カリンside
アルヴェイン学園傍の森。
弱いモンスターが数多く住み着いてるこの広大な場所に、私たち勇者がいるクラスの皆が集まっていた。
「よーし、お前らちゃんと集まってるな。シノノメの奴は……今日も来てないか」
グレン先生が腰に手を添えながら、私たちを見渡してる。
東雲さんっていう人が今日も来てないこと気にしてるみたいだけど、見た目も怖いし煙草を吸ってるっていう噂もあるから、私はちょっと苦手かも。
でも悪い人ではない……のかなぁ。まぁ、今は他人を気にする余裕なんて私には無いけどさ。
「今日は予定通り、お前らには実践でモンスターと戦ってもらう。この短期間で鍛えたお前らなら相手にならん雑魚どもだ。だが、実践と訓練じゃ訳が違う。
勇気があるのはいいことだが、くれぐれも勇気と無謀も履き違えるなよ」
「「「はい!」」」
説明が終わると、二人一組でグループを作ることになった。私のパートナーは、もちろんアンジュ。他の人からも誘われてたけど、キッパリ断って私と組んでくれるみたいで凄くありがたい。
これが幼なじみぱぅわーですよ。
クール系を気取ってても、私にはツンデレデレデレだもんね!
「……なに?気持ち悪い顔でニマニマしないで」
「え〜〜、そんなことないよぉ〜〜!」
「やっぱり違う人と組もうかしら」
「っ、ちょちょ!?冗談じゃん!」
なんていつも通りイチャイチャしながら、グレン先生が指定した範囲で森の中を探索していく。アンジュは剣士系よりも魔法系で、私は『天啓』も相まって剣士一辺倒だから、必ず私が前に出ないといけない。
グレン先生が言うには、魔法使いと剣士なら魔法使いの方が強いらしい。剣士の剣戟が魔法使いの身に纏ってる魔力に防がれちゃうから、よっぽど近接戦が強くないと剣士は魔法使いに勝てない。
でも剣士と魔法使いに実力差がある場合は別。
剣士の身体能力で、魔法使いの魔力障壁をゴリ押しで突破出来るらしい。だから
そのグレン先生の考えを参考に、アンジュをいつでも守れるように前に出ながら歩くこと数分。
『バギャギャ』
「あ、ゴブリンいたよ!」
「私たちに思春期の男子みたいな目を向けてきてるアレが?」
「アンジュって私と違って顔もスタイルもいいから、邪な視線を向ける気持ちはわかるけど……え、なに。なんでそんな呆れた顔してるの?」
「……いいえ、自覚がないってタチが悪いと思っただけよ」
なんかよく分かんないことを言いだしたアンジュと私の目の前には、三匹のゴブリンがいる。緑色の肌に、ボロボロの布を身に纏った小柄なモンスター。手には粗末な棍棒を持っていて、こちらを見ながら何やらギャアギャアと騒いでいる。
正直、見た目だけならそこまで怖くない。
事前に授業で教えてもらった通り、小鬼系統のモンスターは身体能力こそ人間より少し高い程度らしいもんね。知能も低くて、基本的には群れで行動するんだって。
「よぉーし、張り切っちゃうぞ!──『いけいけ!はいぱーさいきょーぶれーど!』」
いつも通りの恥ずかしい言葉を叫びながら、私は大剣を構えてゴブリンたちに突進した。後ろではアンジュが幾つか水の玉を浮かべて、ゴブリンに斬り掛かる私の援護に回る。
勝負は意外とすんなり終わった。
でも問題は終わった後だったんだよ。
ゴブリンって結構人型に近いというか、人の子どもと同じくらいの背丈なんだ。だから、そのゴブリンの肉を切り落とした感触が……ものすごく気持ち悪い。
トドメを刺す時なんて、吐き気と戦いながらだったもん。
「……キツいね、これ」
「……えぇ」
お互いグロッキーな状態で私たちはしばらくその場から動けなかった。
目の前には、さっきまで私たちに襲い掛かってきたゴブリンたちが倒れてる。戦っている最中は夢中でさ、アンジュを守らなきゃ!私が前に出なきゃって!ってそれだけ考えてたから、怖いとか気持ち悪いとか考える余裕なんてぜんっぜんなかった。
でも私より酷いのはアンジュの方だ。
『
たった三匹でこれかぁ……。
遠い目をしながら木陰に座り込んでると、近くの茂みからガサゴソ音が聞こえてきた。
「ゴブリン……?」
アンジュを庇いながら、『はいぱーさいきょーぶれーど』の矛先を茂みに向けると──目に見えない速度で何かが飛び出してきた!
「っきゃ!?………ぐっ、ぅ…!」
「カリンっ!」
反応出来なくて、持ってた大剣ごと私は吹き飛ばされちゃった。木に叩き付けられた衝撃で頭が真っ白になるけど、辛うじて骨は折れてないみたい。
霞んだ視界で飛び出してきたナニかを見よう目を凝らすと──その“人”は、裸の女の人だった。腰巻みたいなので一本の鞘を差していて、その口には魚が咥えられてる。
ピチピチ動いてる大きな魚をモゴモゴ動かしながら、女の人は私に視線を向けてきた。
「ありゃ、人がいたようじゃの。これは失敬失敬」
魚を丸呑みして困ったように笑う女の人。
脇腹には“ムカデ型のタトゥー”が彫られていて、『7』の数字が大きく誇張されてる。
見た目の年齢的には、私とそんなに変わらないと思う。
でも『はいぱーさいきょーぶれーど』がカタカタ震えて、今にも飛び出しそうになってるね。
用務員さんに飛び出していった時は不調かな?って思ったけど、じゃじゃ馬なのは相変わらずかぁ。
「妾が茂みからわらわら登場……ぷっ、今のギャグおもろ」
何か変なこと言って笑ってるし、グレン先生が言う『この世界は変人か変態ほどくそつえぇ』理論を当て嵌めると、変人の極みでしかないこの人は私より圧倒的に強いことになっちゃう。
流石に裸なのは変人を超えて変態だと思うけど……顔が良いせいで様になってるのおかしいよ。
「あなた、何者なの?」
「ん、妾か……?白い猫を探しに来た、麗しく可憐な十五ちゃいの一般女児じゃよ」
絶対嘘だ。
裸で山の中を駆け回る十五歳なんて見たことないよ!
もしかしたら異世界では普通なのかもしれないけど(※普通じゃありません)、私達からしたら一般とは程遠い変態だもん!
しかも女神様かな?って思うくらい綺麗だし、強さでも見た目でも私負けてるよ……困った、ちょっと勝てない。
「にょほほ、“今は”そんな警戒せんでもよい。お主ら、黒髪黒目から察するに勇者じゃろ?妾、別に勇者に興味がなくての」
「そ、そうなんだ」
「じゃあ、見逃してくれるのかしら」
「うむうむ、勿論じゃ。弱いやつに妾は興味がないからの──そんじゃ、“後で”死なんように気をつけるんじゃぞ〜」
しれっと私たちの事を貶しながら、女の人は踵を返して森の奥へと入っていく。私とアンジュは、その後ろ姿を見送ることしか出来なかった。
───☆
ゼタside
終わりました。
校舎から別の校舎へ続く渡り廊下を掃除していたら、私の“お気に入り”であるカリンさんに迫る、物凄く見覚えのある魔力の気配がしたんです。
具体的には、七つの厄災的な組員の気配ですね。
『
強さ的には下から二番目の『7』で、私とほぼ同じ年齢です。
見た目は美少女、中身はおばさんというどこかの探偵が言いそうな情報量を誇っていますが、多分、七大厄災の中でもかなり顔が割れている子です。
まさかネメシスちゃんを探しにここまで来るとは思いませんでしたけど……体力お化けなので納得は出来ますね。理解は出来ませんけど。
「私の仕事……用務員……推し活……邪魔されたらストレスで禿げますよ、ガチで」
せっかく用務員生活を楽し──遂行しているのに、邪魔が入ったら終わりです。でも私、組織内でも最弱なのでどうしようもないんですよねぇ。戦ってもチート剣である《
普段は勝負にならないから縛りプレイ?してるらしいですけど、その状態で魔王軍を一人でボコボコにした馬鹿もこの女ですから、如何に強いか分かると思います。
私もカリンさんに剣を軽く教えましたけど、ノナと比べたら私の剣なんてカスですよカス。
「……今日はもう、抱き枕を見つけましょう」
いつもならこんなストレスに苛まれても、ネメシスちゃんを抱き締めて寝れば何とかなるんです。でも今はいないので、今頼める相手を考えれば──。
「あの子しかいないですね、そうしましょう」
七大厄災なのに、『7』のノナが下から二番目。
これはミスじゃありませんから、安心してください