狂った茶会と自由過ぎる社交界 作:ユメ先生
まさかこんな適当に思いついた設定に三桁のお気に入りが集まるとは……。
「こちら、TT01。ゲヘナ学園に潜入に成功した……」
「……なにやってるの、セイアちゃん」
「ふふッ、様式美という奴さ」
ここはゲヘナ学園、その本校舎の敷地内。
ティーパーティーの三人は、ゲヘナ学園の制服を調達し、それを纏って堂々と正門から侵入したのだ。
え、どうやって制服を調達したかって? そこら辺にゲヘナの不良なんていくらでも転がってるじゃろ?
三人に突っかかってきた不良達が、土下座して謝っているところ『誠意』として拝借したものだった。
「それにしても、ゲヘナの制服はスカートが短すぎませんか?」
いつもロングスカートタイプの制服を着ているナギサが、少し恥じらいながらそう言った。
「え、それぐらい普通だよ」
「そうだね。むしろ、あんな動きにくい制服でよく動けると思ってたよ」
と、ミカとセイアはそんな感想を漏らした。
学校によっては複数のデザインから好きなタイプの制服を選ぶことが出来る。
その上更に、正義実現委員会のような部活によって制服が定められている場合もある。
特に自由を標榜するゲヘナは制服の種類が多いことで有名だった。
なにせ、自由なら私服でもいいじゃん、とならないように多種多様の黒を基準とした制服が取り揃えられている。
いくら自由な校風でも、学生と言う身分を示す制服という制度を取り除くことは出来ないようだった。
そんな訳で、キヴォトスでは建築業が花形と呼ばれているが、服飾業界もまたこの世界の花形であると言えるだろう。
「嫁入り前なのですから、淑女として肌の露出は控えるべきですよ」
「あはは!! ナギちゃんのお婿さんとか、私だったら絶対ゴメンだよね!!」
「ミカさん。ロールケーキが必要なようですね」
ナギサはおもむろにロールケーキ(鉄製)を取り出し、ミカの顔面に狙いを付ける。
じょ、冗談だよ、とミカは身振り手振りで主張した。
「まったく、二人共他校に潜入中だということを忘れてはいないかい?」
どかーん、ばこーん!! だだだだだだ!!!
学内のどこから爆音と銃声によって、セイアの声はかき消された。
「え、セイアちゃん何か言った? 声帯無くなっちゃった?」
「おや。懐かしいですね、セイアさんの口パク芸」
「……おっと失礼した。今の我々はゲヘナの生徒だったね」
セイアは太もものホルスターから愛銃を抜いた。
「ゲヘナの洗礼を思い知るがいい、二人共!!」
彼女の銃声が校内に鳴り響いた。
「もー、冗談じゃん。なにも撃つことないじゃん」
「そうですよ。心の底までゲヘナの生徒になり切る必要はありませんよ」
二人はグチグチ言いながら、前を進むセイアの背に追従する。
「というかさ、とりあえず今日はフウカちゃん攫ってトリニティに連行するってことで良いの?」
「違いますよ、ミカさん」
ミカの発言を微笑みながらナギサは否定した。
「ここに生徒会から頂戴した、体験留学の書類があります。
これに名前を書くと、他校の生徒が一週間ほどトリニティに“お客様”として招待できるわけです」
「そうとも、我々はゲヘナの生徒とは違うからね」
なんて言う二人に、ミカは半眼で見ていた。どうせフウカの了承を取るつもりなどないのはわかり切っていたのである。
「ところでお二人共」
「どうしたの、ナギちゃん」
「ゲヘナの制服を着て堂々と侵入しましたが、我々はそもそも、特に私とミカさんはトリニティらしい身体的特徴をしています。怪しまれませんか?」
本校舎の入り口を前に、ナギサがそんなことを言い出した。
「え、大丈夫でしょ」
ミカがあっけらかんとそう言った。
「ゲヘナの連中に私達の変装を疑うなんて脳みそは無いよ」
そう言って、ミカは本校舎の入り口をくぐって、廊下で談笑をしているゲヘナの生徒二人に話しかけた。
「やっほー。おはよー!!」
「うん、おはよー!!」
「おはよう!! いえーい!!」
いえーい、とミカは見ず知らずのゲヘナの生徒とハイタッチした。
「ほらね?」
二人の元に戻って来たミカが、笑顔でそう言った。
が、当の二人はこそこそとお互いに向き合って話していた。
「笑顔で見下している相手とコミュニケーションを取っている、ミカは恐ろしいな」
「昔からミカさんはメンヘラ気質がありましたから……」
「えっと、これがゲヘナの流儀だっけ?」
今度はミカが銃を抜くと、二人は即座にそっぽを向いた。
三人がそんなやり取りをしていると。
「ん、あれ? やっぱりなんだかあなた達、全然見ない顔だよね?」
「なんかトリニティの生徒みたいな羽根付いてるし、怪しい……」
先ほどミカが挨拶したゲヘナの生徒達が、三人を怪しみだした。
「えー、どうせ脳みそからっぽなんだから、ぼーっと何も考えずにあっち見てればいいのに」
「ミカ、先ほどから君の物言いは目に余るよ」
ゲヘナ嫌いのミカを、セイアは嗜めた。
「彼女達は学生時代が有限であることに目を背け、自らの人生を破壊すると言う愚行権を行使しているに過ぎない。
自由の概念を履き違えた乱暴狼藉はそれに根差した、根本的で幼稚なモノなのだよ。頭から先入観で他者を厭うのは、君の悪い癖だ」
「うん、セイアちゃんの方がボロクソ言ってない?」
「そうですよ、セイアさん。それにミカさんも」
今度はナギサが二人を諫めた。
「ゲヘナの方々はトリニティが“愛”を与えるべき隣人ですよ。
我が校でも障害を持っているからといって、その生徒を迫害をしたりはしないでしょう?
ゲヘナの方々の行動は我々が友人として、鞭を持ってでも正すべき。ただそれだけのことではありませんか」
「……」
「……」
「とりあえず、あんたらがうちらを馬鹿にしてるのだけはわかったわ」
「うんうん、喧嘩売ってるよね」
セイアとミカはチベットスナギツネみたいな視線をナギサに向けていた。
そんな三人にゲヘナの生徒二人は銃を抜いた。
その時である。
「こらッ、お前たち何をしてる!!」
「あ、イオリだ」
「ちぇ、運がいい奴ら」
風紀委員会のイオリの登場に、ゲヘナの生徒達は足早に去って行った。
「まったく、今日という日に……いや、今日だからこそか」
そんなゲヘナの生徒達の背を見送り、イオリは違和感バリバリの三人に視線が向いた。
「……」
イオリは一度目を逸らした。脳が違和感を処理できなかったのだ。
「いやいやいや、なんでティーパーティーの連中がここにいるんだ!?」
「なに言ってるのかな、私達ゲヘナの生徒だよ。いえーい、写真撮ろう!!」
ミカがテンションアゲアゲでイオリを背に自撮りを取る。
「ああまったくその通りだよ。ああめんどくさい、サボりたい、あのクソダサいマコト先輩から面倒ごとを頼まれたんだ。そこをどいてくれないかな?」
セイアは当人だったら絶対に言わなそうな誰かのモノマネを図った。
「え、ええ、えーと、キーッヒッヒ!!! 愚かな風紀委員会の分際で、このナギサ様の邪魔をするとは何事ですか!!」
ナギサのパチモンみたいな演技が炸裂!!
「そんなんで騙されるか!! お前達ゲヘナを馬鹿にしすぎだろ!!」
「え、自分達が馬鹿にされないような連中だと思ってたの? 自意識過剰じゃない?」
「くそッ、割と事実だから言い返しにくい……」
ゲヘナの治安は終わり切ってるので、ミカのマジレスに反論できないイオリだった。
「って言うか!! 他校の生徒が何でゲヘナの本校舎に居るんだ!!」
「おや、別に許可を取れば校舎内に他校の生徒が入ることが出来るのは、連邦生徒会の規定にもありますよ」
「なら、許可証を提示するんだな!!」
イオリの声に、ナギサは口元に手を当てて微笑んだ。
「私達はゲヘナの生徒に扮しているのですよ? 許可なんて取るわけないじゃありませんか」
「くそッ、どこまでも反論しにくい……」
校内の秩序も終わってることにイオリは歯噛みした。
「まあいい、どっちにしろ許可が無いなら叩き出せば済む話だ」
「うわ、面倒だなぁ」
ミカは露骨に嫌そうに顔を顰めた。
イオリは何だかんだで言って、キヴォトスでも上から数えた方が早い強者である。
正面から戦ったら騒ぎになるような事態になるのは明白だった。なお、ミカは自分が負けるとは微塵も思っていない。
「ミカさん、マズいです」
その時、ナギサが険しい表情を浮かべた。
「ヒナさんです!!」
「え、ホントだ、やばッ!?」
ヒナの名前を聞いて、ミカが警戒するように身を捩る。
「え、まさか、元委員長がッ──」
イオリが背後を振り返る。
だが、そこには誰もいなかった。
「なッ、お前達────」
彼女が三人の方を向き直った瞬間だった。
ミカの拳が、イオリの眼前に迫っていた──。
朦朧とする意識で、イオリはこんな声を聴いた。
「まったく、こんな古典的な手に引っかかるとは、来年のゲヘナ風紀委員会が思いやられるね」
「そんなことより、この子どうする? 縛るものないよ」
「おや、ミカさん。これがあるじゃありませんか」
三人はイオリを身体に触れ、その尻尾を股下から引っ張って、両手を縛った。
「わーお、自分で自分を縛れるなんて、聖典的には自罰的存在ってことにならなくない?」
「馬鹿なことを言っていないで、その辺の教室に放り込みますよ」
三人が去って行く。
イオリは遠のく意識の中で、ヒナに謝罪するのだった。
§§§
ゲヘナ学園に侵入した三人は、難なく給食部の活動場所である食堂に辿り着いた。
「フウカさんはゲヘナの食堂を少人数で切り盛りする、風紀委員会に比べて分かりにくいゲヘナの支柱。
彼女をトリニティに招待すれば、ゲヘナの食糧事情は麻痺した摸同然です」
と、事前にナギサはそう計画を語った。
給食部はその名の通り、ゲヘナの貧困生徒向けの福利厚生的な側面が強い部活動だ。
原価ギリギリの値段で生徒達に昼食を提供し、お財布事情に厳しい生徒達の救済措置として機能している。
そんな彼女を搔っ攫えば、ゲヘナの食糧事情は逼迫するのだ。
そして、厨房では三角巾を被った角の生えた小柄な生徒がいた。エプロンの結び目が後姿に見えている。
まな板に向かって野菜を切っているらしい。
三人は無言で、後ろから彼女を強襲。
食堂の端っこに置いてあった、“フウカさん専用すだれ”と書いてあった美食研究会がフウカを簀巻きにする時に使うだろうすだれを勝手に拝借し、それで彼女を巻いてからすたこらさっさと逃亡を開始。
かくして、ゲヘナ学園から一人の生徒が消えて行った。
「……あれ、誰もいない。どこいったんだろう」
その数分後、給食部の冷凍室から出て来たフウカが周囲を見渡し、そう呟いた。
「ふふふ、見事に作戦成功だね」
愛車の後部座席に簀巻きにした生徒を放り込み、セイアが車を発進させる。
「これでしばらくは、ゲヘナの食事事情は惨憺たる有様になるでしょう」
作戦を立案したナギサは、助手席で上機嫌だった。
「……あれ?」
「どうしました、ミカさん」
軽快に車をかっ飛ばし、ゲヘナ自治区からトリニティの自治区へと入った頃、ミカが違和感に気づいた。
「フウカちゃんってさ、黒髪だったよね」
「ええ、そうですね」
「この子、白髪なんだけど」
ミカの言葉に、セイアが車を急停止させる。
前の二人が振り向くと、確かに簀巻きの端っこから白い髪の毛が見えていた。
「そんなバカな、人違いだったのですか!?」
「え、でも、角あったし、小柄だし、エプロンで三角巾つけてたよね?」
「ああ、それに翼もあった」
「あれれ、フウカちゃんに翼あったっけ?」
三人は黙り込んだ。ゲヘナの生徒の外見的特徴の記憶なんて、曖昧だったのだ。
すると、簀巻きにされた生徒がもぞもぞと身を捩った。
「あの、いい加減にこれ、外してほしいのだけど……」
その声は、どう聴いてもフウカのモノではなかった。
「今、開放するね!!」
まさかの人違い。
ミカは慌ててすだれの紐を解いた。
その拍子で三角巾が取れて、毛量のある白い髪の毛がふわりと広がった。
「まさか、私をフウカと間違えて攫うなんて……」
解放されて起き上がったゲヘナの生徒は、やっぱりフウカではなかった。
「あ、あなたは!?」
ナギサが目を剥いて驚愕する。
「これは驚いた。まさか、給食部の厨房で働いていたのが──」
「空崎ヒナじゃん」
セイアとミカも、億劫そうに車から降りた彼女を認めた。
「まったく、人違いも甚だしいわ。それにまさか、私を攫う人間が現れるなんて、ね」
自分達を攫った三人を、胡乱な視線を向けている彼女は、空崎ヒナ。
ゲヘナの、“元”風紀委員長であった。
お盆なのに仕事が忙しくて投稿がちょっと遅れました。日間にちょっと載ってたみたいなので、その時に更新できなかったのが悔やまれます。
そしてみんな大好き、ヒナちゃの本格登場。
キヴォトスの生徒が政治をぽいするなら、ヒナもそうなるべきっすからね。
ではまた!!