──最強。
それはこの世に比肩するものがないという、文字通り最も強い称号。魔物や天使、悪魔、或いは人……あらゆる生物を含め、やはり強者というのは尊び尊敬されるモノです。
しかし、真なる強者というのは常人が想像する強者とはかけ離れた奴らなんです。
『七大厄災』
通称“ジーベンス”。
私が所属するこの組織は、神や上級悪魔を易々と一人で屠ることの出来る最強達が跋扈する、とんでもない厄災共の集まり。その中でも私は、最弱を自負しています。というか、実際そうなんですよ。
だから辞めたくて辞めたくて震えちゃうくらいです。
え?じゃあなんでそんな組織に所属してるのかですって?
「まさか私が戯れで創った組織に、こんな化け物たちが入ってくると思わなかったんですもん」
そもそもの始まりは、ほんの些細なことでした。
当時強すぎてまともに戦う相手が居なかった私は、恥ずかしながら厨二病というものに感染していました。思春期の男女が患うアレですアレ。
自分と張り合える強者が居ない上に、挑戦者が現れたと思ったら弱パンで容易く死んじゃうんですから暇で暇で仕方なかったんです。そんな日々を過ごしているうちに、ある日ふと思いました。
──そうだ、組織を作ろうって。
別に世界征服を企んでいたわけでもないですし、神々に反旗を翻そうとしたわけでもなければ、世界を滅ぼそうとしたわけでもありません。そんなの簡単ですから。
ただ、なんとなく。
なんとなく、強そうな人たちを集めて戦いたい。それだけだったんです。
「……で、なんでこうなったんでしょうね」
目の前に広がる巨大な円卓。
どこかの大陸の有名な彫刻家が掘ったというソレは豪華かつ絢爛で、
そして私同様椅子に座って黙り込む他の組員達は、冷や汗が出そうなほど巨大なプレッシャーを放って指示を待っています。
誰からの?もちろん私の。
私と張り合える相手を探していたのに、私より強い人達が集まってしまった組織の創始者兼リーダーである私は、間違っても誰かの不機嫌を被らないように今日の議題について話します。
「さて、本日もお集まり頂きありがとうございます。今回の“
ゴクリ、と生唾を飲み込みながら
世界最強の七人が集まってるんですからもっと有意義な
考えすぎ?
いいえ、前例が幾つかあります。
『ちょっと散歩しましょう』
そう言ったら、翌朝には敵対していた魔王軍が壊滅していました。
魔王は瀕死の状態で私の前で土下座していて、どうか妻と娘だけは許して欲しいと懇願していたのを覚えています。
これは一人の犯行でした。
『旅行したいのに、戦争が邪魔ですね』
そう言えば、国家間の十年ほど続いていた戦争がたった数時間で終結しました。両方の国家に甚大な被害を出して継戦不可能になったため、半ばなし崩し的に平和条約を結んだらしいです。
これも一人のばか……いえ、二人のあほがやる気を出してしまったからです。
『最近、近所の森が煩いのでもう少し静かにして欲しいですよね』
世間話をすれば、大陸中で暴れていた魔物の群れが一斉に活動を停止しました。壊滅した魔物たちはその日の夜食で様々な料理として振る舞われ、胃痛に苛まれたのを忘れていません。
此方についてはまた別の一人の犯行でした。
このように、私の組員たちは強すぎる癖に頭に常識という名のリミッターが付いていない筋肉馬鹿達ばかりなので、
結果として暴走させないように考えたのが、私の飼っているペットのネメシスちゃんの捜索という訳です。ベッドの上で抱き締めていたはずなのに、朝起きてみれば居なくなっていたのでちょど良かっ──もとい、手伝ってもらおうと思います。
むしろ普段組員たちに胃痛を引き起こしてるんですから、これくらいは許容してもらわないと困るんですよね。
「んふ、ネメシスちゃんの搜索ね?アタシに任せれば一発よ」
「この地域……生命反応……探知する……任せて」
「なんじゃ、今日こそリーダーが世界征服をすると思ったのに。まぁよい、我らがリーダーからの
一人二人と癖の強い組員たちがネメシスちゃんの捜索に納得し、パパっと席を立ちます。きっと数分も経たないうちに見つかるでしょうが、
ちなみにこれを提案したのは私です。はい、馬鹿です。
今になってこの決まりに頭を悩ませるなんて、過去に戻って自分を殴り飛ばしたいくらいです。
……まぁ、出来ますけど。
過去改変なんてしたらどうなるか分からないのでしませんけどね!
兎も角、目標を達成できました。
椅子に座って脚を組みながら、席を立つ組員たちを眺めます。ここからは
「はぁーあ」
なので溜息をついて円卓を眺めるのも良し……なはず。
少し躊躇しながら溜息をつくと、私の横に立っていた秘書を務める眼鏡を掛けた組員が話し掛けてきました。
「お疲れですか、リーダー」
「えぇ、少し。先日新しく魔王と勇者が誕生したという報告を受けたので、様子見に行こうかなと……でもやっぱり少し面倒臭いです」
「なるほど……他の
そう言って私の頭を優しく撫でてくれる秘書。
今ではこんなに優しげで知的な彼女ですが、神々の住まう天界でほぼ全ての神を滅ぼして追放された最上級天使、という中々の経歴を誇っています。
名前は“リベリアヌス=ゴッドフィールド”
愛称はリアで、豊満な胸元に刻まれた数字の『2』というムカデ型のタトゥーはジーベンス内の強さを表しています。つまり、彼女が世界で二番目に強いということです。
じゃあ『1』は誰か?
私の内太ももに割り振られている数字のことですね、はい。でも最弱なので、結果としてリアが世界で一番強いことになります。
ね、簡単でしょ?
私だってめちゃくちゃ強いので、天界を滅ぼすことだって多分できます。でも流石に無事にという訳にはいきません。なのにリアは、神々を滅ぼした結果自分より強い奴がいなくなったので、『飽きた』と言って自ら追放されたらしいです。
しかも無傷で。
もうね、頭おかしいです。見た目は知的で実際頭も良いんですが、考え方が蛮族なんですよ。
この子が一番最初にジーベンスに入ってきた時点で、私の“自分は最強だ”という奢りは根元からへし折れました。でも流石にこれ以上強い人は入ってこないだろうと高を括っていたのに……物の見事にその予想は覆ったわけです。
物語で言えば、「くくく、奴は我らが
もう隠居したいよ。
こんなじゃじゃ馬たちを手懐けるなんて、私は動物園の飼育員か何かでしょうか?それにしては過重労働です、ブラック企業で訴えますよ。
「リーダーのお世話は私が担当させて頂いているので、差し支えなければ新生勇者と魔王は私が監視致しますよ?」
「っ、いいえ。私の仕事は私が済ませます」
冗談じゃありません。
世界最強の天災たちの強さを目の当たりにするのは懲り懲りなので、そろそろ勇者やら魔王やらを見て癒されたいんです。
「あーそうそう、普通はこれくらいの強さですよね!うんうん!」ってしたいんです。私の劣等感を抑えてくれる子たちを眺めて、自分の強さを再確認したいんですよ!
……決めました。
先送りにしていた勇者と魔王の監視、さっさと私が行っちゃいましょう。ほかの組員たちに行かせたら殺しちゃいそうなので、私が一番適任です。
「他のジーベンスメンバーには伝えておいてください。他の皆さんを巻き込む訳には行きません」
「──畏まりました。それではやはり、一人で向かわれると?」
「はい。まずは魔族側にいるだろう魔王から行くつもりです」
嘘です。大ホラです。
探されたくないので最初は勇者から見に行きます。
別にリアのことを信用していない訳ではありません。
むしろ信用しています。仕事もできますし、頭も良いですし、私が適当に放り投げた書類なんかも翌朝には全部処理してくれています。秘書としては百点満点です。花まるあげちゃう。
ただし、寝室に勝手に入ってくる癖だけは直してほしいんですよ。
以前なんて、寝起きで愛猫のネメシスちゃんを抱き締めていたはずなのに、目を開けてみれば何故かリアが隣で寝ていたことすらあります。
本人曰く。
『リーダーの護衛です。どんな強者でも寝起きは無防備になるので』
とのことです。
護衛の概念を一から勉強し直してほしいですね。まぁ、そんなこと口が裂けても言えませんけど。
名残惜しそうに私を見つめてくるリアを尻目に、私は魔力を練り上げて転移の準備を開始しました。鬼がいぬ間に、もといメンバー達が帰ってくるまでに逃げる算段です。
仕事はリアに丸投げしちゃいましょう。
あわよくばそのままジーベンスを脱退して、田舎で細々と隠居生活をするのもありですね。
そう考えていると、ニコニコとした表情を浮かべたリアが転移する寸前に何かを呟いていました。気のせいでなければ「私も後でそちらに向かいますね♡」と言っていたような──聞かなかったことにしましょう。
顔面を蒼白にしながら転移が完了した場所は、魔法や剣術を学ぶ学徒が入り乱れる、巨大な学園の前でした。