狂った茶会と自由過ぎる社交界   作:ユメ先生

3 / 5
タイトル的にティーパーティーだけだとバランス悪いので続きました。



栄光なる万魔殿

 

 

 

 ゲヘナ学園、校内。

 

 銃声や爆音絶えないこの学校に、専用の棟を与えられている部活が存在する。

 生徒会、風紀委員会、そして、──万魔殿だった。

 

 

 分校舎をまるまる一つ独占しているその部活の部長──当人は周囲に議長と呼ばせている──マコトは会議室で幹部たちを集めて、意味深に笑っていた。

 

「では、今日の会議を始める」

 

 テーブルに両肘を突いて、両手を組むと言う所謂ゲ〇ドウポーズのマコトがそう言った。

 

「議題は、そう、あのティーパーティーどもへの意趣返しだ!!」

 

 イロハは思った。やっぱりくだらない、と。

 

「いい加減あの連中は無視したらいいんじゃないですか?」

「それはならん。奴らとの因縁は、万魔殿創設以来の宿敵なのだからな!!」

「でも、うちの部活の活動と何にも関係ないじゃありませんか」

 

 イロハの指摘に、うぐ、と図星を突かれたマコトが呻く。

 

「そう言えば、よくティーパーティーの皆さんとは遭遇しますよね。私は楽しいから良いですけど。

 ところで、あの三人との因縁って何ですか?」

 

 チアキが素朴な疑問を投げかけた。

 

「うーん、あれはマコトちゃんが生徒会長選挙に落選した時から始まるわねぇ」

「そこ、落選したのではない、くれてやったのだ!! このマコト様が治めるのはゲヘナ学園程度では小さすぎるからな!!」

 

 そんな風に喚く部長を無視し、チアキはへえと当時を思い出しているサツキに関心を向けている。

 

「そこからマコトちゃんは将来を見据えて万魔殿って部活を作ったの」

「将来ですか?」

「ええ、連邦生徒会長よ」

 

 ああそう言えばそんなこと言ってましたね、とチアキは以前マコトが連邦生徒会長を狙っていると話していたのを思い出した。

 

「でも連邦生徒会長に選ばれるって、キヴォトス各地からすごい支持が必要でしょ?

 自分の学校だけじゃなくて、多くの学校からの推薦と、その後の選挙に勝たないといけない。

 だからマコトちゃんはキヴォトス各地に赴いて、自分をアピールする部活を立ち上げたの」

 

 サツキは自分たちの部活の成り立ちを、そのように語った。

 

「このマコト様のカリスマにかかれば、連邦生徒会長の椅子など向こうからやってくるようなものだ」

「当人はこんな行き当たりばったりなのに、なぜか校内で存在感があるのが不思議でなりませんよ」

 

 なぜか自信満々のマコトを、胡乱気にイロハは見ていた。

 意外なことに、彼女の目的はそれなりに順調だった。彼女が卒業するまでの日数を除けば。

 

「彼女達と出会ったのは、最初にトリニティに向かった時だったわ。そこでマコトちゃんと色々あってね。

 我が部活内はコーヒー党だけだ、って変な入部条件が追加されたわ。マコトちゃんも別にコーヒーが特別好きだったわけじゃないのに」

「そんな入部条件があったんですか? 私は紅茶も好きですよ」

 

 チアキは驚いた様子を見せた。その有様から、多分マコト本人もそんな入部条件を忘れていることだろう。

 

「チアキ、貴様我々を裏切るか!!」

「マコト先輩、アホなパワハラは止めてください」

「……ごほん、では今日の議題に改めて移るぞ」

 

 イロハに睨まれ、マコトは慌てて取り繕った。

 

 そんな時である。

 がらり、と会議室の扉を開いて、イブキが入って来た。

 

「あ、みんな、もう来てたんだ!!」

「イブキ!! 丁度いいところに来た!!」

 

 イブキの登場に、その場の面々は顔をほころばせた。

 イロハは席を立ちあがり、備品のインスタントコーヒーを入れ始めた。

 

「いつも通り、砂糖いっぱいとミルクで良いですね?」

「うん、ありがとうイロハ先輩!!」

 

 イロハがイブキの席の前にコーヒーを置いて、荷物を置いたイブキは自分の席に着いた。

 

「イブキ、今日はどこに行きたい? あのティーパーティーの連中を決着を付けるべく、今日は──」

「あ、じゃあ、トリニティに行きたい!!」

 

 イブキはそう宣言した。

 

「あのね、この間、一緒にお茶会の先輩たちとシャーレでお話した時にね、今度トリニティに来てねって言ってたの!!」

「……よかろう。イブキを誑かした罪を、清算する時が来たようだな」

 

 イブキの発言を受けて、マコトの内側にふつふつと怒りが沸き上がった。

 

「此度の活動は、トリニティへの遠征だ!!」

 

 そしてマコトの宣言により、即座に議題は終了した。

 

「わぁ、トリニティですか!! 久しぶりですね!!」

「この間はティーパーティーの皆とアリウスを襲撃したから、あんまり観光ができなかったものね」

 

 すっかり遠足気分のチアキと、楽しそうに微笑むサツキ。

 

「また面倒ごとを起こす気しかしない……」

 

 イロハは未だ否定しようと思っているが……。

 万魔殿という部活は、マコトが積極的に面倒ごとを起こしに行く部活動だということは、身内以外から見れば誰が見ても明白な事実であった。

 

 

 

 §§§

 

 

 トリニティ自治区、商店街。

 

 学生を主にターゲットにしている場所であり、放課後ゆえに賑わいを見せている。

 そこを、我が物顔で行進する黒い集団がいた。

 

 そう、万魔殿だった。

 部員たちは部活動規定のライフルを掲げ、マコト肝いりの軍楽隊がゲヘナの校歌を演奏し、その出で立ちはまるで軍隊の戦勝パレード。

 制服がカッコいい、と言って入部した部員たちの、これはまさしくファッションショーのようでもあった。

 

 その先頭を堂々と胸を張ってマコトが先導し、幹部たちが続いて行く。

 そんな珍妙な集団を、生徒や住人達はスマホで撮影している。

 マコトはそれを注目を浴びているとして、ますます鼻高々になる。

 

「ねえねえイブキちゃん、どこのお店がいい?」

「えーとね、ここのプリン美味しいって!! 行ってみたい!!」

 

 トリニティのガイドブックをチアキと一緒に見ていたイブキが、紹介されている洋菓子店を指差した。

 

「うむ、ではそこに行こうではないか!!」

「わかりました。お店に連絡を入れておきます」

 

 マコトの決定に、イロハがガイドブックを受け取り、そこに記されている電話番号でお店の予約を取る。

 もう慣れ切った連携プレーだった。

 

 さて、犬も歩けば棒に当たるように、万魔殿が歩けばトラブルが向こうからやってくる。

 いや、逆である。トラブルに向こうがやって来た。

 

「そこのゲヘナッ、止まりなさい!!」

 

 万魔殿の行進に立ちはだかるは、トリニティの正義実現委員会の部隊だった。

 その先頭はハスミだった。

 

「なんだ、トリニティのデカ女ではないか。我々に何の用だ」

「デカッ……。そちらこそ大勢で街中を練り歩いて、何の用ですか?」

 

 開口一番マコトにうっとおしそうにされて、ハスミの怒りのボルテージが上がった。

 が、そこはトリニティの淑女。まだ取り繕っていられる段階だった。

 

「ハスミさんこんにちは、今日はみんなで遊びに来ました!! 記念に一枚、はいチーズ」

「ええ、チーズ……ではありません!!」

 

 ぱしゃりとハスミを背後に自撮りをするチアキ。

 そのペースに乗せられそうになったハスミは声を荒げた。

 

「違う、遊びに来たわけではない!!

 あのティーパーティーどもと決着を付けに来たのだ!!」

「ではその具体的な作戦は何ですか?」

「うーむ、それはだな」

 

 イロハの問いに、マコトは腕を組んで思案をした。

 

「そうだ、兵糧攻めだ!!」

「というと?」

「あの紅茶中毒どもは、高い紅茶しか飲めない馬鹿舌どもだ。

 この商店街の紅茶を買い占めてやるのだ!! そうすれば奴らも安い紅茶しか飲めずに弱るほかないだろう!!」

「マコト先輩にしては比較的にまともな作戦ですね。その資金がどこから出てくるのか、という点を除けば」

「そんなもの、生徒会に掛け合って風紀委員会の予算を減らしてこちらに回して貰えば良いだけの話だ!!」

「……」

 

 またそれか、とイロハは思った。

 

 違法部活や違法サークルが蔓延るゲヘナ学園において、万魔殿は正式に認可を受けた部活なので、生徒会はどういう訳だか、マコトの見栄っ張りな各学校自治区への自称遠征をゲヘナの校威を高めるとして、多めの予算を割り振る傾向があった。

 ただ、それでは説明が出来ないので、イロハはマコトが生徒会の何らかの弱みを握っていると見ている。

 

「ほう、我々から、紅茶を奪うと?」

 

 何を隠そう、いや隠れても居ないが、ハスミも立派な紅茶党のトリニティ生。

 というか、トリニティのカリキュラムにはやたらと紅茶の時間が設けられている。

 紅茶を根こそぎ買い占めるのは、トリニティにとって宣戦布告も等しかった。

 

「そちらは先日締結した条約をお忘れで?」

「条約? なんだそれは」

 

 マコトがイロハを見やる。

 

「そう言えば、なんとか条約とかがゲヘナとトリニティの間で結ばれたとか、ニュースでやってましたね。たしか、オデン条約でしたか?」

「エデン条約よ、イロハちゃん」

「ああ、そんな名前でしたか」

 

 政治に興味のないイロハは、訂正したサツキに頷いて見せた。

 

「あなた方の行動は我々とゲヘナとの友好条約に泥を塗ることになりますよ」

「そうか。なら破棄してまた結べばいいだろう。それでまっさらな新品同然だ、キキキッ!!」

「なッ……」

 

 ハスミは目を見開く。

 目の前のアホは両学校の努力によって結ばれた条約を、チリ紙か何かと思っているようだった。

 

「というか、このマコト様が関わっていない条約など無視だ無視。

 我々はこれからイブキの欲しがったプリンと、ついでにティーパーティーの連中を叩きのめす準備をするのだ。邪魔をするな」

「お断りします、と言ったら」

「ふん、デカいのは胸の脂肪と身長と態度だけでは無いようだ」

「誰が全部デカいですって!! 総員、戦闘準備!!」

「ふ、間抜けめ」

 

 ハスミの号令で、正義実現委員会の部員たちが銃を向ける。

 しかし、ニヤリと笑うマコト。彼女はそれを待っていた。

 

「ぎゃ──!! 正義実現委員会が、何の罪もない観光客を襲おうとしているぞ──!!」

「なッ!?」

「助けてくれ──!! トリニティお得意の弾圧だぁ!! 正義実現委員会の、トリニティの醜い本性が姿を現したぞ!!」

 

 急に半狂乱になったように周囲に叫び出すマコト。

 イロハはそっとイブキの視界を手で覆った。そのみっともない姿に、地面に穴を掘って埋まってしまいたくなった。こんなマコト見たくなかったのである。

 

 ただでさえ衆目を集めていた集団なので、マコト達の行進を面白そうに見ていた市民や生徒達はその姿を動画に収め始めた。

 

「これはいったい何の騒ぎですか!?」

 

 そこに自警団までもが合流したのだから、収拾がつかなくなってしまった。

 

「くッ、総員撤退ッ、この一件はこちらの生徒会を通じてそちらの生徒会に謝罪と回答を求めますからね!!」

「勝手にしろ。謝るのは生徒会だ、このマコト様ではない」

 

 このゲヘナッ、と吐き捨ててハスミと正義実現委員会は撤退していった。

 

「ふ、勝った。所詮三下風情よ」

「戦わずに勝利、流石ねマコトちゃん!!」

 

 ふんぞり返るマコトに、割と本気で称えるサツキ。

 

「えー、でも、なんだか可哀想なことをしちゃいましたね……」

「先に銃を向けたのはあちらだ。全て事実だろう」

 

 うーん、と若干消化不良な結果にチアキは惜しみ、マコトは鼻を鳴らしてそう断じた。

 

「マコト先輩、怖い人たち行っちゃった?」

「おお、イブキ、怖かったか? このマコト様が悪い奴らを追っ払ってやったぞ!!」

 

 マコトはイブキを抱きしめて、頭を撫で始めた。

 

「それでは諸君、凱旋だ!! 好きなだけ飲み食いをするぞ!!」

 

 そして、マコトが背後の部員達に向けてそう宣言する。

 

「流石です、議長!!」

「やった、どこまでも付いて行きます!!」

「よッ、太っ腹!!」

 

 キヒャヒャ、と部員達からおだてられ、上機嫌のマコト。

 

 こうして、総勢数十人のゲヘナの生徒が、平和なトリニティの商店街に解き放たれてしまった。

 

 

 

 

「“ハスミから連絡があったよ。迷惑を掛けちゃダメだよね?”」

 

 しかし後日、マコトがシャーレの先生の前で正座する羽目になった。

 

「わ、我々はただの観光だったのだぞ!! あれは正義実現委員会の横暴だ!!」

「“でも、もっと上手いやり方はあったよね? 学校同士の仲を悪くするようなことをしちゃダメだよ。マコトはそれが出来たはずだよね? 私は他人に嫌がらせをするようなマコトは見たくないかな”」

 

 先生のド正論に、うぐぐ、となるマコト。

 

「先生、もっと言ってやってください。

 あ、こちらトリニティで購入した紅茶です。おすそ分けにどうぞ、いつもお世話になってますので」

「“うん、ありがとうイロハ”」

「いえ、アホみたいに沢山買ったので、今学校中に配って回っているんです」

 

 結局、マコトの紅茶買い占め作戦は失敗した。

 なにせ、紅茶専門店のいくつかは、トリニティ学園との専属契約をしていたのだ。

 それを知ったのは、幾つかのお土産屋で紅茶を買い占めた後だった……。

 

「アユム、ほら紅茶ですよ」

「知りません」

 

 先生が貰った紅茶の缶をリンが受け取ってアユムの席に持っていくが、彼女は拗ねたようにそっぽを向いた。

 トリニティ出身の彼女はコーヒー党の蔓延るこのオフィスで、随一の紅茶派なのだった。

 

「私が外回りの最中に皆さんはフォートオブメイデンを楽しんだようで、この恨みしばらく忘れませんから」

 

 先日ティーパーティーの持って来た高級茶葉を味わえなかったアユムは、そのことを根に持っているようだった。決して作者が彼女を登場させるのを忘れた訳ではない。

 

「“じゃあ、今度埋め合わせにみんなで何か食べに行こうか?”」

 

 若干申し訳なさを感じていた先生が、アユムにそう言った。

 

「え、本当ですか!?」

「経費に計上はしませんからね」

 

 喜ぶアユムを他所に、財務担当のアオイは無情な言葉を並べた。

 

「ということは、先生の奢りですか?」

「それはいいですね」

 

 目聡く反応するカヤに、リンは眼鏡の淵を押し上げる。

 

「“お、お手柔らかにね……”」

「ズルいぞ貴様ら!! このマコト様も同行するからな!!」

「僭越ながら、店選びは任せてください」

 

 そう主張するマコトに、ちゃっかり参加する気なイロハ。

 

 先生は、とほほ、と肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 

 

 




思いのほか需要が有ったので、イベント読み返して解像度あげて書きました。メイン更新楽しみですね!!

更なる需要が確認されれば、次の更新は証明されるでしょう。(意訳:高評価お願いします!!)

でもセミナーとかをどんなトンチキ集団にするか、見切り発車だからネタがない……。
まあ、いざとなったらユウカをいじればいっか!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。