七大厄災の最弱ですが、リーダーやってます。   作:霧夢龍人

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失態

 

 

 

 

ふんふん、なるほど。

どうやら勇者たちは、きちんと教室で授業を受けれるようになったっぽいですね。

 

マーキングすると、その子の身体情報やら名前やらを全部教えてくれるので、わざわざ直接監視しなくても何が起きてるか分かっちゃいます。だから掃除しながらでも、勇者──カリンさんというらしい──をしっかりと監視できるんです。

 

「ほうほう、勇者たちを召喚したのは大天使なんですね。名前がリベリアヌス……ん?リベリアヌス?」

 

気のせいでしょうか、凄く聞き覚えがある名前なんですけど。

まぁ、似た名前のそっくりさんの可能性はありますし、なんなら私の秘書として仕事を押し付け──やってくれてるので、勇者を召喚するなんて大それたこと出来るはずありません。

 

となると、人違いでしょうね!

 

「あれ、ゼタちゃん大丈夫?顔色悪いよ?」

 

「大丈夫です」

 

「そ、そう?」

 

アルカさんが心配そうな顔で覗き込んできますが、ジーベンス関連になると具合が悪くなるのはいつもの事です。最近は胃薬が手放せなくて……ってそんなことはどうでもいいですね。

 

私たちが今向かってるのは、例の勇者達が集まる教室です。

普段使われていない教室を代用しているのでエアコンの調子が悪く、授業を受ける弊害があるため、修理しなければなりません。ついでに勇者たちの様子も観察できるので一石二鳥です。

 

「えっと……あ、ここかな?」

 

「そうみたいですね。授業中ですので、静かに作業を進めましょう」

 

三日目にして馴染んできた制服のポケットからモンキーレンチを取り出して、教室のドアを軽くノック。返事を待たずに、作業用具を取り出したアルカさんと一緒に中へ入ります。

 

中ではそこそこ強そうに見える男が教鞭を振るっていて、勇者たちはそれぞれ席に座って真面目に授業を受けていました。

 

「エアコンの修理に来ました。授業中すみません、少しだけ失礼しますね」

 

「おう、頼むわ。こっちは気にしなくていいから続けるぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「……なんっだあの美人」

「異世界って用務員さんも美人なのかよ」

「おっぱいでか」

「女だ……しかも二人……」

「あんた視線が怖いわよ」

 

そう言って教室の端にあるエアコンへ向かいます。

何やら凄く視線を感じますが、私とアルカさんの美貌に驚いてるのは分かりきっているので無視です無視。逆にマーキングしたカリンさんは、授業に夢中で気付いてないですね。

 

脚立を取り出して魔法式が映し出されている黒板をチラリと見れば、魔王と神についての説明をしているようでした。

 

吸血鬼やゾンビ、オーク等の人型魔族の頂点に位置する王を魔王と呼びますが、こうして教室を眺めるとこの子達が当代の魔王に勝てるとは思えません。可哀想ですが、このままでは犬死にするでしょうね。

 

「ゼタちゃん、ここの配線壊れてる」

 

「ん、そうみたいです。一旦別の配線と交換して見ましょう」

 

エアコンの修理は少し手間取りましたが、勇者の観察には好都合。『超観察(ゼタ・アイ)』で教師含む全員をグルっと見渡して良さげな天啓を確認していきます。

 

結果──やはり、ジーベンスに挑めるような勇者はいませんでした。それどころか、一般魔族にすら勝てるか怪しいですね。

 

「……残念です」

 

「どうしたの?何かミスしちゃった?」

 

「いいえ、独り言です」

 

せめてカリンさん、そして幼なじみであるアンジュさんのお二人はすごく可愛いので助けてあげたいですが、それはジーベンスの暗黙の了解に抵触することになります。

 

可愛い子を眺めたい私としては凄く残念ですね……。

 

「ここをこうして……よし、多分これで正常に動くかな。そっちはどう?」

 

「私の方も終了しました」

 

勇者の観察とエアコンの修理のどちらも終了。期待を下回った勇者はともかく仕事は無事に完了したので作業用具を仕舞い、教室を後にします。

アルカさんは掛かった費用を学園側に報告するらしく──ん?この気配は……。

 

「すみません、先に帰って貰えますか?少し忘れ物をしてしまって」

 

「え?い、いいけど」

 

「それでは」

 

「っ、ちょ、ちょっと!?」

 

 

 

 

───☆

グレンside

 

 

 

 

なんなんだ今の女。

 

「即ち、魔王は魔族の統率者という一面以外に──」

 

配布された教科書を読み上げながら、俺は冷たい背筋を誤魔化すように黒板にチョークを叩き付けた。それでも、震えで文字が歪んじまう。

 

エアコンの修理をしに来たと言った二人の女。片方はそこそこ強そうだが、一般人の域を出なかった。問題なのは、もう片方の冷たい眼をした胸のでけぇ姉ちゃんの方だ。

 

顔だけ見れば極上の別嬪だが、動きに一切の無駄がない。普通、人ってもんは体内の魔力が大なり小なり溢れ出てしまうもんだ。なのに、さっきの女は少しも魔力が溢れ出ていない。

 

俺の実力は、引退していてもハンターの中で上位だと自負している。

ハンターランクは『6』だが、ドラゴンを一人で討伐してからは『7』に繰り上がる打診をうけたくらいだ。

 

ドラゴンだぞ?街一つを壊滅させてしまう災害だぞ?

それを一人で討伐した俺が、さっきの女に対して一ミリも勝てる未来が見えなかった。

 

「であるからして、ここの問題は──」

 

「な、なぁグレン先生!さっきの用務員さん美人すぎね?」

「俺もそう思った!もしかしてどっかのアイドルだったりするじゃね」

「えーそれな。ウチなんか負けた気して顔見れんかったわ」

 

……なのにコイツらは、顔にしか目がいかんかったらしい。確かに、あまりにも“顔が良かった”。思春期のガキが見れば一発で惚れちまうだろう。少なくとも俺が二十代ならナンパしてただろうな。

 

だが、美人すぎる奴は危険だ。

何故かって、魔力が多い奴は身体が勝手に最適化されていく。不純物が取り除かれていくからだ。なのに魔力が溢れ出ずに体内に留めるのは、普通の人間なら不可能なんだよ。

 

そう、不可能なんだ。

ガキ共はそれをわかっちゃ居ねぇ。後でどんなやつか詳しく調べる必要がありそうだが、どう見てもアレは用務員の皮を被ったバケモンだ。

 

「あのなぁ、お前らは──」

 

危機感のなさに一つ文句を言ってやろうと口を開こうとした──その瞬間、俺の嫌な予感がビビッと総毛立つ。

 

「伏せろッッッ!!!」

 

腰から短刀を取り出し、教卓を蹴り飛ばしてガキ共を一斉に屈ませる。結果として、俺の判断は正しかった。

 

教室の壁が勢いよく粉砕され、粉々になった粒子と煙が巻き上がる。突然の轟音にガキ共は悲鳴を上げるが、この一週間とちょっとでメンタルも鍛えてんだ。恐怖で動けんなんてことはなさそうだな。

 

鍛錬の成果が出てるようで一安心しながら、粉砕された壁から現れる人影に殺気を尖らせる。

 

「あちゃー、ド派手な登場になっちゃったなぁ〜」

 

「やりすぎたかぁこりゃ」

 

「勇者がいち、に、さん……何匹いるんだン?ま、全員殺せば数える必要はないかン」

 

出てきた人影は異形。

子鬼のように角を持つ奴だったり、翼の生えた奴だったり、あるいはずんぐりむっくりした奴だったり……どう見ても魔族だ。しかもそれが三人もいやがる。

 

「ははっ、魔王の差し金か?魔族さんよ」

 

「あちゃー、強そうな人間が一匹いた」

「勇者は弱そうだなこりゃ」

「俺が勇者殺すから、お前らはあの男を殺してくれン」

 

一対一なら負けはしない。だが、数的有利は魔族の方が上だ。しかも俺は勇者を守りながら戦わなきゃなんねぇから、戦力で見れば圧倒的不利に近い。

 

ま、時間を稼いで他の先生方の到着を待てばなんとかなる、か?

 

と思ったのも束の間。

 

「ひっ、こ、殺される!?」

「逃げろぉぉ!!!」

「来ないでぇ……!」

 

「お、おい!勝手に動くんじゃねぇ!」

 

「勇者が数匹逃げたン!俺はアイツらを追うン!」

 

最悪だ。死の恐怖で勝手に勇者が数人逃げ出しやがった。

ずんぐりむっくり魔族が後を追うが、残り二人の魔族を相手にしなきゃなんねぇから俺は動けねぇ。

 

……早速犠牲者が出ちまうのか、くそっ。

敵と戦う時に一番の足枷になるのは恐怖だ。だからあんだけキツイ鍛錬してメンタルを鍛えたってのに……もう少し厳しくするべきだったか。

 

だが、今更後悔しても仕方がねぇ。

 

「お前らは俺が相手してやるよ。ま、二体一じゃ俺を倒すのは厳しいけどな」

 

「あちゃー、お兄さん結構言うねぇ〜」

「死亡フラグだなこりゃ」

 

垂らした冷や汗を気付かれないように拭いながら、俺は魔族目がけて駆け出した。

 

 

 

 

───☆

ずんぐりむっくり魔族side

 

 

 

 

「お〜い、どこに逃げたン?」

 

魔物(オーク)と似た姿の魔族は、逃げた勇者の後を追いかけていた。しかし見た目通り足が遅く、廊下を曲がった頃にはすっかり勇者たちの姿を見失ってしまっている。

 

実際には『神隠し(かくれんぼ)』の天啓を持つ勇者の一人が、すぐ側で一緒に逃げた勇者たちと隠れていた。自身自身と、知り合い以上の関係性を持つ誰かを効果範囲として気配や足音、臭いを隠蔽するという天啓だ。

 

代償は、誰かに身体を触れられると強制解除されてしまうこと。また。心臓の音や声までは消せないため、完全な隠密をすることは出来ない。

 

「ここかン〜?それとも、ここン〜?」

 

魔族は手当り次第に壁や教室を破壊しながら、勇者を探していく。実際の距離はほんの数メートルしか離れていないが、『神隠し(かくれんぼ)』で何とかバレずに済んでいる。

 

しかし見つかるのも時間の問題だ。

 

徐々に近づいてくる魔族。恐怖で過呼吸になりそうなのを必死に押し殺してはいるものの、呼吸回数は多くなってしまう。

 

その結果。

 

「あはン──ここら辺かなン?」

 

魔族はピタリと動きを止め、口元から涎を垂らしながらゆっくりと近付いてきた。

 

バレた。

隠れている数人が直感的にそう思った。

 

殺される?あるいは、その大口で喰われてしまうのでは?

死ぬ恐怖で頭がどうにかなりそうなのを必死に堪え、気のせいであることを必死に祈る。

 

三メートル。

 

魔族が耳を研ぎ澄ませながら、大きな足音を立てて近付いてくる。

 

二メートル。

 

勇者たちは息を殺し、身を寄せ合う。

神隠し(かくれんぼ)』によって姿も気配も隠れているはずなのに、魔族の足音が近付くたびに心臓が跳ね上がった。

 

一メートル。

 

足音はすぐそこだ。

横を振り向けば、魔族の大きな腕が見え隠れしている。

 

そして、魔族は───勇者たちの横を通り過ぎた。

鼻を鳴らしながら、何かを見つけたようにドスドスと足音を立てて走っていくのだ。

 

「……ふぅ、ふぅ、死んだかと思った」

「ちょっと漏らしちまったぞ俺」

「は、ははっ、なにやってんだよ……」

 

ヘタリと崩れ落ちる勇者たち。

だが一人が、魔族が走っていった先を見て疑問符を浮かべた。そういえばは、先程の用務員二人もあっち側に歩いて言ったんじゃないか?と。

 

そしてどうやら、その疑問は当たっていた。

 

「人間の気配ン〜〜〜!!!!」

 

魔族が鼻を鳴らしながら駆けて行った先には、用務員の格好をした女がいた。どうやら勇者ではないらしい。

 

しかし、魔族からすればどっちでも良かった。

彼はお腹が空いている。目の前の美しい女の身はさぞ脂が乗って美味しいだろうと、涎が溢れて止まらない。

 

恐怖で慄く人間のメスの味は、筆舌にし難いのだから。

 

「あぁ、やっぱり魔族の方でしたか」

 

「ンゥ〜?お前、あんまり怖がらないン!」

 

「魔族の方は見慣れているので……ところで、何の用でしょうか?」

 

オーク似の魔族にとって、怖がらない人間というのは初めてだ。先程の強そうな男も恐怖心はないように見えたが、それでもうっすらと魔族に対する恐怖心を感じ取れた。

 

だが、目の前の女は欠片も自身に対して恐れていない。慄いていない。その事実に少しの違和を感じつつも、食欲には勝てない。

 

魔族は胃がくっつきそうな程の空腹の中、女を喰らおうとして手を伸ばした。

 

「あの、離してもらっていいですか?」

 

「えン……?」

 

その瞬間、弾け飛ぶ両腕。

女が極めて不快そうな顔をしたのとほぼ同時に、剣すら通さぬ皮膚が容易く消え去ったのだ。

 

あまりに突然のことで、魔族は理解が追いつかなかった。

 

「私に触れていいのは、可愛い子だけなんです」

 

その後も右足、左足と吹き飛んでいく自身の身体の一部。込み上げる痛みに声を上げても、女は表情一つ変わらず魔族の顔を覗き込んでため息をついた。

 

まるで魔族という存在に、一ミリも興味がないと言った顔だ。そして最期には、自身の額にトントンと細長い指を当てる。大して力の籠っていないはずなのに、次の瞬間には──景色が反転した。

 

頚椎を破壊され、プランとぶら下がる頭蓋。

 

達磨のような状態になり息絶えた魔族の前で、女──ゼタは話し続けている。命を奪ったというのに、欠片も気にしている素振りを見せない。

 

彼の失態は、一つ。逃げる気配がない人間に対して、自身が圧倒的に有利だと誤解してしまった点。

 

ただそれだけだ。

 

 

 

「魔族の気配がしたので魔王かなと期待して来てみれば、ただの一般魔族だった私の気持ち、貴方に分かりますか?──あ、もう喋れないんでしたね」

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