帝国学園都市──“アルヴェイン”。
私が知っている情報によると、異世界人が齎した技術が結集されているという、大陸の中でも最先端な学園らしいです。
魔法も剣術も学べる上に技術職になりたい人はパトロン探しも出来るっぽいので、将来有望な若者にとってはこれ以上ない最高の環境でしょう。羨ましいですね。
ビバ、青春!
を満喫出来ず強さしか持ちえていない私にとっては、コンプレックスをひじょーに刺激されます。
なんですか?強さも組織内最弱だろって?チクチク言葉は辞めましょうね。
さて、いつまでも門の前で青春コンプレックスを拗らせている場合ではありません。私は勇者を探しに来たんです。決して学園生活に憧れて観光しに来たわけではありません。嘘じゃありませんよ?
「『
普段はジーベンスメンバーの裸を見ることしか使っていないらしい『
まぁ、変態過ぎるのが玉に瑕なのは目を瞑りましょう。
「お、おい見ろよあの人。めっちゃ美人だぞ」
「なんか困ってそうだよね。僕、話しかけようかな?」
「辞めときなよ……」
とは言え肝心の用務員の面接場所がどこか分からないので、先程から私に熱い視線を向けてくる男子生徒たちに話し掛けることにしました。
「すみません、そこの生徒さん」
「うぇっ、は、はいっ!」
「どうする、話しかけて来たぞ……」
「スタイル抜群のお姉さんって、えっちすぎるだろ」
「……宜しければ、用務員の面接場所を教えて貰えませんか?」
「あっ、ま、任せてくださいっ!」
「ちょおま、ズルいだろ!」
「そこの道を真っ直ぐ行って、売店を右に曲がればあるぜ」
「そうですか、ありがとうございます」
お礼を告げてスタスタと男子生徒三人に踵を返して、指示通り歩いていきます。私ってば強さだけじゃなくて顔も美人なので、こういう時は非常に楽ですね。注目を集めすぎるのも問題ではありますが。
まぁ、強くなれば魔力の影響で勝手に美人になったりかっこよくなったりするので、私よりも他のジーベンスのほうが美人なんですケド。
暫く歩いていれば、少年たちが言った通り古びた建物が見えてきました。どうやらここが用務員の詰所らしいです。
「……本当に募集してますね」
建物の前に立てられた看板には、『用務員急募』の文字。給料も悪くない上に、勤務時間もそれなり。住み込みも可能というかなりの好条件……あれ、もしかしてジーベンスよりホワイトなのでは?
ここなら、常日頃からメンバーたちに殺されるかもしれない不安で胃を痛めることもなさそうですし、毎週決める
むしろこんな、ブラック企業も真っ黒な組織を作り上げたリーダーが駄目だとは思います。
おっと、リーダーは私でした。
自分で作った組織に自分で文句を言うという、なんとも間抜けな結論に辿り着いたところで、私は看板をもう一度眺めます。
「……まぁ、いいでしょう」
考えていても仕方ありません。
とりあえず用務員になれば、学園内を堂々と歩き回れます。勇者の監視にも都合がいいですからね。
「失礼します」
古びた詰所の扉を開けると、奥から声がしました。
「はいはい、どうしたー?って、えげつない美人!」
慌てた様子で出てきたのは、可愛らしい姿の少女です。見たところかなり魔力量があるようなので、見た目は若くても実年齢はかなり……いえ、私のことではないですよ?
「ここで用務員を募集していると聞いたんですけど、間違いないですか?」
「なるほどね。チラシ見てきた感じか!こんな美人な子が入ってくれるのは有難いよ!……って言いたいとこだけど、この学園はかなり広いからねー。体力ないと厳しいよ?」
「体力には自信があります。ここで働かせてください」
「んー……そう?なら試しに、あそこの倉庫に壊れた扉があるからさ、それを外して裏の廃材置き場まで運んで貰っていいかな?」
「お易い御用です」
言われるがまま扉の場所まで案内されると、どう見ても一人で運ぶような大きさではない巨大な鉄製の扉がありました。
ふふ、なるほど。
これなら普通は数人がかりでしょうね。
ですが……。
「よいしょ」
「……うそーん」
驚く反応を見せる少女を尻目に、私はスタスタと目的の場所まで運んでいきます。
伊達に15
服の下をペラっと捲れば、地上最強生物顔負けの腹筋が輝いていることでしょう。それはもう、ピカーンと擬音が付くくらいに。
「どうでしょうか?」
「ご、合格で……まさか見た目によらず、こんなに力持ちとは思わなかったよ」
若干引き気味の少女から手渡された用紙にサインを記入。名前を書く欄のところで止まりますが、私はアジトでゴロゴロしているか愛猫のネメシスちゃんと戯れているだけなので、顔バレはしていません。
二つ名だけは広まっているようですけどね。
『ゼタ=ガディオン』
年齢は……23くらいにしておきましょうか。正直、実年齢は覚えていないので、見た目に違和感を持たれないくらいの年齢にしておけば問題ないでしょう。
記入した用紙を手渡すと、少女は漏れがないかを頻りに確認した後、パンッと手を叩いて笑顔を見せました。
「よし、ゼタちゃんね。改めて自己紹介すると、私は『アルカナ=ディークス』気軽にアルカちゃんって呼んで!」
「アルカさんですね。分かりました」
「……おーう、ちゃん呼びはまだ早いか。まぁいいや、早速だけど用務員の制服に着替えて貰おうかな」
アルカさんに案内された更衣室へ入り、用意されていた制服へ着替えます。
白いシャツに紺色のベスト。動きやすさを重視したズボンに、腰には簡単な道具入れまで付いています。ここにモップとバケツを持てば、掃除要員さんに様変わりです。
ふふ、流石は私!
この格好でも美人度が隠しきれてませんね。
ただの用務員さんが実は世界最強の一角──マンガ、と呼ばれる書物でも見た事ある展開でした。厨二病は卒業しましたが、憧れまでは捨てていません。つまり、めちゃくちゃテンションが上がります!
まぁ、掃除なんて魔法でちょちょいのちょいなので必要はないですが、ここはやはり魔法を使わずに仕事をすべきでしょう。
「うんうん、やっぱりゼタちゃんはいいね。学生でも通用する見た目してる。あとおっぱいデカイ」
「……ありがとうございます。触りますか?」
「えっ!?いや、遠慮しときます……」
アルカさんも同じ感想なのか、ニマニマと笑みを浮かべながら胸を揉む仕草をしていました。なので胸を持ち上げて強調してみたのですが、途端に顔を赤くして顔を逸らしています。
恥ずかしがり屋なんでしょうか?こんなおばさ──お姉さんの身体を揉みたいというなら勝手ですが、反応からして初々しくて非常に可愛らしいですね。
「……コホン。そ、それじゃあ、仕事を説明するね」
「お願いします」
「ここでの仕事は基本的に校舎や寮、訓練場なんかの清掃が多いかな。それと壊れた設備の修理。あとは生徒や先生から頼まれた雑用なんかもお願いする感じ」
「なるほど」
「ただし、アルヴェイン学園はめちゃくちゃ広いからね。最初から全部やる必要はないよ。今日は私についてきて、仕事を覚えてくれればオッケー」
「分かりました」
これは思っていたよりも楽そうですね。
掃除や雑用、設備の修理など一件種類は多く見えますが、世界を滅ぼす可能性のある怪物たちを監督する仕事に比べれば、天国みたいなものです。
それに今から私はアルヴェイン学園の用務員さんですから、合法的に組員に会わずに済みます。
七大厄災?ゼタよくわかんない……。
「それじゃ、行こっか」
「はい」
私はアルカさんの後を追って、再び学園の中へと戻ります。
広大な敷地を闊歩する無数の生徒。魔法の訓練をする者や剣を振るう者、友人と笑い合う者までいます。その光景を眺めながら歩いていると、不思議と胸の奥が軽くなっていくのを感じました。
やはり青春はいいですね、老婆心に染み渡ります。血なまぐさい魔族の国で魔王を監視するよりも、この学園都市の方が楽しそうですし。勇者を監視するという本来の目的もあるので気は抜けませんけどね。
アルカさんに案内されるまま組織に報告するレポートを頭に叩き付けていると、今度は中庭へ辿り着きました。中庭と言っても、普通の庭の何倍もあるような大きさです。
「ここは?」
「ん?あぁ、この中庭は生徒同士の腕試しに使われてるよ。今年は優秀な生徒たち──例えば勇者とかがいるからね。フィールドが展開されてるから、今も使われてるんじゃないかな?」
「なるほど、切磋琢磨し合える環境も充実しているんですね」
「そりゃもちろん!にしても、異世界から現れたっていう勇者さまは数が多くてさぁ。確か……そう、二十人くらい保護されてるはずだよ」
「二十人……多いですね。基本的には一人や二人なのに」
「あはは、困るよね。でも魔王が出現する兆候があるって聖女様も言ってたし、丁度いいっちゃ丁度いいんだけど」
「そう、ですね」
全然丁度良くありません。
『
確かにあの子のような最強たちなら、どれだけ勇者が居ようと変わらないんでしょうけど、私からすれば二十人という数字はかなり痛いです。この人数を監視ってどうすればいいんですか、まったく。
ま、まぁ?出来ないことはないですよ?……嘘じゃありません。
ともかく今は出来る仕事をしましょう。
アルカさんの指示通り、ゴミが溜まった中庭の隅を掃除することにしました。彼女は反対側をするみたいで、二人で分断してもかなりの掃除範囲てます。
ひとまず渡された箒を取り出して、地面を掃いていきます。
サッ、サッ、サッと。
「うーん、気持ち良し。カンペキ〜ってあら?」
自画自賛しながら掃除を進めていると、ふと背後から嫌な予感がしました。
「っ、危ない!」
後方から響く声よりも早く、防御魔法を発動させます。
凄まじいスピードで飛来してきた大剣が、私の目の前で甲高い音を響かせながら防御魔法をギャリギャリと削り取ってきます。
うーん、ただの大剣じゃなさそうです。
とは言え流石にこのままだと私の顔面に飛んできそうなので、えいっと刃先を摘んで動きを止めました。
……これ、一体誰のでしょうか?
キョロキョロと辺りを見渡していると、焦った表情を浮かべた少女が此方に駆け寄ってきます。
「ごめんなさい!だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫です。貴女がこの大剣の持ち主でしょうか?」
「そうです!この子、私の『天啓』で創り出した剣なんですけど、強い人に攻撃しちゃう悪い特性があって……まさか用務員さんに突っ込むとは思わなかったです。本当にごめんなさい!」
「気になさらないでください。『天啓』が暴発するのはよくあることですから。この魔法の箒、“ブルームスター”が守ってくれたお陰でダメージはないので、次は他の人に当たらないように気を付けて下さい」
「ぶ、ブルームスター?ただの箒に見えるんですけど……」
「魔法の箒です。空も飛べちゃいます」
「空も!?凄い魔道具なんですね!」
黒髪黒目、まさしく異世界人といった容姿の少女は、ひたすら平謝りした後、興味深そうに私の持っている箒を眺めていました。もちろんただの箒なので空なんか飛べません。
ですがここで用務員の私が攻撃を防ぐのは不自然なので、箒に全ての罪を擦り付けちゃいます。第一、見た目といい『天啓』といいほぼ間違いなくこの少女は勇者の一人でしょう。
監視対象と接触出来たのはむしろ僥倖です。
ただの箒に興味を示す彼女を眺めながら、私はこっそり魔法でマーキングを施しました。これで離れている時にも、この子が何をしているか丸わかりです。
「それでは、私は仕事がありますので」
「え?あ、あぁごめんなさい!失礼しました!」
「いえ、こちらこそです」
箒を握り、再びお掃除に従事する私。
彼女は気恥しそうにその場を後にしました。
───☆
「不思議な人だったなぁ」
『天啓』によって生み出された大剣、“はいぱーさいきょーぶれーど”を肩に担ぎながら、私は再び中庭のフィールドに入っていく。クソダサネーミングについては、この世界に来た時に天使様から名付けられた。
なんでも、異世界から召喚された勇者にはそれぞれ『天啓』と呼ばれる特殊な能力が与えられるらしい。
私の場合は、この剣……いや、正確には「強い相手を自動的に認識して襲い掛かる剣を生み出す能力」なので、どう考えても扱いに困る能力なんだけど、如何せん名前がダサすぎる。
発動する時も、『いけいけ、はいぱーさいきょーぶれーど』って言わないと出てこないんだ。それでもめちゃくちゃ強いから、代償もやっぱり大きい。
それは沢山ご飯を食べること。
元々少食な私にとって、はいぱーさいきょーぶれーどを生み出すエネルギーを蓄えるために沢山食べるという行為が、物凄く地獄だ。
もし発動をミスすれば、さっきみたいに勝手に飛んでいっちゃう。しかも美人だけど普通そうな用務員さんに受け止められちゃう位だから、やっぱり練習が足りてないんだよね。
「はぁ……また怒られるかなぁ。あのおねーさんに被害がなかったのは良かったけど……」
「おーい、遅いよカリンっ!」
「ご、ごめーん!」
声を掛けられて、慌てて駆け足で向かう。中庭の中央には、既に何人もの生徒が集まって切磋琢磨していた。私を呼ぶ親友のアンジュにまた謝りながら、剣を構え直す。
こうして人と戦うなんて、前の世界では考えられなかった行為だ。
それもそのはず、私たちはこの世界の人間じゃない。元々は同じ学校に通っていた普通の学生だった。夏休みの打ち上げで集まった一クラス分、先生を含めて二十数人かな。
皆でファミレスに集まって、夏休みの宿題が終わりそうにない!なんて駄弁って楽しんでいたのに、その帰り道。
気が付いたら、知らない場所にいた。
『こんにちは、突然ですがあなた達には魔王を倒してもらいたいのです』
大天使を名乗る女性が腕を組みながら、突然そんな事を言ってきたんだ。当然反発する人もいたし、帰りたいって泣き出す人もいた。
だけど。
『大丈夫です。魔王を倒せば必ず元の世界に返します』
なんの力も持たない私たちに拒否権はなかった。
正直、こうして戦っている今も元の世界に戻りたいって思ってる。異世界は新鮮なことが多くて退屈しないけど、おとーさんもおかーさんも居ない。
推しのアイドルもいない。
スマホは何故か使えるみたいだけど、電話もSNSも使えない。
だから早く強くなって、魔王を倒して、元の世界に帰らないといけないんだ。私は。
「行っくよー!」
軽快な掛け声と共に駆け出して、アンジュの構える杖に斬りかかる。世界を救うなんて大それたこと出来そうにないけど、元の世界に戻るのと同じような目標がもう一つある。
それは、私たちを異世界に呼んだ大天使を名乗る女性を、一発ぶん殴ってやること。
名前は確か──そう、“リベリアヌス=ゴッドフィールド”だったかな。