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〜side
生い茂った森林の中を、裸身一つで疾駆する影。
それは眼前のモンスターを一瞬で切り刻み、学園都市が誇る森にトンネル状の跡を残しながらとある場所まで向かっていた。
目的地は、何人たりとも立ち入ることを許されない禁足地。
「ほっほ〜、ゴブリンやらスライムやらと初心者御用達のモンスターが多いのう」
どこからか取ってきたのか、巨大な魚を背中に背負った彼女の腰元には鞘がぶら下がっており、抜刀されていないのにも関わらず異様な雰囲気を漂わせている。
持ち主本人は素っ裸であり、脇腹に『7』と刻まれたムカデのタトゥーを惜しげも無く晒していた。
──《
世界に誇る七大厄災の中で『7』番目に位置する彼女は、その名の通り剣一つで成り上がった常識外れのソードジャンキーである。優れた魔力量を誇りながら剣の輝きに魅せられ、千年以上前から剣の鍛錬を続けているノナの強さは正しく覇道そのもの。
昔から活動しているハンター達の間では“生ける伝説”とも称されている。
剣で空を裂き、大地を穿ち、海を割る。
魔力を使わない徒手空拳なら、七大厄災の中でも最上位クラスだろう。もっとも肉体が強すぎるあまり風邪を引かないため、服を着る事を拒んだ異常者でもある。
「リベリアヌスめ……せっかくカシラの
彼女が愚痴るのは、『2』から
というのも、異世界から来訪した勇者が弱すぎるため、ちょっくら邪龍を解放してほしいという旨のものだ。
ちなみにこの邪龍というのは、現在教師をしているとある元冒険者が、封印という手段を取らざるを得なかった邪龍である。到底今の勇者たちでは全滅必須の鬼畜難易度だ。
当然そんな邪龍を解放されては堪らないと護衛も大勢いた……が、ノナの前では意味をなさない。既に床に転がって、皆仲良く気絶している。邪龍に封印を施していた大量の魔導具すらも、魚の形に切り刻まれていた。
どうやら封印解除が長すぎて遊んでいたようだ。
腰に提げた剣ではなく、そこら辺で拾った木の枝で魔道具の型抜きをして楽しんでいたノナだったが、周囲の澄んだ気配が澱んだのを感じる。
「およ?そろそろか」
そして──。
『──我が眠りを妨げる者よ、貴様は誰だ?』
かつて世界を恐怖に陥れた邪龍が、とうとう封印という眠りから目覚めてしまった。
正体不明の灰色の泥がグツグツと湧き出し、周囲の地面を侵食していく。紅く血のような双眸はノナの背後の木々を石化させ、毒々しい巨大な翼が一度振られると、遥か上空をいく小鳥たちが地面に勢いよく落下した。
僅か数メートルという距離で相対するノナは、世界を蝕んでいく巨龍を前にして──“ゼタ”の似顔絵を書いていた。顔が丸いこと以外は、会心の出来である。
近くにはリベリアヌスの顔もあり、教科書の偉人の落書きのように酷く脚色されていた。
『──おい、何をしている?人族の変人めが』
「んぁ?今良いとこなんじゃ、邪魔するな」
『──……そうか』
邪龍は意外と常識人だった。
彼、あるいは彼女は、目の前にいる封印を解除したであろう裸の女に困惑を隠せないのだ。
自分を解放して下僕になりたいのならばお絵描きはしないだろうし、討伐しに来たとしてもお絵描きはしない。逆にどう考えたらお絵描きしようという発想になるのか、邪龍は理解できなかった。
「よっしゃ完成したぞい!なかなか我らがカシラの麗しさを表現出来ているな、これは力作じゃ。お主もそう思うじゃろう?」
『──……そうだな』
「カッカッカッ、話が分かるやつじゃのう!」
なんだコイツ、話が分からんやつだな。
この時、邪龍はそう思った。
しかし目の前の女の身体を見て、その考えも一変する。
──コイツ、魔力を一切感じ取れん。
普通ならば漏れ出ているはずの魔力の流れが一切見えない。
弱者ならばいざ知らず、邪龍を封印しているこの地を守護する衛兵たちを薙ぎ倒す強者なら、漏れ出ているのはむしろ当たり前だ。なのに目の前の女は防具も身につけず、魔力を完璧に制御している。
それが如何に恐ろしいことか。
『──貴様、腰に提げた鞘と脇腹の『7』の刻印から見て、相違はないだろう。もしや……』
「……にょほっ、みなまで言うでないぞ?
妾はただ次世代の勇者と魔王の均衡を保ちたいだけじゃ。貴様は勇者を殺す気で相手する……それだけでいい。後のことは知らんから、勝手にせい」
『──やはり、か。まさか組織が出張って来るとは……運がいいのか悪いのか。だが解放されたからには、思う存分に暴れさせてもらおう』
───☆
ゼタside。
「えっ?」
「ですから、お断り致します」
理解できなさそうな顔をしてらっしゃったので、現実を叩き付けるように懇切丁寧にお断りを申し上げました。
なぜ断るって?そんなの簡単ですよ。
私は──百合に挟まる趣味はございません!
異世界から齎されたマンガという書物でも記載がありましたが、百合に挟まる何とやらは馬に蹴られて死ぬ運命らしいのです。私は別に運命やデスティニーやフェイトは信じていませんが、そんな結末は嫌です。
全く信じていませんよ?えぇ、ほんとです。
だからっ、震えるなっ、私の足めっ!
「……そ、そう。ところで足が震えてるみたいだけど、大丈夫かしら?」
「局地的な地震があっただけですので、一ミリも問題ありません。どうぞ続けて」
「……そうよね。流石にいきなり師事を乞うのは無理があったわ。さっきも失礼な態度をしてしまったし」
そう言って、しょぼんとした顔で訓練場に戻っていくアンジュさん。
何を勘違いしてるか分かりませんが、師事する点については全く問題はありません。
急に局地的な地震が来て、膝が震え出しただけですが何か?
……この前、『3』と『4』の仲の悪さにブチ切れたリアが、思い切り二人を殴り飛ばしてたんです。その時も命の危機を感じたのに、百合の間に挟まった結果死ぬなんて間抜けな運命、絶対に嫌ですよ。
私は小心者なんです。
だから師事をするなんて絶対──ん?なんでしょうかこの魔力反応は。なんだか結構大きめで、かつ龍が如く……っていう、龍そのものな気がします。
いやでもここら辺で龍なんて居ませんし、ましてやこんなに強そうな奴なんて封印されていた邪龍とかじゃなければ……いやいや、流石にそんな訳ありませんよね?
あの辺は『
だからこれは私の勘違いです。そういうことにしましょう。
「あ、あの……用務員さん?」
「なんでしょう?」
「顔がすっごく強ばってますよ?」
「……気のせいです。ところで今日は、局地的な地震があると思うので、アンジュさんを連れて私の寮へ来てください」
すっごく不審そうな顔で私を見るカリンさんにそう告げ、すたこらと持ち場に戻ります。
ノナが何を考えているか分かりかねますが、勇者を育てたいとかなら間違いなく失敗です。だってこの子達、そこまで強くありませんから。ですが可及的速やかに、具体的には龍が到着するだろう今日の深夜までに──このへっぽこ勇者たちを強くしなければなりません。
聖女ちゃんのサプライズ動画、夕方発表だったんですけどね……リアタイ視聴は無理かぁ。