七大厄災の最弱ですが、リーダーやってます。   作:霧夢龍人

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新しいクラス

カリンside

 

 

 

「うわぁ……!」

 

思わず声が漏れた。

目の前にあるのは、今まで私たちが使っていた簡素な訓練場なんかじゃない。大きな廊下と等間隔に並んだ教室。壁にはよく分からない肖像画やら、歴史を感じさせる彫刻やらが飾られていて、窓の向こうからは楽しそうな話し声まで聞こえてくるよ。

 

これが……学園かぁ。

 

私たちがこの世界に来てから一週間とちょっと。ずっと寮と訓練場を往復するだけだったから、こうして学園の中を歩いているだけでもなんだか新鮮だよね。

 

「ちょ、カリン!そんなキョロキョロしないで貰っていいかしら?恥ずかしいわよ……っ!」

 

「えーいいじゃん。アンジュだって楽しみで昨日眠れなかったくせに〜」

 

「声が大きいわっ!」

 

べコンッ、と中々強めの力で頭を叩かれた。元の世界じゃ戯れで叩かれてたからそこまで痛くなかったけど、鍛えられてるせいか結構痛い……このパンチは世界を狙えるよ。

 

小学生の時からずっと一緒にいて、クール系美人って感じだから結構モテてるのを私も見てきた。高校に進学してからは色んな人から言い寄られて、顔が死んでることが多かったけど……そんなアンジュが、目をキラキラさせてるんだ。すっごく嬉しいよ!

 

そんなくだらないやり取りをしながら廊下を歩いていると、前を歩いていたグレンさんが立ち止まった。

 

「ほら、着いたぞ」

 

「ここが……?」

 

「お前らの教室だ」

 

グレンさんが指差した先には、一枚の大きな扉があった。扉の上には、私たちのために新しく用意されたクラス名が掲げられていて、変に緊張しちゃう私がいた。

 

魔王を倒すために呼ばれたのに、学校に通うだけでドギマギしちゃう自分が恥ずかしいよ……。

 

「ほら、入った入った!若干一名居ないものがいるが、それ以外の席はきちんと用意してあるからな!」

 

「「「うぉおおお!!」」」

 

「あはは、元気だなぁ……」

 

「馬鹿しか居ないのよ」

 

アンジュちゃんってば毒舌。でもこれは余裕が出てきた証拠だって、カリン知ってるよ。

 

苦笑いしつつドアから教室を見渡すと、思っていたよりも結構広かった。机も椅子も全部新品みたいに綺麗だ。黒板……なのかな?前の方には大きな板みたいなのが設置されていて、教卓までちゃんと置かれている。

 

そのまま各々好きな席に座ると、グレン先生が教卓の前に立った。

 

「よし、ちゃんと席に着いたな?そして喜べお前ら──教師は俺が担当することになった!」

 

「「「………」」」

 

「ん?なんだお前ら。鍛錬の時間を倍にしてもらいたいか?」

 

「「「や、やったー!!!」」」

 

「ははっ、そうだろうそうだろう!」

 

チョロい。

クラスメイト全員の意思が一瞬で統一されたと思う。

 

グレン先生って、転移したての私たちを鍛えてくれた人だから恩人ではあるんだけど……それはそれとして、ハードすぎるんだよね。いきなり持久走二十キロとか、普通に考えたら訓練じゃなくて拷問でしかないよ。

 

しかも走り終わった後に「まだ余裕あるな!」とか言って、木剣を持たされるんだよ?私たちが勇者じゃなかったら、とっくに誰か倒れてるからね?

 

お陰でちょっとぷにってしてたお腹が引き締まったのはいいんだけどさぁ!

 

「さて、喜んでもらってるとこ悪いが、俺が担当する以上は授業も受けてもらう。座学もする。魔物について学び、歴史を学び、戦い方以外のことも覚えてもらう。

強けりゃいいってんなら、俺だってお前らをずっと鍛錬場に閉じ込めてる。だがな、戦場じゃ腕力だけで生き残れるほど甘くねぇ」

 

「戦場……」

 

元の世界じゃ普通の高校生だった私たちからしたら、戦場なんて聞いてもあんまりピンと来ない。

 

でも、グレン先生みたいに強いハンターの人が言う「強けりゃいいってもんじゃない」って言葉のニュアンスは、なんとなく分かった気がする。

 

「敵を知る。味方を知る。国を知る。自分の力を知る。そして──自分が何のために戦うのかを考える。これがお前らが学ぶべき内容だ。

 

理解できたか?」

 

皆が真剣な顔をして頷くのに合わせて、私も頷いた。

勇者っていうのは肩書きだけじゃない。魔王を倒すっていう目的があるにしろ、私たちはこの世界で生きていかなきゃいけない。

 

なのに何も知らなすぎるからこそ、グレン先生は憂いてるんだと思う。鬼教官だとか色々言ったりはするけど、学園の先生である以上少なくとも間違ったことは言ってないはずだよね。

 

だから勇者として驕らないよう、私は気を引き締めた。

 

「よし、じゃあ小難しい話はここで終わりだ。お前らはクラスメートらしいから名前は知ってると思うが、俺はお前らのことをあんまり知らない。

ってことで、自己紹介タイムに移る。

我こそは!って奴から順番にやっていってくれ」

 

「「「………」」」

 

「っ、おいおいマジかよお前ら。積極性がないやつは異性からモテねぇぞ?その点俺は金もあるし強いから異性からモテモテだ」

 

ウザイ。

また全員の考えが一致した瞬間だと思う。

でもこのままじゃ先に進まないから、恐る恐る手を上げた。

 

「わ、私からやります!」

 

隣のアンジュが正気を疑う目で見てきてちょっと傷付くけど、グレン先生は満足な顔してる。

 

多分このまま自己紹介しろってことだよね?

 

「えっと……改めまして、『天嵩埼(アマガサキ) 夏鈴(カリン)』です!趣味は親友のアンジュと遊びに行くことで、目標は魔王を倒すことでふ!」

 

「噛んでる……」

「アマガサキさん、今噛んでたよな?」

「やっぱり可愛い」

 

「っ、えとえと、他の目標は異世界の食べ物を沢山食べることと!この世界に召喚した大天使の──リベリアヌス……様をぶん殴ることです!」

 

「……っぷ。緊張して噛んでんじゃねぇよ!でもお前の積極性は評価するぜ、カリン=アマガサキ。しかも大天使サマを殴るたぁいい根性してんじゃねぇか!

ほら、このまま次いけ次!」

 

盛大に噛んだ。

恥ずかしくてゆっくり椅子に座るしかなかった私は、次の犠牲者を求める目でアンジュをじっと見つめる。

 

でも流石は私の親友。

意図に気づいたのか、変な方向を向いて「関係ないですけど?」みたいな顔してる……薄情だよ。ここは次に繋げるためにも、アンジュにはやって貰わないと。

 

「アンジュ、今さっきそっちに猫がいたよ?」

 

「なんですって!?……あ」

 

「お、次はお前か。そんなに勢いよく立つなんて、さぞかし良い自己紹介があるんだろうなぁ?期待してるぜ」

 

……隣からすごく恨めがましい視線を感じるよ。

でもね、アンジュが生粋の猫好きって知ってる私の前で無視するの、良くないと思うんだ。応援の意志を込めてとってもいい笑顔でサムズアップしたら、呆れた顔で溜息をつき始めた。

 

本当に猫ちゃん居たんだけどなぁ。

 

「『相模(サガミ) 杏珠(アンジュ)』よ。身体を動かすことより、魔法の方が得意だわ。以上」

 

どうしよう、地獄みたいな空気になっちゃった。

でもよくよく見れば、みんな肩を震わせて笑ってる。アンジュって前の世界じゃクールなのが抑えられてたから、仲良い人からしたら他人行儀すぎて面白いんだと思う。

 

なんだかんだで、こういうノリは嫌いじゃない。その後も一人ずつ自己紹介が進んでいった。

 

スポーツが好きな人。

ゲームが好きな人。

料理が得意な人。

元の世界で生徒会をやっていた人。

そして、こっちの世界に来てから得た力について話す人もいた。

 

最後らへんは結構話しやすい雰囲気になってたと思う。

このクラスのみんなで魔王を倒さないといけないんだから、仲良い方が絶対良いもんね。

 

そう考えると、皆の前で改めて自己紹介するっていうのは結構良かったのかも?

 

 

 

──☆

グレンside

 

 

 

「今回の勇者は粒揃いだなぁ」

 

「えぇ、確かに。雰囲気も悪くないわ」

 

「ステナ、お前もそう思うか」

 

職員が集まるオフィスの中、勇者が集うクラスを担当することになったグレンとステナ=バーバリオンは、勇者一人ずつの天啓が事細かに書かれた書類を眺めながら呟いた。

 

過去類を見ない大人数の勇者召喚。

それもどこかの国が引き起こしたものではなく、大天使と名乗る存在が魔王討伐の為に召喚したという。

 

天使、あるいは大天使という存在は人間の存在に興味がない。

誇りやプライドもあるが、羽がない雑種と天使では価値観が違うのだ。なのに今回は大天使が召喚のキーとなっている。

 

この時点でグレンは、その大天使が天使を騙る“ナニカ”である事を考えていた。

 

とはいえ、実際に召喚された勇者たちは粒揃い。各々が強力な天啓を有している。また仲も悪くなく、一人を除いて鍛錬は順調に進んでいた。

 

「カリン=アマガサキねぇ……」

 

「その子がどうしたの?」

 

「いんや、自己紹介で大天使をぶん殴るとか言っててな。そん時に言ってた大天使の名前が“リベリアヌス”だったんだよ」

 

「リベリ、アヌス……もしかして、七大──」

 

「言うな。まだ分からん。可能性としてなくはないが、もしあの組織が今回の勇者召喚に関与してるんだとしたら、俺たちはアイツらを放って置かなきゃならん。

だから、何も言うな。分からない方が、俺もアイツらも幸せだ」

 

グレンはそう言って、カリンが言っていた大天使の名前を書類から削除した。

 

戦いを知らない若者が逃げ場を無くし、戦わなければならない状況。誰を頼れば良いかも分からず、何も知らない子供たち相手に、七大厄災が関わっているからと放っておくのは大人として許せなかった。

 

だが、もしだ。

例の大天使とやらが二人の想像している、七大厄災の『2』。『殺戮の天使(アサルトリリィ)』だった場合は──カリン達とグレンが敵になる可能性もある。

 

「頼んだぜ、ガキども。俺を見捨てさせてくれるなよ」

 

神にでも祈るような仕草でグレンは目を閉じた。

 

 

 

その後ろを一匹の猫が駆けていく。

通常、魔物対策として人間以外は侵入できない学園都市に猫がいるはずがない。

 

首輪に下げられたタグには、『ネメシス』と彫られた紋様が見え隠れしていた。

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