日本のメーカーが発売した、仮想世界の中を現実にいるかのように遊べる体感型ゲーム――DMMO-RPG『ユグドラシル』。
サービス開始当初、その人気は凄まじかった。
一時期は社会現象にまでなったほどである。
しかし、どれほど栄えたゲームにも終わりは訪れる。
プレイヤー数は徐々に減少し、五年前から『ユグドラシル』は過疎化の一途を辿っていた。
かつての盛り上がりはどこへ行ったのか。
もはや『ユグドラシル』は、知る人ぞ知るマイナーなゲームへと成り果てていた。
それでも、コアなファン層からの支持は根強かった。
プレイヤー数こそ大幅に減少したものの、五年間はなんとかサービスを維持できるほどの収益を保っていた。
だが、プレイヤーが減れば収入も減る。
広大なフィールドの維持費。
ゲームイベントの開発費。
サーバーや各種システムの管理費。
そういった莫大な負担を、減少し続ける収益では賄いきれなくなっていった。
そして運営は、ついに決断する。
『ユグドラシル』のサービス終了。
そのシステム通知は、コアなファンたちを大いに悲しませた。
廃れていくゲームの姿を、プレイヤーたちは何年も肌で感じていた。
だからこそ、サービス終了が避けられないことも頭では分かっている。
それでも――やるせない。
そんな複雑な気持ちを抱えたまま、プレイヤーたちは最後の日を迎えようとしていた。
⸻
『ユグドラシル』には九つの世界が存在する。
そのうちの一つ。
『ヘルヘイム』。
グレンデル沼地の奥深くには、巨大な建造物が存在していた。
ナザリック地下大墳墓。
その最深部。
第十階層にある玉座には、一人の男が座っていた。
モモンガ。
十一年前、彼はこのヘルヘイムの世界に降り立った。
数々の苦難を乗り越え、仲間たちと出会い、そしてギルドを立ち上げた。
やがて、そのゲーム内組織のリーダーを任されることになる。
それから――十年ほどが経っただろうか。
モモンガは、今日までギルドを守り続けてきた。
⸻
モモンガは『ユグドラシル』の熱狂的なプレイヤーだった。
十一年間。
ほぼ毎日のようにログインし、広大な世界を冒険してきた。
それでも、彼が探索できたのは『ユグドラシル』全体の一割程度に過ぎない。
その事実には、もはや笑うしかない。
『ユグドラシル』のフィールドは、それほどまでに広大だった。
ゲームのすべてを知り尽くすことができたなら、それを一つの区切りとしてゲームを終えられたプレイヤーもいただろう。
だが、どれほど長くプレイした者であっても、マップの一割を埋めるのが精々だった。
まだ冒険したい。
まだ知らない場所がある。
まだ、ユグドラシルの秘密を未知から既知へと変えられていない。
そんな思いを残したプレイヤーも少なくなかった。
モモンガの場合は、少し違っていた。
もちろん、ユグドラシルというゲームそのものにも強い思い入れがある。
だが、それ以上に彼が求めていたもの。
それは――ギルドメンバーとの冒険の日々だった。
かつて仲間たちと共に冒険した時間。
笑い合った時間。
苦難を乗り越えた時間。
もう一度、あの日々を取り戻したい。
そんな夢を、モモンガはずっと抱き続けていた。
しかし、ギルドメンバーは一人、また一人と『ユグドラシル』を去っていった。
それでもモモンガは、いつか帰ってきてくれると信じていた。
だからこそ、ギルドホームの維持を続けた。
仲間が戻ってきたとき、いつでも迎えられるように。
だが――。
サービス終了日までにログインしたギルドメンバーはいた。
しかし、交わされたのは軽い挨拶程度。
もう一度、本格的に『ユグドラシル』を始めようという者はいなかった。
モモンガは、何度も自分に言い聞かせた。
「……しょうがないんだ」
みんなには、それぞれの生活がある。
仕事もある。
家族もある。
現実の人生がある。
だから――しょうがない。
そう自分に言い聞かせることで、寂しさを紛らわせてきた。
そして、ついに。
サービス終了日が訪れた。
本来ならば、ここで気持ちを抑え込むべきだった。
明日からは仕事を頑張ろう。
ユグドラシルとは別の、第二の人生を歩もう。
そうするはずだった。
だが――。
抑え続けていた感情の波が、ついに決壊した。
堰が切れたように、感情が溢れ出す。
「なんで……」
モモンガは俯く。
「なんで、皆は簡単にユグドラシルを捨てられるんだ」
誰も答えない。
「俺がおかしいのか……?」
自嘲するように笑う。
「そうだよな。三十歳にもなってゲームにしがみついているんだからな」
そして――。
「もう知らない!」
モモンガは叫んだ。
「皆が、それぞれの道を歩むなら……俺だって好きに生きてやる!」
⸻
モモンガは十二歳の頃から仕事を始めた。
最初は下働きだった。
上司から怒られる日々を、五年間も過ごした。
そこからようやく昇進し、正社員になる。
仕事にも慣れてきた頃。
自分へのご褒美として買ったものがあった。
以前から一度やってみたいと思っていたゲーム。
それが――『ユグドラシル』だった。
初めてプレイしたときの感動は、今でも忘れられない。
何もかもが新鮮だった。
広大な世界。
未知のフィールド。
無数のモンスター。
多種多様なプレイヤー。
そして、自由度の高いゲームシステム。
モモンガは夢中になった。
何度PKされたとしても、何度でも立ち上がって再挑戦した。
だが、さすがに数十回も待ち伏せされ、PKされ続ければ心が折れそうになる。
「もう……やめようかな」
そう思った。
そのときだった。
白銀の騎士が舞い降りた。
鮮やかな剣技。
圧倒的な強さ。
悪質なプレイヤーたちを次々と切り伏せていく。
その姿は、まるで英雄だった。
そして、その騎士――たっち・みーは笑いながらモモンガに語りかけた。
困っている人がいたら助ける。
それは当たり前のことだ、と。
モモンガは憧れた。
この人のように強くなりたい。
自分も、誰かを助けられるようになりたい。
だからモモンガは、たっち・みーに頭を下げた。
「俺に、ゲームを教えてくれ!」
その出会いが、すべての始まりだった。
たっち・みーと仲良くなったモモンガは、やがて彼が立ち上げたクランへ誘われる。
そして、そのクランをギルドへ変更することになった際、たっち・みーから推薦され――。
モモンガはギルド長となった。
そのときに背負った責任感。
それがあったからこそ、ギルドメンバーのほとんどが遊ばなくなった後も、モモンガは人知れずギルドホームの維持に労力を費やしてきた。
仕事以外の時間。
そのほぼすべてを、『ユグドラシル』に捧げてきたと言っても過言ではない。
それなのに――。
ギルドメンバーは帰ってこなかった。
ならば。
最後くらい、好きにしてもいいのではないか。
結局、自分がゲームに囚われていただけなのだ。
そう思った。
そしてモモンガは、決別の意味を込めて――。
本来なら、ギルドメンバーの半数以上の賛成を得なければ使用してはいけないものを使おうと考えた。
ワールドアイテム。
もうすぐユグドラシルは終わる。
最後くらい。
ずっとやってみたかったことを、やってもいいだろう。
⸻
モモンガは宝物殿へ向かった。
そして、ギルドの秘宝であるワールドアイテムを複数取り出した。
「ごめんなさい……たっち・みーさん」
誰もいない空間に語りかける。
「あなたに任されたギルド長としての責任は、もう果たせそうにありません」
モモンガは苦笑した。
「ある動画を思い出して……欲望が湧いてきちゃいました」
そして、少しだけ申し訳なさそうに続ける。
「あと少しでサービスは終了するし……許してください」
最後に、静かに告げる。
「サービス終了日の直前までは、ギルドを守り切りましたよ」
そう虚空に語りかけると、モモンガはワールドアイテムを手に取った。
その中でも強力な効果を有するワールドアイテム――ウロボロス。
さらに、それを別のワールドアイテム――カロリックストーンによって強化する。
そして、モモンガは運営へと願いを送った。
「俺を――ワールドエネミー化してくれ」
⸻
しばらくすると、その願いはユグドラシルのシステムを司るAIによって受理された。
膨大なデータ群が処理されていく。
モモンガに最適な能力が選定されていく。
そして――。
彼が保有していた装備群が、モモンガの身体へと吸収されていった。
漆黒の演出が吹き荒れる。
まるで世界そのものが、モモンガという存在を書き換えているかのようだった。
AIも、最後だから頑張ってくれているのだろうか。
そんなことを考えた直後――。
『システムアナウンス』
『プレイヤー、モモンガがワールドエネミー化しました』
『繰り返します』
『プレイヤー、モモンガがワールドエネミー化しました』
そして――。
『ワールドクエスト発動』
『プレイヤー、モモンガから九つの世界を守り抜け』
「へ?」
モモンガは間の抜けた声を漏らした。
「なんだこれ?」
過去にワールドエネミー化したプレイヤーは四人。
つまり――。
モモンガで五人目だ。
そういえば。
プレイヤーがワールドエネミーになった場合、その存在は常に全プレイヤーへ知らされる。
つまり、モモンガの現在地も公開されてしまう。
さらに、プレイヤーたちを動かすためなのか、モモンガを討伐した際には報酬が設定されている。
それだけではない。
モモンガの能力を保有したワールドアイテムが、ドロップアイテムとして生成される。
システムAIによって、新たなワールドアイテムが作り出されるのだ。
「……いや、ちょっと待て」
モモンガは自分のステータスを確認しようとした。
だが――。
その心配は、すぐに別の問題へとすり替わった。
もしプレイヤーが大勢集まれば。
自分は勝てるのだろうか。
過去のワールドエネミー討伐では、数多くのプレイヤーが協力していた。
それこそ、三十六人規模の討伐隊が組まれ、課金アイテムまで大量に投入されたという。
そんなプレイヤーたちが一斉に自分へ襲いかかってきたら――。
「……勝てる気がしない」
しかし。
その心配は、杞憂だった。
なぜなら――。
システムAIは、ユグドラシルがまだ続くと思っていた。
だが、現実には違う。
サービス終了まで、残り一分。
そして、強制シャットダウンまでの時間は――。
あまりにも短かった。
ヘルヘイムの奥地に存在するナザリック地下大墳墓。
そこまで急いでも、十分はかかる。
つまり、プレイヤーたちがモモンガのもとへ辿り着く前に、ユグドラシルは終了する。
モモンガは、自分の名前がワールドアナウンスによって全プレイヤーへ知らされたことに、妙な感慨を覚えた。
これまでの自分が認められたような。
そんな錯覚さえ覚えた。
「……まあ」
モモンガは苦笑する。
「これまでギルドホームの維持を頑張ったんだから、ワールドアイテム二個ぐらい勝手に消費してもいいよな」
最後くらい。
好きにしたっていい。
そう思った。
ワールドアイテムを二つも同時に消費するなんて、初めての経験だ。
そしてモモンガは、ワールドエネミー化した自分のステータスを確認した。
「どれどれ……」
⸻
モモンガ
種族:世界の死《ワールドオーバーロード》
世界を死滅させられるほどのエネルギーを保有したワールドエネミー。
このワールドエネミーを放置すれば、惑星そのものが死の世界となる。
その影響は、やがて宇宙にまで及んでいく可能性がある。
ステータス
能力 数値
体力 110
魔力 166
攻撃力 60
防御力 95
素早さ 65
魔法攻撃力 115
魔法防御力 120
総合耐性 119
特殊 150
合計 1000
カルマ値:0
⸻
スキル
《死の武装》
死そのものを体現したような戦闘形態へ変身する。
死の能力が超強化され、その効果によって魔法そのものを変質させる。
瞬時に戦闘形態へ移行可能。
普段は死の力を凝縮させたローブを纏っている。
見た目は自由に変更可能。
さらに、死の力を凝縮したオーラを自在に操作でき、武器として使用できる。
⸻
《死の反転》
ワールドオーバーロードは、世界のすべての生物を死滅させる。
その死の力を聖の力へと変換することで、不死者でさえ死滅させることが可能。
さらに聖属性に対する耐性を獲得し、召喚したアンデッドにも聖属性への耐性を付与できる。
そして、このスキルにはさらに凶悪な性質がある。
絶望のオーラを反転させることによって――。
本来ならば即死をもたらす力が、生者と死者の両方に対する回復能力へと変化する。
モモンガはこの力を、
《絶望のオーラX》
と名付けた。
ただし、オーラは周囲へ広範囲に撒き散らされる。
そのため、近くに敵が存在している場合、敵まで回復してしまう。
使いどころには注意が必要だ。
⸻
《最上位アンデッド創造》
アンデッドの副官として使用できるモンスターを、無償で一日に四回召喚できる。
経験値を消費することで、本来ならばレベル90の存在をレベル100まで引き上げることが可能。
⸻
《上位アンデッド創造》
一日24回まで使用可能。
⸻
《中位アンデッド創造》
使用回数制限なし。
⸻
《下位アンデッド創造》
使用回数制限なし。
⸻
《ワールドネガティブタッチ》
耐性を貫通して負のオーラを送り込む。
アンデッドに使用した場合、回復効果を発揮する。
⸻
《刺突武器耐性Ⅴ》
刺突武器に対する高い耐性を獲得する。
《斬撃武器耐性Ⅴ》
斬撃武器に対する高い耐性を獲得する。
《殴打武器脆弱性超軽減》
殴打武器に対する弱点を大幅に軽減する。
⸻
《上位物理無効化Ⅲ~Ⅴ》
魔力を消費することで、無効化能力を段階的に引き上げられる。
《上位魔法無効化Ⅲ~Ⅴ》
魔力を消費することで、無効化能力を段階的に引き上げられる。
⸻
属性耐性
* 冷気属性攻撃無効化
* 酸属性攻撃無効化
* 電気属性攻撃無効化
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その他の能力
* 魔法的視力超強化
* 死霊魔法超強化
* 即死確率超上昇
* 即死魔法超強化
* アンデッド作成
* アンデッド支配
* アンデッド強化
* アンデッド超作成
* アンデッド超支配
* アンデッド超強化
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ワールドスキル
《あらゆる生ある者の目指すところは死である》
ワールドエネミーだけが保有する、強力なワールドスキル。
HPを消費することで何度でも発動可能。
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アンデッド基本特殊能力
* クリティカルヒット無効
* 精神作用無効
* 飲食不要
* 毒無効
* 病気無効
* 睡眠無効
* 麻痺無効
* 即死無効
* 死霊魔法完全耐性
* 肉体ペナルティ完全耐性
* 酸素不要
* 能力値ダメージ無効
* エナジードレイン無効
* ネガティブエナジーによる回復
* 闇視《ダークヴィジョン》
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弱点
* 正攻撃脆弱Ⅰ
* 光攻撃脆弱Ⅰ
* 神聖攻撃脆弱Ⅰ
* 殴打武器脆弱Ⅰ
* 炎攻撃脆弱Ⅰ
⸻
「……強すぎるだろ」
ステータスを見終えたモモンガは、思わず呟いた。
「ワールドエネミーのステータス、おかしいな……」
確かに、ワールドエネミーは強大な存在だ。
過去には、三十六人がかりで課金アイテムまで使用して、それでもなお及ばないワールドエネミーが存在した。
最終的には、そのワールドエネミーの行動パターンを読み切り、ワールドエネミーが保有する凶悪なワールドスキルを封じ込めることで、ようやく討伐できるかどうかというレベルだった。
「そりゃ……こんなのチートだろ」
モモンガは自分のステータスを改めて眺める。
「ステータスもおかしすぎる」
プレイヤーは、どれほど一つのステータスへ特化したとしても、125程度までしか到達できない。
それなのに――。
自分のステータスには125を超えているものが複数存在する。
「流石、ワールドエネミーってところか……」
超高レベルのボスは、超体力。
あるいは超魔力。
もしくは、ありえないほど強力な特殊能力を持っている。
だからこそ、プレイヤーが超えられないステータス上限を突破することができる。
「しかも……」
モモンガはワールドスキルを確認する。
「俺の切り札、体力を消費すれば何発も撃てるのかよ」
あまりにもおかしい。
「消費した体力も、スキルか時間経過で回復していくんだろうし……」
モモンガは呆れたように笑った。
「ワールドエネミーのワールドスキルって、おかしいな」
これと同じような凶悪なスキルを保有していたワールドエネミー化したプレイヤーが過去に討伐されている。
「……倒したプレイヤー、強すぎだろ」
確か、ワールドアイテムを使ってどうにか倒したという話だった。
「ワールドエネミーもそうだけど、ワールドアイテムも効果がバランスブレイカーなものがあるしな」
その中でも特に凶悪な二十個。
「二十を使えば……倒せるのか?」
そんなことを考えながら、モモンガはふと思った。
ワールドエネミーとなったプレイヤーは、元々自分が使っていた能力とは大きく異なる力を与えられる。
もしかすると――。
「ワールドエネミー化した直後で、変質したスキルに慣れていなかったのかもしれないな」
そこへ大量のプレイヤーが一斉に殺到すれば。
いくらワールドエネミーでも、倒される可能性はある。
「……まあ、今となっては分からないか」
モモンガは自分の力を見つめる。
「この力……試してみたいな」
だが――。
もう時間がない。
残された時間は、あまりにも短かった。
⸻
モモンガは周囲を見渡した。
ナザリック地下大墳墓。
自分が十年間を過ごしてきた場所。
仲間たちと作り上げた場所。
そして、自分が最後まで守り続けたギルドホーム。
「……まあ」
モモンガは小さく笑った。
「これで満足だ」
ワールドアイテムは十一個もあった。
最後まで使わないのは、もったいない。
消費系のワールドアイテムを二つ。
同時に使った。
それだけでも十分だった。
「ワールドアイテムを二個も同時に消費するなんて、初めてだな」
ふと、自分の姿を見る。
黒髪。
黒目。
そして――ワイルドな雰囲気を持つイケメン。
「……それにしても」
モモンガは首を傾げた。
「なんで外見まで変わったんだ?」
そして、さらに気になることがあった。
「俺のリアルでの顔の面影まであるじゃないか」
なぜなのか。
AIがバグったのか。
それとも――。
「……まあ、いいか」
深く考える時間はなかった。
モモンガは時計を見る。
「……あ」
残り時間は、わずかだった。
「もう、こんな時間か」
残り――十秒。
「……あと十秒しかないじゃないか」
モモンガは玉座に腰掛けたまま、静かに目を閉じる。
十一年間。
長かった。
そして――。
楽しかった。
仲間たちと冒険した。
笑った。
戦った。
苦しんだ。
何度も失敗した。
それでも、楽しかった。
モモンガは最後に笑った。
「あー……楽しかったな」
⸻
そして――
本来なら。
これで『ユグドラシル』は終わるはずだった。
サービスは終了し。
プレイヤーたちは現実世界へ戻る。
モモンガもまた、現実の世界へ帰るはずだった。
しかし――。
天文学的な確率の奇跡が起こった。
あるいは、それを奇跡と呼んでいいのかすら分からない。
どこぞの生命体によって。
ユグドラシルの世界は――終わらなかった。
そして。
ワールドエネミーとなったモモンガの新たな冒険は――。
ここから始まるのであった。