最強はポットクリン(別題:その無敵性を絞り上げる)   作:淵岳 月夫

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オリジナル念能力杯2026、ありがとうございました記念投稿!
この話は期間外も投稿させていただきます!

結構考察回です


9月1日②

「それでは堅苦しいあいさつはぬきにして。

 くたばるといいね」

 

 舞台の上。フェイタンの後ろに控えていたフランクリンが、両の(かいな)を大きく広げた。

 鎖につながれた指は手から外れ、銃口のような虚空を見せている。

 

 その向き先は壇上の前方一帯。

 客席に集まった、地下競売(アンダーグラウンドオークション)の参加者全員が標的であった。

 

 ──俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)!!

 

 その指より放たれた念弾(ねんだん)は、集まったマフィアたちの身体を叫ぶ間もなく引きちぎる。

 9月1日、午後9時丁度の地下室からは、悔いも()()もかき消えた。

 

「ワタシ出番あるか?」

 

 そのあまりにあっけない末路をみながら、フェイタンは壇上から客席を見渡した。

 (ねん)のため。本当に(ねん)のための警戒である。

 

(ん?)

 

 驚いたことに、念弾(ねんだん)の雨の中で会場の扉が内側から破られる様が目に入った。

 しかし、扉の外にはシズク─同じ幻影旅団(げんえいりょだん)の仲間が控えている。

 この封鎖が破られることはまずもって──。

 

(いや、違う)

 

 フェイタンはフランクリンに声もかけず、一息で壇上から扉の外へと跳ぶ。

 

(生き延びたのなら、扉の破られるタイミングが()()()()

 フランクリンの念弾(ねんだん)は椅子程度の障害物で防げる程度の(やわ)なものじゃない。

 防ぎ切って出ていったなによりの証拠!)

 

 扉の外には今にも掃除機型の具現化物(デメちゃん)を振り下ろそうとするシズクと、スーツ姿のアフロフェードの男。

 男は彼女を正面に見据えながらも、腕を大きく振って、走る速度を緩める素振りも見せなかった。

 

(──()る)

 

 壇上から扉の外。ここまで一歩。

 扉の外から男の背後。ここで二歩目を踏み込んだ。

 

 前後の挟撃である。

 シズクによって振り下ろされるヘッドとフェイタンが突き放つ仕込み傘は、初動の差などなかったように同時に男の身体を捉え、

 

「──!!」

「あれ?」

 

 同時に、彼らは空ぶった。

 男の身体に攻撃が当たるまさにその時、男の姿が掻き消えたのだ。

 

 瞬間、男は座標がズレたかのようにシズクの後ろに現れ、折り曲げた足に手をかざす。

 そして、伸ばした次の一歩で、地下の出口へと跳び立った。

 

──シィッ!

(逃した!)

 

 空ぶると同時にシズクの脇を通して放った仕込み傘からの弾丸は、消えるような跳躍により外れる。

 (三歩)階段の壁(四歩)(五歩)

 フェイタンが一階の出入り口から外に出たとき、彼は男の姿を見失っていた。

 

「……なまてるね」

 

 あの、ウボォーギンのような力任せの直線移動に後れを取ってしまうとは。

 フェイタンは遅くなった自分に驚いた。決して速い相手に、ではない。

 

「ごめん、取り逃がしちゃった」

「別にいいね。その辺いるか目()らすよ」

 

 遅れて出てきたシズクとあたりを見渡すが、地面を強く蹴った跡を残すのみで、怪しい影は見当たらない。

 

「あっ!」

「見つけたか?」

 

 シズクが声を上げて指した先を見る。

 

「カラスだ!」

 

 どこにでもいるカラスであった。

 

「……操作もないカラス見つけてどするか」

「いや、かわいいなって」

「アホね」

「お前ら、なに漫才してんだ」

 

 二人の後ろから現れたフランクリンの影が出入り口から伸び、驚いたカラスが飛び立った。

 

「あっ」

「一人取り逃がしたね」

「別にいいだろ。殲滅は手段でしかねェ。

 逃げ延びた奴が仲間引き連れて戻ってきたら、そんときゃまた潰せばいい」

 

 フランクリンはすっかり元に戻した指で頭をかく。

 

「それよりシズク、早いこと死体を片づけてくれねェか。

 血の臭いが留まってたまんねェ」

「……ワタシここでまてるね。臭いムリよ」

「人使い荒いなぁ」

 

 そう愚痴りながら、シズクは具現化物(デメちゃん)のヘッドで肩をたたきながら建物に戻っていく。

 

「あ、さっきの人だけど」

 

 シズクは出入り口の手前で二人に向かって振り返った。

 

「挟撃したとき、空ぶったというよりはなにかを潰した感覚があったんだよね。腕のあったところくらいで。

 フェイタンはなにか見えた?」

「気にしてなかたね」

「鈍りすぎじゃない?」

 

 煽りのようなシズクの言葉をフェイタンは聞き流した。

 彼の戦闘の術理からして的外れな言葉だったからだ。

 

 目への(ギョウ)は戦闘の基本だが、常に(ギョウ)をすればいいわけではない。

 本命の攻撃を仕掛ける側の、特に、インパクト時のそれはまず無意味だ。

 

 第一に攻防力のバランス。

 目への(ギョウ)を高めるほど高度な(イン)を看破できるが、目にオーラを割り当てるとその分だけ攻撃に充てるオーラは少なくなる。

 カウンターを見抜いても攻撃がへなちょこであれば意味がない。

 もしカウンターを受けたとして、(リュウ)によって攻防力を素早く移動させる技術の方がよっぽど有用である。

 第二に迎撃(カウンター)型の特性。

 能力の主体に迎撃を置いている迎撃(カウンター)型は、待ちの姿勢のときの変化が二極化されている。

 (ゼツ)のように顕著なもの、あるいはフェイタン自身のように、まったく素振りを見せないもの。

 どちらにおいても、(ギョウ)をする意味はない。

 第三に状況。

 そもそも、有効打を狙う際には確実な隙を作るべきである。

 フェイント、挟撃、処理の飽和。

 相手に反撃できない状況を作ることこそが戦闘の基本だ。

 

 遠くを見るように(ギョウ)をするとはよく言ったものである。

 近くを見る時には遠くを見る必要はない。

 

「マ、次あったら見逃がさないね」

 

 本気の攻撃の際に目の(ギョウ)は不要。

 つまり、フェイクであれば有用であるのもまた事実であった。

 

  ◇

 

「くそォオオオオ!!!!!」

 

 時間が過ぎて12時前後。

 強面の男が血だまりで倒れ伏す近くの寝台で、大男─ウボォーギンが声を上げた。

 

 彼はマフィアの最高戦力である陰獣(いんじゅう)との戦いの後、突如現れた鎖によって拘束された。

 そのまま連れ去られ、つい先ほどまで拘束されていた彼の頭は怒りで満ちていた。

 

「どこだ!!」

「逃げたんだよ」

「ウボォーが大きい声出すから」

 

 ウボォーギンを助けに来た内の二人、シャルナークとシズクが彼の後ろで野次を飛ばす。

 彼が拘束されていた地下から階を上がって捜索しても、そのアジトは既にもぬけの殻であった。

 

 ──ギィリッ

「団長に伝えてくれ。

 俺は鎖野郎とケリをつけるまで戻らねぇとな」

 

 歯を食いしばって宣言したウボォーギンに、彼の周りにいた仲間は一様に肩をすくめた。

 彼がキレたときに発生する、いつも通りのやり取りだ。

 

「おい、ウボォー。ちょっとこっち来い」

「あ゛?」

 

 怒りに燃えるウボォーギンの様子を無視して、部屋の外からノブナガが声をかけて来た。

 その指は彼らの足元を指し示していた。

 

「んだよ、しょうもねぇ話ならぶっ飛ばすぞ」

「ところがどっこい、面白れぇんだなこれが」

 

 ノブナガに連れられてウボォーギンがたどり着いたのは地下二階。

 彼が拘束されていた部屋そのものだった。

 

「おい、捕まった俺をおちょくってるんじゃ──!」

 

 ウボォーギンはその部屋に違和感を覚え、いらだちに歪んだ顔を引き締め直す。

 その部屋には、あるべきものがなかった。

 

「気づいたか」

「さっきまで倒れてた奴の、死体はどこだ」

「それが、どこにも見当たらねぇ」

 

 ウボォーギンを助けるに当たり、フィンクスが胸を貫いた男。

 ダルツォルネと呼ばれていたその男の死体がなかった。

 血痕そのものはある。男が倒れ伏していたという事実は変わらない筈であった。

 

「ノブナガ」

「ああ、奴は少なくとも、自力で動ける状態じゃなかった」

「ちょっと誰? トイレ使ってんの!」

「……」

 

 二人の視線が部屋をつぶさに観察し始めたそのとき、部屋の外からマチの声が響いた。

 良く通る声に彼らは顔を見合わせると、その部屋を出る。

 

「敵地で用を足すとか馬鹿なの? 気が緩みすぎてんでしょ」

 

 マチの元まで向かうと、彼女は二人のどちらかが犯人かのような口ぶりで個室を指さしていた。

 その個室では、トイレを流し終わったときの水流の音がたしかに聞こえる。

 

「で、どっち」

「どっちでもねぇよ」

 

 マチの言葉にウボォーギンが真剣な表情で返した。

 

「は? じゃあ誰だってんの」

 

 彼女はウボォーギンの声色に顔をしかめる。

 ウボォーギンの言葉を引き継ぐように、髭をなでたノブナガが言った。

 

「羽虫が潜んでやがったのさ」

 

  ◇

 

「オ゛ェッ、くっさ!」

 

 オレはそう悪態をつきながら下水から横の通路に這い出た。

 この()()()()、嫌いなんだよな。

 どうも、臭いし狭いし、念獣は身に着けられねえし、慣れそうにねえ。慣れたくもないが。

 

「……ま、これでひとまずノルマはクリアだ」

 

 そう、オレは懐からチャック付きのポリ袋に入った三匹の念獣を取り出した。

 この念獣たちこそが、オレの行う予定であったほぼすべての介入の成果である。

 

 クラピカに取り入るため、オレは彼の求めるニーズを考察した。

 

 もっとも欲しがるのは亡くなったクラピカの同胞たち、クルタ族の()の目なんだろうが、それに触るのには少し疑問が残った。

 

 一つは、今年の地下競売に出品される()の目が誰の持ち物なのかわからないこと。

 原作のクラピカのセリフから、十数人ほどがそれらを所有していることは分かるが、出品者自体は原作からは絞り込めない。

 所持者の幾人かは人体蒐集家の集まる闇サイト上でのコミュニケーションで特定できた。

 彼らからクラピカへの手土産にそれらを奪うこともできるが、出品者である可能性を考慮すると、下手な行動はとれなかった。

 意図せずにヨークシン編の流れそのものを大幅に変えてしまう恐れがあるからだ。

 

 もし本来の出品者から奪ってしまった場合、最悪、自分で出品するという手もある。

 が、それもやめておいた。

 嘘がわかるセンリツや、そもそものクラピカがいる前ではいつ見破られるかわからない。

 リスクに対してリターンが釣り合わないのだ。偽証は強欲と等しく最も恥ずべき行為だから仕方ないね。

 

 もう一つは、単純な戦力としてのアピール。

 こいつも微妙なんだよなあ。

 クラピカはなんでも自分一人で解決したがる節がある。

 目的が復讐と弔いだからわからなくもないのだが、イズナビが保険にと空けさせた人差し指の鎖の能力も一人で闘うためのものにしたのだから、筋金入りだ。

 

 ゴンたちがヨークシン編でクラピカの心を開き彼に協力できたのも、先に強い仲間意識があったからだろう。

 そんな彼に力だけを売り込んでも、利用しあう相手にはなれても信頼を得るのは難しい。

 

 最後の一つは、これが本命なのだが、彼の原体験へのアプローチだ。

 クラピカという人間は一言でいえば復讐者である。

 しかし、なにも初めからそうであったわけではない。

 元々の彼は論理的で頑固なクソガキで、好奇心が強く、ハンターに対して強い憧れと誇りを持ち、なにより友達思いだ。

 その性根は成長しても変わっていないが、その目的ゆえに性根のままに取れる手立ては少ない。

 

 そこでオレだ。

 オレがクラピカの手の届かない手段、目の届かない場所をカバーすることで彼の誇りや信念を守る。

 そうして、彼の道行を亡きパイロに「楽しかった」と答えられるようなものに少しでも近づける。

 これこそが最も取り入りやすい、潜在的なニーズ!

 

「それをもっとも叶えやすいのが、ヨークシン編なんだよな」

 

 濡れた服を収納し、取り出した服(念獣付き)に早着替えしたオレは、手元のポリ袋をつまみ上げる。

 ポリ袋の中の念獣には、三人の人間を入れてある。

 イワレンコフ、トチーノ、ダルツォルネ。

 それぞれが、この一日で消えるはずであった者たちだ。

 

 彼らを助けること。それはクラピカの心理的な負担を軽減し、かつ仲間を集めるというオレの目的とも一致する。

 クラピカは顔見知りが殺されていく状況を平気で利用できるほど、性格は悪くないはずだ。

 苦虫を潰したような顔で利用するような奴である。

 少なくとも、彼らの生存はアフターフォローにはなるであろう。

 また、トチーノの能力はオレのそれと相性もよく、ダルツォルネもある程度の銃弾は平気だろうと目されるほどの念能力者だ。

 ハンタ世界では比較的強者の部類であり、クラピカがノストラードファミリーを再編するときや、暗黒大陸への渡航の際にも彼らの生存は役に立つはずだ。

 イワレンコフ? 知らん。ついでだ。

 

 よって、オレは彼らを助けた。

 また、彼らを助けるうえで少し工夫も必要であった。

 

 イワレンコフとトチーノについては同じ競売担当として同行し、ダルツォルネについては幻影旅団の襲来時まで天井裏に潜伏することで救助した。

 フランクリンの念弾(ねんだん)は念獣を敷き詰めた盾によって防ぎ、フェイタンたちからはシズクに念獣が潰されることを前提とした自身の格納と足への収納オーラの付与によって、ウボォーギンたちからは自身を格納した念獣をトイレから下水に流すことで逃れた。

 その間一度もクラピカたちとは合流せず、今のオレはトチーノたちと同じく暫定死んでいる扱いってことだ。

 

 ちなみに、フェイタンたちの近くにいたであろうカラスはオレのペットだ。

 オレは意識のある対象については、同意を得ることで念獣に収納することができる。

 この同意というのが厄介で、人間はともかく意思の疎通が取れない動物については、なにをされてもいいと思わせられるくらい自身になついたものでないと収納できなかった。

 その点、カラスは人によくなつき、物覚えもいい。

 咽頭(いんとう)に通常状態のクマムシを詰めて、近くに誰もいない場所で吐き出して潰す、なんて芸当も覚えられるほどである。

 収納でき、逃走に扱えるほどの芸を身に着けさせられたのはこの一匹だけだった。

 

 ダルツォルネは胸を貫かれてもろ致命傷だが、念空間の中ではあらゆる状態が時が止まったように維持される。

 クラピカの絶対時間(エンペラータイム)癒す親指の鎖(ホーリーチェーン)で生かしながら、集中治療室で心臓移植をすれば一命はとりとめるだろう。

 他にも大天使(だいてんし)息吹(いぶき)があれば、G・I(グリードアイランド)内でも治療が可能だ。行きたくないけど。

 

 このようなタイミングで助けた理由としてはどちらも同じで、原作への影響を極力減らすためだ。

 トチーノたちの競売への参加はノストラードの護衛団に警戒態勢を取らせるために必要であり、ダルツォルネについてはこの数日間に復帰可能な状態だとクラピカが現場の指揮権を得られなくなる。

 つまり、ウボォーギンとの対峙の流れも消え、ヨークシン編のその後の展開が不透明になる。

 最悪ボス、ネオンの安全のために旅団と対峙せずに帰ることもあり得るだろう。

 

 なぜこれだけ原作、それもヨークシン編への影響を恐れるのか。

 それはキメラ=アント編への影響を考えてのものだ。

 

 キメラ=アント編ではゴンたちによる王宮突入後、ゴンとネフェルピトーが対峙する場面がある。

 そこで、ゴンはコムギの安全を盾にカイトの治療をピトーへ要求した。

 この流れの背景には、ゴンがヨークシン編での人質交換の当事者となったことがある。

 ここでのコムギの人質はシャアウプフとピトーの会話につながり、ひいてはそれを聞いていたウェルフィンがメルエムへの回答によりコムギの記憶を取り戻させるのにつながる。

 メルエムが記憶を取り戻さなければ、ウェルフィンどころか、ピトーの死体の近くにいるキルアや瀕死のゴンという主要人物の命も危うくなる。

 

 ……ね、(下手に触ると)危険でしょ?

 本当に関わりたくねえんだ、キメラ=アント編は。

 

 また、ヨークシン編の終了時刻も重要なポイントだ。

 ゴンたちは9月6日に地下競売ではないオークションに参加する必要がある。

 そこでバッテラたちに会うことで、G・I(グリードアイランド)への参加資格を得るための選考への挑戦が可能となるのだ。

 G・I(グリードアイランド)は複数個売られるため9月6日ではなくても会えるのだが、選考の準備を考えるとこの辺りが締め切り(デッドライン)だろう。

 こちらも過ぎるとG・I(グリードアイランド)編、ひいてはキメラ=アント編への悪影響が考えられる。

 それまでには、クラピカと旅団の因縁にもひと段落を付ける必要があった。

 

 つまり、オレが介入したのは三人の救助。

 それにあたって守らねばならない事項は以下の通りだった。

 

 ①クラピカが旅団と対峙し、クロロに掟の剣、律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)を付けることでこう着状態をつくること。

 ②ゴンが人質交換を体験すること。

 ③①と②が9月6日までに完了すること。

 

 こうして見ると、細かい制限こそあれど介入の幅は大きく見える。

 実際、三人を助けられたのはそれのおかげだしな。

 B・W(ブラックホエール)号編だとこうはいかないだろう。

 

 また、ヨークシン編の流れを保つためにもヴェーゼには護衛団への入団試験を受けないように誘導させてもらった。

 ウボォーギンが捕まった段階でヴェーゼがその場にいた場合、180分の恋奴隷(インスタントラヴァー)によって自由に操作できるウボォーさんスイッチが完成してしまい、②が成立しないからだ。

 操作系強制型が強すぎるっピ……。

 

「まあつまり、オレの目的は既に達成できちまったわけだが……。

 なんであんな予言になったのやら」

 

 ネオン=ノストラードの占いの結果は、オレが求めたささやかなリターンとは比較にならないほど重いものであった。

 彼女の占いを1、2と章立てて並べるとこうである。

 

  1-1.あなたは赤い灯をかかえて林檎の樹を登るかを迫られる

  1-2.拾える実があるなら拾い、落ち葉は遠ざけなさい

  1-3.時が来たら誰よりも雄弁でありなさい

  1-4.全てに届けば全てが手に入る

  1-5.蔦は境にしか現れない

 

  2-1.蔦は境にしか現れない

  2-2.樹を登れず蔦もつかめなかったあなたは

  2-3.残る樹を枯らさないために

  2-4.六つの棺と共に眠りにつくだろう

 

 この詩を読解するために、まずは章の大意を拾って、次に章の中の節を読解し、最後に一つの仮説を詩の翻訳としてまとめる。

 また、その性質上、章2.から章1.の順番で読んでいくことにする。

 

 全体を読む前に、1-1.にある「林檎の樹」について。

 これは一見意味不明な暗喩だが、オレ個人にだけ読み取れる意図がある。

 原作にあるヒソカへの予言にある天使、逆十字などを見るに、天使の自動筆記(ラブリーゴーストライター)は現実世界で言うところのキリスト教圏の言葉も好んで使う。

 林檎の樹というのはキリスト教で知恵の樹とされる説も根強く、それは往々にして知識を意味する。

 転生者にとっての知恵の実。つまり、原作知識のことと読める。

 

 1-2.の実や落ち葉は、原作知識によって救えたトチーノたちや、文字通り遠ざけたヴェーゼのことと思えば納得がいった。

 よって、ここまでの介入は間違いではないことがある程度推測できる。

 

 そして、2.全体についてなんだが……。

 これは、オレが旅団のメンバーを殺したことで、誓約によりオレ自身も死亡したとみて間違いないだろう。

 

 まずそんなことができるかについてだが、まあ、本当に後先を考えなければ可能だろう。

 物理的な攻撃が有効であれば、地区一つを道連れにどんな相手でも殺害できる自負はある。

 もちろん、自分も道連れだが。

 

 なぜそのようなことをしたのか、についても、2-3.からある程度結論が出ている。

 

 2.が起きる事象として最も有力な説は、オレの介入によって原作が大きく歪められ、結果として暗黒大陸編以降を望めなくなった、というものだ。

 例えば、ゴンやクラピカの主要人物の死亡が考えられる。

 生きるモチベーションが失われて無敵の人になった結果の惨状というわけだな。

 

 では、ここで2-3.の「残る樹」というのはなにを指すか。

 それは、未来で残っている原作の要素やフラグ、などではおそらくない。

 重要なのは、この予言を9月1日に読むという事実が、初めから確定していたということ。

 つまり、未来のオレは、自分の行動によって過去の自分へ情報を送ることができると自覚している。

 

 おそらく、残る樹とは今。時間軸上において修正できる現在を指す言葉だ。

 その性質上、悪い未来ほど予言に現れやすいというのも大きい。

 旅団を殺して自分も死ぬなんて、もっともわかりやすい最悪な未来だ。

 

 2-4.にある「六つの棺」というのも、原作のクロロたちが占った旅団の未来と符合する。

 これは、未来のオレが帳尻を合わせようとした結果じゃないだろうか。

 

 これらの符号を照らし合わせると、だ。

 

 Ⅰ.オレの介入によって事項①、②、③が達成困難になった。

 Ⅱ.物語の続きを見るという目的が達成できなくなったオレは、警告のために旅団と心中した。

 Ⅲ.追加で、旅団の占いへ干渉することで彼らの動きをコントロールしようとしている。

 

 ……改めて思うが、ここまでするか、オレ?

 明らかに頭のネジが何本か飛んでるだろ。

 ここまでくると、事項①、②、③が達成できなかったタイミングで凶行に及んでもおかしくないな。

 

 で、その最悪の未来を回避するための予言の1.なのだが、これはこれで難題だ。

 まず、1.の全体で示唆されていることは原作への介入、それも旅団との対峙だろう。

 これは、1-1.の「赤い灯をかかえて」という部分から想像がつく。

 

 赤い灯というのは()の目であることは自明だろう。

 ただ、それがクラピカを指すのか景品を指すのか、かかえるとはなにかは定かではない。

 しかし、1-1.「林檎の樹」を受けて原作を見返すと、「()の目をかかえて」の部分が一目でわかるところがある。

 

 それは、スクワラがクラピカの連絡を受け、旅団から逃げる場面である。

 ここでスクワラがかかえていたのはコルトピの神の左手悪魔の右手(ギャラリーフェイク)による偽物の()の目であり、(エン)の機能をもつこれを検知して旅団はスクワラを追いかけた。

 

 そして、1-5.と2-1.で予言される「蔦」と呼ばれるタイミングについても、それを指していると見てよさそうだ。

 以降に()の目をかかえる必要のある場面がないからな。

 

 旅団と戦う。2.と矛盾しているように聞こえるが、これほど難しいことはこの世にあまりない。

 彼らはそれぞれの分野で突出した(ネン)のスペシャリストだ。

 そして、スクワラの場面と考えると仮想敵はノブナガ、コルトピ、パクノダとなる。

 能力の全容の分からないノブナガに、馬鹿みたいな能力範囲のコルトピ、そして、転生者として最も対峙したくないパクノダ。

 

 正直、かなりキツイ。

 念能力者を複数相手取るのがまず厳しいのに、旅団三人? 馬鹿のやることだろ。

 

 そして、その有効打となる1-3、1-4についてなのだが……、「雄弁であれ」と「全て」。

 これが指し示す恐ろしい推測があった。

 

 1-1.に「林檎の樹」が暗喩として使われている時点で導ける全て。

 それは、()()()()である。

 

 つまり、予言の示す対処法の仮説はこうだ。

 

 ──旅団に勝ちたければ、この先に起きることを全員に暴露しろ

 

 ……いや、馬鹿だろ。

 

 まず、原作知識を暴露したところで、相手に信じられるかという問題がある。

 天使の自動筆記(ラブリーゴーストライター)のような特質系ならともかく、具現化系の、今ある能力で容量がパンパンな念能力者が言っても半分信じられればいい方だろう。

 

 そして、信じられた場合もっと最悪なことが起きる場合がある。

 キメラ=アント編に起きることを知られた場合、協会側がアイザック=ネテロの死亡なく、キメラ=アントに対処できてしまうかもしれないというものだ。

 実際、メレオロンに貧者の薔薇を埋め込み、神の不在証明(パーフェクトプラン)を使ってメルエムの近くで起爆してしまえば蟻の命一つで終わってしまう話なんだよな……。

 本人がやるかは別として。

 

 こちらで情報を制御できればいい話だが、あちらにはクラピカやセンリツという勘がよく、嘘を暴けるものがいる。

 「これ以上先の未来を知っているか」や「その未来に改善の余地があるか」などの質問が行われた時点で、質問は拷問に変わる。

 クラピカたちと仲良く暗黒大陸編とはいかないだろう。

 その前に、()の目を大量に持つツェリードニヒに強襲を仕掛ける場合すらあるしな。

 

 これらの問題が解消されたところで、事項①、②、③は達成できるのか?

 ……対旅団特化のクラピカさんならなんとかしてしまえそうな気がしてきたな。

 

 まとめると、今までの仮説通りに翻訳した予言は以下のとおりだ。

 

  1-1.あなたは偽の()の目を持って旅団と対峙する

  1-2.トチーノたちは助けて、ヴェーゼは遠ざけてよい

  1-3.対峙する前に、原作知識を暴露しろ

  1-4.全員に伝われば勝利できる

  1-5.対峙できるXデーは一度だけ

 

  2-1.対峙できるXデーは一度だけ

  2-2.対峙も勝利も出来なかったあなたは

  2-3.予言を見たときの自分にメッセージを送るため

  2-4.旅団六人と心中する

 

 そして残る疑問点は二つ

 ・なぜXデーに旅団と対峙しないといけないのか

 ・本当に原作知識を暴露する必要はあるのか

 

 ……うーん、納得がいくような、いかないような。

 まあ、まだ時間はある。疑問点は動きながら考えるしかない。

 

 予言からしてXデーは9月4日、週をまたぐ手前の土曜日だろう。

 あと3日。なんとかしてこの時間を有効活用していきたい。

 

「……まず、下水から出るか」

 

 慣れてしまった鼻を歪めてここら一帯の地下水道の地図を懐から取り出した。

 こういう資料がすぐに集められるの、やっぱハンター(ライセンス)って便利だわ。

 

  ◇

 

 ──律する小指の鎖(ジャッジメントチェーン)!!

 

 心臓を潰され、目の前で崩れ落ちた大男─ウボォーギンを見て、クラピカの目にともった緋色の輝きは消えていった。

 

「私だ……、あと一時間ほどして戻る」

 

 ふらつきながらも携帯でセンリツに連絡を取ったクラピカは、ウボォーギンを埋葬しながら物思いに耽った。

 

(俺は人を殺した。咎人であったとは言え、殺人は殺人だ)

 

 砂に覆われていく男の目は虚ろで、そこにはなにも映っていない。

 

 彼は自身の故郷の村で起きた惨劇を直接目にしていない。

 森の奥にある村の機密性ゆえ、事件発生から発覚まで日が経っており、その公表も調査のあとに行われた。

 事件を知り急ぎ足で故郷に戻った彼が見たのは、荒れた家とありのままの自然。

 残った遺体はきれいに埋葬されており、その顔を見ることはできなかった。

 

 ゆえに、クラピカが目を閉じた時、瞼裏(けんり)に映るのは彼が日々を過ごしてきた故郷の景色だった。

 見送ってくれた村長、父と母、そしてパイロ。

 これまでははっきりと見えていたそれが、今はやけにぼやけて見える。

 

(もう、戻れないな)

 

 ミチノリが誤解を、いや、目を瞑っていたのはそもそもの彼の目的と気質の不一致である。

 ウボォーギンを殴りつけたとき、彼の心には快感も、霧が晴れたような心地もなかった。

 こうして男の墓を作った今も、その瞳は黒をたたえるのみである。

 

(……ごめんな、パイロ)

 

 シャベルを片手にクラピカは車に戻る。

 男が倒れてから彼がこの場を去るまで、三分もかからなかった。

 (ネン)を覚えた類まれなる彼の才覚は、感傷に浸る時間すら彼から奪い去っていく。

 

 9月2日。日も変わる頃の出来事である。




“One cannot see of what use they could be to the public, as they could not possibly be understood till they were interpreted after the event and by it.”
『それらが一般の人々にとって何の役に立つのかは分からない。なぜなら、それらは出来事が起きた後、その出来事によって解釈されて初めて理解できるものだからだ。』
Charles A. Ward『Oracles of Nostradamus』(1891)
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