狂った茶会と自由過ぎる社交界 作:ユメ先生
先生がトリニティ総合学園に向かったその頃。
「マコト先輩。聞きました? ヒナ先輩がご病気らしいですよ。
やっぱり引退の原因はそれなんでしょうか。風紀委員会に取材しようにも、主要メンバーの方々はみんな忙しそうですし」
万魔殿の広報担当、広報誌も部費で出版しているチアキが部室でそう言った。
「……そうか」
「なんだか心配ですよね。今度我々もお見舞いに行きませんか?」
「……キキキ。奴の弱った姿を見てやるのも悪くないな」
「……?」
チアキはマコトの反応に首を傾げた。
何やら彼女の反応にキレがない。
その時、イロハがマコトの前にコーヒーを置いた。
「イロハちゃん。なんかマコト先輩、おかしくありませんか?」
「ああ。どうせその内元に戻りますよ」
イロハは心配していなかった。むしろいつもより大人しくて丁度いいくらいだった。
「ヒナちゃんのことは心配よね。
これまでいっぱい頑張ってた反動で、心が疲れちゃったのよ」
サツキは悩まし気に息を吐いてそう言った。
「こんな時こそ、私の催眠治療が役に立つときかしら!!」
彼女がそんな名案を思い付いた時である。
「みんなー、お客さんをつれてきたよー!!」
「おお、イブキか!! 偉いぞッ」
イブキの登場に椅子から喜色満面で椅子から立ち上がったマコトだったが、その表情はそのまま凍り付いた。
「万魔殿の皆さん、毎度お世話になってます」
イブキに連れられてきたお客様とは、ゲヘナ学園の生徒ではなかった。
それは、ミレニアムサイエンススクール指定の、その学校の生徒を示すジャケット。
彼女は、セミナーのユウカだった。
イブキと手を繋いで、万魔殿の部室に入って来た。
「イブキから手を放せ」
マコトは普段からは想像の出来ない真剣な表情で、懐から愛銃を抜いてそう警告した。
イロハも無言で銃を抜いた。
「……ふふ、随分な歓迎ですね」
ユウカは不敵に笑ってからイブキに向かって、お姉さんたち大事な話があるから、と言った。
「うん、じゃあイブキお勉強してるね」
そう言って、イブキは去って行った。
「それで、貴様は何の用だ」
「あら、本当に心当たり有りませんか? ブリキアヴァンギャルド君の代金の請求に来ました」
ユウカは請求書を部室のテーブルに置いてそう言った。
「ただの請求にわざわざ我々の部室まで来たんですか?」
「ええ、万魔殿はお得意様でしたから。うちの部長の発明品を度々買ってくださっているので。
でも、ブリキアヴァンギャルド君はこれまでの買い物とは値段が違うので」
「……拝見します」
嫌な予感がして、イロハは請求書を手に取った。
そして、その金額を見て頭が痛くなった。
「マコト先輩、うちにこれを払える予算は有りません」
「そうか、何とかしろ」
「出来ません。無い袖は振れません」
「では生徒会に言って予算を引き出せばいいだろう」
「今年一年分の予算が消えますよ」
「そんなもの、風紀委員会の分を削ればいいだけではないか!!」
暖簾に腕押しとはまさにこのこと。
イロハは溜息を吐いた。
「あの、代金の振り込みはもう少し待ってもらえませんか?」
「申し訳ないけど、分割や支払いの滞納は受け付けてないわ」
「それを何とか……」
「そうですか。分かりました」
イロハは顔を上げる。ユウカの笑顔で彼女らを見ていた。
「そちらの支払いの見込みが立つまで、私が立て替えても良いですよ。
その代わりと言っては何ですが、イブキちゃんを一週間ほど預からせてもらいますけど」
「やはりな、本性を現したな、早瀬ユウカ」
「私を誘拐犯みたいな言い方をしないでください。ただセミナーの広告の撮影にいいかなぁーって、一週間ほど色んな服にお着替えして貰って写真を撮ったり私の部屋で一緒に寝て貰うだけですから」
「ならん、貴様のような変態に、イブキを渡せるか!!」
「私が異常性愛者みたいな言い方をしないでください。
イブキちゃんが可愛いのは、皆さんにとっても共通認識じゃありませんか」
ユウカが輝かしい笑顔でそう言った。
ぐぬぬ、となるマコト。
「あの、一応一度も使用していませんし、返品と言う形でなんとかなりませんか?」
「そうだ、我々はまだ一度も使用していない!!」
イロハの嘆願に、マコトも乗っかった。
「そうですね、わかりました。では返品と言う処理を行いますね。想定通りです」
「想定通り、ですか?」
チアキが首を傾げる。
「ええ、ゲヘナ学園の別組織が早急な納品を希望していたので。
今、うちの会長が商談に向かっているところです」
「別組織って、まさか」
「ええ」
サツキはそれがどこかすぐに察した。
「風紀委員会です」
「お待ちしておりましたよ、調月リオさん」
ゲヘナ学園学内、風紀委員会棟にセミナーの会長であるリオがやってきていた。
「ゲヘナの治安悪化に際し、生徒会は我々に急激に予算の増額を決定しました。
ゲヘナの治安改善と、ヒナ委員長を奪還する為の兵器を早急にお願いしたいのです!!」
アコの要請に、リオは深く頷いた。
「私の最高傑作である、ブリキアバンギャルド君を提供するわ」
「ブリキアバンギャルド君? もしかして、万魔殿の連中が見せびらかしていたあれですか?」
「ええ。彼女らがブリキアバンギャルド君を手放す確率は、ほぼ100%だわ。それをあなた達が買い上げれば、すぐにでもゲヘナの治安改善に使用できる」
リオの実に合理的な判断だった。
「あんな変な機械に、ゲヘナの治安をどうにかできるのか?」
部室で同席しているイオリがそう言った。
何も言わないが、チナツも同意見だと言う様に頷く。
「アバンギャルド君は玩具とは違うわ。ここに来るまで、ゲヘナの治安悪化について聞いたわ。ついでに私の話もしましょう。ミレニアムで生徒会に居たこの調月リオが、セミナーの会長になったのかを」
そしてリオは来客用のソファーに座り、アコからマズいコーヒーを受け取った。
「(え、なに、この流れ……)」
「(なんで話を聞く流れに?)」
これにはイオリとチナツも困惑気味だった。
「私はミレニアムの生徒会を辞したあと、私は自分を見つめ直す為にゲヘナ自治区にある熱気溢れる過酷なヒノム火山へと向かったわ。
そこに広がるアビスの地に住むと言う、雷帝の科学力を引き継いだ集団からその知識を教わるつもりだった。雷帝の知識をよ」
リオは遠い目になりながら語りだした。
「山に入って数日、その過酷な環境で私は倒れてしまったわ。
でも私は助かったわ。気が付いたら、彼女達の地下基地に居たのよ。
そこで彼女達は、雷帝の遺産を復元しようとしていたわ。
私は彼女達の手伝いを申し出た。彼女達の知識を得るために。
それから一か月ほどで、私はビッグシスターと呼ばれるようになり彼女達の部長となっていた。それがセミナーの第一歩だったわ」
「……」
アコは物凄く物申したそうにしていたが、結局は何も言わなかった。その集団に心当たりでもあったのだろう。
「私は彼女らの部長に相応しい発明をすることになったわ。
私の引いた図面で、今は部員となったセミナーの皆が雷帝の知識でブリキ製のアバンギャルド君を作ってくれたわ。
それによりアバンギャルド君はさらなる進化を遂げた。
圧倒的な瞬間火力、鉄より硬いブリキによる防御性能、飛行機能による機動性、そしてブリキ製仮面をつけることにより芸術性も向上!!」
「最後の要素居るの?」
「合理性と遊び心こそ、科学者のロマンだと思わないかしら?」
イオリの素朴な疑問に、リオは微笑んでそう返した。
「さて、私のセールストークで購買意欲は更に向上されたはずね」
「今のセールストークだったんですか!?」
「ええ、そうよ」
クソ真面目に頷くリオに、えぇ、となるチナツ。
そんなリオのタブレットに、着信が鳴った。
「……どうやら、返品処理が完了したようだわ。計算通りの時間ね」
「とりあえず、実力を見てから購入を決めて構いませんか?」
「ええ、それで構わないわ。
校庭に向かいましょう」
そんな訳で、ブリキアヴァンギャルド君が安置されている校庭へと面々は向かって行った。
万魔殿の戦車に並んで、ブリキアヴァンギャルド君が鎮座していた。
そこには既に、身長110㎝くらいの作業服の小人みたいなのが三人ほどわちゃわちゃと整備していた。
「あの、あの子たちは?」
「アレはただの機械よ。私達セミナーの発明品。
我が校の廃墟で出土した古代の遺物、AL-1Sをリバースエンジニアリングして量産化に成功した、その名もリトルシスターシリーズ。現在二万体の製造を予定しているわ」
「なんかその、いろいろとマズくないか?」
「マズいとは?」
その時だった、ブリキアバンギャルド君を整備していたリトルシスター達がリオを見つけて、ぽてぽてと歩み寄って来た。
「リオ、アリス達にだけ仕事をさせるんですか、手伝ってください、とアリス00021号は憤慨します!!」
「そうです、アリス達の待遇改善を要求します、とアリス00022号はストライキもじさない構えです!!」
「アリスはプリンが食べたいです、とアリス00023号は主張します!!」
「やっぱりアウトだろこれ!!」
リトルシスター達の主張に、イオリが叫んだ。
「どうみてもパクリじゃないか、コラボ先へのリスペクトはないのか!!」
「失礼ね、アリスはうちの学校の生徒として登録されたオリジナルよ。そして彼女達はただの“汎用お手伝いロボット”。何の問題もないわ」
リオは至極当然のように言い放つと、カバンからプリンを三個取り出してリトルシスター達に手渡した。
「やったー! アリス達の勝利です! とアリス00023号はプリンを食べます!!」
リトルシスター達は木陰でプリンを食べ始めた。
「扱いやすいわ。所詮機械ね」
「……向こうは合理性からかけ離れているように思えますが」
「それは当然よ。リトルシスターシリーズは“カワイイ”を重視し、生徒達の妹を演じるようにプログラムされているわ。合理的なプログラムと非合理的な思考ルーチンの融合は、まさにアヴァンギャルドな芸術と言えるでしょうね」
あっはい、とアコはこの変人の価値観にツッコむのを諦めたように頷いた。
「さて、みんな。食べ終えたら仕事の時間よ」
リオが手を叩くと、リトルシスター達が、はーい、と戻って来た。
「では治安改善と言っても色々あるけれど、具体的にどのようなプログラムで動くようにするべきかしら?」
「……とりあえず、校則を基準にしたらどうだ?」
色々言いたいことがあったが、イオリはプロに徹してそう答えた。
「風紀委員会の基準は、ゲヘナ学園の校則を基本としている」
「なら、校則違反者を判定して段階的に処置を行うプログラムを組めば良いということね。では、風紀委員会における校則違反の“基準”と“処罰”の段階を教えてもらえるかしら?」
リオの問いかけに、イオリは指を折りながら説明を始めた。
「まず、ゲヘナの校則違反は大きく分けて三段階に分類されている」
・第1段階:軽微な校則違反(軽犯罪・迷惑行為)
基準: 廊下の暴走、授業のサボり、校内での落書き、許可のない物品販売(買い占め・転売等)。
対応: 警告および即座の身柄拘束(の上でお説教)。従わない場合は強制鎮圧。
・第2段階:重大な校則違反(重犯罪・武装蜂起)
基準: 違法爆発物の不法所持・使用、校舎や備品の破壊行為、部活同士での抗争、風紀委員への武力抵抗。
対応: 実弾解禁による即時無力化、および風紀委員会棟地下牢への一週間拘留。
・第3段階:最優先危険事象
基準: 拉致・監禁、美食研究会および温泉開発部またはそれに類する組織よるテロ活動全般。
対応: 理由を問わず現場での問答無用の即時鎮圧。
「……なるほど。非常に分かりやすく、そしてゲヘナらしい基準ね」
納得したように頷くリオの横でアコが、補足ですが、と付け加えた。
「本来なら第1段階は口頭注意で済むはずなのですが……ゲヘナの生徒は銃を突きつけて警告した程度では止まらないので、実質的に全段階で即時武力行使がデフォルトとなってますね」
「……理解したわ。では、リトルシスター達。アルゴリズムに組みなさい」
リオが手元のタブレットを高速で操作すると、3体のリトルシスターたちの目が、ピカーン!! と怪しく光った。
「ブリキアヴァンギャルド君のアルゴリズム構築完了、とアリス00021号は報告します!!」
「ゲヘナの全制服情報をダウンロード完了、執行対象を自動で検知します、とアリス00022号は自分の仕事に満足します!!」
「エリドゥ管制室とのリンクを確認、衛星からの情報支援を獲得しました、とアリス00023号は報告します!!」
その直後、ブリキの仮面で覆われたアバンギャルド君の両眼が輝く。
「「「ブリキアバンギャルド君、発進します!!」」」
『校則違反者を検知。総数、300以上。現在も上昇中……』
ブリキアヴァンギャルド君がキャタピラの下のバーニアを吹かし、その大重量を物ともせずに飛行を始めた。
『不良生徒に対する、執行開始』
彼はその全火力を、不良生徒達に向けた。
即ち、違法部活や違法サークルが蔓延る──本校舎へと。
自動リロードされるロケットランチャーの雨が、本校舎に降り注ぐ。
ガトリング砲とアサルトライフルが逃げ出した不良達を次々に掃射する。
モノの一分程度、ゲヘナの本校舎は瓦礫と化した。
ブリキアヴァンギャルド君はそのまま校内を飛行し、サボりや銃撃戦をしている不良達に銃弾の雨を降らせて黙らせた。
『鎮圧完了。対応範囲、ゲヘナ自治区内へと拡大……』
そして、破壊神と化したブリキアヴァンギャルド君は自治区へと飛び立っていった。
「ふ、やはりブリキアヴァンギャルド君は最強ね」
「いや、やり過ぎですよ!!」
ドヤ顔のリオに、今度はチナツが叫んだ。
「ふッ、ふふふッ、圧倒的ではないですか、ブリキアヴァンギャルド君は!!」
「アコちゃんまで、なに悪役みたいなこと言ってるのさ!!」
「だって、私は一度あの吹き溜まりをぶっ壊してやりたかったんですよ!!」
「それは私もそうだけどさ!!」
本校舎を占拠している不良達の所為で、真面目なゲヘナの生徒が割を食っているのは事実だった。
ただ違法な活動をしているからと言って、その全てが実害のある活動だったわけではない。
ヒナはその辺りを尊重し、摘発を控えていた。
ゲヘナの自由は守られるべきであると。
「とりあえず、私は部員を総動員して救助活動を指揮します!!」
チナツがそう言って、駆け出して行った。
「はあ、風紀委員会の活動も機械化の時代か。
次は私達の時代だし、色々やり方を考えるしかないか……」
イオリは自分達が汗水たらして駆けずり回る時代が終わるのかと、そんな哀愁に満ちた表情でブリキアヴァンギャルド君が去って行った方を見やった。
さて、今回のオチ。
「“ヒナ、本当になにもされてないんだね?”」
「もう、先生ったら。単なる悪ふざけだって言ったじゃん!!」
ミカがそう先生に主張した。
「そうだね。ヒナが一度くらい誘拐されて、先生に助けられてみたいって言うモノだから、私達は協力してあげただけさ」
「そ、それは言わない約束だったでしょ……」
セイアの言葉に、ヒナは顔を真っ赤にして俯く。
「いいではありませんか。万魔殿の所業に対する意趣返しが目的だったのです。
彼女達も今頃大慌てでしょう」
ナギサが薄笑いを浮かべてそう言った。
まったくもう、と先生は仕方なさそうに溜息を吐いた。
これはそんな彼女達と先生が、ヒナをゲヘナ学園に送る最中なのだった。
「でもヒナさん。ゲヘナに居るのがつらいのなら、トリニティへの短期留学は考えてみてください。
少なくともゲヘナ学園よりは騒がしくないですよ」
「そうね……それもいいかも」
ナギサの言葉に、ヒナは体験留学の書類を見た。
「“それじゃあ、フウカも心配しているだろうし──”」
「ちょっと待ってくれ。なんだこの空気の振動は」
セイアの耳が、空気の微細な変化を感じ取った。
ここで思い出してほしい。
ティーパーティーの三人が今、どこの制服を着ているかを。
『犯行声明を確認、最優先事項を更新。自称ゲヘナスーパー誘拐団を確認。執行開始──』
「先生ッ!!」
ヒナは咄嗟に先生を庇って、その場を離脱。
無数のロケットランチャーや銃弾が空からティーパーティーの面々に降り注いだ。
「ちょ、これはシャレになんない、なんないって!!」
その圧倒的な火力投射にミカも涙目になって逃げだすほかなかった。
ナギサとセイアは既に地面の転がっている。
「なにあれ……」
「“さあ……”」
ヒナと先生は、追いかけまわされるミカをただ見ているほかなかった。
生徒会のしがらみが消えたリオとユウカの登場でした。
今回はいろいろとはっちゃけました。アバンギャルド君は最強なんだよ!!
それにリトルシスター達……いったい何シスターズなんだ……。某とあるは作者の青春でした(遠い目
いよいよネタが尽きたので、次回はちょっと考え中です。
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