ソードアート・オンライン -宵闇の大剣士-   作:炎狼

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第十三話

 桐ヶ谷直葉は寝ぼけ眼を擦りながら寝間着姿のまま階段を下りて、一階の居間にあるソファに身を沈め、欠伸をしながらテレビをつけた。

 

 食卓を見ると朝食が並べられていたので母の翠が準備して行ってくれたのだろう。

 

 テレビでは朝のニュース番組を放送しており、女性のニュースキャスターがニュース原稿を読み上げているところだった。

 

 けれどいまの彼女にはニュースはあまり耳に入ってきていなかった。その理由としては寝起きだからと言うのもあるが、もう一つ理由がある。

 

 直葉はVRMMORPG、《アルヴヘイム・オンライン》のプレイヤーだ。けれど彼女は元々ゲーマーと言うわけではない。元々彼女はあのようなゲームをする人間ではなかった。VRMMOを始めたきっかけは彼女の兄、桐ヶ谷和人があのゲーム――《ソードアート・オンライン》に閉じ込められたことにある。

 

 始めるまで彼女にとってVRMMOとは最愛の兄を奪った憎悪の対象でしかなかった。けれど、病院へ足を運ぶうちに兄が好んでやまなかったあのゲームがどのようなものなのだろうという興味へと憎悪が変換されてしまったのだ。

 

 そして直葉は翠にアミュスフィアを買ってもらった。その時彼女は反対することはなく、笑って了承してくれた。

 

 アミュスフィアを手に入れたあとはクラスメイトの長田慎一にVRMMOについて教えてもらった結果、今彼女はALOでシルフ族のリーファとしてプレイしている。長田もゲームの進め方をレクチャーするという名目でレコンという名前で始めたが、今では直葉の方が圧倒的に上手くなってしまっている。

 

 ALOを始めてからはどうして和人があのようなゲームに夢中になるのか、なんとなく分かった気がした。

 

 一年が経過した現在、彼女はシルフ五傑といわれるまでに成長した。数値ステータスは上位プレイヤーに劣っていても、彼女には剣道で鍛えた反射神経と身体能力がある。だからこそALOでやっていけているのだ。

 

 そして昨日、直葉はなんとも変わったニュービーのスプリガンの少年、キリトと出会った。サラマンダーに襲われていたところを助けてもらった少年が言った言葉は「道に迷った」。

 

 彼の言葉に直葉は思わず笑ってしまった。何せキリトの種族であるスプリガン領はシルフ領の反対側だ。もし彼の言ったことが本当ならば、彼は方向音痴どころの騒ぎではない。

 

 けれど話してみると悪い人ではなかった。直葉は命を救ってもらった恩も込めて彼と共にスイルベーンの《すずらん亭》という酒場兼宿屋で祝杯を挙げた。

 

 そこで彼女はキリトが一刻も早く世界樹の上へ行きたがっていることを知った。深い事情までは話してくれなかったが、なんでも探している人がいるらしい。そんな彼の熱意におされてなのか、直葉は出会って間もない少年に「あたしが連れて行ってあげる」と言ってしまった。

 

 自分でも随分と大胆なことを言ってしまったものだと、ログアウトした後で顔が熱くなったのを感じた。長田はリーファの時の直葉を大胆さが五割増しなどと言っていたが、あながち間違っていないかもしれない。

 

 兎にも角にも今日の午後三時に直葉はすずらん亭でキリトと落ち合い、そのままアルンへ行くことになっている。領地を出ることにもなるが、なるようにはなるだろう。そのまま永遠に帰ってこないわけでもない。

 

「キリト君の探してる人ってどんな人なのかな?」

 

 小さく呟きながら天井を仰ぐ。同時になぜか頭の中に和人とキリトがダブって見えた。

 

「まさかね」

 

 変な想像を振り払うようにして頭を振ると、そろそろ意識がしっかり覚醒してきた。剣道の鍛錬で早朝に鍛えているものの、朝というのは眠い。

 

 ソファから立ち上がり、朝食を食べようと思ったところで、テレビに目が行った。テレビでは相変わらず朝のニュース番組が流れていたが、今はスポーツの話題になっているようだ。

 

 画面には女性キャスターが原稿を読み上げる様が見られるが、その隣に剣道着をきた美しい女性の写真が表示されている。

 

 流れるような黒髪をポニーテールに結わい、怜悧な雰囲気を漂わせるその女性の名は萩月椿。現代の剣豪、生ける伝説、流麗の女剣士、幻惑の女、などなど様々な謳い文句はあれど、最終的に人々は彼女のことをこう呼ぶ。

 

『剣帝』と。

 

 その強さはまさしく剣の帝。直葉も彼女の試合を以前見たことがあるが、観客席にいても彼女の威圧感と殺気はヒシヒシと伝わってきた。それでいて彼女の太刀筋は一切の迷いがなく、真っ直ぐとしたものだった。優美、優雅、優婉……上げていけばきりがないほど彼女は美しかった。

 

 確か彼女の実家は剣術道場で、今も彼女に挑戦してくるチャレンジャーはいるらしい。聞いた話しではチャレンジャーは何も剣術家だけではなく、様々な武術を体得したものもやってくるという。

 

 直葉も剣道をやっている身として彼女に憧れている。いいや、彼女だけではないはずだ。剣道をやっている人間からすれば彼女に憧れないものなどいないだろう。出来ることなら一度稽古か手合わせをしてもらいたい。

 

 ならばチャレンジャーとして勝負を挑めば良いと思うのだが、どうにもその勇気がでないのが現状だ。

 

「あたしもあの人ぐらい強くなれるかな……」

 

 ポツリと呟いたあと、彼女は朝食を取るために食卓についた。

 

 

 

 

 

 午後十二時半、椿は昼食を終えたあと華と話していた。

 

「では御夕食は作りおき出来るものが良いでしょうか」

 

「ええ。そうしてもらえると助かります。父は四日間の出張ですし、母さんも今日は友人のホームパーティーに行っているのとのことだったので、夕食は柊と薊と取ってください」

 

「承知しました。では夕食は柊様がお好きなカレーライスにいたします。それならば後で温めて食べられるでしょう」

 

「ありがとうございます。では、よろしくお願いします」

 

 華に向けて軽く頭を下げ、椿は二階へ通じる階段を駆け上がり、そのままベッドに寝転ぶとALOへダイブした。

 

 再び目を開けると、目の前に巨大な洞窟が見えた。そして洞窟の隣の壁には大剣を背負ったインプの青年の姿が見える。

 

「待たせたな、葵」

 

「華さんに夕飯のこと話してたのか?」

 

「ああ。ゲームの中で満腹感が得られると言っても、やはりリアルで腹にものを入れなければならんだろう」

 

「そらそうだ。さて、そんじゃ行きますか。まずは中立都市ヴェイルまで」

 

 岩肌から背を離した彼はヴェイル回廊の入り口にある悪魔像を睨みつけた。

 

 二人は一度視線を交わすと巨人の口のような洞窟へ足を踏み入れる。

 

 洞窟内は暗いものの何も見えないというわけではない。ただ、二人の種族、インプとスプリガンはそれなりに暗視特性があるらしく、躓いたりすることはなかった。

 

 アウストから聞いた話だが、スプリガンはあまり人気がない種族らしい。その理由としては能力的にパッとしないからだという。得意な魔法は幻惑や幻影、そのほかはトレジャーハント。パーティーにいれば便利だけどいなくても平気といった不遇っぷり。

 

 まぁツバキからすればそんなのはどうでもいい。黒い外見が気に入ったから選んだまでだし、そもそも魔法だってあまり使う気はない。

 

「そういえばインプは暗中飛行ができるんだったか?」

 

「ああ。こういう洞窟でも飛べるし、結構便利だぜ。シルフとかは飛行能力は高いけど日光か月光がないと回復しないしな。というかそんなことよりもこういう洞窟歩いてるとアレを思い出すんだけど」

 

「アレ? あぁ、あれかだがあちらは回廊ではなく坑道だろう?」

 

「そうだけどなんか似てないか? ホラ、こういう色々ごたごたしてる所でオークがめっちゃせめて来るシーンあったじゃん。それにこの回廊だってオーク出てくるし」

 

「確かあの作品は原作者が北欧神話やケルト神話に興味を持って作り出したのだったか。だとすれば北欧神話を題材にしているであろうこのゲームに似たところがあるのは仕方ないのかもしれないな。このアルヴヘイムの下にはヨツンヘイムという世界があると言うことだし」

 

「そしてそこには邪神級モンスターが大量にいますと」

 

 そう。ALOは一つの世界ではない。今アウストやツバキたちがいる世界はアルヴヘイム。そしてこの下にはヨツンヘイムという氷と雪に覆われた邪神級モンスターが跋扈する世界が広がっている。

 

 そこにいる邪神モンスターはこのフィールドにいるモンスターと比べ物にならないほど強いらしく、部隊を組んでいかなければならないという。

 

「その邪神級モンスター、どれくらい強いのか興味があるな。葵、こんど二人でダンジョンを突破して行ってみないか?」

 

「別にいいけど暇が出来たらな。まぁ姉貴がもっと成長したらシステムも凌駕しそうでおっかねぇけど」

 

 葵は肩をすくめがちに言ったが、そこで彼の足元からカチリと言うこんなところでは聞きそうにない音が聞こえた。

 

「なんだ?」

 

 彼は怪訝な表情をしながら足を上げる。

 

 二人してそこを見ると、そこにはなにやらスイッチのようなものがあった。地面と同じ材質で出来ているようだが、そこだけなにかおかしい。すると、なにやら地鳴りのような音が背後から聞こえてきた。

 

「おいおい、まさか洞窟が崩れるとかはないよな」

 

「どうだろうな。もしかすると例の坑道のように炎を纏った悪魔が出てくるかもしれんぞ」

 

 二人して小さく笑いながら自分達の獲物を抜き放つ。そして一度地鳴りがやんだかと思うと、今度は大きな衝撃が伝わってきた。それに続いて何かが転がるような、そし石を削るような音が聞こえ始める。

 

 二人はその音にもしやと顔を見合わせる。そして二人して闇の中に目を凝らすと、今まで自分達が通ってきた回廊を転がる巨大な影が見えた。

 

 もう間違いようがない。これは某有名考古学者が大冒険をする映画で出る神殿の中にあるトラップ。『坂道を巨大な石が転がるヤツ』だ。

 

「まずいな。これは逃げた方が吉か」

 

「吉っつーかその判断しかねぇだろ! 逃げるぞ姉貴!」

 

「アレは斬れんのか?」

 

「斬れるかどうかはわからねぇ。でも不確かな情報に頼るよりは今は早く逃げた方が良いと思うぜ! ホラ、早くしろって!」

 

「うむ」

 

 アウストに急かされたのでツバキはシラヌイを収めてダッシュを始めた。その間にも石球は迫ってきており、音が直ぐそこまで迫ってきていた。

 

「葵! この回廊は後どれくらい続く?」

 

「この速度で走ってればあと五十秒近くで抜けられるはずだ!」

 

 その時、今度はツバキの足元でスイッチのような音が聞こえた。非常に嫌な予感を覚えつつも走っていると、背後の石球が妙の音を立てる。それに視線を向けると、石球から鋭利な棘が生えたではないか。

 

「殺傷能力が上がりやがった!」

 

「どのような構造なのだろうな。なるほど、あの棘がスパイクのような役割をはたしているのか。さっきよりもスピードが上がったな」

 

「冷静に分析してる場合じゃねぇだろ! もしここで死んだらセーブポイントまで飛ばされるぞ!」

 

「それは拙いな。では急ぐとしよう」

 

 ツバキは冷静に状況を分析した後、腰を低くして走る速度をあげる。

 

 そして走ること三十秒。ついにヴェイルに通じる出口が見えた。棘付きの石球は相変わらずけたたましい音を立てながら迫ってきているが、このままなら逃げ切ることは可能だろう。

 

 それに安堵し二人が顔を見合わせたときだった。僅かに出口の光りが狭まった。ツバキがそれに目を凝らしてみると、なんと出口が上からシャッターを下ろすようにしまりかけているではないか。

 

「最後の最後にベタなもん仕掛けやがって! 姉貴! 分かってると思うが、スライディングで駆け抜けるぞ!」

 

「それはヘッドスライディングか? それともサッカーでやるスライディングか?」

 

「どっちだっていい! やりやすいほうでやれ!」

 

「了解した」

 

 短く答えると再び視線を正面に戻す。距離はあと百メートル弱。出口は三分の一ほど閉まりかけている。あの下がる速度からして完全に閉まりきるのと二人が駆け抜けるのはギリギリになるだろう。

 

 二人はもう後ろを振り向くことはせず、とにかく走り続けた。生涯でこれほど全力で走るのは余りない経験ではないだろうか。

 

 そして出口がいよいよ人一人がようやく滑り込めそうになると同時に二人の妖精はほぼ同時のタイミングでスライディングする。その際しまる壁に頬を擦りかけたが、なんとか完全に閉まりきる前に脱出できたようだ。

 

 二人が駆け抜けた直後、完全に閉まりきった出口から鼓膜を揺らす轟音が響き渡る。あの石球が扉に激突した音だろう。というか、あの速度で転がる石球をものともしない扉が中々に恐ろしい。

 

「生きてるか、姉貴」

 

「ああ。そっちも無事なようだな、弟よ」

 

「まぁなっと」

 

 彼は言いながら身体をばねの様にしならせて飛び上がると通路を封鎖している扉を見やる。扉には入り口と同じような悪魔のレリーフが刻まれていた。

 

「ったく、ひでぇ目にあった」

 

「確かに。今度からはもう少し足元に注意を払ったほうが良いな。まぁ現実世界で味わえない体験が出来て面白かったが」

 

「姉貴はホント怖いもの知らずだな」

 

 呆れるような声を上げてアウストは踵を返した。それにならって背後を向くとそこには湖面に浮かぶ大きな都市があった。昨日のレクイエスの比ではないほどの大きさだ。

 

「アレがヴェイルか。なるほど、随分と大きな都市だ」

 

「ルグルーと比べてもあんまり大差はないからな。じゃあ、あそこで一休みしたらアルンに向かうとしますかね。リアルだと二時半か。トイレ休憩も挟んで多少観光でもしてみようぜ」

 

「平気なのか?」

 

「キリトがインするのは三時になったらって言ってたし、多少遊んだってオレ達の方がアルンへ早く到着するのは明白だしな」

 

「そうか。ではそうしよう」

 

 アウストの提案にツバキは素直に頷く。そして彼等がヴェイルへ歩き始めた時、背後の扉がガラスが割れるような破砕音を立てて消え去った。その奥にあるはずの石球も同じようにノイズ交じりに破砕された。

 

 

 

 

 レクトの研究室で須郷伸之は下卑た笑みを浮かべていた。

 

「まったくティターニアは頑なだ。けれどまぁそこがまたお楽しみでもあるんだがね」

 

 その笑みはもはや狂笑といっても良いほどだった。

 

 彼の前には人間の脳を表示したディスプレイがあり、時折その脳が緑や赤など様々な色に変わっている。

 

 これはSAOから未だに帰還していないとされる人間の脳内を出したものだ。そう、彼はいまだ帰還できていないプレイヤー三百人を使って人体実験をしているのだ。

 

 普通に考えればこんなことが許されるはずがない。しかし、彼はSAOからログアウトする回線に網を張り、三百人の人間の精神を別のサーバーの中に取り込んだのだ。

 

 そのサーバーこそ『アルヴヘイム・オンライン』のサーバーだ。彼はALOを隠れ蓑にすることでこのような人体実験をしている。そしてその過程でアスナを捕らえることに成功していた。

 

 そして須郷の正体こそあのゲームのゲームマスターであり、妖精たちをアルフへと転生させる存在、妖精王オベイロンなのだ。

 

「今のところ全てうまく行っている。このまま計画が進行すれば明日奈を好きなようにも出来るし、研究の成功によって莫大な報酬も得られる……。あのガキにはどうせ何も出来やしない、ククク」

 

 引くような笑いをしながら思い出したのは先日病院で出会った少年、桐ヶ谷和人だ。

 

「あの時のアイツの顔は本当に惨めだった。所詮はガキと言ったところか」

 

 優越感に浸る須郷だが、彼の脳裏には一人の女と男の姿が焼きついていた。

 

 それは明日奈の父、結城彰三が病室を出たあとに入ってきた萩月椿と萩月葵だ。彼等の登場は予見していなかったが、自分としては普通の対応が出来たと思っている。

 

 しかし、彼等の瞳はこちらの本質を見抜くような目をしていた。特に萩月椿。あの女は世間では剣帝などと騒がれている。こちらの挨拶に笑顔で答えていた彼女だが、須郷はその笑みが一瞬恐ろしく見えた。

 

 だがそこまで思い出したところで彼は肩を竦めた。

 

「何を思っているんだ僕は。あいつらはこちらのことを知らないから、手出ししてくることもない。なにも心配することはない」

 

 彼は一度芽吹いた警戒心を記憶の彼方に追い遣り、そのまま研究室をあとにした。

 

 

 

 

 

 ヴェイルの街の外には人だかりが出来ていた。

 

 円を描くように広がった人々の中心にはポニーテールの麗人、ツバキが悠然と佇み、彼女の前にはウンディーネ、サラマンダー、ノームのメイジの姿と、呆れ顔のアウストの姿がある。

 

 今、彼女が行おうとしているのは昨日言った魔法を斬ることだ。街で見かけた数人のメイジに事情を話したら訝しい表情を浮かべながらも了承してくれたので、現在に至る。

 

 しかしどうやらその話は街中に広まってしまったようで、一件無謀とも取れる挑戦に多くの見物人ができてしまったというわけだ。

 

「それじゃあ一番弱い魔法を撃ちますけど、準備は平気かー?」

 

「ああ。いつでもやってくれ」

 

 サラマンダーのメイジが言ってきたのでそれに答えつつシラヌイを抜き放つ。サラマンダーのメイジは杖を前に出してスペルワードを唱え始めた。そして彼が唱え終わった瞬間、彼の前で小さな火球が出現し、それが勢いよくこちらに放たれた。

 

 火球は曲がることなく迫ってくるが、ツバキに恐怖はない。その目にあるのは斬るという自信のみだ。そして火球が自身の間合いに入った瞬間、彼女は上段から刀を振り下ろした。

 

 けれど帰ってきたのはものを斬る感覚ではなく、刀が空中を空しく薙いだ感覚だけだ。それに続いて彼女の胸の辺りに火球がヒットし、HPが少し減る。

 

 失敗だ。彼女に火球は斬れなかった。

 

 その様子に周囲のギャラリーも残念そうな声や野次を飛ばしてきたが、ツバキは気にせずに分析してみる。

 

「ふむ、やはり実体がない炎系は無理か、となると風属性や水属性とやらも無理だろうな。となると残るは……」

 

 彼女は顎の辺りに手を当てて考え込むと、ウンディーネの少女に声をかけた。

 

「すまんが次の魔法は氷系の魔法で頼めるだろうか。ウンディーネのメイジよ」

 

「あ、はい。わかりましたー」

 

 若干緊張気味の少女は一度深呼吸をした後でサラマンダーと同じようにスペルを唱える。詠唱直後、彼女の前には氷柱のようなものが出現し、次の瞬間それが火球と同じように射出された。

 

 先ほどの火球よりも勢いがあり、大きさもなかなかだ。するとツバキはシラヌイを一度鞘に収めて抜刀術の体勢をとる。

 

「ALOがプレイヤーに身体能力に依存するのならば出来なくはないはず」

 

 小さく息を吐き一度脱力し瞳を閉じる。その間にも氷柱は接近を続け、先ほどの火球と同じように間合いに入った。瞬間、ツバキの瞳が開けられ、目にも止まらぬ速さで抜刀。氷柱を斜めに斬った。

 

 同時に一本の氷柱に亀裂が入り、彼女の脇を駆け抜けるようにして地面に落下した。

 

 しばし沈黙が続いたが、やがて状況を飲み込めたギャラリーが歓声を上げた。

 

「すげぇなあのスプリガン! 本当に魔法を斬っちまったぜ!」

 

「でも炎は無理だったみたいだったけどどうしてなんだろう」

 

「実態があるかないかの違いじゃないのか? でも、魔法を斬るやつなんて始めてみたぜ」

 

「だな。おい姉ちゃん! 俺達にもそれのやり方教えてくれよ!」

 

 口々に言ってくるギャラリーに手を挙げながら答えつつ、シラヌイを収めた。

 

「まさか本当にぶった斬るとは、つーか今のうちの抜刀術の二番だったろ。それで、満足したか? 姉貴」

 

「それなりにはな。個人的には炎系の魔法も斬ってみたかったが、恐らくそれはシステム的に無理なのだろう。今回は実体がある魔法だけでも斬れたからよしとしよう」

 

「それじゃあそろそろアルンに行こうぜ。時間も五時半だし、いい頃合だろ」

 

「だめだ。まだあのノームのメイジとやっていない。それに一度成功しただけでは意味がない。あと少し続けるぞ。ここから出口までは入ってくるよりは長くないのだろう?」

 

「そりゃあそうだけどさ。まぁいいか、キリトからはルグルー回廊までは行ってないって連絡来てるし」

 

 アウストは若干呆れがちに息をつき、好きにしろと言う様に洞窟の壁際まで下がっていった。

 

「さて、では続けるとしようか。次!」

 

 そして彼女が満足するまで続いた魔法斬りの練習はリアルでの六時半まで続いた。




はい、昨日のフラグ回収しました。
感想でも頂きましたがこの流れは元々あった流れです。

魔法は実体であれば切れるだろうというのは私の独自解釈です。
ALO編は基本的にツバキ視点で行こうとも思ってますが、読みにくいところはございますでしょうか?

あと、私は誤字が多いので間違っているところもあるかもしれません。読者様には大変なご迷惑をかけていること、深くお詫び申し上げます。

次回は会談の当たりまで話をもって行きたいですね。
ユージーン将軍との戦闘は原作とは別の流れに致します。
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