自解釈が多めなのと、割とファジーなので「あ、成り立ちませんね笑」となってもプロット上そのまま進めると思います……!
高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応します!
他の感想への言及はハーメルン規約的にNGなのでご了承ください
ルールを守って楽しく考察!