狂った茶会と自由過ぎる社交界 作:ユメ先生
キヴォトス某所、ブラックマーケット。
ここはキヴォトスでも随一の無法地帯。
違法取引や悪徳企業が蔓延り、学校を追いやられた生徒達が流れ着く危険な場所である。
そんな場所を闊歩するのは、まともなトリニティの生徒ならまず忌避するだろう。
「おい、見ろよ、あの制服、トリニティだぜ」
「マジだわ、歩く身代金じゃねえか」
ストリートに屯する不良達が、堂々と歩くトリニティの三人組を見て色めきだった。
なにせ、トリニティ総合学園と言えばキヴォトス屈指のお嬢様学校。
ただの一般生徒でさえ、その金銭感覚はよその学校とは全く違う。
「おいおい、そこのトリニティの──」
不良達がそんな歩く金塊みたいな存在に近づこうとした。
その時だった。
たん、たん、たん、と先頭を歩いていたナギサが愛銃をぶっ放した。
崩れ落ちる不良が一人。
「な、なんだこいつ、急に撃ちやがった……」
「イカレてやがる……」
「邪魔をしないでくださいますか」
慄く不良達に、ナギサは言った。
「ニ十分も紅茶を飲んでいませんので、イライラしていますから」
「こ、紅茶……?」
淑女の笑顔を向けるナギサに、不良達はようやく気付いた。
「ティ、ティーパーティーだあぁぁぁ!!!」
自分達が絡んだ相手が、ティーパーティーの三人だと知った彼女達は悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「ミカさん」
「はーい」
幼馴染の声に、ミカが愛銃を逃げる不良達の背に向け、発砲した。
次々と崩れ落ちる、不良達。
「ミカ、よくやったね。これで
セイアは倒れた不良の足を掴んで、そのまま引きずりながら歩き出した。
「セイアさん、いけませんよ。他人を通行証だなんて。これはレディファーストと言うものです」
ナギサも適当な不良を引きずりながら、それに続く。
「普通に毎回ここに来たら絡まれるから見せしめって言えば良いじゃん……」
不良の首根っこを掴んで、首の気道を圧迫しながらミカがぼやいた。
ヘイローが消え、白目を剥いて泡を吹いている。
そうして、ティーパーティーの三人はブラックマーケットを練り歩き始めた。
彼女達がここに来た理由は単純だった。
「聞いたかい、二人共。ブラックマーケットに我がトリニティの誇るフォートオブメイデンが横流しされているそうだよ」
その素行とは裏腹に、自校の庭園で優雅にお茶を嗜んでいる三人。
その中で、セイアが口火を切った。
「え、それってホント?」
セイアの言葉に、ミカが目を見開く。
フォートオブメイデンとは、トリニティの自治区にある歴史ある老舗の紅茶の銘柄だ。
特別な製法を用いてる為、トリニティ学内でさえ滅多に流通しない最高級品。カネを積めば簡単に手に入る代物ではないのだ。
「赦せませんね」
かちゃり、とカップをソーサーに置いたナギサが言った。
「紅茶の味を分からぬ輩に、道具にされるなどと」
「十中八九、マネーロンダリングに利用されているだろうね」
昨今、キヴォトスの外でも超高額トレーディングカードがマネーロンダリングに利用され、ヤクザ者の資金移動に使われているように、この高級茶葉の横流し品を買う理由は、それを楽しむ為ではない。
誰も茶葉の所持など咎めない。
自治区から自治区へ、必要な時に換金し、簡単に資金の移動に使う為の、そんな道具に過ぎないのだ。
「では、我々が回収し、茶葉が劣化する前に有効活用しなければなりませんね」
ナギサがうっすらと笑みを浮かべた。
「私も久しぶりに、フォートオブメイデン飲みたいなぁ。私もナギちゃんに賛成!!」
「私もだよ。思索に耽るにはよい茶葉は必須だからね」
これに二人も賛同し、今に至る。
三人はブラックマーケットの市場を歩き回った。
「フォートオブメイデンはどこでしょう?」
「し、知るかよ」
「では知る人間を呼んでください」
露店の並ぶ区域に踏み入れた三人は、手頃な相手を捕まえて尋問を開始する。
「ナギちゃーん、C4沢山売ってたよ!!」
「全て買い上げてください」
「ミレニアム製の試作爆弾もあるね、これで適当なビルでも爆破すればこちらの“正当性”も理解してくれるだろう」
ミカとセイアは札束をポンと出して、爆発物を大量に調達した。
小規模な自治区のひと区画を丸ごと吹き飛ばせる量である。
それを見ていた露天商たちや客たちは、震えあがった。
無法地帯にも、秩序はある。この三人はそれを全く気にしていない。
「どけ、お前達!!」
その時だった。
「ま、マーケットガードだ!!」
ブラックマーケットの守護者、悪徳企業がカネを出し合って維持している闇市場の番人だった。
そんな連中が、ぞろぞろと露店市に踏み込んでくる。
「貴様らか、ティーパーティー!!
またここで騒ぎを起こすつもりか!!」
武装した大人のロボットたちが、銃口を彼女達に向ける。
「おや、不法占拠の番犬風情が、まるで正義の執行人のような顔で我々を咎めようしているようだ。
キヴォトスの法を理解していないというのに、なんという物言いだろうか」
「あはは、相変わらずセイアちゃんの物言いはムカつくね!!」
「……誉め言葉として受け取っておこうか」
無邪気に笑うミカに、セイアは頬を若干引きつらせながらそう返した。
「まあまあ、お二人共。ここは穏便に行きましょう、皆さん」
ナギサはトリニティらしい淑女の笑みのまま、真横にある“交渉力”に触れた。
端的に言って、大型爆弾だった。
「ここは無法地帯。であればより強いものが正しいのです。
ええ、たとえこれをここで爆発させたとしても」
「ナギサの言う通りだ。連中に我々を非難する資格はない」
「何が目的だ……」
マーケットガードの部隊長は、警戒を露わにしながら目的を問うた。
「もう、二人共ったら乱暴なんだから。
あ、そうだ、こうしようよ!!」
ぺちん、とミカが両手を叩いて名案を思い付いた。
「マーケットガードを雇おうよ。とりあえず、五億円くらいでいいかな?」
「ミカさん」
ナギサはそんな拙い交渉をするミカを咎めた。
「たった五億円ぽっちで、ブラックマーケットの治安機関を買収しようなどと……。最低でも十億は出さないと交渉の席についてはくれませんよ」
「むー、そんな言い方ないじゃん!!」
「まあ、そんなはした金で案内人を雇えるのなら十全ではあるね」
話がまとまった三人は、マーケットガードを見やった。
「で、幾らから交渉に乗りますか?」
「……本部に応答を願おう」
そして所詮、彼らも低俗な犯罪組織に過ぎないのだった。
その当日、ブラックマーケット、闇銀行。
ブラックマーケットに数多とある闇銀行の中でも、その中心部と言える場所だった。
銀行とは名ばかりの犯罪組織で、犯罪の為に出資を行うような社会の癌のような連中である。
そんな闇銀行の中に、ティーパーティーの三人が堂々とエントリーした。
「皆さん、恐縮ですが武器を捨ててその場に伏せてください」
天井に愛銃をぶっ放し、ナギサがその場にとても似つかわしくない声音でそう言った。
「よいしょ、よいしょっと。まったく、こういう時ばかり私に力仕事させるんだから」
ごろごろ、と大型爆弾の弾頭を転がしながらミカが入店する。
「こちらの指示に従わなければ、この爆弾を爆発させるよ」
柔らかな物腰で愛銃で周囲を威嚇するセイア。
「な、何が目的だ!!」
カウンターの銀行員が慄いて叫んだ。
この銀行に客としてきた犯罪者たちも、怯えて伏せていた。
「こちらの貸金庫に存在する茶葉、フォートオブメイデンを所望しております」
それはとても強盗を働きに来たとは思えないほど御淑やかな物言いで、ナギサは宣言した。
「お渡し下されば我々は何も致しません」
「こ、こんなことをして、分かっているのか!?
お前達は裏社会で、賞金首になるんだぞ!!」
「幾らですか?」
「は?」
「ではその賞金の倍額で、我々に賞金を懸けた者達を賞金首としましょう」
ナギサは薄く笑って、銀行員に微笑みかけた。
「あ、ちなみにマーケットガードも買収済みだよ!!」
「もう机の下の通報ボタンは押したのだろう? 残念ながら彼らは来ないよ」
ナギサの後ろで、ミカとセイアが残酷な事実を突き付ける。
「……今、お持ちします」
銀行員は項垂れて、金庫の方へと向かう他なかったのである。
先生がその所業を聞きつけたのは、偶々近くで現場を目撃した某サンドウルフが嬉々として、こんな強盗見たことない、とメッセージを送ったからである。
「“三人とも、お説教だよ”」
ティーパーティーの三人はシャーレのオフィスで正座をさせられていた。
「我々が銀行強盗? なんのことかな?」
セイアはすっとぼけた。
「そうですね。我々はそんなことなどしていません」
「そうそう。なんなら先方に確認を取っても良いよ。先生が犯罪者の言うことを真に受けるのなら、ね!!」
「先生は生徒と犯罪者、どちらの言い分を信じるのだろうね」
ぐぬぬ、と彼女達の言い分に苦い表情を浮かべる先生。
「ふふふ、先生は存在しない犯罪を、どうやって証明するのかな?」
「“じゃあ、これは持ち主を探して返すね”」
あ、と三人は先生に紅茶の容器を取り上げられ、惜しむように身体が動いた。
「“危ないことしたらダメだよ、怪我をしたらどうするの?”」
「先生、そのくらいにしたらいかがでしょう」
先生がその声に振り返ると、先生の補佐としてキヴォトス各地から集められた精鋭、通称・連邦捜査部生徒会の生徒達が事務仕事をしていた。
彼に声を掛けたのは、法務担当のカヤだった。
「ブラックマーケットは無法地帯、そこで何をしようが法的に何かしら責任は問えません。精々、トリニティの生徒会が多少のペナルティを言い渡す程度でしょう」
「“私はそういうことを言いたいんじゃないんだけど……”」
「よく言ってくれました、カヤさん。泥水で脳みそが浸っているとは思えない援護です」
「……あれ、私は擁護した立場ですよね?」
ナギサの言動に、脳がバグりそうになるカヤだった。
「そうだ、先生!! 連邦捜査部生徒会はみんなコーヒー派だったよね?
この際だから、皆でフォートオブメイデンを飲もうよ!!
紅茶は皆で一緒に飲むのが一番だからね!!」
と、ミカがここぞとばかりに主張した。
「同感だね。ミカ、君にしては名案だ」
「先生ー、狐のマフラー欲しくない?」
余計な一言を言うセイアの尻尾を、ミカはつねりあげる。
即座にセクシーフォックス神拳が彼女に炸裂する。多弁な彼女にしては端的で如実な言語だった。
かーん、と二人の間にゴングが鳴った。
「“わかったよ、みんな、お茶にしようか”」
揉みくちゃになってお互いの口の端を引っ張り合ううら若き乙女達の有様が見ていられず、先生は溜め息を吐いてそう言った。
「紅茶の入れ方にはゴールデンルールと呼ばれる伝統的な入れ方が存在します」
シャーレの給湯室を借りて、常に携帯しているティーポットを温めたナギサは、黄金にも匹敵する紅茶の容器を開ける。
たったそれだけで、ふわりと茶葉の芳醇な香りが室内に広がる。
「これは、期待大ですね」
計量器を使ってスプーン一杯のグラムを計り、ティーポットに茶葉を入れるナギサを見て、目を細めるカヤ。
そして、沸騰して少し泡立った紅茶をティーポットに注ぎ、スマホで正確に蒸らす時間を計る。
そうやって、用意しておいたティーカップに紅茶を注ぐ。
「紅茶の濃さが均等になるこの最後の一滴こそ、ゴールデンドロップ。紅茶の美味しさが凝縮された至高の瞬間です」
ナギサはそうした手順を丁寧に繰り返し、全員に時間を掛けて紅茶を配った。
「ナギちゃんってお茶入れるの上手いけど、時間かけ過ぎ。
もうちょっとちゃっちゃと入れればいいのに」
「ミカさん、そういうところですよ。だからセイアさんに粗野だと謗られるのです」
「え、鏡見る?」
ミカの容赦ないカウンターパンチに、ナギサの眉間がぴくッとなった。
「ていうかさ、先生、聞いてよ。紅茶って飲み切れない時はティーコジーを掛けて保温するんだけど、お喋りとかしている間に濃くなっちゃうんだよね。
こういう時はミルクティーにするのが一般的なのに、今しがた伝統に拘った誰かさんはストレートでしか飲まないんだよ」
「紅茶の楽しみ方は人それぞれですよ、ミカさん」
「ほらね、ナギちゃんはこんなダブスタ腹黒エセ淑女なんだよ」
「──ミカッ!!」
ナギサはミカに飛び掛かった。
「全く、二人共。淑女としての程度が知れるね」
セイアさんが言いますか!!
セイアちゃんが言うな!!
やかましい三人娘を尻目に、先生はとりあえず紅茶を一杯キメてから止めることにした。疲れたと言ってもいい。
「ほう、これは。私もコーヒーはブラック派ですが、紅茶の香りもまた別の趣がありますね」
「シャーレは新設されたばかりとはいえ激務です。こういう時間も必要かもしれないわね」
と、カヤに続いてアオイが話している。
「まあ、ポテチはコーヒーに合わないし、ティーパックを備品に置いておくのも良いんじゃない?」
紅茶と一緒に明太子味ポテチを貪っているモモカが提言した。
「そうですね、検討をしておきましょう」
リンが優雅に紅茶を口にして、そう答えた。
こうして、この日のドタバタは一旦幕を閉じた。
しかし、ここはキヴォトス。
ドタバタの種など、どこにでも転がっているのであった。
誤字脱字チェックの為に前話を読み返していたら、ネタが降って参りました。
もうこうなったら政治で青春を謳歌できないみんながハチャメチャする続きを書こうかしら……。
もし需要があったら続きを書くかもです。
それでは。