ソードアート・オンライン -宵闇の大剣士-   作:炎狼

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第十八話

 アスナこと結城明日奈は、現在、《アルヴヘイム・オンライン》。略称をALOという、仮想世界に存在する、天を突くように巨大な《世界樹》の枝の上に作られた黄金の格子で囲われた鳥かごの中に囚われている。

 

 言ってしまえば彼女は、この鳥かごとALO。二つの檻に閉じ込められているのだ。

 

 既に彼女がこの世界で覚醒してから、六十日が経過しようとしていた。

 

 日本中を震撼させたSAO事件は、解決され、そこに囚われていた人々は解放されるはずであったのだ。無論、アスナもその中の一人であったことに変わりはない。

 

 が、アスナを含め解放されるはずだった三百人の人間の意識は、ある男の手によって拉致されたのだ。

 

 男の名は、須郷伸之。アスナとは現実世界でも面識があった男性で、パッと見で、外見だけで言えばある程度好青年のようにも見えるが、それは表面上だ。彼の本性は利己的で野心が強く、冷酷非道な男であり、アスナを含め、彼女の兄である浩一郎からも嫌われている。

 

 須郷は拉致した三百人の人間の脳を実験台に、フルダイブ技術による記憶及び感情操作の研究を行っているのだ。ALOというVRMMORPGを隠れ蓑にして。

 

 そして彼は現実世界でアスナが昏睡していることをいいことに、彼女の両親に付け入り、事実上の夫となることで、アスナの父であり、大手電子機器メーカー《レクト》の最高経営責任者である結城彰三の後継者の座を得ようとしているのだ。

 

 彼はこうも言っていた。「いずれはレクトごとアメリカの企業に売り払う」と。つまり、須郷は人間の脳を実験材料にし、その研究成果とレクトを手土産にして自身を売り込むことを企んでいるのだ。

 

 勿論、こんなことをアスナの父が許すはずがない。が、両親の前では完全に猫を被っているであろう須郷は、決してばれる事のないように完全に秘匿していることだろう。

 

 人格に問題があっても、悪知恵や能力だけは高い男だ。

 

 とは言っても、茅場晶彦には到底及ばない男だが。その理由の一つとしてこのALOがある。なぜならばこのALOという世界は、SAOの劣化コピー版とも言うべき世界だからだ。まぁ多少仕様は変えているようだが。

 

 これらのことは全てこの鳥かごをしきりに訪れる、須郷伸之本人がペラペラとしゃべったのだ。勿論、彼本人ではなく、彼のALO内でのアバターである《妖精王オベイロン》としてだが。

 

 彼自身気が付いているかはわからないが、彼は自分の能力をひけらかしたい感情もあるようで、聞いてもいないのにベラベラと話すのだ。まぁだからこそ色々と情報が仕入れられるのだが。また、彼が考えなしにしゃべってくれたおかげで、キリトが無事にリアルに戻れたこともわかった。

 

 とは言っても、彼がそれだけ能天気でいられるのはアスナがここから抜け出せないと思っているからだろう。

 

 けれどアスナもただ捕まっていたわけではない。須郷の目を盗み、この鳥かごをロックしている暗証番号を暗記してこの鳥かごから脱走した。

 

 そしてリアルに戻るための手がかりを探すために、世界樹の中に入った。

 

 世界樹の中はその外見とは裏腹に、非常に未来的――いや、簡素でポリゴンのままと言った感じだった。未来的と感じたのは、外と中との質感の違いだろう。オフホワイトで統一された内部は、研究所そのものだった。

 

 緩やかな円を描くような構造だった施設を黙々と進んで行くと、何もなかった白い壁にポスターのようなものが見え、アスナはそこに表示されているものを見た。

 

 壁にあったのはポスターではなく、この研究所の見取り図だった。その見取り図には、アスナがいる場所が三階層ある研究所の最上部、フロアCであるということが記されていた。残念ながらフロアCにはなにもないようだったが、その下、フロアB、フロアAの円環状の通路の内側には《データ閲覧室》やら《主モニター室》という部屋が割り当てられており、中には《仮眠室》まであった。また各フロアにはエレベータで移動するようであった。

 

 そのままアスナは見取り図をしばらく見てエレベータの直線を辿ったところで、とある部屋に目が留まり、ゾクリとした悪寒にも似た感覚を味わった。

 

 アスナの指先にはこうあった。

 

《実験体格納室》。

 

 実験体。即ちアスナのほかにこの世界に捕らえられた三百人の人々の意識だろう。それを見てアスナは、すぐに確認すべきだと考え、その部屋へ向かった。

 

 幸い部屋にたどり着くまでには須郷の部下とは鉢合わせなかったが、件の《実験体格納室》に入った時、アスナは思わず息を呑んだ。

 

 室内は異常なまでに広大だった。が、ただ広いだけではない。室内には柱型のオブジェクトがアスナの側から見て十八本の列を成して配置されていた。そしてアスナは考えた。この空間が正方形なのだとすれば、それらは二乗すなわち、三百近い数並んでいるということを。

 

 ゆえに、たどり着いた答えは唯一つだった。恐怖心を押し殺し、速く脈打つ鼓動を必死に抑え、柱型のオブジェクトの前に立つ。柱はアスナの胸ほどの高さがあった。そして、その上に僅かな隙間を空けるようにして何かが浮かんでいた。だが、それはどう見ても――人間の脳髄だった。

 

 勿論本物ではない。デジタルによって再現されたものだろう。大きさはほぼ実寸大と言ったところだろうか。

 

 よく観察していると、その脳髄型オブジェクトには時折光の線が走ったり、脳の一部が黄色く明滅したり、時には赤く激しく明滅していた。その様子を見ていると、脳髄の下部にグラフがピークを繰り返し、さらにその横にはログが並んでいた。そのログに視線を送った瞬間、またしてもアスナは息を呑み、同時に恐怖と義憤を強めた。

 

 ログにはこのような文字が並んでいた。

 

 一つは《Pain》。もう一つは《Terror》。

 

 どちらも日本語に直せば、《痛み》、《恐怖》となる。即ち、この脳は今現在、痛みと恐怖のどちらか、もしくはその両方に苦しめられている。しきりに起こっている赤色のスパークは悲鳴なのだ。声は聞こえないが、彼女の目の前には確かに苦しんでいる人物がいたのだ。

 

 おぞましい光景に後退ったアスナだが、それ以上に、こんな人の魂という人類の最大の尊厳を踏みにじる悪魔の研究を平気で行う、あの男に対する怒りが耐えなかった。

 

 他のオブジェクトを見ても、それは同様で、しきりにスパークしていた。アスナは、彼等の届くことのない悲鳴が幻聴となって聞こえてくるような錯覚に陥りそうになったが、なんとかパニックになりそうなのを堪える。あの男の悪事を一刻も早く暴き、この電子の牢獄に閉じ込められた人々を解放するために速く現実世界に帰還しなくてはと、アスナはこの世界から脱するための行動を起した。

 

 SAOのようにメニュー画面などと言うものは開かないので、ログアウトボタンもない。しかし、この世界は須郷や彼の部下もやってくる。少なくとも、ログアウトできるコンソールは仕掛けている筈だと、彼女は柱型オブジェクトの合間を駆け抜けた。

 

 その途中、須郷の部下らしき人間の声が聞こえ、そちらを見たが、そこにいたのは人間の姿をしたアバターではなく、巨大ナメクジという悪寒が走るアバターだった。

 

 巨大ナメクジはウネウネと触手を動かしながら、脳髄のオブジェクトと観察しており、アスナには気付いていなかったようだったので、彼女は再び足音を立てないように室内を駆けた。そして巨大ナメクジを見た地点から十メートルほど先に、壁に取り付けられたコンソールを見つけた。

 

 そのコンソールを操作していると左下に【Transport】というタグがあったのでそれをタップ。が、これはラボラトリーエリアを移動するための画面だったようで違った。すぐさま画面全体に視線を走らせると、画面の右隅に【Exit virtual labo】というボタンを見つけ、それをタップする。すると、画面の上に新たなモニターが表示され、【Execute log-off sequense?】と言う文章が並び、その下に【OK】、【CANSEL】のボタンがあった。

 

 アスナはすぐさまそのボタンをタップしようとしたが、その手を先ほどの巨大ナメクジの触手がそれを止めた。

 

 あとは脱走しようとした努力虚しく、再びこの黄金の格子に囲まれた鳥かごに逆戻りというわけだ。けれども、なにも収獲がなかったわけではない。あのラボラトリーからナメクジに拘束されて出る直前、コンソールに刺しっぱなしになっていたカードキーを取ってくることができたのだ。

 

 鳥かご自体のロックのパスワードを変えられてしまったので、このカードキーは役に立たないかもしれないが、それでも何かの突破口にはなるかもしれない。

 

 巨大ナメクジの話では、須郷は出張中らしかったので、まだ帰っては来ないだろう。

 

 アスナは枕の下に隠したカードキーを取り出し、それを見る。

 

 コンソールなしでは機能しないだろうが、ないよりはマシだろう。それに、もしかするとこのカードキーが自身をこの牢獄から解き放ってくれる勇者をここにつれてきてくれるかもしれない。

 

「キリトくん……。私、絶対に負けないから」

 

 アスナは小さく呟き、決意を新たにした。その瞳には力強い光が灯り、かつてSAOで《閃光》の異名を取った彼女がいるようだった。

 

 

 

 

 

 

「クソがッ! あの役立たず共!」

 

 出張先のホテルの一室で、須郷は苛立ちを隠しもせずに枕を殴りつけていた。その顔にはいつもの人がよさげな表情は何処へやら、目は血走り歯をきつく食い縛り、狂気に染まった表情があった。

 

「僕の留守も満足に守れんとは、後でそれなりの罰を与えてやる……!」

 

 部下の失態に怒りを露にして、拳を握り締める。しかし、その拳には余り力が入っていないようにも見える。まぁ普段禄に鍛えてもいない彼が精一杯拳を握ってもこの程度なのだろう。

 

 あらかた怒りをぶつけ終わると、落ち着いてきたのか、須郷は髪を整え、窓の外に広がる夜景を見やる。

 

「……しかし、彼女のそういったところもまたいい。僕に反抗的なあの態度を今に僕の思うがままに動かせると思うと……。ひひ、想像しただけで興奮してくるなぁ」

 

 下品な笑みを浮かべる彼は一度舌なめずりをすると、「おっといけない」と表情を直す。

 

「僕としたことが危うく達してしまうところだった。だが、この不満を解消する日も遠くはない。ひひひ」

 

 甲高い笑い声を漏らしながら、須郷は部屋を出て夕食をとりに向かった。

 

 部屋を出た彼の顔には先ほどの狂気はなかったが、その腹の中にはどす黒い感情が渦巻いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「くぁ……ねむ……」

 

「なぁに? まーたオンラインゲームでもしてたの?」

 

 いつもより遅めの時間に自室から降りてくると、リビングにはタブレットでゲームをしている薊がいた。

 

「まぁそんなとこだ。なんとなくわかってたけど、普通に姉弟間にはバレてんのな」

 

「そりゃあね。気付いてないのなんてお母さんとお父さんぐらいでしょ。あ、そうだ。朝御飯は華さんが作って冷蔵庫に入れておいてくれたから、それ食べてね」

 

「おう。てか薊。お前大学は?」

 

「今日は休みー。けど、レポートとか試験勉強とかあってねぇ。医学生は大変なのだー」

 

 タブレットをいじりながら大変だなどと言っているが、実際のところ勉強面において彼女が大変なことはないはずだ。

 

 なにせ、彼女は我が家において椿の次に天才といえる才能を持っている。とはいっても、椿のように武道面において天才ではない。薊は文の天才なのだ。しかし、それは持って生まれた才能ではなく、彼女の努力によって実った結果だ。

 

 薊は俺や姉貴とは違い武の才は一般人程度だ。しかし、彼女はそれを自ら払拭するため、幼少の頃から勉学に精を出し、努力で才能を開花させたのだ。

 

「そういえばさー。葵ー」

 

「あん?」

 

 冷蔵庫から華さんが作ってくれた朝食を取り出し、食卓の上に置かれていたパンを齧ったところで彼女に問われた。

 

「アンタ、大学はどうすんの? 行くの?」

 

「それがまだわからねぇんだよなぁ。俺がSAO事件に巻き込まれたのが高校三年の十一月で、大学はセンターで受けようと思ってたから、推薦で取れたりはしてなかったから……。やっぱり、また高三からやり直しかねぇ」

 

「確かSAO事件に巻きこまれた中学生、高校生が通う学校が作られてる最中なんだっけ?」

 

「ああ。だから、一年間はそこに通いつつ、大学受験の準備って感じになるかもな。二十歳にもなって高校に通うってのもどうかと思ったが」

 

「それはしょーがないでしょ。アンタと同じ境遇の人だっていっぱいいるよ。まっ、受験とかテスト期間になったら勉強見てあげるから、安心していいよー」

 

 にひひと小悪魔っぽい笑みを浮かべる薊に対し、俺は肩を竦めた。

 

「そりゃどうも。じゃ、パパッと朝飯食っちまうかね。そういや姉貴は? まだ寝てるのか?」

 

「そんなわけないでしょー。朝早くから起きて、今は道場にいると思うよ。因みに柊は普通に学校」

 

「殆ど同じ時間に寝たはずなのに、なんであんなに早くに起きられるんだ……。まぁいいや、今更気にしてもしょうがない。俺も朝飯食ったら軽く運動するか」

 

 この後の予定を決めて、俺は朝飯を食べ始めた。

 

 

 

 

 

 朝食後、日課のランニングを終えた俺は、汗を拭き取りながらシャワーを浴びるために家の中に入る。

 

 が、そこで縁側のほうからシャッ、シャッという金属を磨くような音が聞こえた。

 

 なんとなく音の正体がわかりつつも、縁側の方に足を向けると、そこには椿がいた。しかし、ただいるだけではない。彼女の前には幾つかの砥石がならび、水の入った桶もある。そして一番目をひくのが椿の傍らに置かれた二本の刀だ。刀はそれぞれ分解されており、柄に収納されている中子が見えている。

 

 あのどちらも本物の日本刀。即ち、真剣である。椿はその剣の実力が認められ、国から超特例で帯刀の許可が下りている。とは言っても、この帯刀の許可は椿が自ら欲しいといったものではない。国が彼女の功績を讃えて与えたものだ。

 

 まぁ剣の才能だけでなく、彼女の人格も評価された結果だろうが。

 

 そして、彼女はその帯刀が許された真剣を研いでいたのだ。

 

 二本ある刀の内、一本は特に名前のない無銘の日本刀。だが、もう一本の方は無銘の刀とは明らかに違う存在かんと威圧感を放っている。

 

「姉貴」

 

 声をかけると、彼女はこちらをみて小さく笑みをこぼした。

 

「昨日は世話になったな葵。いや、今日と言うべきか」

 

「別にいいさ。で、多少なり不満は解消できたかい?」

 

「うむ。幾分か落ち着いた。だが、まだやれそうだ。世界樹の攻略、実に楽しみだ」

 

 薄く笑みを浮かべたまま言う彼女は、分解してある刀をテキパキと元に戻し始めた。どうやらちょうど研ぎ終わったところのようだった。

 

「なんで刀研いでたんだ?」

 

「なに、気分が乗っただけさ。それにしばらく手入れもしていなかったからな。頃合だったのさ」

 

「ふぅん。てか、《安綱》も久々に見たな」

 

 椿が研ぎ終え、元の形に戻した日本刀を持ち、鞘から少しだけ抜く。

 

 独特の刃紋は見ているだけでなにか不思議な力によって魅了されていくようだ。

 

「葵。あまり見すぎるな」

 

 忠告され、俺はすぐさま安綱を鞘に戻した。

 

「相変わらず、なんなんだその刀。意識が持っていかれた気分だぜ」

 

「当たり前だ。なにせ妖刀の部類に入る刀だからな」

 

「確か本物の《童子切安綱》を模して作られたんだっけかこの《艶呪安綱》は」

 

「少し違う。これは国宝である安綱を模したのではなく、安綱を作った刀工である大原安綱の子孫が、《童子切》を越えるために自らの生涯をかけて作った刀だ。しかし、結局《童子切》には勝てず、失敗作のレッテルを貼られた。しかし、《艶呪安綱》は人を虜にし、魅了する力があったとされていてな。だからこの名が付いた」

 

「刀ってのは恐ろしい逸話もあるもんだな」

 

 安綱を床に置いて溜息をつくと、椿は「ああ」と答えて銘のない刀を鞘に納める。

 

「刀は刀工の魂が具現化されたものだと私は思っている。だから、きっとこれを作った刀工の怨念にも似た感情が混じったんだろうさ、《艶呪》にはな」

 

「そんな妖刀を普通に扱える姉貴もどうかと思うけどな。っと、そうだ。今日なんだけど、三時にはダイブできなくなった。多分四時少し手前くらいになると思う」

 

「なにか用事でもできたのか?」

 

「ちょっとSAO関連でな。対策室の鹿嶋さんと話さないといけなくなった」

 

「わかった。では私も待っていよう。桐ヶ谷には伝えたのか?」

 

「ああ。先に世界樹の前にまで行ってるとさ。姉貴も先に行ってていいんだぜ」

 

 言ってみたものの、姉貴はそれに大して首を横に振る。

 

「いいさ。それに、四人揃わねば攻略は難しいだろう。だったら先に行っていようと一緒に行こうと同じことだ」

 

「そっか。んじゃ、鹿嶋さんとの話が終わったら部屋に顔出すよ」

 

「ああ。了解した」

 

 姉貴は静かに頷き、研ぎ道具と刀をそれぞれ自分の部屋に持っていった。

 

「さてと、そんじゃあ俺もシャワー浴びとくか……。あ、そうだ。一応ダメもとであの二人にも連絡してみるか」

 

 

 

 

 

 

 

 午後三時四十分。

 

 俺は某有名ジャンクフード店で、総務省SAO事件対策本部の人間である鹿嶋陽子さんと話をしていた。因みに、なぜSAO関連を話をするのにこんなジャンクフード店なのかと言うと、鹿嶋さんが好きだかららしい。

 

「うん。それじゃあ今日のところはこれぐらいでいいかな。ごめんね、葵くん。急に呼び出しちゃって」

 

「あぁいえ。気にしなくていいッス」

 

「そういってもらえると助かるわ。君達が目覚めた頃ほどではないにしろ、まだ私達も忙しくてね。あ、なにか聞きたいこととかある? 答えられる範疇でなら答えるわよ」

 

 陽子さんはコーラを飲みながら問うてきた。

 

 しかし、なにか聞きたいことといわれても、特にこちらにはなにもない。と、思ったときだった。俺はあることを聞いてみたくなった。

 

「陽子さん。《レクト・プログレス》ってわかりますか?」

 

「もちろん。SAOの運営会社だったアーガスから、SAOのサーバー管理を次いだのが電子機器メーカーであるレクト。そして、そのレクトの子会社がレクト・プログレス。今は『アルヴヘイム・オンライン』、略称ALOの運営をしているわね。で、それがどうかしたの?」

 

「どうかしたって言うか、このまえ明日奈の見舞いに行った時、レクトのフルダイブ技術の主任研究員の須郷伸之って人と会ったんですけど、どういう人なのかなって思って」

 

「ふむ……須郷伸之ね」

 

 陽子さんはポテトの油で汚れた指先を、ウェットティッシュで拭った後、持っていたタブレットを操作した。やがて彼女は「あったあった」と声をあげ、タブレットの画面を俺のほうに見せてきた。

 

 画面には履歴書のようなものが表示されていた。一番上には、あのいけ好かない男、須郷伸之の顔写真があった。

 

「須郷伸之。総合電子機器メーカーレクトの社員。父は社長である結城彰三の腹心で、結城家とも太いパイプを持っており、彰三氏からの信頼も篤い。アーガス解散後、SAOのサーバー管理は全て彼の部署に委託。子会社『レクト・プログレス』にも携わっている。……まぁ大まかに言っちゃえばこんな感じね。殆どそこに書いてあると思うけど」

 

 彼女の説明に俺は頷き、渡されたタブレットの画面を下にフリックする。どうやら、対策室でも彼には目をつけていたらしく、かなり細かなことまで調べてあるようだった。

 

 そして、彼の出身大学の項目に来た瞬間、俺は口元に手を当てる。

 

「陽子さん。この須郷伸之の出身大学って……」

 

「うん。茅場晶彦が在籍していた大学だよ。そして、須郷伸之は茅場と同じ研究室の先輩と後輩の関係。対策室のほうでもマークはしていたんだけど……。で、彼がどうかした?」

 

「いや、どうかしたってわけではないんスけど。ちょっと気になるなぁって思ったんで。聞いてみただけです。じゃあそろそろ……」

 

「家まで送っていくわ。こっちから呼び出してしまったわけだしね」

 

「ありがとうございます」

 

 彼女にタブレットを返すと、陽子さんは残っていたハンバーガーなどを店員から貰った紙袋に詰め、俺達はジャンクフード店を出て、俺はそのまま陽子さん所有のスポーツカータイプの車で家まで送ってもらった。

 

 

 

 

 

 葵を彼の自宅まで送った後、総務省に戻る途中に陽子は同僚のある男に連絡を取った。

 

 ワイヤレスのマイクを耳に差し込み、スマートフォンの通話ボタンをタップする。何回かのコール音の後、聞きなれた声が返ってきた。

 

『やぁ、鹿嶋さん。萩月くんとの密会はどうだったかな?』

 

「貴方がわかっている時点でこれはもう密会ではないと思うのだけど? 菊岡くん」

 

 陽子が連絡を取っているのは、総務省SAO事件対策本部の同僚である菊岡誠二郎だ。

 

 陽子が葵の担当であると同じく、彼は桐ヶ谷和人の担当だ。

 

『ハハハ、そりゃあそうだね。失敬、それで話を聞いてみてなにか収穫はあったのかな』

 

「SAO関連のことは後でまとめて提出するわ。ただ、少し気になったのは、彼が須郷伸之について聞いてきたこと」

 

『ほほう』

 

 菊岡の声はやや興味深げになった。

 

『須郷伸之と言うと、こちらもマークしていた男だね。確かレクトのフルダイブ技術研究主任で、茅場先生の後輩だったね』

 

「ええ。その須郷伸之が、結城明日奈さんのお見舞いに行った葵くんの前に現れたんだって」

 

『なるほどねぇ。ふむ、SAOサーバーの管理は全て彼の部署が行っていたから、いまだ帰還しない三百人のSAOプレイヤーのことにも関与していると思ってはいたが……』

 

「しかも彼の話だと須郷は明日奈さんと結婚するらしいわよ。勿論、明日奈さんに意識はないから、実際のところは彼女の父と養子縁組をするらしいけれど」

 

『それは益々きな臭い話だね。こちらとしても監視を強化すべきだね』

 

「したほうがいいかもしれないわね。本当にまずいことが起きる前に」

 

『よしわかった。それじゃあ君が帰ったら改めて資料を見直してみよう。それじゃあね』

 

 菊岡はそういい残し、通話を切った。陽子は葵の話を思い返しながら息をつく。

 

「くれぐれも、無茶はしないようにね。葵くん」

 

 

 

 

 

 

 リアルでの用事を終えた俺は、姉貴とともにALOへダイブし、先に世界樹のドーム近くに行っているであろうキリトとリーファを追った。

 

「悪いな姉貴。予想以上に長引いちまった」

 

「気にするな。それよりも、一時間も待たせてせてしまったからな。埋め合わせはしっかりしなくては」

 

「そんなこと気にするヤツではないけどな。っと、見えてきたぞ」

 

 俺の視界の先には世界樹の幹の前に作られた階段が見えた。あの先には二体の巨大な彫像が並んでおり、その前にはグランド・クエストへの入り口があるのだ。

 

 俺達はそれを見てから更に足を速め、街中を一気に駆け抜けていく。が、ドームへ通じる階段を上ろうとした時、俺の耳にふと気になる声が入ってきた。

 

「いやーにしてもあのスプリガン、さすがに無茶しすぎだろ。一人でグランド・クエストに挑むとか正気じゃないぜ」

 

「なぁ。今まで何十人も挑んでダメだったってのに、一人って……」

 

「まぁ腕試し程度なんじゃねぇの? 危なくなったら出てくるだろ」

 

「そりゃそうだ」

 

 ハハハと笑い合いながら話していたのは、それぞれ別の種族で構成された四人のパーティだった。

 

 彼等の声に俺は脚を止める。

 

 ……スプリガンが一人で? おいおい、まさか。

 

 内心で嫌な予感を覚えつつ、彼等に話しかける。

 

「なぁ、あんた等にちょっくら聞きたいんだけどいいか?」

 

「うん? なんだい?」

 

 不意に声をかけられたにも関わらず、振り返ったインプの男は、柔らかな笑みを浮かべ、小首をかしげながら振り返った。

 

「あんた等が見たっていうスプリガン。髪がツンツンしてて俺みたいにでかい剣を持ってなかったか?」

 

「ああ。そうだよ。とめようかとも思ったんだけど、すぐに入っていってさ。止められなかったんだ。知り合いかい?」

 

 どうやら入っていったのはキリトで間違いないようだ。内心で舌打ちをしつつも、俺は四人に頭を下げた。

 

「まぁそんなトコだ。教えてくれてありがとな。あぁそうだ。他に誰か見なかったか? 金髪のシルフの女の子とか、結構胸が大きい」

 

「あ、その子も入って行ったよ。本当についさっきだ。十秒前くらいかな。あ、ちょっとアンタ!?」

 

 俺は男の声を最後まで聞かずに駆け出していた。先で待っていた姉貴がこちらに問うて来る。

 

「どうだった?」

 

「案の定っつーかなんつーか。キリトのヤツ勝手に先走りやがった。あの馬鹿!! アスナのことになるとすぐ頭に血が上りやがる!」

 

「それはそれとして、リーファはどうした?」

 

「キリトの後を追ってドームに入って行ったとさ! 流石にやばいかもしれないぞこれは」

 

 焦る気持ちを抑えつつ、俺は姉貴とともに階段を駆け上がり、グランド・クエストへの入り口の前に立った。入り口の前には誰もいないが、目の前の扉はぽっかりと口をあけている。どうやらリーファが開いた扉がまだ閉じきっていないらしい。

 

「二人はあの中か。どうする?」

 

「どうするもこうするもないだろ。行くぞ、姉貴!! 気ぃ引き締めろよ!!」

 

「心得た」

 

 俺は大剣を抜き放ち、姉貴は刀を抜いて二人同時にドームの入り口へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 リーファは世界樹のドームの中で絶望の淵に立たされている気分だった。いや、実際のところ絶望の淵に立っているのだ。

 

 今彼女の手の中には、キリトのものである黒いリメインライトが弱弱しく燃えている。そしてそれを抱える彼女の周りには、のっぺらぼうの守護騎士がこれでもかと言うほど並んでいる。しかもその背後には弓を携えた守護騎士までいる。

 

 そう、キリトはこの守護騎士たちの猛攻に合い、負けたのだ。そして今、彼の残滓をリーファが握っている。どうにかしてここを抜け出せれば、蘇生させることが出来るのだが、この数の暴力をどうやって切り抜ければいいのか……。

 

 現実世界からこのALOに入り、アウストとツバキが来るまでぶらぶらしていようとしていた時、不意にいつも冷静なキリトが取り乱して、アルンの上空へ向かって飛んだのだ。

 

 そしてキリトの後を追って行くと、彼の手にカードキーのようなものが落ちてきたのだ。ユイが言うにはそのカードキーはシステム管理用のアクセスコードだと言う。

 

 二人が何を言っているのか、リーファにはよくわからなかったが、ユイはこう言っていた《ママ》と。しかしわからなかった。ユイのママがキリトにどのような関係があるのか、あそこまで取り乱した様子で彼が探す女性とは一体? と。

 

 キリトはカードキーをしまった後、リーファに対してグランド・クエストの場所は何処だと聞いてきた。リーファはそれに答えたが、一人では無理だと首を振った。せめて二人が来るまで待とうとも言った。

 

 けれどキリトは止まらなかった。彼は一方的に礼を言った後、「あとは俺一人でやるから」と言い残して、そのままドームへ入って行ってしまった。

 

 残されたリーファは、しばらく呆然としてしまったが、すぐにぼーっとしていた思考を振り払い、ドームの中へ飛び込んでいったキリトのことを思い出した。

 

 あの時明らかに彼はいつものキリトではなかった。このままではきっと負けてしまうと思ったリーファは、アウストとツバキの到着を待たずして、開いたままだった世界樹への入り口に飛び込んだのだ。

 

 結果として、彼女が見た光景はドームの中腹あたりに浮かぶ黒いリメインライトだった。それを見てリーファはすぐさま飛び上がってリメインライトをキャッチ。守護騎士の攻撃に晒されつつも、彼の残り火の奪取に成功したのだ。

 

 が、状況は最悪だ。こちらは一人だというのに、あちらは圧倒的な数がいる。しきりに襲ってくる矢の雨と、それに紛れながら襲ってくる剣の猛襲を紙一重で避け続ける。それでも、矢の雨は彼女の体のいたるところを貫いていく。

 

「ぐ……!」

 

 顔をしかめながらも飛び続けると、彼女の前に剣を振り上げた守護騎士が現れた。すぐさまそれを避けようと、回避運動を取るが、彼女が回避したその先に再び騎士が現れ、巨大な剣をリーファの体目掛けて振り下ろしてきた。

 

 ……やばい!

 

 思ったが、剣は確実にこちらを捉えている。もう回避することも防御することも不可能だ。訪れるであろうゲーム内での死を覚悟したリーファは目を瞑る。

 

 守護騎士の剣がリーファの身体にくいこむ――はずであった。

 

 リーファは体を切り裂かれる悪寒に身構えていたのだが、その代わりに聞こえてきたのは、ガィン! という金属と金属がぶつかり合ったような音だった。

 

 何事かとそちらに目を向けると、守護騎士の首元に藍色の大剣がふかぶかと突き刺さっている。リーファはその大剣に見覚えがあった。そして、彼女の耳に救世主とも言える声が響いた。

 

「リーファ! そのまま出口に向かって全力で飛べ! 俺達が援護する!」

 

 声のした方向をみると、アウストと、ツバキが飛んできたところであった。

 

「アウストくん! ツバキさん!」

 

 思わず返事でなく彼らの名前を叫んでしまった。そして彼はこちらに飛び上がり、守護騎士に刺さっている大剣を引き抜く。

 

「速く行け!」

 

「うん、お願い!」

 

 リーファはアウストに任せ、その場から離脱する。しかし、守護騎士たちは執拗に彼女を追いかける。無論そのうちの数体はアウストが倒したが、それでも何体かは残ったやつ等がいる。

 

 再び剣が振り下ろされそうにもなるが、その途中で守護騎士の体がバラバラに切り裂かれて爆散した。

 

 見ると、ツバキが一気に三体の守護騎士を切り裂いたようだ。

 

「出口までは私が守る。安心して飛べ」

 

「はい!」

 

 それに答え、リーファは飛び続ける。途中再び守護騎士から攻撃を受けそうになったが、それらは全てツバキによって撃ち落され、リーファは彼女に感謝しながらも、命辛々ドームから脱した。

 

 

 

 

 リーファがドームから脱したことを確認したツバキは、アウストを呼ぶ。

 

「葵! リーファとキリトは脱出した。我々も一旦引くぞ!」

 

「おう!」

 

 アウストは向かってきた守護騎士を唐竹割りをするように叩き切った後、矢の雨を避けながらツバキの元に合流し、二人はそのままドームから脱出した。

 

 

 

 二人がドームから脱出すると、扉の前には蘇生されたキリトと、彼の前でへたり込むリーファがいた。

 

「ごめん、三人とも。迷惑かけた」

 

 キリトは三人に対して頭を下げて、へたり込むリーファの右手をそっと握る。

 

「ありがとう、リーファ。君が来てくれなかったら俺はホームに逆戻りだった。でも、俺なんかのためにあんな無茶はもうしないでくれ」

 

「そんな、私は無茶だなんて……!」

 

 リーファが途中まで言いかけるが、キリトは彼女の言葉を最後まで聞かずに、再びドームへ足を向ける。

 

 が、彼の肩をアウストが握ってそれをとめる。

 

「待て、キリト。確かに世界樹を攻略したい気持ちもわかるが、少しは落ち着けよ。今のお前、正常じゃないぜ」

 

「……ああ、わかってるさ。でも、でも! 俺は速くあの上に行かなくちゃならないんだ!! それに、本来これは俺が一人で解決しなくちゃ行けないんだ!」

 

 キリトの悲痛とも取れる声にアウストは彼の肩を離す。キリトも彼の行動に「ありがとう」と礼を言うが、そんな彼に対し、アウストは大きく右腕を振り上げ、彼の顔面を殴りつける。

 

「アウストくん!? なにをやって!」

 

「待て」

 

 大きく吹き飛ばされたキリトにリーファが駆け寄ろうとするが、ツバキが彼女を止めた。

 

 殴られたキリトはと言うと、石畳から体を起そうとするが、彼の胸倉をアウストが掴み上げた。

 

「落ち着けって言ってんだろうがキリト」

 

「落ち着いてるよ……」

 

「いいや、落ち着いてないね。お前はあの上にいるアイツのことで頭がいっぱいになって正常な判断ができていない。さっきの行動はなんだ? また中に入って守護騎士共と闘おうってのか? 行ったって犬死がいいとこだ。またリーファに迷惑かけるんだぞ、お前は」

 

「だから、これから先は俺が一人でやるっていってるだろ!」

 

「テメェ一人で一体何が出来る!!」

 

「ッ!!」

 

 アウストの今までにないほどの怒号に、リーファは一瞬体を強張らせた。その恫喝にはキリトの胸にも来るものがあったのか、息を詰まらせた。

 

「思い上がるなよ、キリト。お前はあそこで実感したはずだ。テメェ一人の力がどれだけ非力で、弱いものなのかを。なのにまた一人で挑戦するだ? 寝言は寝て言えバカヤロウ」

 

「じゃあ、どうすればいいって言うんだよ。あそこを越えなくちゃ、アスナに、アスナにたどり着けないじゃないか」

 

「え……?」

 

 不意に聞こえた疑問符は、アウストのものでも、ツバキのものでもなかった。

 

 疑問の声を上げたのはリーファだった。アウストとキリトも彼女の声が聞こえたのか、振り向く。

 

 振り向いた先にあったのは、呆然としつつも、驚愕の色に瞳を染めたリーファの姿だった。

 

「キリトくん……いま、なんて……いったの?」

 

 いつもの快活さは何処へ行ってしまったのか、たどたどしく、やっとこさ搾り出したような声で彼女は問う。

 

 キリトとアウストは言い合いのテンションをおさめ、疑問を浮かべながらも彼女に向き直った。

 

「ああ、アスナって言ったんだ。俺が探している人の名前だよ」

 

「……ッ!?」

 

 キリトがその名を口にした瞬間、リーファは口元に両手を当てて半歩後ずさった。

 

 やがて、彼女は掠れるような声を搾り出した。

 

「……お兄ちゃん……なの……?」

 

「え………………?」

 

 リーファの声にキリトは訝しげに眉を動かしたが、すぐに彼女の言ったことと、彼の前にいるシルフの少女の瞳を見て声をもらす。

 

「スグ……直葉……?」

 

 彼の返答に、リーファは再び表情を驚愕に染める。そして今度は彼女の双眸から陽光に照らされて光る涙が零れた。

 

 二人のやり取りに、アウストとツバキは完全に蚊帳の外ではあったが、二人の反応と言葉からしてすぐに合点は言った。

 

「兄妹か……」

 

 アウストは少し前にキリトから聞いたことがあった。彼には妹がいるのだと。だが、聞いた話では彼の妹はオンラインゲームなどは毛嫌いしていた節があると言うが――。

 

 やがてリーファ/直葉は、口元を押さえ、嗚咽交じりに呟いた。

 

「……酷いよ……。あんまりだよ、こんなの……」

 

 涙を流しながらリーファはメニューウィンドウを開き、ログアウトボタンを大して確認もせずにタップした。やがて彼女の姿は光に包まれて消えてしまった。

 

 残されたキリトとアウストは互いの顔を見比べ、ツバキはただただ沈黙を貫いていた。

 

「なぁ、今のってまさか……」

 

「ああ。俺の妹の直葉だ。でも何でだ? 何で直葉がALOに……しかも泣いちゃうなんて……」

 

 先ほどまでの言い合いの空気など何処かに消え去ってしまったかのように二人は互いの顔を見合わせる。

 

「俺がまたナーヴギアを使ったことを怒って泣いたのかな」

 

「いや、あの感じからしてそれは薄いだろ。寧ろ、キリトが和人だったことに対しての哀しみ……いや、悔しさか? どっちにしろ驚いてたのには変わりはなさそうだけど……」

 

「どちらでもいいが、キリト。リアルに戻って話をつけてきた方がいいのではないか? さすがに、妹に泣かれたままというのもきついだろう?」

 

 ツバキの言葉に、キリトは一瞬迷ったようだったが、すぐに頷くと二人に告げた。

 

「それじゃあ、俺ちょっとスグと話してくるよ。ユイ、少しの間アウストと一緒にいてくれるか?」

 

「はい。わかりました。パパ」

 

 キリトは胸ポケットに収まっているユイに声をかけると、そこから飛び出したユイがチョコンとアウストの頭に乗った。

 

「それじゃあ、行って来る」

 

 キリトはそう言ってログアウトしたが、残されたアウストはツバキを見やる。

 

「さてはて、どうしたもんかね。姉貴」

 

「わからん。第一、あれはあの二人の問題だろう。私達が介入すべきではない」

 

「だよなぁ。あ、ユイ。さっきはパパのこと殴って悪かった。お前は大丈夫だったか?」

 

「はい。少しビックリしましたけど大丈夫です。けど、アウストさんの止め方は間違っていなかったようにも感じます。あのままだとパパはまた無茶しちゃうかもしれませんし」

 

 ユイは少しだけ落ち込んだ様子で項垂れた。恐らく彼の暴走にも似た行動をとめられなかった自分に責任を感じているのだろう。

 

「まぁキリトに対する説教は後にして……。なぁんで、リーファはあんなにないたんかねぇ」

 

「なんだ、わからんのか? 葵」

 

「は?」

 

 ツバキの問いにアウストは首をかしげた。弟の察しの悪さにツバキはやれやれと頭を振ると、彼女が思っていることを口にした。

 

「恐らくだが、リーファ……いいや、ここでは直葉と言った方が良いか。ともかく彼女は兄である和人に惚れていたのだろう。しかし、和人には明日奈嬢がいる。だから現実世界では身を引いた、彼が幸せになるためにな。だから直葉は、ゲームの中で出会った兄、和人に似ているキリトに淡い恋心を抱いた。が、キリトの正体は、自分が好きだと言う感情を押し殺した和人本人だった……。どうだ? こんな真実を突きつけられたら誰だって涙を流したくなるだろう?」

 

「確かにそうですね……。ツバキさんの言うとおりかもしれないです」

 

 ツバキの推理にユイも思い当たる節があったのか、何度か頭を縦に振った。

 

「すげぇ推理だけど、アイツ等は実の兄妹だって話だぜ? そんなことあんのかよ?」

 

「ないとは言い切れないだろう。人の恋愛対象など人それぞれだ。リーファ(直葉)の場合、それが兄、キリト(和人)であったというだけだ」

 

「なんつーか……複雑だな」

 

「ああ。複雑だ。だから葵、あの問題は二人に解決させろ。他人である我々が介入するべきではない」

 

「……わーったよ」

 

 ツバキの忠告を素直に受け取ったアウストは、ドームへ通じる大階段の最上段に座り、眼下に広がるアルンの街を見渡した。

 

「兄貴が好き……ねぇ」




アスナ回かと思ったらなんかすげぇ進んじゃったぜ!(白目)

いや、まぁしょうがないんですよ。キリトさんと違ってアウストは姉弟間で問題ないですし、あるとしたら姉貴が最強すぎるくらいですよ!
まぁ萩月さんちは天才がたくさんですと。もうやだこの家族。国から特例で帯刀許可ってなんなん? 某ゲームの某ヒロインの親父さんかよ!(わからない人は黛大成で検索してみてね!)

途中で須郷さんがなんかほざいてますが、気にしてはいけない。所詮は断罪される定めよ……。そして姉貴が刀を研いでる時点でもう……お察しください。(殺人はしないヨ!)
艶呪安綱はてっきとーな話なんで気にしないでください。なんか童子切りを越えられなかった安綱があったらこんなんだろーと思って作っただけなんでw

さて、次回はキリトとリーファが闘って、世界樹攻略を仕切るところまでは書きたいですね。その後はいよいよ最終決戦ですが……さてはてどうなることやら……w
まぁ須郷さんには痛い目を見てもらうので……フフーフ♪

では、次回もよろしくお願いいたします。
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