草原の中を、総勢五十名ほどの一団が馬で駆けていた。
全員が屈強な男たちであり、王国でも精鋭と呼ばれる戦士たちである。
その中でも、ひときわ目立つ男がいた。
年齢は三十代ほど。
短く刈り揃えられた黒髪に、真っ直ぐな鋭い輝きを宿した黒い瞳。
名は――ガゼフ・ストロノーフ。
リ・エスティーゼ王国の戦士長にして、王国の守護者。
腐敗の進む王国が、それでもどうにか形を保っていられるのは、この男の存在が大きい。
平民出身でありながら、圧倒的な武を身につけた準英雄級の戦士。
そんな男が率いる王国戦士団が、なぜこれほどの強行軍で王都から辺境までやってきたのか。
その理由は、王より下された一つの命令だった。
――王国辺境で目撃された帝国騎士たちの発見。
――そして、それが事実であった場合の討伐。
「何事もないといいのですが」
ガゼフの隣を走る副長が、不安そうに声をかける。
王国でも最上位の戦士であるガゼフたちが動員されたのには理由がある。
帝国の騎士たちは強い。
もし本当に帝国軍が何らかの軍事作戦を行っているのであれば、通常の王国兵士では対応できない。
そこで白羽の矢が立ったのが、ちょうどすぐに動ける状態だった王直属の王国戦士団だった。
もっとも、それだけが理由ではない。
王国貴族たちによる権力闘争も、この人選に大きく影響していた。
王国が一丸となって協力すれば、もっと迅速に兵力を整え、安全を確保したうえで任務に当たれたはずだ。
だが、貴族たちの横槍によって十分な武装すら整えられないまま、戦士団は送り出されることになった。
「戦士長……」
副長は拳を握り締める。
「思うように任務を遂行できないのは、やはり貴族どもの権力闘争だったのですね」
声には怒りが滲んでいた。
「貴族どもは民をなんだと思っているんだ。王の直轄領で被害が出れば王の求心力が下がる。そんな理由で我らの任務を妨害してきたのか!」
「貴族全ての考えではない。そのぐらいにしておけ」
ガゼフは前を向いたまま静かに答える。
「お前の気持ちは分かる。だが、貴族たちに聞かれたら大変なことになるぞ」
「それは分かっています。ですが……」
副長は納得できない。
貴族たちの態度が許せなかった。
人間であるはずの民を、人ではなく物のように扱う。
人の命を、一体なんだと思っているのか。
そもそも王国戦士団とは、王国に忠誠を誓った平民で構成される精鋭部隊だ。
皆、思うことは同じだった。
――腐敗した王国をどうにかしたい。
しかし、貴族たちの財力と権力は圧倒的だった。
逆らえば潰される。
そして何より、肝心の王国戦士長であるガゼフ自身が、貴族たちに反旗を翻すつもりがない。
以前、副長はガゼフに懇願したことがある。
『あなたの武力があれば王国は変わります! 王に無理やりでも直訴し、王国の腐敗を止めましょう!』
だが、ガゼフは静かに首を横に振った。
『それは王の本意ではない』
『そんなことを考えるより、自分たちで救える範囲の民を救え』
『気持ちは分かる。だが、それはできない』
その言葉を聞いても、副長は諦めきれなかった。
実は王国戦士団の中には、同じ考えを抱いている者が少なくない。
――自分たちなら、悪を力で打倒できるのではないか。
王国への忠誠心が強いからこそ、王国の腐敗を許容できない。
ガゼフがその気になれば、変革するだけの武力は十分にある。
あとは、弱気なランポッサ三世国王を説得できればいい。
そうすれば王軍を動かし、腐敗した貴族たちの強制捜査と逮捕。
そして王国に根を張る凶悪な犯罪組織――『八本指』の壊滅すら可能になる。
副長の夢は、正しき王国を作ること。
誰もが笑える王国。
今の王国の現状を見れば、夢物語なのかもしれない。
それでも――。
この英雄、ガゼフ・ストロノーフさえ味方につけることができれば。
貴族たちを裁判にかけることだってできる。
そんなことを考えながら、どうすれば王国を救えるのかと悩んでいるうちに、一行は目的の村へと辿り着いた。
「総員、行動を開始しろ! 早急にだ!」
ガゼフの命令が飛ぶ。
しかし――。
村に足を踏み入れた瞬間、一行は絶句した。
村は焼き尽くされていた。
家々は崩れ落ち、黒く焦げた残骸が広がっている。
そして、その残骸の中には――死体。
女も。
子供も。
赤子までも。
無惨に斬り殺されていた。
「……クソォ……!」
副長は歯を食いしばる。
自分は王国戦士団の副長にまで上り詰めた。
それでも、力が足りない。
冒険者で言えばミスリル級程度。
この程度の実力では、何も成せない。
「私は王国を変えたかった……。誰もが笑える未来を作りたくて、兵士になったのに……!」
どうして――。
そのときだった。
副長の頭に、ある疑念が浮かんだ。
「……何かがおかしい」
村が襲撃された時期。
自分たちが到着するまでの時間。
そして、ここまでの道程。
それらを考え合わせると――。
「戦士長! これは……誘導ではありませんか?」
「……」
ガゼフも気づいていた。
焼き尽くされた村。
そして、次の村でも襲撃が発生したという情報。
まるでこちらを誘き寄せるように。
「これは罠です!」
副長は叫ぶ。
「何者かが我々をどこかへ誘き寄せようとしている! 必ずどこかに待ち伏せがあるはずです!」
それは明らかな罠だった。
戦士長ガゼフの正義感と優しさにつけ込んだ罠。
だが――。
「それでも行く」
ガゼフは止まらなかった。
「戦士長!」
「民が襲われている」
その一言だけだった。
副長は絶望する。
――戦士長を失ったら、王国はどうなる?
この人を失えば、王国には何十年先まで暗い未来が待っている?
「……私も行きます」
王国の民を守る。
その一心で突き進むガゼフの後ろを、副長もついていく。
隊員たちも罠に気づいていた。
「戦士長、おやめください!」
「引き上げましょう!」
「危険です!」
それでもガゼフは止まらない。
不安を抱えながら、王国戦士団は馬を走らせた。
⸻
その頃。
ナザリック地下大墳墓。
モモンガは椅子に腰掛けながら、正面に設置された巨大な鏡を見つめていた。
これは魔法の鏡。
指定した地点を映し出すことができるマジックアイテムだ。
異世界へ転移してから数日が経っている。
その間、モモンガはアイテムの確認などを進めていた。
だが――。
あまりにも数が多い。
未だに全てのアイテムの確認は終わっていなかった。
現在はNPCたちと協力し、宝物殿の整理を進めている。
それでも、あと数日はかかる予定だった。
その作業の中で、周辺の探索にも使えそうだと判断し、いくつか持ってきた魔法の鏡の一つ。
今、初めて使っている。
「……よし。起動したな」
モモンガが感覚的に操作すると、鏡に映し出される景色が変化した。
隣で見守っていたセバスが頭を下げる。
「おめでとうございます、モモンガ様」
「ありがとう、セバス」
鏡に映る景色を、上空から見下ろすように操作する。
しばらくは草原が続いていた。
だが――。
南西へおよそ十キロ。
そこに村らしきものが見えた。
「……これは?」
モモンガは視点を近づける。
そして――。
「……!」
騎士たちがいた。
騎乗しながら剣を振り回し、村人たちを次々と斬り殺している。
それだけではない。
「俺、一キル!」
「俺は一気に三キルだ!」
騎士たちは、まるでゲームを楽しむかのように笑っていた。
「……」
モモンガは、かつてユグドラシルを始めた頃を思い出す。
何度も。
何度も。
執拗にPKされた。
あのとき、自分を殺していたプレイヤーたちも――。
こんなテンションだった。
「クソォ……ガァァァァァァ!」
ドンッ!
モモンガから、凄まじいオーラが吹き荒れた。
隣にいたセバスが思わず尻餅をつく。
「モ、モモンガ様……!」
仕方がない。
圧倒的なワールドエネミーのオーラが、突然解放されたのだ。
普通の存在なら、立っていることすら難しい。
「モモンガ様。どうかお心をお静めください。直ちに、あの不届き者たちをわたくしめが排除してまいります」
「それには及ばない」
モモンガは立ち上がった。
「セバスよ」
「はっ」
「グレーター・テレポーテーション」
「ま、待ってくださ――」
セバスが手を伸ばす。
だが、その前にモモンガの姿は消えていた。
「モモンガ様――!」
⸻
カルネ村。
その村外れ。
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
エンリとネムは必死に逃げていた。
背後から迫る騎士。
剣が振り上げられる。
少女たちに、残酷な刃が振り下ろされようとしていた。
その一撃は、二人の命を容易く奪うだろう。
妹を庇うようにして、振り上げられた剣の軌道とネムの間に身体を滑り込ませた。
まだ十五歳ほど。
ようやく大人の女性らしい身体つきになり始めたばかり。
これから、まだたくさん生きられるはずだった。
――これで人生も終わりか。
物語なら、きっと王子様が助けてくれるのだろう。
でも、自分はお姫様ではない。
ただの村娘だ。
そんな都合のいい展開が起きるはずがない。
奇跡なんて――。
その瞬間。
何かが通り過ぎた。
一瞬だった。
「……?」
ぶしゅっ。
ぽた、ぽた。
何かが溢れ落ちる音。
生臭い匂い。
「……血?」
エンリは恐る恐る目を開く。
だが、痛みはない。
――自分の血ではない。
そんなエンリの前に――。
漆黒のローブを纏った男が立っていた。
三十歳ほど。
筋肉隆々の逞しい身体。
漆黒の髪。
漆黒の瞳。
その目には、叡智すら宿っているように感じられる。
一瞬だけ、瞳孔に微かな赤色が浮かんだように見えた。
だが、それもすぐに黒へ戻った。
「大丈夫かい?」
男はエンリの前に片膝をつく。
「ちょっと失礼」
「……!」
近くで見ると、驚くほど整った顔立ちだった。
逞しい肉体美も相まって、まるで物語の英雄のよう。
エンリの心臓が大きく跳ねる。
ドクン。
ドクン。
――何、この人。
自分を間一髪のところで救ってくれた。
漆黒のローブを着た魔法使い。
しかも、片膝をついて優しそうな目でこちらを心配している。
エンリは、生まれて初めて恋をした。
男――モモンガはエンリの後ろへ回り込む。
「じっとしていてね」
「……は、はい」
何なの、この人。
どうしてこんなに近いの。
エンリは戸惑いながらも頷いた。
「今、治療するから」
モモンガがエンリの背中に手を触れる。
すると――。
逃げている最中に負っていた傷が、瞬く間に消えていった。
「……え?」
致命傷ではなかった。
だが、確かに傷はあった。
痛みも感じていた。
恐怖と逃走に必死で気にする余裕がなかっただけだ。
それが、完全に消えている。
「回復魔法……?」
エンリには、魔法を使える知り合いがいた。
田舎の村、カルネ村に住む村娘である彼女でも、回復魔法というものが存在することは知っている。
だから、目の前の男が魔法使いなのだと判断した。
「もう大丈夫だ」
モモンガはエンリから離れる。
「妹さんに傷はないかな?」
「はい! 大丈夫です!」
エンリは慌てて頭を下げる。
「助けてくれてありがとうございます!」
「どういたしまして」
モモンガは静かに答えた。
困っている人がいたら助ける。
それは当たり前。
――そうですよね、たっちさん。
そんな言葉が、モモンガの胸の奥で静かに響いていた。
エンリは必死に声を上げる。
「漆黒の魔法使い様! 村のみんなを助けてくださいませんか?」
「……」
「いきなり全身鎧の集団に襲われたんです! お願いします! 私にできることなら何でもします!」
「何でも、か」
モモンガは少し考えた。
「その必要はないですよ」
「え?」
「今、私の眷属が村の救援に向かっています」
モモンガは少しだけ言葉に詰まる。
「えっと……名前を教えてくれるかな?私はモモンガ――といいます」
「モモンガ様……」
エンリは嬉しそうに微笑んだ。
「私の名前はエンリ・エモットです。こっちが妹のネム・エモットです」
そして、深々と頭を下げる。
「村を救ってくれてありがとうございます」
「お姉ちゃん……もう大丈夫なの?」
エンリにずっとしがみついていたネムが、恐る恐る顔を上げた。
周囲の様子から安全を確認し、ようやく安心したらしい。
「うん。モモンガ様が助けてくれたんだよ」
「そうなの!」
ネムもモモンガを見る。
「ありがとうございます。モモンガ様」
「どういたしまして、ネム」
だが、モモンガは少しだけ表情を曇らせた。
「……しかし、伝えなければならないことがある」
「?」
「村を襲っていた連中は始末、または捕縛を完了した」
「……!」
「だが、私が助けに来る前に死んでいた者たちを救うことはできなかった」
モモンガは頭を下げる。
「申し訳ない」
「そ……そんな……」
エンリは慌てて首を振る。
「モモンガ様のせいではありません! 頭を上げてください!」
「もう少し早く気づいていれば――」
その姿を見て、エンリの胸がさらに締め付けられる。
圧倒的な力を持っている。
それなのに、決して傲慢にならない。
謙虚で、誠実。
強さだけではない。
性格まで好きになってしまった。
エンリの頭の中は、もはやモモンガの姿でいっぱいだった。
⸻
モモンガが村へ飛び込んだ理由は単純だった。
鏡に映った少女たちが殺されそうになっていた。
子供を。
しかも、何の罪もない無垢な子供を殺そうとしている。
そんなものを見て、放っておけるはずがない。
――言語道断だ。
「ペロロンチーノさんに代わって、成敗してやる」
そんな気持ちで転移した。
ワールドエネミーとなったことで、自分の実力に絶対的な自信があることも、すぐに行動へ移れた理由の一つだった。
そして――。
モモンガは目にも止まらぬ速さで動いた。
二人の騎士へ迫る。
手刀が走った。
一瞬。
二人の首が宙を舞った。
「……」
そしてモモンガは、すぐさま新たな命令を下す。
「最上位アンデッド創造」
二体のグリムリーパー・タナトス。
二体のオーバーロード・ワイズマン。
合計四体の最上位アンデッドが出現した。
「一体のグリムリーパーと一体のオーバーロード・ワイズマンは、まだ村を襲っている騎士鎧たちの対処を」
「はっ」
「残り二体は周囲の警戒に当たれ」
「御意」
さらに――。
「上位アンデッド創造」
モモンガは倒した騎士の死体を二つ見下ろす。
「破滅の王――ドゥームロード」
二体のドゥームロードが生み出された。
モモンガには感覚的に理解できていた。
この死体を依代にすれば、永続召喚が可能。
ただし、最上位アンデッドの依代として使うことはできない。
本来なら、この程度の死体では中位アンデッドの依代にしかならないはずだった。
しかし――。
ワールドエネミーとなったことで能力そのものが向上しているのか。
異世界へ来たことによって、さらに凶悪な能力へと変貌しているのか。
今のモモンガには、もはや判断できなかった。
「ドゥームロード」
「はっ」
「エンリとネムを守れ」
「御意」
これで一安心だ。
その間にも――。
グリムリーパーが動いた。
モモンガから命を受けた瞬間。
一瞬で十人の騎士の首が刈り取られた。
その速度はマッハを超える。
普通の人間に見えるのは、漆黒の残像だけだった。
一方、オーバーロード・ワイズマンは上空へ転移する。
「《タイム・フリーズ》」
時間が停止する。
ただし、停止したのは騎士たちだけ。
グリムリーパーには影響しない。
数十名の騎士たちの動きが完全に停滞した。
「《捕縛》」
無属性魔法による鎖が生み出される。
騎士たちを次々と拘束していく。
能力低下。
行動阻害。
騎士たちは芋虫のように動くことしかできなくなった。
レベル90に達する二体のモンスターにとって、この程度の任務はあまりにも容易だった。
やがて――。
「具現した死の神――グリムリーパー・タナトス。御身の前に」
グリムリーパーがモモンガの前に跪く。
「村人の救出及び賊の捕縛を完了しました」
そして、続ける。
「また、死の支配者の賢者――オーバーロード・ワイズマンが、この村の近くに潜伏している魔法使いの集団を発見しました」
「魔法使い?」
「はい。レベルはリーダー格が三十弱で、残りは二十前後です。」
「レベル三十にも届かないのか。」
モモンガは少し考える。
「ちなみに、村を襲撃していた者たちのレベルは?」
「五前後かと」
「ふむ……」
モモンガは周囲を見渡す。
この世界のレベルは、そこまで高くない。
そう考えるべきなのか。
もちろん、慢心は禁物だ。
だが――。
圧倒的な実力差がある。
救うと決めたのなら、救い出す。
それが今の自分にできることなのだから。
「よし、素晴らしい! 上出来だ、グリムリーパー!」
「そのお言葉を頂けるだけで幸福の極みです。主よ!」
「それでは、次の命を下すぞ」
モモンガは魔法使いの集団が潜伏している方向を見る。
「近くに潜伏している怪しい魔法使いの集団を、気づかれないように調査せよ」
「はっ」
「村を襲おうと企んでいた場合は捕縛して、ナザリックへ送れ」
「御意」
「怪しい魔法使いの集団……か」
モモンガは思考する。
重要な情報源になる可能性がある。
そのときだった。
「その件ですが」
オーバーロード・ワイズマンから通信が入る。
「魔法による情報収集の結果、怪しい魔法使いの集団は、王国の戦士長――ガゼフ・ストロノーフを誘き寄せ、殺害するために村々を焼き尽くしているようです」
「……なんだと?」
モモンガの声が低くなる。
「そもそも、その王国戦士長は何か悪いことをしたのか?」
誰かを殺す理由があるのか。
それならまだ話は分かる。
だが――。
「例えそうだとしても、無関係な村人を殺害するなんて許されることではない」
モモンガの表情が変わる。
「これは私が許せない理不尽な行為だ」
そして、はっきりと告げる。
「許さん」
モモンガの声に、圧倒的な威圧感が宿る。
「怪しい魔法使いの集団――」
「オーバーロード・ワイズマン」
「ナザリックの威を示せ」
「はっ!」
「行け」
モモンガは命令を下す。
「――絶望の始まりだ」
⸻
カルネ村。
帝国と王国の境界線たる山脈――アゼルリシア山脈。
その南端の麓に広がるトブの大森林。
その外れに位置する、小さな村である。
今回の襲撃によって、その人口は大幅に減少していた。
モモンガの救いの手は遅かった。
村人の大半は、すでに命を奪われていた。
そして、カルネ村が襲撃された理由は――。
王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフの暗殺。
王国は腐敗している。
このままでは、人類にとって不利益となる。
ならば――。
期待できる帝国の皇帝に、王国を一刻も早く併呑させる。
そして、人類の英雄が生まれる土壌を作り上げる。
そんな、どこかの国の思惑によって、カルネ村は悲惨な運命を辿った。
カルネ村だけではない。
周辺の村々も、ガゼフを誘き寄せるための囮として利用されていた。
しかも――。
人類の守護を宣うその国は、自分たちが直接的に人類を害したことが露見すれば立場がない。
そのため、先発隊には帝国の騎士鎧を装備させた。
犯人を帝国軍に偽装するために。
非常に悪辣な計画だった。
それでも彼らは、自分たちこそが選ばれた存在だと疑っていなかった。
⸻
赤く染まり始めた草原。
その中に――。
ポツリ。
ポツリ。
人影が浮かび上がる。
一人。
二人。
三人。
やがて、その数は四十五名に達した。
魔法によって潜伏していた怪しい魔法使いの集団。
全員が統一された衣服と鎧を身につけている。
しかも、それらは魔法の装備。
ただ立っているだけで異様な威圧感を放っている。
その姿は、誰がどう見ても――。
怪しい。
そして、彼らの目的はただ一つ。
ガゼフ・ストロノーフを誘き寄せ、殺害すること。
そのために、数え切れないほどの無辜の村人たちが犠牲になった。
だが――。
彼らはまだ知らない。
自分たちが、何を敵に回したのか。
そして。
理不尽を許さないと決めた、漆黒の支配者が。
すでに、自分たちへ牙を向けていることを。