最強はポットクリン(別題:その無敵性を絞り上げる)   作:淵岳 月夫

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BGM:凛として時雨「Telecastic fake show」2008.


第286期ハンター試験②

 オーラ攻防力という概念がある。

 平たく言えば、身体の全身もしくは一部にどれだけのオーラを集めるかというものだ。

 身体の一部にオーラを集める(コウ)が攻防力100、オーラを表面に出さない(ゼツ)を攻防力0として、全身の部位に攻防力を配分していく。

 念能力者は常に全力の(レン)をしているわけではないため全身の攻防力が合計100とならない場合もある。

 しかし、通常のオーラ運用で攻防力が100を超えることはない。

 

 攻防力が100を超えるということはつまり、それ自身が(ハツ)に匹敵する技ということである。

 

(──ッ、意識がっ!)

 

 胸元へ伸ばされた腕を咄嗟に避けると、もう片方から鋼のごとき拳が飛来する。

 左右から叩き込まれるデンプシーロールをかろうじて捌きながらも、初めにもらった打撃は彼の瞬発力と思考力を確実に削いでいた。

 

(オーラをあらかじめ収納し、瞬間的に自身の顕在オーラを上回ることができる応用技!

 けど、拳への(ギョウ)の後にくる点の攻撃のみだと把握してしまえば対処可能……!)

 

 衝撃をも吸収する具現化物による腕の防御と腕の側面による攻撃は原理的に両立できないことは自明だった。

 

(収納できるのがオーラを(まと)った収納物か自由に使えるオーラそのものかで対応が変わる!)

 

 迫り来る連撃の中、ミチノリが体重を片側の脚にかけようとした瞬間を狙ってヒソカは脚を払う。

 握り込むという動作を必要としている以上、脚への瞬間的なオーラの増強は不可能だと見込んだからだ。

 

 脚を払うことでミチノリの踏み込みをずらしたヒソカは、相手の側面に進むことでデンプシーの間合から外れる。

 それは時間を稼ぎながら足技を軸に流れを組み立て直そうとした彼の攻防一体の策であった。

 

 しかし、ミチノリへと向き直ったヒソカの目には、既に体勢を戻し脚を水平に振りかぶるミチノリの姿があった。

 添えられた手は(ギョウ)を終え、脚はオーラの輝きを膨れ上がらせながらヒソカに迫る。

 

「残念賞ォ!」

 ──ミシッ!

後者(厄介)──!)

 

 脇腹への攻撃を手を挟んで防ぎながらも、ヒソカのその手が悲鳴を上げた。

 

(足払いに手応えがあったのは脚に具現化物を仕込んでいなかったから♦︎

 脚に具現化物を仕込んでないのは排出したオーラで脚も攻撃に使うためか……♧)

 

 ヒソカはミチノリによる攻撃を捌きながらも、それなり以上に攻防力を偏らせて脚を払った。

 しかし、具現化物による衝撃吸収ではなく、通常のオーラによる防御によって体勢を立て直された。

 そのカラクリ。ミチノリの攻防力がヒソカのそれを上回ったから。

 

(あの瞬間、攻撃の合間にも彼はほとんど攻防力を脚に(あつ)めていた♤

 そんなことが出来るのはそもそも攻撃に軽い(ギョウ)以外の自前のオーラを使っていなかったから♦︎

 攻防力100+収納オーラ100でボクの全力を超えたと思っていた攻撃は、実は収納オーラ200だったわけだ……!)

 

 具現化物が小型であれば拳に二つ握り込むことも可能であり、攻撃のオーラを具現化物で賄えれば本人は予期せぬ事態に余力をもって対処できる。

 さらに、腕には防御型の能力を持つ具現化物を仕込むことで接近戦におけるほぼ全ての脅威を自身から取り除いていた。

 

(不殺の誓約と不揃いな殺意の攻撃、先ほどの遠距離戦はおそらく全てがブラフ!

 殺さずリンチが可能な超近接戦(インファイト)こそ本命!)

 

 それはヒソカにとって苦難でもあり、天啓でもあった。

 

(つまり、ここさえ凌げば勝ちの目が出てくる……! さあ、根比べだ♥)

「残念、審査員はボクさ♦︎」

 

 ヒソカは蹴りから繋がるコンボを避け、受けながら自身へのダメージをコントロールする。

 

(胸元のカードを守りながら急所への攻撃を逸らす!

 今相手の脚につけたガムも効果なし(解除)

 無駄な能力の維持にオーラを使うより、攻撃を捌きながら立て直しのための時間を稼ぐことに全力を尽くす!)

 

 下段の回し蹴りからの上段蹴りにかかと落とし。

 脚も加わった連撃にヒソカは先ほど防御に使った腕の骨を砕かれながらも、その内心では余裕を取り戻しつつあった。

 

(今のキミの戦い方の弱点、それは圧倒的なストックの消費コスト♥

 こう着状態を作ればすぐにでも次善を出してくる♤)

 

 ヒソカが上段の回し蹴りを弾くと、陰になっていたミチノリの手の中で銀色の光沢が輝いた。

 

(ベンズナイフの初期型、毒!)

 

 回し蹴りの回転と攻防力を超えたオーラを受けて最速を超えようとした腕を、しかしミチノリは攻撃に入る前に止める。

 回避不能なまでに迫った飛翔物を回る視界に捉えたからだ。

 

 ──ゴウッ!

「ボクの武器だよ♥」

 

 それは、ミチノリがこのコロニーに来る前から存在していたオブジェクト。

 ヒソカに倒され意識を失い、虫の息となったハンター試験の受験者だった。

 ゴムを縮め、潰れて使えなくなった腕を使い、蹴りを弾く力さえ利用して、ヒソカは受験者を武器として放ったのだ。

 

(具現化物が衝撃を吸収するのは触れた部位のみであることはドローンで検証済みさ♦︎

 この攻撃を受けても逸らしても、この受験者は死ぬ♤)

 

 トロッコ問題。

 制御不能のトロッコの先には五人の工夫がいて、レバーを切ると一人の工夫を犠牲に五人を助けることが出来る。

 レバーを引くことと放置すること、どちらが罪であるか。

 

「答えは不問、キミはトロッコなのだから♥」

 

 己を守っても死に、甘んじて受けても死ぬ。どちらも死因は同じ。

 他人にナイフを握らされても、人を殺せば己も死んでしまうのが不殺の誓約の弱点である。

 

「簡単。レバーを真ん中にすればいい」

 

 ミチノリは回避不可能な問題に対して、手のひらを向けることを答えとした。

 かかげた手に触れた瞬間、その受験者は忽然と姿を消す。

 

(収納能力! こちらも手が発動条件!)

 

 受験者についたガムさえもその一部を受験者とともに収納してみせたことに驚きながらも、ヒソカは次の手を既に打ち終えていた。

 

 ──ヒュンッ

「……カラダから出したもんヒト様にベタベタ付けやがって、変質者か?」

「仲良しのアカシさ♥」

 

 忘れてはいけないのは、一連の動作の間もヒソカとミチノリは殴り合えるほどの至近距離(インファイト)にいること。

 ゆえにヒソカは受験者をぶつけると同時に無事な方の拳を叩き込む。

 二重の攻撃は、ミチノリが防御に使ったナイフを持つ方の()にガムをつけるという最善手をヒソカにもたらした。

 

(対策①は接近戦のストックを放出させたことであらかた叶うとみていい♦︎ このガムを足がかりに対策②をこなす♤)

 

 対策②、ミチノリの動きを封じ、収納物を取り出せなくする。

 彼の能力発動に手が起因する以上、腕に付けたガムほど相手にとって厄介なものはないとヒソカは結論づけた。

 

(天井のゴムよ、再び縮め!)

 

 そうヒソカが(ねん)じると、彼は再び後ろに天井へ跳ぶように引っ張られていく。

 一度離脱に使ったゴムでも、彼が解除するまで何度でも利用できるのが彼の能力のメリットだ。

 

(さっき、受験者に向けてかざした手の中に真新しい傷が見えた。最初の跳弾でオーラを付けられなかったのもおそらく収納による効果♦︎

 ガムを収納して消す様子を見せないことから、本人以外のオーラは収納する対象に付属する(ついた)ものしか収納できないみたいだね♧

 収納を直接攻撃に使わないこととも関係がありそうだ……♤)

 

 距離をとりながらミチノリを観察するヒソカ。

 ガムをつけたままであることがブラフの線もあるが、それは後々検証すればいいというのが彼の腹づもりだった。

 

(これで再び接近戦を挑むときにも対等(イーブン)以上の条件で持ち込める♥

 ガムをつけたままの戦闘がどれだけ不利か教えてあげるよ……ッ!?)

 

 ヒソカは彼が宙にいる間にミチノリが再び取り出した対物(マテリアル)ライフルを見て焦りを感じた。

 展開から即座に放たれた弾丸は、彼自身ではなく彼の後方の天井を撃ち抜いた。

 

 多目的用に作られた炸裂(HE)弾は天井の一部を、ヒソカが離脱用につけたガムごと抉り取る。

 結果、彼は命綱を切られて空中に投げ出された。

 

(これはマズいね♧)

 

 天井のガムを失った結果、ヒソカ自身に繋がる唯一のゴムはミチノリにつけた一本になった。

 これを手繰り寄せても体勢を崩したままでは不利な超近接戦(インファイト)に戻るだけである。

 新たにガムを飛ばすことも剥がされたガムをムチのように再利用することもできるが、ミチノリの構える対物(マテリアル)ライフルが防御以外を許さない。

 そこに予想される結果は崩れた体勢のまま地面に落ち、接近されての着地狩り。先ほど以上のリンチであった。

 

(なら、キミにものっぴきならない状況をプレゼントだ♥

 発動(バンジー)!!)

 

 ヒソカの(ネン)により、ミチノリの周囲に変化が起きる。

 コロニーに散らばって倒れていた受験者たちが彼に向かっていっせいに飛んでいったのだ。

 

伸縮自在の愛(バンジーガム)は相手にガムをつけるのと同時に、別の対象にくっついたガムをなすりつけることもできる♦︎

 十八人の受験者の弾幕をどうぞ♥)

 

 数時間張りつめ、溜められていたガムの張力は受験者たちをカードと遜色ない速度でミチノリへと運ぶ。

 数十kg(キロ)の肉塊たちがミチノリへとぶつかれば、どちらもタダではすまない。

 両手を開けても収納しきれない、確実な死を運ぶレーンがミチノリの腕につながっている。

 

「チィッ!」

 

 絶体絶命のミチノリの手の中に現れたのは、しわくちゃに萎んだ大きな袋であった。

 その袋は彼が取り出した瞬間、またたく間に彼の数十倍もの体積に膨れ上がる。

 巨大なバルーンのように膨らんだ袋はミチノリを上空に跳ばしながら、向かってきた受験者全員を柔らかく受け止めた。

 

(エアバッグ、つまり腕のガムは真実(剥がせない)!)

 

 特殊なガスを内部に発生した袋はわずか0.02から0.03秒ほどの間に急速に膨らみ、衝撃を受け止めた後には急速にしぼむ。

 大きさこそ違うが、原理は通常の仕様通りである。

 

 エアバッグによって跳ばされたミチノリは、()しくもヒソカと同じ高さで停止、落下を始める。

 

 ──。

 ──♥

 

 自然落下に身を任せて着地の体勢をととのえる両者。

 二人は理解していた。おそらく、次の攻防が最後になることを。

 

「──シィッ!」

「──発動(バンジー)!」

 

 着地と同時、二人はお互いに向かって跳びながらも、ヒソカだけはそこに一つの技を加えた。

 彼の掛け声によって、エアバッグに受け止められた内の数名の受験者が放たれ、ミチノリの片腕の前腕を覆うようにくっついた。

 

「何度も同じことを──!?」

「有効だからね♤」

 

 彼らに先ほどのような威力はない。しかし、彼らに込められたオーラ量はミチノリを驚愕させ、その足を鈍らせた。

 

 ヒソカは受験者に込めたガムに濃淡を付けていた。

 ただガムをくっつけただけのものと、全身をガムで覆ったもの。

 前者はブラフと善人への牽制ため、後者は鈍器としての性能を上げ、早々に剥がれない(おもり)とするためである。

 

「殴り合おうか♥」

「クソがッ!」

 

 ミチノリと繋がったガムを縮めることで、ヒソカは彼が一人一人の受験者を収納する隙を与えずに至近距離(インファイト)へと迫る。

 互いに片手を使えず、しかし一方は(おもり)で自由に身動きが取れない。

 

 ゆえに、ミチノリの拳がヒソカのそれより速くとも、拳をいなし、拳にガムを付けるだけの余裕がヒソカにはあった。

 

「人型の手錠はお好みかな?」

 

 伸縮自在の愛(バンジーガム)は相手にガムをつけるのと同時に、別の対象にくっついたガムをなすりつけることもできる。

 ミチノリの両腕にまたがったガムはすぐに縮まり、ガムで覆われた受験者たちも相まって、重い木の手枷(てかせ)のようにこの瞬間のミチノリの両腕を完全に無力化した。

 

(対策②完了♪ チェックだ♥)

 

 ヒソカは胸元から一枚のカードを取り出す。

 ミチノリの勝利条件として設定したこのカードこそ、彼の引導に相応しいとヒソカは考えた。

 

()きかけたよ、じゃあね♥」

 

 在らん限りのオーラを込め、その首を刎ねようとカードを振るう。

 

「──ハッ!」

「!?」

 

 カードが首に到達する前、ミチノリが見せた不敵な笑みの奥──口の奥に、ヒソカは悪寒を感じた。

 ミチノリが笑い、歯を噛み締めたとき、プチッ、という音が彼の耳に届く。

 

 そして刹那、自身の脳天を貫こうとする弾丸がヒソカの目と鼻の先に現れた。

 

『大口径はマトモに受けたら死んじゃうからね♥』

 

 ──(解除)!!!!

 

 ヒソカは振るったカードもゴムの制御も手放し、意識できる全てのオーラを額に集中させた。

 その弾丸は彼の皮膚を抉りながらも、骨より先には通さずに額を滑っていく。

 

(最初の攻防で防いだ跳弾! 一工程(シングルアクション)の暗器として収納していた……!)

 

 オーラを拡散させず収納できるのであれば、弾丸の威力を保存したまま収納できない道理はない。

 銃口もなく目の前に現れることで、実際の威力に関わらず全力の防御を要求される。

 シンプルであるが故に奇策。

 

(手の(ギョウ)は補助具、具現化物の能力の切り替えに必須ではない──♤)

 

 そして、その誤認こそヒソカの敗因であった。

 

「──ありがとうな、カードのゴムだけは解除しないでいてくれて」

 

 ヒソカの至近距離にいながら彼の意識から完全に外れる、矛盾した勝利条件を満たしたミチノリは手の中を見せた。

 絵柄は(ハート)の2。カードはすでにヒソカのものでなく、ガムから自由となったミチノリの手へと渡っていた。

 

「ああ、ボク、負けたんだ……♦︎」

 

 カードから伸びるゴムを目印に出口へと消えていくミチノリを見ることもなく、ヒソカはただ呆然とその感動を噛み締めていた。

 

(気まぐれで受けたハンター試験、青田買い目的で訪れた果樹園には真っ赤に熟れた果実が実っていた……!

 それも、食べた人間を食い返してくる毒リンゴ!)

 

 平凡な受験者、平凡な試験。その中にひとつだけ宝石のような出会いがあった。

 これだけで、ヒソカの昂りは絶頂(満たされる)

 

「……また味わえるというのも乙なものだね♦︎ さて、ボクも行こうかな♤」

 

 そういうとヒソカは胸元から一枚のカードを取り出した。

 そのカードからは先ほどミチノリが消えた出口に向かって薄いオーラが伸びている。

 これは他の受験者に投げつけた、もう一つの道案内。

 

「10メートルも離れられるとゴムも切れちゃうから、勝者のためにも繋いどかないと♧」

 

 絵柄はJoker(ジョーカー)、2を上回る唯一のカード。

 

(見えちゃったんだよね、口の中の具現化物♪ 思わず納得しちゃったよ♥)

 

 足取りは軽く、彼もまた出口の闇に消えていく。

 

(アレ? ①と②と③、全部の対策が揃っちゃったな♤

 次があったら……、どうなるのかな♥)

 

  ◇

 

「えっ、残り5分!?」

「ハイ、お疲れ様でした」

 

 ガラガラの出口に着いたオレは豆のような顔の小さい人(?)──ビーンズさんから衝撃の事実を聞かされた。

 

「まあ、ゆっくり来たからそうなるか。ていうか、アンタはどうやってここに?

 オレが出発した時には入り口にいたよな」

「専用のエレベーターで来ました。こちらの出口は入り口の真下にあるので、皆さんの帰りもそちらです」

「エレベーターあるのか……」

 

 少し複雑な感情になりながら、オレはビーンズさんに頭を下げてそのあたりの木陰に腰を下ろした。

 ここも地下だというのに陽の光が入り、木々が植えられている。なるほど、出口の外だと一目でわかる作りだ。

 

「しっかし、こりゃもしかしなくとも合格者はオレだけか?

 普通の受験者は絶対無理だもんな」

 

 オレはスタートからは他の後発組の受験者たちと団子になって地下空間の迷路を進んでいた。

 理由としては普通に迷路が難しく、正攻法で攻略していたからだ。

 迷路を網羅できるほどオレの(エン)は優れてないしな。フィンクスよりはマシだケド。

 

 それで、終盤になるとヒソカの気配(オーラ)がただよって来たので、能力を隠すためとついでに受験者の身の安全のため、近くに潜んでいた先発組含めて軽くボコしてからヒソカの前に出ていったということだ。

 気合いのあるやつは起きれるだろうが、場所が割と手前だから整理券のプレートを取りにいっているヒソカも含めて落ちそうなんだよな……。

 こんな原作崩壊あるか? いや些事だが。

 

「仕方ない、デブリーフィングだデブリーフィング」

 

 今回ハンター試験を受けた目的は原作に近づいてきたのでトンパ算により正確な時期を把握することだったが、ヒソカがいたことにより今が原作の1年前であることは容易に分かった。

 奴に待ち伏せされたこともあり、突発的に方針を変更した。

 それはずばり、自身の実力を把握することだ。

 

 オレは隔離クマムシ(シェルターベアー)が発現してからそれなりの鉄火場を潜ってきたが、ほとんどの原作キャラに縁はなかった。

 唯一あったのがゾルディック家だったのだが……、これは置いておく。ほとんど逃走劇だったし。

 つまり、オレは今まで原作でどの程度の強さにあるのかあまりよく分かっていなかったのだ。

 

 よってこの機会にヒソカと戦い、自分の実力がどの程度なのかを測りたかったのだ。

 初っ端から原作でもトップ帯の実力を持つ相手というのは恐ろしくもあったが、相応の自信もあった。

 

 そして結果というと……、まあ、なんとも言えないもどかしいもんだ。

 

 第一に能力とその運用。コレは綺麗にハマったので(まる)

 隔離クマムシ(シェルターベアー)の仕様は発現する前に考えていたものとはズレや、仕様の漏れがあった。

 

 最も顕著なのは念獣の大きさ。本物のクマムシ程度の大きさを想定していたが、実際は簡単に目視でき、能力を看破できる親指大になった。

 おそらく水分でふやかすという攻略法を示す(アフォーダンスする)ための仕様だろう。

 あとは小さいということにも相応の力が必要となるということかもしれないな。

 しかし、これは悪いことだけじゃない。収納物の選別は楽だし、念獣の向きを変えれば排出の向きや位置も調整できる。

 

 他にも、念獣の具現化をオンオフできないというものもあった。

 これは念空間と具現化物の仕様の競合によるものだろう。

 念空間の入り口を自由に消したり出したりできるというのもおかしな話だよな。

 これにも一定の解答を持てたし、腕と急所に隠した念獣は無敵の防具として利用できている。

 

 他にも細かいのは色々あるが、無敵性や念空間といった基幹部分に変化はない。

 オレの能力は安全性が低くなった代わりに、戦闘性能が上がったと思ってくれればいい。

 

 それを補助するために新しい能力も作った。

 といっても、隔離クマムシ(シェルターベアー)でオレの容量(メモリ)はほとんどパンパンで戦闘用の(ハツ)など作れない。

 よって、これは今ある能力を十全に活かすための補助道具だ。

 

DRY & WET(ヴリトラ)(変化系能力)】

 両の手のひらにある精孔(しょうこう)から出るオーラの性質を以下のどちらかに変化させる。

 ・湿ったオーラ

 ・乾いたオーラ

 

 制約:

 ・発動時、手のひらにわずかでも*1(ギョウ)をする必要がある。

 ・手のひらから離れたオーラは性質の変化を維持できない。

 ・対象がオーラに覆われなければその性質は十分に効果を発揮しない。

 

 誓約:

 なし

 

 これは本当に手が乾いたり湿ったりするだけの能力だ。

 服の一部を乾かしやすくなったり、ビニール袋を開きやすくするくらいの効力しかない。

 しかし、隔離クマムシ(シェルターベアー)を用いた高速戦闘を可能にするのはこの能力が必須となる。

 

 この二つの(ハツ)こそ、オレにとって最強の能力だと自負している。

 

 第二に消費した念獣のストック数。これはまあ……、及第点といったところだ。(さんかく)

 オレは常にその戦闘でどれだけ念獣を消費していいか見積もっている。

 強敵と対峙した時の目標は50匹。これは月の念獣生産量*2のおよそ半分に相当する。

 

 念獣は繁殖によって増やすことができるが、給餌という上限によって一度に生産できる上限が決められている。

 一度作った後なら乾眠状態にしてオーラの消費がほぼ無くなるのだが、生産を続けようとすると元となる念獣が必要で通常状態の念獣の寿命もひと月程度であり交尾から産卵までの時間を考えると……。

 諸々の条件でオレが現時点でひと月に増やせる念獣は100から200匹ほど*3だ。

 

 多く感じるよな? コレがオレの目的からするとそうじゃない。

 オレは暗黒大陸で活動するために多くの物品、武器を貯蔵しなくてはいけない。

 安全な容れ物としての空っぽの念獣も用意しないといけないとなると、必要となるストックは少なくても10,000と予想している。

 コレで一人で前線に立つとなったら1週間も持てばいい方だと思えるんだから笑えるよな。

 

 よってオレはたとえ強敵相手でも念獣を節約しなければならない。

 今の念獣のストックは7,000匹ほどで、あと数年あるとしても強敵と戦い続けたら暗黒大陸上陸までにギリ足りるか足りないかというところだ。

 

 ヒソカ戦で使用したのは60匹で内半分が収納オーラに使わされた。

 フハハ、燃費が悪すぎる。

 

 ちなみに、7,000匹のストックは常時持ち歩いている。

 どうやってかというと、念獣の中に念獣を入れるという方法でだ。さらに念獣を入れて……、と、持ち運べる量に際限はない。

 条件*4もあるが、念空間内の念獣は時が止まってオーラもまったく使わないから、コレが本当に便利。起動済みのドローンのセットをすぐに取り出せたのもコレのおかげだ。

 濡らさないように小さなケースに入れればひとまず万全だ。

 

 第三に格闘戦。これは明確に×(ばつ)

 念獣にオーラを込められるという仕様なのだが、これは望外のものだった。

 隔離クマムシ(シェルターベアー)の収納物の対象を特に指定していなかったのは意図的ではあったのだが、戦闘については前半の銃火器による遠距離戦を主体と考えていたのだ。

しかし、(シュウ)をしたものを念獣に収納して取り出したとき、オーラが変わらず付与されていたときに天啓を受けた。

 

 検証してみると、オーラを単体で込められるのは自分のものだけらしい。

 オーラが意識のあるものの一部分としてカウントされているんだろう。

 ヒソカの伸縮自在の愛(バンジーガム)のような相手のオーラはものについているときに、ついているものごと収納する必要がある。

 だからオレはガムをつけられたとき、ガムを取り除くことができなかったわけだ。服ごとガムを取り除くと服の下の念獣が見えちまうからな。

 

 それでもこのオーラ収納という仕様は強い。

 収納したオーラは取り出したらすぐに消えてしまうが、瞬間的なオーラのブーストは可能である。

 バッテリーというよりパルスコンデンサに近いものだ。

 全力のオーラを込められるコレが念能力者にとってどれほどの脅威かは、先ほどの通りだ。

 オーラの攻防力という念能力者全員の持つ縛りから解放され、それを上回られても無敵型による防御が残る。

 

 そしてなにより、相手に多くの不利な選択肢を押し付けられるのがいい。

 オレの隔離クマムシ(シェルターベアー)は取れる選択肢の範囲は広いが、一つの動作に複数の意図を組み込むのが難しい。

 これが得意なのがヒソカなのだが、オーラ収納を用いた格闘戦であればそれに迫ることができる。

 こと接近戦において、ハマればウボォーギンすら倒し切れるほどのポテンシャルがこの能力にはある。

 

 しかし、残念なことにオレが使いこなせていない。

 もちろんこの仕様に気づいてすぐに多くの近接戦闘を学び、瞬発的に技を組み立てる技術も身につけた。

 だが、肝心の格闘センスがオレには足りない。ヒソカに初撃を与え圧倒的な優位を取ったのに、あそこで勝ちきれなかったのがなによりの証拠だ。

 本来だったら、あそこの追撃でカードを奪い切る戦闘プランだったのだが、隙を見せながらもその択が防がれていた。

 結果、煙幕の最中に口に入れた保険の念獣まで使わされる始末だ。

 

 たとえば別作品になるが、呪術廻戦(じゅじゅつかいせん)東堂(とうどう)(あおい)不義遊戯(ブギウギ)の代わりにこの能力を持っていたらオレより断然使いこなせるだろう。

 不殺の誓約があったとしてもだ。

 

 第一、第二、第三の評価から導かれる結論は──。

 

「単純なオレの実力不足、か……」

 

 これはかなり、来るものがある。

 能力自体は間違いなく強い。のに、それにオレが追いついていないのだ。

 伸び代があるということかもしれないが、齢30近くで原作も近いというのに、まだ羽化しきれていないのか。

 

 いやでもやっぱ、不殺が悪いだろ……!

 

【ミチノリ自身への誓約】

誓約:

・ヒトを直接殺害すると自身も死ぬ。これは殺意の有無を問わない。他人の直接殺人*5を媒体とした間接的な殺人への関与はこれに含まれない。

 

 コレがなかったら勝ってたぜ!? 念獣四つ握り込んでヒソカの頭吹っ飛ばせたわ! やらないけどな!?

 ていうか番いの破壊者(サンアンドムーン)よろしくさっきの軍用ドローンに爆弾つけて特攻させりゃ大抵の能力者が沈むんだよ!

 ああ、人間に扉間(とびらま)さま考案の互乗起爆クマムシが使えればどれだけ楽か……! 燃費悪すぎて無理だがな!

 

「もしもは無意味もしもは無意味……!」

 

 どうやら相当まいってるみたいだ。

 ここまで誓約を絞れただけでも効果的なのだから切り替えろ、オレ。

 

 両頬を叩いて壁のタイマーを見ると、もう残り時間は2分を切ろうとしている。

 

「マジでオレだけか……、オレもこのカードがなかったら無理だったな」

 

 オレの手の中にはヒソカのカードがあった。

 コレについたゴムのオーラがなければ、オレも最後のブロックを迷いに迷って失格していたことだろう。

 別にそれでもよかったが、(ライセンス)は欲しかったからヒソカに感謝だな。

 

 ……そういやなんで千切れてないんだこのゴム。

 気が抜けてたが、ヒソカから分離したゴムの限界って10メートルだよな?

 カードはオレが持っていてもう一端は出口に繋がってんだから消えるだろ。

 

 目を()らして見てみると、そこには今もカードはたっぷりとオーラで覆われていて……。

 

「手にくっついとる……」

「気に入ってくれたかな♥」

 

 後ろからの声に振り向くと、そこにはハーイ♦︎とフランクなヒソカが、無事な方の手で一枚のカードをヒラヒラとかかげていた。

 ああ、繋がっていたわけね。

 

「なんでここにいんだよ。整理券がなきゃ参加賞も貰えねえぞ?」

「そりゃあ、ボクにもあるからだよ」

 

 そういってヒソカは胸元を見せる。

 そこには「13」と書かれたナンバープレートが光っていた。

 

死神(タロット)かよ、気味がわりいな。てかこのガム外せ」

「上手くやれば皮膚についたガムも外せるんだろう? やってみせなよ、見ていてあげるから♤」

「頭吹っ飛ばすぞ」

「痛っ♧」

 

 自分を収納してみせろと暗に言うヒソカの骨折した方の腕をどつく。

 勝負がついたからか賢者タイムなのか、避けようともしないヒソカを見ながらも疑問が湧いた。

 

 オレが走って残り5分の迷路をヒソカは前半組の整理券を奪って2分?

 しかも番号に遊びを入れる余裕もあると?

 たしかに素の身体能力はオレが下だが、そう離れてはないだろ。

 

 オレの脳裏に一つの単語が浮かんだ。

 

(こいつ、薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)使ってやがる……!)

「?」

 

 薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)

 今回の戦闘でヒソカがまったく使うことのなかった、ものの表面をオーラで再現する能力。

 前半組から奪うまでもない、自分のナンバープレートを改竄してしまえば晴れて合格者である。

 オレが知らないと思っているとはいえ、こんな堂々と使うか!? いや使う奴か……。

 

『ビビビ────!!!!』

「終わったようだね♧」

 

 なんてことを考えているうちに、一次試験の終わりを告げるアラームが鳴った。

 ていうか、このままだとオレとヒソカだけで二人とも試験自体合格してしまうんじゃないか?

 となるとヒソカは次の試験にも出ることはなく、ゴンたちにも出会わない。

 

 うん。通報(BAN)一択だろコレ。

 

「残ったのは貴様ら二人か」

 

 オレたちの前に一人の男が現れた。

 ビーンズさんではなく、今回の一次試験の試験官を務めた半月状のナイフを持つ男。

 原作でいうところの無限四刀流の奴だった。

 

「貴様らは整理券を持ってこの地下空間の出口までたどり着いた。しかし、それが合格となるかは話が違う」

 

 なにもしてないがいい流れになってきたな。

 ハンター試験は試験官の口先ひとつで合否が変わるハチャメチャ試験だ。

 言ってやれ無限四刀流!

 

「貴様らは二ツ星以上のハンターになる条件を分からんようだな……!

 後輩を育成し、それが一ツ星ハンターとなること! ハンターとは己はもちろん、協会員として協会の未来を導かなくてはならない!」

 

 話すうちに男の顔に青筋が浮かぶ。

 

「ハンターの卵たる受験者を貴様らは十把一絡げに脱落させよって!

 オレは貴様らのようなただ先に(ネン)に目覚めていただけの奴が後進を妨害するのが許せんのだ!」

 

 そう言われると、オレたちは思わず顔を見合わせる。

 多分ヒソカもオレと同じことを思っていることだろう。

 

 ──じゃあこんな試験にすんなよ!!!

 

 (ネン)を覚えてる奴をフリーハンドにしたらこうなることくらい分からなかったのか?

 キルアが合格した試験*6の試験官と違ってちゃんと考えた上でこれってコト……!?

 

「ねぇ、アレって……♧」

「ああ。オマエのガムにも気づいてないな」

 

 当然、薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)にも気づいていない。

 

「……ッ! 人が話している真ん前でよくもコソコソ……!」

 

 あれ、オレも落とされる流れかこれ。

 いや別にいいんだが、コレに落とされると思うとすげえ釈然としない……。

 

「お前ら二人、失っか──」

「うるさい♤」

 

 男がそう口を開こうとしたとき、ヒソカはそいつに飛びかかる。

 一瞬だけ攻防のようなもの(ナイフがガムにからめ取られる)が挟まった後、男の顔面はトランプで切り裂かれた。

 

 ──ギャアアアアゝゝゝ!!!!!

 

「アレ、この人喋れなくなっちゃった♦︎ ああ、でも迷路の外でもう一回攻撃しちゃったボクは失格かな♧

 ──貸しひとつだよ♥」

「よく言うぜ」

 

 ヒソカの気味の悪い笑みに、オレもそう笑い返す。

 

 本当に厄介な誓約だ。

 

 今回の判定勝利はオレがヒソカの能力を把握し、かつ有利なフィールドで戦った結果のものだ。

 ヒソカの本当の実力は選挙・アルカ編の対ゴトー戦にある。

 森のように、立体的な遮蔽物が数多く点在するフィールドでの戦闘でこそコイツは100%の実力を発揮する。

 実質リヴァイ兵長みたいなもんだ。

 

 そして、オレはコイツと一度戦ったことで多数の情報を抜かれた。

 今まで全力で守り通してきた情報アドバンテージが、この一戦でいくつ抜かれたかオレも把握しきれない。

 そして、それが他者に拡散しないとも限らないのだ。

 

 これが不殺の一番の課題。勝っても()があるかもしれないということ。

 

 この課題を解決する方法もただひとつ。

 

 ──必要なのは覚悟、能力がバレても最強でいる覚悟がいる。

 

「ねぇ、試験官が倒れたら合否ってどうなるんだい?」

「……ええっと、本部に確認させてください」

 

 ビーンズさんは電話を取り出して数分ほどやり取りを繰り返した。

 

「決まりました。開始前の宣言通り、場外で乱闘を行った314番、ヒソカさんは脱落となります」

「残念♤」

 

 ヒソカはまったくもって平気な様子でそうごちる。

 

「そして1番、ミチノリさん。

 貴方の過去の実績、最低限の武の心得(ネン)、そして今回の一次試験の結果を受けまして──」

 

 彼はオレに目を合わせ、ハッキリとこう言った。

 

「──()2()8()6()()()()()()()()を、合格とします!」

 

  ◇

 

 ──第286期ハンター試験(含裏ハンター試験)。合格者一名。

 

 これにて前哨戦は幕を閉じ、物語の舞台は予言の導くヨークシンへと移り変わる。

*1
オーラ攻防力としては、全身10、手のひら15でも条件を満たす

*2
念獣を増やした数 - 自然死(寿命で死ぬ念獣)の数

*3
中央値が100に近く、たまに上振れがある

*4
念獣は乾眠状態でしか収納できない。繁殖のために意識ができてしまったことが理由である。意識がある念獣も入れられるとなると守護念獣を触れるだけで無力化できるという無法が可能になるためこのような仕様になった。覚醒直前の乾眠状態で収納すれば擬似的に通常状態の念獣も入れられるため、あくまでマンチ使用ができなくなる仕様と考えて良い。今の仕様も充分マンチではある

*5
殺意による直接的な殺人行為

*6
第288期




何度も読み返し楽しめるバトルになっているかと思います
感想、高評価、お気に入り、ここすき、しおり、考察お待ちしています!

更新版(ハツ)設定
隔離クマムシ(シェルターベアー)(具現化系能力)】
親指大のクマムシ型の念獣、隔離クマムシ(シェルターベアー)を具現化する。
この念獣は人ひとりほどが収まる、収納物の状態を維持する個別の念空間を内部に作る。
能力者が念空間より小さな対象と念獣に同時に直接触れることで、対象を念獣に収納できる。
念獣は乾燥すると乾眠状態になり、乾眠状態の念獣はなにもできないが、無敵性を持つ。
乾眠状態のときに湿らせると通常状態に戻る。
念獣が破壊・死亡したとき念獣はオーラとして霧散し、収納物は念空間から排出される。

制約:
・念獣の破壊・死亡なしに収納物は念空間から出られない。
・念獣は1度に雌雄1匹ずつまでしか具現化できず、3匹以上に念獣を増やす場合は念獣同士を繁殖させる必要がある。
・念獣は能力者から10メートル以上離れると死亡する。
・念獣は具現化を解除できない
・通常状態の念獣を維持するためには自身のオーラによる定期的な給餌が必須である。
・通常状態の念獣には寿命がある。これは実在のクマムシと同程度である。
・意識のある対象は、本人の合意がなければ収納できない。

誓約:
なし。

ミチノリは認めたがらないでしょうが、不殺の誓約がなければ隔離クマムシ(シェルターベアー)は念獣生産量換算で月に数匹程度しか増やせなかったと思います
それでも強い
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