マッドティーパーティーが往く!! 作:ユメ先生
あと、タイトルもキャッチーで親しみやすく変えました。
「それは、寂しくはないかい?」
ハナコは自分でも奇妙な縁であると思っていた。
常に喧々囂々として騒動の中心にいるティーパーティーの三人組の一人、百合園セイアと自分が友人関係であることは。
当人は読書が趣味で静寂を好んでいるらしいが、行動の結果を伴わなければ説得力は生まれないものだ。
「周囲が君の頭脳のみを当てにして、過剰な期待をかけてしまうのはわかるよ。
かといって、全てを拒絶してしまうのも学生時代の楽しみ方とはいかんともしがたいね」
「セイアちゃんは、楽しそうですもんね」
「そう見えるかい?」
セイアは優美な微笑みを湛えた。
ハナコは羨ましかったのだ。友人たちと気兼ねなく、青春を謳歌しているセイア達が。
くだらないことで笑い合い、どうでもいいことに真剣になって、何の役に立たないことに没頭する。
周囲の勝手な評価や偏見など気にしない、その在り方が。
「なら、君も本当に心許せる友人を作るといい。
そしてそんな者のためにこそ、尽くしたいと思った時に手を貸せばいいさ。
そんなささやかなことで十分なはずだよ」
「ですが、セイアちゃん。本当の友人なんて、そう簡単に出来ませんよ」
セイアは優美な微笑みを深め、こう言った。
「なら、試せばいいんじゃないかな」
彼女の頭部に、どこからともなく飛んできた鉄製のロールケーキが直撃した。
「本当の友人を見極めたいと言うのなら、君のちょっとしためんどくささぐらい、笑って許してくれるさ」
セイアの頭部に、謎の隕石が真横から飛んできて直撃した。
「──いい加減にしないか!! 二人共ッ、そんなにこの猛狐神拳の真髄を味わわせてほしいなら、やってあげようじゃないか!!」
ぶちギレたセイアはそう叫びながら、後方で殴り合いの喧嘩をしているミカとナギサの方へ飛び掛かって行った……。
「浦和さん、いずれあなたには生徒会の席が用意されています。準備をしておいてください」
廊下の出会い頭に、生徒会らしい生徒にハナコは話しかけられた。
「それは、私と
ハナコは微笑みながら問い返した。
「……ええ、我々の派閥は常に友人を必要としていますから」
「素敵です♡」
生徒会の生徒に、ハナコは笑みを深めてそう言った。
「では、親交も兼ねて踊りませんか?」
「は?」
「スロー」
ハナコの拳が無防備な生徒の腹に突き刺さった。
「スロー」
もう片方の拳が、彼女の顔面に直撃する。
「クイック、クイック」
校内所持用の自動拳銃を抜き、二発の銃弾を至近距離からぶち込んだ。
「スロー」
最後に膝蹴りが、生徒会の生徒に見舞われる。
彼女の頭上からヘイローの光が消え、崩れ落ちて気絶した。
「おや、新しいお友達。踊り疲れてしまったのですか?」
ハナコはカバンから造花を取り出し、倒れた新しい友人の身体に手向けた。
「次もまた声を掛けてくださいね。おもてなしをしたいです。喜んでもらえれば、素敵です♡」
ハナコはその場を去った。
勿論周囲で悲鳴が巻き起こったが、気にすることはなかった。
また教会で。
「ハナコさん。生徒会の牽制にあなたをシスターフッドの幹部に、と考えています」
「ええ、私達はお友達ですからね」
「わかってくれますか」
シスターフッドの先輩は安堵した。それを了承と受け取ったからだ。
「嬉しいです♡」
ハナコは目の前の先輩に抱擁を試みた。
「は、ハナコさん?」
「そんなにも私を大切に想ってくださっていたなんて♡」
ぎゅぅっとハナコは彼女を抱きしめた。
「愛していますよ♡」
「は、ハナコ、さんッ」
ぎちぎち、と骨が軋む音と共に、彼女の背中に両指の爪を立ててハナコは愛を示した。
まるで逢瀬の絶頂の際に、男の背中に爪を立てて傷跡を残すかのように。
「だれ、か、たすけッ」
ハナコの愛情表現に、先輩は泡を吹いて気を失った。
「あら、満足してくれましたか? 感激です。私の愛に満足してくれたか心配だったんです♡」
周囲で当然悲鳴が上がった。
ハナコは当然のように正義実現委員会の牢屋にぶち込まれた。
もう誰も、彼女を勧誘しようなんて人間は居なくなった。
最終的に、手に負えないとシャーレの先生にお鉢が回って来た。
「初めまして、先生。セイアちゃんからお話は聞いています。
セイアちゃんのお友達ならば、私にとってもお友達も同然です。素敵ですね♡
教師と生徒、大人と子供の背徳的な楽しい時間を過ごしましょう♡」
「“うん、よろしくねハナコ”」
シャーレのオフィスでハナコを出迎えた先生は笑顔で対応した。
「“でも、残念だけど、生徒と先生は友達にはなれないんだ。ごめんね”」
「おや♡ 年の差や性別の差なんて関係ありませんよ。さあ、お近づきの印に踊りませんか?」
ハナコが手を差し出す。
「それとも、抱きしめて差し上げましょうか♡」
「“うーん、どちらも魅力的な提案だけど……遠慮しておこうかな”」
「そうですか。わかりました」
その後、ハナコは先生との面談の後にお花を摘みに行った。ハナコだけに。(どッ!!
「先生、面倒な生徒が来ましたね。ただの面談なのに、先生を試していました」
一部始終を聞いていた書類作業中のリンが、そんなことを言った。
「そうですね。薄っぺらい狂人の真似事をしてましたが、要するにムカついたから殴った。ただそれだけのことですよ」
「ええ、どこぞの三人組を思い出しますね」
コーヒーをデスクで啜るカヤの歯に衣着せぬ物言いに、リンも頷いた。
「先生、勘違いしないでくださいね……。トリニティは、うちの生徒は本当に温厚な人ばかりなんです……」
トリニティ狂人列伝に、アユムが涙目になってそう主張した。
「“うん、わかってるよ”」
これには先生も苦笑いだった。
「“とりあえず、いきなり暴力を振るうのを止めてもらう方向でお話をしようと思うよ。あとはゆっくりとこっちを信用してもらうところから始めようかな”」
「あのティーパーティーの三人も、成績の面では優等生なんだけどねー」
モモカが明太ポテチを貪りながらそうぼやいた。
「先生、戻りました」
「“うん、じゃあ続きをしようか”」
先生が戻って来たハナコと面談の続きをしようとした時であった。
「あ、ちょっと失礼します」
ハナコのスマホに電話が掛かってきたのだ。
「セイアちゃん、どうかしましたか? え、トラブル?」
彼女が電話に出て退出しようとしたが、用件を聞いて彼女は思わず先生の方を見てしまった。
「“……何かあったのかな?”」
先生は柔和な表情で見返した。
なんとなく、ハナコは隠し事が出来ずに、セイアの話をそのまま話した。
§§§
「なにも先生を連れてくることはなかったんじゃないかな」
先生とハナコを出迎えたセイアは、若干面倒くさそうにそう呟いた。
「タイミングが悪かったですね、セイアちゃん♡」
「まったくだね」
セイア達がトラブルに見舞われたのは、D.U.の郊外にある完全予約制のレストランでのことだった。
「先生、助けて!! ナギちゃんが、ナギちゃんが!!」
ミカは半狂乱の様子で、先生に縋りついた。
「“うん、話は聞いているから。大丈夫だよ”」
先生はミカを宥めながら優しく声を掛けた。
ただ、セイアは半眼で彼女を見ていた。このミカが、先生が来る数十秒前までナギサの現状を指差して大笑いしていたことを知っているからだ。
事の発端は、何とこのレストランで暴行事件が発生したと言うことであった。
その犯人としてナギサが疑われているのだ。
「私は無実ですよ、先生」
通報を受けて駆け付けたヴァルキューレの生徒に両脇を固められたナギサは、そう主張した。
拘束はされていないので、現時点では容疑者という扱いのようだ。
「“話を聞かせてくれないかな”」
はい、と言ってナギサは話し始めた。
本日、ナギサ達三人は美味しいロールケーキが出てくるこの完全予約制のレストランにやってきた。
そこで食事を取っていた三人だったが、不意にナギサがお花を摘みに向かった廊下で、頭部を殴られて倒れている他の客を目にした。
すぐに通報したところ、第一発見者のナギサが疑われているという状況だった。
「なんでナギサさんが疑われているのでしょうか?
確かに、第一発見者が犯人であるパターンは有り触れていますが」
「こちらを見てください、廊下の防犯カメラの映像です」
ハナコの疑問に、ヴァルキューレの生徒がノートパソコンを持って来て、防犯カメラの映像を見せてくれた。
映像では、レストランの店内にある三叉路で、被害者と思わしき犬の住民がスマホで電話をしている最中だった。
被害者が背を向けている時、防犯カメラに棒状の物体の先端が映り、被害者の後頭部を殴打した。
「……これ、ロールケーキですか?」
「“うん、ロールケーキだね……”」
その棒状の物体の断面部分が映っていた。高速で振り下ろされているので画像は荒いが、どう見てもロールケーキだった。
「“つまり、ロールケーキ暴行事件ってことだね”」
口にして何だろうこれ、と先生は思った。
「そして容疑者の持ち物に、こんなものが」
ヴァルキューレの生徒が、ナギサの所持品らしい鉄製のロールケーキを示した。
「先生、ナギちゃんはいつかやると思ったよ……」
「ミカさん!?」
「我々が擁護しても説得力はないからね、第三者としてハナコの協力を願おうと思っていたが、まさか先生を連れてくるとは」
ミカは涙ぐみながら(嘘泣き)、セイアは溜め息を吐きながらそう言った。
「きっとイライラしてたんだよ、出されたロールケーキがあんまり美味しくなかったから」
「私はそんなことで通り魔のようなことはしません!!
それにこれは、ミカさんの馬鹿力に対抗するためのロールケーキ殺法に用いるためのモノで、ミカさん以外には使ったりはしませんよ」
「先生!! ナギちゃん反省してないみたい!!」
「ミカッ!!」
キレたナギサがミカに飛び掛かった。
ヴァルキューレの生徒たちが慌てて喧嘩を始めた二人を止めに入ったが、あっさりと弾き飛ばされる。
「“二人共、喧嘩はダメだよ!!”」
先生が叱ると、はい、と言って二人は引き離された。
「うーん……」
「ハナコ。君ならどう見る?」
「まだ確証の無いことは言えませんが、店内を見せて貰ってもよろしいですか?」
思案していたハナコは、セイアの言葉を受けてそう言った。
「“わかったよ。ちょっとお願いしてみるね”」
なんだか捜査部らしいことをできて、ちょっと嬉しい先生だった。
捜査に来ていたヴァルキューレの生徒に話を通して、現場を見に向かう先生達。
犯行現場を見に行くのかと思いきや、ハナコが向かったのはキッチンだった。
そして冷蔵庫や冷凍庫などを開けたりし始めた。
「“ハナコ、なんでキッチンに……”」
「ああ、やっぱり」
ハナコはゴミ箱から食品用の紙箱を取り出し、確信を持ったかのように頷いた。
次にオーナーの許可を取って入り口の台帳を確認し、他の客の話を聞いたハナコはこう言った。
「先生、犯人が分かりました。関係者を集めてください」
「“わかったよ”」
まるで推理ドラマの現場に居るかのような状況に、先生は若干ワクワクしながらも神妙に頷いた。
レストランの外にある駐車場に、関係者全員が集められた。
救急車で運ばれた被害者以外、全員だ。
店側のオーナーやスタッフ、ナギサ達三人、そして店に来ていた彼女達以外の客が数人。
「先生、これから一体何が始まるんですか?」
「“多分、推理ショーだよ”」
「はあ……」
何ともロマンの有る状況に、目を輝かせている先生にヴァルキューレの生徒たちは何も言えなかった。
「今回の事件は、暴行傷害事件となります。
被害者は凶器のロールケーキのようなもので殴られており、その容疑者として第一発見者のナギサさんが挙げられています」
ハナコは状況を確認するようにそう言った。
「この事件で不可解なのは、なぜロールケーキのようなものを凶器に選んだか。そして、犯人の犯行動機です」
事件を整理すると、結局はその二つが焦点に当たる。
「容疑者のナギサさんは、このレストランに偶然居合わせた隣のテーブルの客に暴行を働いた容疑で拘束されています。
そして彼女は、偶然ロールケーキ状の鉄製品を所持していました。
これは恐らく真犯人にとっても予想外の出来事なのではないでしょうか?」
「真犯人、というと、彼女が犯人ではないと?」
ヴァルキューレの生徒が尋ねると、ハナコは頷いた。
「店内を確かめると、奇妙な点がいくつか見られました。
このレストランは完全予約制。彼女達以外に、今日はお客さんは来客しません。
しかし、冷蔵庫を見ると中身の入ったロールケーキの箱が見受けられました。
不思議だとは思いませんか? 今日はもう客が来ないのに、ロールケーキが冷蔵庫に残っているのです」
「それは、単純に自分達の分とか?」
「いえ、うちは必要な分しか食材を発注しません」
ヴァルキューレの生徒の言葉を、オーナーが否定した。
「まさか、そのロールケーキが凶器だとでも?」
「でも普通のロールケーキで殴っても、相手は怪我なんてしないよ」
セイアとミカが疑問を投げかける。
「いいえ、あのロールケーキは凶器ではありません」
「じゃあ凶器はどこにあるの?」
「そこに在りますよ」
ハナコは凶器の在りかを指差した。
セイア、ミカ、ナギサの三人を順番に指し示したのだ。
「え、どういうこと?」
「店内のゴミ箱に、こんなものが残されていました」
困惑する周囲を気にせず、ハナコは段ボール箱の出荷表を示した。
「ここのロールケーキは、工場で作られている。そうですね、オーナーさん」
「ええ、私の所有する工場で」
「それは一旦、冷凍食品の業者を通じてここに配送される」
オーナーは言葉に詰まった。
「そう、この暴行事件の凶器とは、その──冷凍ロールケーキだったのです!!」
その衝撃の事実に、周囲にどよめきが走った。
「じゃ、じゃあ、その凶器って」
「私達が食べた、あのロールケーキだったのか……」
「恐らく犯人は証拠隠滅のために、電子レンジなどで急速解凍をして皆さんに提供したはずです。それで名物だったこの店のロールケーキの味が変わってしまったのでしょう」
そしてそれが出来るのは、店側のスタッフだけだ。
「そうですよね、料理長さん?」
「ッ!? い、言いがかりだッ!!」
ハナコの視線に、レストランの料理長が動揺を露わにした。
「君も言っていたではないかッ、動機は、動機はなんだね!!」
「被害者の職業は、記者だったそうですね。
恐らく、名物のロールケーキが冷凍食品だと見抜かれてそれを記事にするとでも言っている、被害者の電話の会話を聞いてしまったのではありませんか?
そしてその事実がつまびらかになった時、責任を問われるのはあなたである、と……」
どさ、と料理長は、否、真犯人は膝を突いた。
動機を暴かれ、犯行を暴かれた彼は、まるで推理ドラマのように自分の境遇などを話し始めたが、どうでもいいので割愛する。
こうして、真犯人は逮捕され、ロールケーキ暴行傷害事件は幕を閉じた。
「まさか冷凍ロールケーキが凶器だったとは……」
「容疑が晴れてよかったね、ナギちゃん!!」
「……」
ナギサはおもむろにミカに近づいて、そのもちもちした頬を無言でつねり上げた。
「いひゃい、いひゃいよ、なぎひゃん!!」
「ハナコ、そして先生も。世話を掛けたね」
幼馴染二人のじゃれ合いに背を向け、セイアが代表して礼を言った。
「気にしないでください。セイアちゃんのお友達なら、私にとってもお友達のようなものです♡」
すると、ミカへの制裁を終えたナギサが改めてハナコと先生の前にやってきた。
「ハナコさん、先生も。今日はありがとうございました」
「“いや、私は何もしていないよ”」
「ええ。私も大したことはしていません」
先生もハナコも、謙遜したのだが。
「いいえ。ミカさんもハナコさんのように、トリニティ生の模範のような生徒として自覚を持ってほしいくらいですよ」
「……ナギサさん♡」
ハナコは両手を広げ、目の前のナギサを抱きしめた。
あ、と先生が思った時は遅かった。
「私も同じトリニティの生徒として、愛してますよ♡」
「あ、あが、あがが……」
「おや、お疲れのようですね♡ 花は、花はどこでしょう、丁度手向けの花を切らしていまして♡」
抱擁を解かれ、白目を剥いたナギサが崩れ落ちる。
ミカがドン引きし、先生とセイアが目も当てられないと顔を覆う。
「うふふ……」
補習授業部なんて結成されないこのキヴォトスで、ハナコの青春が訪れるのはもう少し後の事であった。
生徒会としてティーパーティーがないなら、それによって生い立ちが変わる生徒もいますよね。
主にヒフミとか、ヒフミとか。
そして可哀想なナギちゃん。
向こうでは瀟洒な淑女だったのに……。