最強はポットクリン(別題:その無敵性を絞り上げる)   作:淵岳 月夫

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本編前の前後編です


第286期ハンター試験①

(世界のハンター志望が集まる試験、ちょっと拍子抜けかも♧)

 

 豆のような人間から300番台のプレートを受け取りながら、ヒソカは内心落胆していた。

 目を()らして周りを見渡しても玩具(おもちゃ)が見つからなかったからである。

 

 ハンター試験。

 年に一度開催される、プロハンターになることができる唯一の試験である。

 プロハンターにはあまたの特権が与えられ、その(ライセンス)は売ると人生を7回遊んで暮らせるだけの金額になるという。

 また、ハンターの獲物は動植物以外にも多岐に渡り、その保護や秩序を守る高い専門性と信念を求められる職業でもある。

 

 しかし、ヒソカにはそんなことはどうでもいい。

 ハンター試験に合格したあと、ライセンス取得者は(ネン)を習得することになる。

 ここには未来の念能力者の卵がいるわけである。

 彼はそれを見つけ、青い果実を味見して(つばをつけて)おくことこそを初めてのハンター試験参加の目的としていた。

 ハンター証の特権など彼にとっては食玩に付いたウエハースにすぎない。

 

(まさかここまで見込みのない連中しかいないなんて♧ 不作なのかな♦)

 

 ゆえに、いまだに一人もめぼしい人間が見つからないことにヒソカは萎えていた。

 試験の開始はもうすぐなので、新しく参加者が入ってくることも望めそうにない。

 

(仕方ない、そこらの雑魚(ガラクタ)手慰み(マスベし)ながら試験官にちょっかいでもかけようか♤)

 

 そう割り切りろうとしたとき、ヒソカは思わずドーム型の試験会場の入り口に目をやった。

 静かな、されど力強い気配(オーラ)が近づくのを感じたからだ。

 

「うし、いい感じの時間に戻ってこれたな」

 

 会場に入ってきたのは、オーバーサイズのジーパンとスカジャンを着た長身の男だった。

 サッカー選手のような短いアフロをスキンフェードに刈り上げた髪型で、顔に浮かべた軽薄な笑からは絶対的な自信を感じさせる。

 片手をスカジャンのポケットに入れ、もう片方の手は短く整えられたあごヒゲを撫でる。

 そして、「1」と書かれた胸のプレートは男が最も早くにこの会場にたどり着いていたことを示していた。

 

「ん? ……ッ、アンタ!」

 

 会場を見渡していた男は突然ヒゲを触る手を止め、ある地点をビシッと指した。

 その目はヒソカ──を通り過ぎて、一人の小太りの男に向かっていた。

 

「アンタ名前は!?」

「お、オレ? ……トンパだが」

「だよな! トンパだトンパ! いやー、やっぱいるか! 年齢はいくつなんだ!?」

 

 ずんずんとトンパの前まで進んだ男は、先ほどまでの余裕の笑みを捨てて、ニコニコとしながらそうまくし立てた。

 あまりにも好意的な反応にたじろいでいたトンパだが、ごほんと咳き込み、とたんに笑顔を作って対応を始める。

 

「ハツラツでけっこう、新顔はそうじゃないとな! オレは今年で43になる。10歳から毎年試験を受けてるベテランだよ」

「43か……、なるほどね」

 

 その際、男の視線がちらりと背後──自身に向けられたことを、ヒソカが見逃すはずがなかった。

 

「ああ、すまん。自己紹介がまだだった。

 オレはミチノリ、逃がし屋をやっている。よろしく」

 

 ミチノリはそう手を差し出した。

 彼の名乗りによって、周囲のプロハンター志願者たちがにわかにざわつく。

 

「オイ、聞いたか。ミチノリって……」

「知ってるのか?」

「裏社会じゃ名の通った逃がし屋だ。依頼達成率驚異の100%、金さえあれば誰の依頼も断らないアンタッチャブル。世にいる化け物の一人さ」

「依頼者は眠らされて、いつの間にか安全な場所に着いてるとか」

「十老頭も使ったことがあるそうだ」

「噂によっちゃあのゾルディック家から逃げ切ったらしいぜ……」

 

 聞いてもいない情報がヒソカの耳へと勝手に入ってくる。

 しかし、彼はそのような表面上の話には耳も傾けず、ただただミチノリという男の所作を観察していた。

 

「ああ、よろしく」

「アンタがオレを利用する時は値引きするぜ。恨みもそこそこ買ってそうだからな」

 

 ミチノリはトンパと握手を交わすと、手を握ったままトンパの目を見つめて言う。

 

「は? なんで……」

「世の中には握手くらいじゃ注射針が刺さらない人間もいるってことさ」

 

 ミチノリは握った手を離し、トンパに手のひらを見せつけた。

 トンパの手の中には短い無痛のハンコ注射が貼り付けられていたのだ。

 トンパはバツの悪そうな顔で笑って手を隠した。

 

(バレてやがったか……! 上手いこと握手の形で隠してたのによぉ!

 一日は半身がマヒするしびれ薬だったが、もう使えねえじゃねェか!)

「ハハハ……、カンガエテオキマス」

「おう、まいど! これ名刺な!」

 

 そそくさと立ち去るトンパに名刺を投げ渡すミチノリ。

 彼らの会話が終わった後も、ヒソカはミチノリから目を離すことはない。

 

(──うん、83点♥)

 

 それはヒソカにとって望外の喜びであった。

 彼の試験での目的は将来のプロハンター、つまりは念能力者の青田買いであった。

 しかし目先にいる男のオーラを見れば、彼が熟練の念能力者であることに疑いはない。

 

(まさに真っ赤に()れた果実! 刈りどころじゃないか♥)

 

 ヒソカは身体を熱くしながら冷静な頭で観察した彼のスペックを整理する。

 

(立ち姿は素晴らしいほどなだらかな自然体(ノーマル)……、強化系にも見える♦

 だけど、面白いのが(テン)やオーバーな所作ですら利き手が見えてこないこと♥)

 

 ヒソカはヒゲを撫でる、指を指す、握手、名刺を投げる、というミチノリの動作を頭でトレースする。

 その動作はどちらの手にも偏りがなく、淀みがなかった。

 

(極端に両手のバランスを合わせようとするのは能力に威力が関係ないハメがある操作・具現化系の達人に見られる傾向♤

 ここまで来るとクセだけじゃ測れないレベルになってくる……♧)

 

 ヒソカは持ち前の観察眼で、相手のオーラや動作のクセによって能力の系統にアタリを付けることができた。

 彼が行う念能力者の性格分析もそれを使った遊びである。

 しかし、彼が本気で分析をして、系統を絞り切れない相手は久しぶりだった。

 

(なかなかハードな遊び(プレイ)になりそうだ……♥)

 

 ヒソカがそう舌なめずりをしていると、ドーム型の会場にあるステージに一人の男が現れた。

 

「ただ今をもって、受付時間を終了する。

 そしてこれより、ハンター試験を開始する!」

 

 腰に半月状のナイフを下げた、オールバックの男がハンター試験の始まりを告げた。

 

  ◇

 

『第一試験の内容はこの入り口から試験会場である地下空間を通り、ただ一つの出口に向かうことだ』

 

 試験官の男は試験開始前、ステージ上に現れた、大きな入り口を指差して言った。

 

『制限時間は6時間。地下空間には下に伸びたアリの巣状の広大な迷路が広がっていて、時間までに一人で全てを捜索し切ることはできない。

 しかし、最短ルートなら1時間弱で到達できる距離だ』

 

 その言には、1時間で到達できない者にハンターの資格はないという意味も当然含まれている。

 

『前半組と後半組でこの入り口に入るスタート時刻を分ける。

 前半組はプレート番号101番以降、試験開始直後からスタートだ。後半組はプレート番号1番から100番まで。スタートは……、残り一時間を切ってからだ』

 

 男の言葉に志願者たちの反応は大きく三つに分かれた。笑う者と憤る者、そして、真意を深く考える者。

 

『おかしいだろテメェ! なんで早く着いた俺らが損をするんだよ! 公平じゃねぇだろ!』

『公平? 片腹痛いな。ハンターをスポーツマンだと勘違いしてないか?』

『……!』

『もちろんこの試験は公平じゃない。しかし、優遇されているのがどちらかはお前たちの意識次第だ。

 この試験は足切りのために整理券を導入した。1番から100番までのナンバープレートを持っていない者は、時間内に出口にたどり着いたとしても失格とする!』

 

 このとき、志願者たちの頭に同じ思考がよぎった。

 合格の整理券を持っていない者は奪え、と。

 

『ん?──ひぇっ!』

 

 瞬間、一枚のトランプのカードが一人の受験者に向かって飛んでいった。

 カードは受験者に当たる手前で、試験官が投げた半月状のナイフによって弾かれる。

 

『もちろん、試験会場以外で他の参加者を攻撃するのは禁止だ。

 次に行ったものは失格とする』

『ハーイ♤』

 

 戻ってきたナイフを手に取った試験官は、カードの持ち主であるヒソカを睨みつけて注意した。

 ヒソカはそれにヘラヘラと返事を返す。

 

『チッ……。

 では、俺は一足先に出口まで向かう。各スタートの合図はそちらのビーンズが行う。フライングは無意味だと思え』

 

 そういって試験官は入り口に入っていく。

 ここまでが第一試験についての説明である。

 

 ヒソカは前半組、合格の整理券を持っていない状態でスタートした。

 

(これはいわゆる非対称ゲーム♤

 迷路を解いて出口を見つけ、相手を待ち伏せながらナンバープレートを奪う前半組と、ナンバープレートを守りながら前半組の誘導を元に出口を目指す後半組♦

 志願者をハンターとエモノに見立てたわけだ♧)

 

 ヒソカは第一試験の狙いをおおよそ把握していた。

 前半組に与えられた制限時間は複雑な迷路を進み、かすかな痕跡をたどって出口を見つけるために設けられたものだ。

 試験官がわざわざ迷路を通って出口に向かったのも、ほんのわずかに痕跡を残すことが目的である。

 しかし、出口を見つけても前半組は整理券がないままでは出ることができない。

 ゆえに前半組は後半組を目印などで誘導する必要がある。

 

 待ち伏せ場所は出口に近ければ近いほど、整理券を奪った後が楽になる。

 しかし、入り口から遠ざかるほど獲物は強くなる。獲物は同じように待ち伏せしていた前半組を掻い潜った強い後半組か、後半組から整理券を奪える前半組となるからだ。

 獲物が罠にかかるまでの時間や戦闘になった際の残り時間、前半組同士の潰し合いも考慮に入れながら、彼らは罠を張っていく。

 

 後半組は前半組の捜索によって分かりやすくなった、しかし、確実に罠のあるルートを進むことになる。

 これは一見後半組と釣り合わない難易度にも見えるが、後半組には彼らしか取りえない攻略法がある。

 それは、大勢で固まって最も誘導の多い道を進むこと。

 前半組と違い、後半組は既に整理券という資格を得た状態で始まる。即ち、彼らは後半組同士で衝突する必要がなく、この試験内であれば潜在的な味方であるということ。

 彼らには、それを把握して信頼関係を結ぶだけの十分な時間が与えられている。

 多くの草食動物がそうするように、群れを作り移動することで全体の安全性を引き上げることが可能なのだ。

 しかし、誘導と罠という性質上、数人の犠牲者が発生する可能性は高く、自身が犠牲にならないという保証はない。

 

 この試験は非対称であり、前半組と後半組の取る作戦と関係によってその難易度は大きく変わる。

 ハンターとはなんであるかを問う試験内容となっていた。

 

「ボクのような狩人(ハンター)がいなければ、ね♧」

 

 ヒソカはスタート直後から迷わず足を進め、今ある地点に陣取った。

 下へ伸びる迷路の最下層、アリのコロニーのようなドーム状のこの部屋は直径が30メートルほどあり、ヒソカの求めるまずまずの広さがある。

 それに、地下空間の出口に向かうまでに誰もが一度は通らなくてはいけない最後の部屋となっているのが、ヒソカにとってとても都合がいい。

 

 ヒソカは後発組のスタートまで、こちらに捜索の手を広げた前半組の参加者を十数人ほど相手しながら、待ち人を思っていた。

 しばらく虫の息の受験者の一人の上に座っていたヒソカは、ふと立ち上がりコロニーの真ん中に陣取った。

 

「オイオイ、随分熱烈なアプローチじゃねえか。血の匂いがプンプンしやがる」

 

 しばらくすると、いくつかある入り口の一つから一人の男が顔を出す。

 

「よう、待たせたか?」

「──スパイス程度には♪」

 

 男、ミチノリは待ち合わせ程度の軽いノリでヒソカに相対した。

 

「しっかしどうなんだ。そんなオーラ垂れ流しでいたら通れるやつもビビって通れねえだろ」

「いいんじゃない? ()ってる最中に今転がってるような奴らがワラワラ来られたら君も困るだろう♦」

「そうか。ま、念能力者がいるのにバトルありの一次試験にした試験官がわりいわな」

 

 ヒソカの返答に納得したのか、ミチノリは頭をかいてそうごちる。

 

「じゃあ自己紹介だな。オレはミチノリ、逃がし屋をやっている」

「ボクはヒソカ♤ 君風に言えば奇術師かな♦」

「おう、よろしく。さっそく質問なんだが、オレはどうやったらこの先に進めるんだ?」

「もちろんボクを殺せたら♪」

「わりいがそれは無理だ。不本意だが、オレは生涯童貞と誓っている」

 

 それを聞いたとき、ヒソカの周囲のオーラが軋み、ピキリと音を立てる。

 

「萎えるようなコトを言わないでくれないかい?」

 

 ヒソカはヒトを殺せない相手に対して心得がある。

 こと戦闘において不殺というのは駒落ちと言っていいほど大きな負債であり、どのように立ち回れば相手を壊せるかも自ずと見えてくるものなのだ。

 

 さらに生涯という誓約。

 生涯をかけた誓いを破ったものはなにを捧げるのか。

 命? それともヒトという形そのもの?

 

 それほどの情報をなんの殺し合い(やりとり)も交えずに与えた相手の愚行に、ヒソカは少なからず落胆していた。

 

「たしかに、なんでオレは口走った? 気持ちが昂っていたのか……」

(……後から理屈をつけるタイプね♧)

 

 すると、目の前の男は口元に手を当てて思案を始める。

 ヒソカは手元に一枚のカードを忍ばせ、次の一声を待った。

 

「そうか、誤魔化してやり合ったとして、全力でないとアンタに思われたくなかったわけだな」

「……ククっ!」

 

 なんの合理も含んでいないミチノリの返答に、ヒソカは喉を鳴らした。

 闘い(バトル)には呼吸というものがある。

 わざと見せる隙、命を天秤に乗せた攻撃。そういった手を読み切って躱されるのとただすかされるのでは同じ選択でもノり切れず、展開も歯切れが悪くなる。

 良い闘い(バトル)とは互いを輝かせるものなのだ。

 その返答は戦闘者(バトルジャンキー)としての彼ではなく、奇術師(エンターテイナー)としての彼を腹落ちさせた。

 

「たしかに、合意がない闘い(プレイ)は味気ない♦ いいよ、勝敗条件を付けよう♤」

 

 ヒソカは手の中のカードをかかげる。

 カードに目を()らすと、ごく薄いオーラが紐のように出口の方へと伸びていた。

 

「あの攻撃のときか」

「正解♤ これはボクの能力でね、試験官のナイフに付けておいたのさ♦

 このオーラは出口までちゃんと続いている♧ この目で見たから間違いないよ♦」

 

 ヒソカはスタート前の受験生に攻撃を仕掛けたとき、この迷路のおおよその攻略法を思いついていた。

 姿を現して直接ルールを説明した試験官のスタイルから、合否についても直接告げるために出口に移動すると推測。

 外から移動して抜け道を探させないためと、試験の難易度を調整するために試験官が直接迷路を進み、わずかに痕跡を残すだろうと考えた。

 ゆえに二つのカードを伸縮自在の愛(バンジーガム)のオーラで繋ぎ、一つのカードをナイフで弾かせることでマーキングをした。

 今は出口付近につけ直しているが、(イン)によって見えづらくしたオーラによって出口にたどり着けたので、試験官はオーラに気づいていないか、方法の一つとして見逃したということになる。

 

念能力者(ボクら)の気配察知は万能じゃない♧ 遠くにいる強大なオーラを察知できても、気配を()った相手や無生物にはあまり効果がないからね♦

 それこそ巨大迷路の攻略なんて、(エン)の達人でもないと短時間では難しい♧ ここから先も迷路は続く、キミにとってもこのカードは喉から手が出るほど欲しいんじゃないかい?」

「アンタが道を塞いでいたからこの先は誘導もなにもないわけだ」

「そういう事♦ シンプルでわかりやすいだろう?」

 

 ヒソカはヒラヒラとカードを見せつけ、

 

「カードを奪えばキミの勝ち、キミを殺せばボクの勝ち♥」

 

 そう、獣のように(わら)った。

 

「仕方ねえな」

 

 ミチノリは観念したように息を吐き、堪えきれないように笑みを浮かべる。

 

「慈善事業にアンタをボコして行くことにするよ」

 

  ◇

 

 始まりの合図はない。

 ヒソカは勝利条件のカードをこれみよがしにしまった。カードより伸びるオーラを()ることにより、この位置をすり変えることはできない。

 オーラを体にたぎらせ、互いに相手が臨戦状態であることを肌で感じ取っている。

 地下ながらも広いコロニーの空間を二人の放つ(プレッシャー)が満たしていった。

 

(入り口近くから離れず構えという構えもなし、しいて言えば手は握りこぶしなことくらい♦

 オーラ配分も変わりなしか……♧)

 

 対するヒソカも大きく構えず、フリーハンドで相手の出方を待つ。

 念能力者の戦いは先手優位と言えるほど単純なものではない。

 なにより、彼は相手の手を受け、それを上回ることを快感としていた。

 

 先に動いたのはミチノリであった。

 彼が片方の拳をきつく握ると、突如、彼の手の中にあるものが現れる。

 

突撃銃(アサルトライフル)!)

 

 ヒソカがそれを認識したときには、ミチノリは大型の銃を腰だめに構え、全自動(フルオート)の弾幕を放っていた。

 

 熟練した念能力者にとって、非念能力者の持つ銃火器は大して意味をなさない。

 その威力は彼らにとっても相応に脅威なのだが、その予備動作から射線を容易に捉えられるからである。

 彼らはキメラ=アント編のキルアやモラウのように、軍隊を手玉に取ることすらできた。

 

 しかし、これが念能力者となると話が変わる。

 彼らはオーラによって腕力や膂力などといった単純な筋力強化以外にも、構えを取るなどといった動作速度も強化される。

 予備動作を短くすることで、その身体能力に見合った高速戦闘を可能にするのだ。

 

 そしてそれは、銃撃においても同様になる。

 非念能力者にあった緩慢な予備動作は消え、強力な銃火器の反動も身体強化によって抑制される。

 熟練した念能力者が使う銃は、オーラを必要とせずに火力を担保できるコストパフォーマンスの良い攻撃であった。

 

 身体強化によって狙い澄まされた弾丸は、正確にヒソカの急所(胸と頭)を目がけて飛来する。

 

(ま、正面からの攻撃に対処できないようなボクじゃないんだケドね♧)

 

 ヒソカは体の正面に両手を出し、広げることでオーラの膜を張った。

 射線に張られたオーラは飛んでくる弾丸を包み込み容易に捉える。

 

伸縮自在の愛(バンジーガム)粘着力(ガム)弾力(ゴム)、両方の性質を併せ持つ♥)

「お返し♦︎」

 

 弾丸によって伸びたオーラのゴムはその衝撃力を保持し、ヒソカが(ねん)じることでその力を解放する。

 先程までヒソカに向かっていた弾丸は、その軌跡を逆向きにたどるようにミチノリへと飛んで行った。

 

「いらねえのか? 悲しいねえ」

 

 すると、ミチノリは前方から飛来する弾丸に対して、銃を持った腕をふるうことで弾いた。

 

突撃銃(アサルトライフル)の有効射程は数百メートルはある♦︎

 往復したとはいえあの威力の弾丸を(ケン)もなしに受けるか……♧)

 

 音速で飛んでいた弾丸はその腕に触れただけで埃がはらわれるように力無く落ち、そこには力んだ様子も、ダメージを受けた様子もない。

 ヒソカが1発だけミチノリの()()の壁から跳弾させた弾丸も、後ろに回したもう片方の手でいなされてしまったようであった。

 

「挨拶くらい受け取ってほしいもんだぜ」

「冗談♤ 大口径はマトモに受けたら死んじゃうからね♥」

(そう、ここまではただの挨拶……♧)

 

 念能力者同士の戦闘においてもっとも必要となるのは、少ない情報から相手の能力や戦闘スタイルを推し量る思考の瞬発力。

 ヒソカは今の攻防で相手の能力を朧げながらに掴んでいた。

 

(彼の能力は大まかに二つに分類される♧

 ①虚空から物を出せる収納型

 ②オーラを使わず銃撃をも防ぐ防御型

 ①から放出系のようにも思えるけど、①と②の両方を満たすとなると具現化系かな♦︎)

 

 複雑な能力を具現化物に付与できるのは具現化系の特徴であり、まったく種類の違う二つの能力を満たせる系統でもある。

 放出系も念空間を作ることができ、収納や瞬間移動は放出の得意分野であるが、ヒソカは先の系統の予測やひとつずつの能力の強力さより考慮から外した。

 

(①についても②についても発動の起点となる具現化物があるだろう♦︎

 そしておそらく具現化物の大きさは手のひら大以下……!)

 

 ヒソカは突撃銃(アサルトライフル)が出現する直前、ミチノリの不自然な手の動きを視界に捉えていた。

 

(ホールドアウト、手品師がよく使う技術だ♥

 さらに、拳を握り込んだ時に彼は手に軽く(ギョウ)をし、これが収納型の発動条件を満たしている♤)

 

 ミチノリが袖口から具現化物だろう物を取り出す手際は非常に素早いものであったが、手品を武器の一つとするヒソカに見破れないものではなかった。

 また、取り出す動作が必要なことから、具現化物が自由に取り出せるものではなく、常時発動型であることも分かる。

 大まかなあたりによってヒソカの推論の組み立ては加速する。

 

(手を握り込む動作や銃を持った方の手に具現化物がもうないことから、収納型の能力は使い捨て、相応にストックがあることだろう♦︎

 動作以外に発動条件があるってことは①も②も同じ能力の切り替えで成り()っているのかな?

 カードゲームで言うところの攻撃表示と守備表示、そしてオーラを使わず防御可能な具現化物を服の中に仕込んでいる……、なるほど、厄介な能力だ♤)

 

 そしてヒソカは防御時のミチノリの動作、特に銃を持たない片手を後ろに回す様子を思い浮かべる。

 

(奇妙なのは背後へ跳ばした弾丸にボクのガムを付けていたのに、彼の手にそれが付いていないこと♧

 脅威度を高く置くなら具現化物が(ハツ)を無効化していると見るべきかな……♤)

 

 ミチノリは手の中の具現化物で直接弾丸を弾いたのだとヒソカは考えた。

 前方のようにスカジャンの下の具現化物で弾けば、服の方にオーラのガムがくっ付くからだ。

 そしてそれは、ミチノリが執拗に具現化物を隠したがっているという推測につながる。

 

(おそらく、彼の装甲はひと目姿を見ただけで崩せるような砂上の楼閣♦︎

 ならボクの取る対策は単純、

 ①具現化物のストックを吐き出させ彼の取れる択を狭める

 ②彼の動きを封じ、収納物を取り出せなくする

 ③具現化物を目視して防御力を無効化する糸口を探る

 この三つだ♥)

「さあ、もっとキミの手札を見せてくれ♤」

 

 ヒソカはどこからともなく出したトランプの束を浮かせるようにシャッフルすると、先ほどのお返しとばかりに、カードの弾幕を銃弾にも引けを取らない速度でミチノリに放った。

 

「奇術師サマはトランプ遊びしかできないのかい? 程度が知れるぜ」

 

 放たれたカードは突撃銃(アサルトライフル)によって難なく撃ち落とされていく。

 

(手持ちの飛び道具は撃ち落とされるね♧ 下手な(ハツ)より面倒だ♤)

 

 そう考えながらも、銃自体についてヒソカはあまり興味を持たない。

 彼が惹かれるのはミチノリの銃の使い方だった。

 

(さっきの攻防、彼は完全にボクの急所(胸と頭)を狙っていた♦

 あれはわざと攻撃を受け、出血多量死によるタイムリミットを押し付けることで相手の行動を制限する手を防ぐためのもの!

 生ぬるい受け方をしたら誓約があっても迷わず殺す、牽制のために命を賭けられるのはキライじゃないな♥)

「手札がないならこっちからいかせてもらおう」

 

 そう言うミチノリの空いた手には新たにボール状のものが現れていた。

 

 ──シィッ

「──!」

 

 短い呼気と共に投げられたそれをヒソカは手持ちのカードで撃ち落とす。

 すると、半分に割れたそれは勢いをそのままにして霧状に拡散し、ヒソカの周囲を覆った。

 

(煙幕か!)

 

 ヒソカの視界は既に白い煙に塞がれていた。

 煙幕玉が(シュウ)によって覆われ、高速で投げられていたせいか、通常の煙幕よりかなり展開が早い。

 

(狙いはシンプルな目くらましかな?

 伸縮自在の愛(バンジーガム)がつけるもはがすも自由なのはさっき見せた♧ あたりに転がってる受験者や崩落の危険性を考えると、彼の誓約から粉塵爆発は現実的じゃない♤)

 

 周囲を煙が覆うのと同時にミチノリの気配が(かく)れ、完全に見失う。

 

(こちらが気配を消しても熱源探知(サーモグラフィ)程度は相手も用意しているはず♦

 相手が一方的に優位な状況はなによりもリスクが高く、もたもたしていると煙幕がコロニー一帯に充満する♧

 つまり、ここでの最適解は(エン)で警戒しながらの煙幕からの脱出──ッ!)

 

 そうしてヒソカが身じろぎした瞬間、パスッという音とともに彼の(エン)に高速で侵入する()()()()()物体を検知した。

 それをカードで撃ち落とすと、カランと金属が落ちる音が聞こえる。

 

(これも銃弾、ただし複数個所!)

「軍用ドローン。高くつくぜ?」

 

 ヒソカが打ち払うたびにドローンは動きながら彼に向かって弾丸を放つ。

 自身に向けられた22方向からの銃撃は最初の攻防のようにゴムで受けることも出来ず、彼は足を止められていた。

 

(捌ききれるが無視できない攻撃、確実に処理能力は削られている♧

 ドローンがボクという敵個人を識別するのは技術的に不可能、熱源を持つ動体に反応している感じかな♤

 つまり止まれば攻撃も来ないわけだけど──)

 

 そしてヒソカは確信していた。

 仕組みを見抜き完全に動きを止めたときこそ、危険が迫ることを。

 

 刹那、彼の(エン)に音を置き去りにした軌跡が触れた。

 

(──対物(マテリアル)ライフル弾!)

 

 これは小手先のカードで捌けるようなものではない。

 ヤマを張った部位に全力の(コウ)をしてようやく防げるかという代物だ。

 そして、体勢を崩さずに受けきれるようなものでもなく、それは()()()()()()()となることを意味する。

 

 対物弾はヒソカの(エン)に入った段階で身をかわして避けられる距離にはなく、受けきったとしても無防備な体にドローンからの銃撃を浴びる。

 不殺を掲げるものの作った殺し間からは抜け出すことはできない。

 

 ヒソカ=モロウを除いては。

 

発動(バンジー)!)

 

 瞬間、ヒソカの身体は瞬時に空中へと引き寄せられ、対物弾は(くう)を切った。

 天井へと張り付いた彼は、眼下にある22のドローンをカードで貫き、破壊する。

 

(スタートから5時間、細工をするには十分すぎた♦︎

 天井への保険のゴムもそのひとつ!)

 

 煙幕の殺し間から脱出したヒソカは、立ち位置を変えて対物(マテリアル)ライフルと暗視装置(サーマルゴーグル)を手に持ったミチノリを視界にとらえる。

 そして彼は足元のガムで天井を踏み締めながら、はち切れんばかりの力で身体をひねる。

 

 ──ブンッ!!!

 

 手からカードへと伸びたゴムはドローンへとつながり、円周上に配置されていたドローンはヒソカの膂力でひとつの塊へとまとめられる。

 ヒソカはさらに身をよじり、ひとつとなった金属塊のハンマーをフルスイングでミチノリへと叩きつけた。

 

「チィッ!」

 

 しかし、そのハンマーはミチノリが両腕を盾にすることで遠心力を失い、ダメージを与えないまま()()()()()

 彼が防御と新たな武器を出すために手元の武器をすべて手放したとき。

 

「それを待っていた♥」

 

 ヒソカはハンマーにつけたゴムを縮め、瞬く間にミチノリの前へと着地する。

 軍人が両腕で抱えるほどの大きさの軍用ドローンは22機でヒソカの体重を軽く超え、(アンカー)となるのに充分だった。

 

(手元はガラ空きで火器も刃物もなく、たとえ取り出せたとしても(ギョウ)→攻撃と一工程(ワンテンポ)遅れる♦︎

 狙うは具現化物で覆われていない顔面!)

 

 ヒソカは拳を(にぎり)、在らん限りのオーラを込めてミチノリへと振りかぶった。

 

 (ネン)六性図(ろくせいず)において、変化系は具現化系よりも強化系との距離が近い。

 これはオーラによる強化といった最も基礎的な能力において、具現化系は変化系に勝てないということを示している。

 具現化系は強化系の習得率が60%のところ、変化系は80%と上回っている。

 同じオーラを込めようとしても強化に使える幅は20%も離れているのだ。

 実力がかけ離れているのならともかく、拮抗しているのであればその差は隔絶のものとなる。

 

 戦闘において力とは流動的であり単純化できないとはいえ、互いに大きな損耗のない現状ではミチノリがヒソカに強化で勝る道理はない。

 

 しかし一点、ヒソカは見逃していた。

 それは、ミチノリが銃火器という()()()()()()()()()()を多用していたことによる過学習。

 

 ──ビキビキッ

「ッ!?」

 

 ヒソカの拳がミチノリを抉ろうとする数瞬前、ヒソカの視界が揺らぎ、顎からの電流のような痛みが脳天を貫いた。

 吹き飛ばされそうになった身体を足裏のゴムで無理やり繋ぎ止める。

 震える視界で彼を捉えると、その拳には己のそれを超えるオーラが瞬間的に放たれ、消えていった。

 

(オーラ)の、収納──!)

 

 彼我の距離はさらに縮まり、戦闘は加速していく。




ミチノリの銃の口径などはある程度イメージはありますが、あえて書いていません
原作で覆される恐れがあるので……
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