ソードアート・オンライン -宵闇の大剣士-   作:炎狼

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第十九話

 キリトとリーファがログアウトした後、俺はユイを頭に乗せて眼下に広がるアルンの街並みを俯瞰していた。

 

 姉貴の方を見ても、彼女はドームの前で胡坐をかき、目を閉じているだけで微動だにしない。

 

 二人がログアウトしてから十分弱が経過したが、二人は未だに現れない。

 

「アウストさん。一つ、質問してもいいですか?」

 

「俺が答えられる範疇であれば答えるぜ。お嬢様」

 

 ユイから投げかけられた問いに対し、ちょっとだけおちゃらけてみると、彼女は薄く笑みを浮かべた。彼女は俺の頭からふわりと浮き上がると、ちょうど俺の鼻の前あたりに滞空した。

 

「えっと、パパとリーファさんは現実世界で兄妹という間柄、なんですよね?」

 

「らしいな。俺はリアルの方のリーファに会ったことはないけど、キリトからは実の兄妹だって聞いてるぜ。それがどうした?」

 

「はい。リーファさんのように、実のお兄さんを好きになってしまって恋愛対象として見てしまうのは、やっぱり不思議なことなのでしょうか? 相手のことを好きならばそんなに悩むことでもないと思うのですが……」

 

 心底不思議そうな表情で首をかしげるユイ。そんな彼女の行動や表情を見て、俺はハッとした。目の前にいる小妖精は、感情こそあれど根本的にはシステムによって生み出された人工知能の結晶体だ。

 

 が、ユイはSAOのプレイヤーの精神的ケアを司るカウンセリングをするための存在だ。だからこそ、感情があり、笑ったり、泣いたりできるのだろう。しかし、そんな彼女であっても、生身の人間の恋愛にはまだわからないことがあるのだと知り、俺は少々驚いてしまった。

 

「まぁ確かにお前の言うとおりだわな。相手のことが好きなら好きでいい。うん、実に単純でわかりやすい。けどな、ユイ。人間ってのは面倒くさい生き物なんだ。悩んで、解決して、また悩んで、こんなことばっか繰り返している。だからユイのように考えられれば、相当楽なのは確かだ。けど、人間はそういう悩むことも含めて人間なんだ。今回のはその問題で一番面倒くさい事例だろうな。例え当人達がよくても、周りがそれを許さないこともある」

 

「難しいんですね。人間の恋愛感というのは」

 

「ああ、難しい。まっ、俺は別に気にしないけどな。たとえ友達の中で実の兄妹同士で付き合ったり結婚したりしても。あ、そういえば俺も気になったんだけど、ユイの愛情表現っていうか、そういうのはどういうもんなんだ?」

 

「それは簡単です」

 

 ユイは一度胸を張ると、俺の鼻頭にその小さすぎる両手を添える。

 

 不思議に思っていると、次の瞬間に「チュッ」というかなり控えめなキスが鼻頭に当てられた。

 

「わたしだったらこうします。実に単純で合理的だと思いますよ」

 

 ユイはえへへ、と小さく零すと両手を離し、俺に対して微笑みを向ける。

 

「……マセガキ」

 

「あ、酷いです! 今のはアウストさんがどういうのするんだって聞いてきたから実際にやってみただけですよ!」

 

「それにしたっていきなりチューはねぇ……。パパとママが泣くぞ」

 

「わたしだって誰彼構わずそんなことはしませんよ! もう、あんまり意地悪するとママに言いつけちゃいますよ。さっきパパを殴った件も含めて!」

 

「げっ、それだけは勘弁してくれ。なぁユイ、悪かったって。ごめん。わりぃ、すまねぇ、許せ」

 

「……なんとなく誠意を感じられない気もしますけど、いいです。アウストさんはわたしのお友達ですからね」

 

 プンプンと怒ったユイは、俺に背中を向けてきたが、すぐに振り返っていつものような微笑を浮かべた。

 

 その様子に胸をなでろす。まったく、アスナに報告されてはあとでどんなしっぺ返しがくるかわかったものではない。死にはしないだろうが、半殺しぐらいは行きそうである。

 

 俺とユイはしばらくそんな調子で話していた。そして二人がログアウトしてから十五分が過ぎようとした頃、ドームの入り口前に黒衣の少年剣士、キリトが現れた。

 

「パパ」

 

 ユイも彼に気が付き、微かな羽音を立てて彼の元へ飛んでいく。俺も彼女に続くと、彼に問いを投げかける。

 

「で、どうだった。妹ちゃんの様子は」

 

「泣いてたよ。でも、あのままじゃいけないと思ってさ、アルンの北側のテラスで待つことにした。ここだと人目につきやすいからな」

 

「そうかい……。あー、そうださっきはあれだ、殴って悪かったな。おれもちっとばっか熱くなってたわ」

 

 後頭部を掻きつつ謝罪すると、キリトは被りを振ってその謝罪を否定した。

 

「いや、いいんだ。俺もアスナが近くにいるって分かって周りに目が行かなくなってた。お前に言われて気が付いたよ、アウスト。俺は一人で闘ってたわけじゃないんだよな。お前も含めて、みんなと闘ってたんだ」

 

「……おう。そうだ、わかってくれてよかったぜ。っと、引き止めて悪かったな。んじゃ、リーファとしっかり話し合えよ。アイツが来たら先に行ったって伝えとく」

 

「ああ。よろしくな」

 

 キリトはそう言うとユイを胸ポケットの中に入れて、アルンの北側に浮遊しているテラスへと飛び立っていった。

 

 その姿が見えなくなるまで見送って、俺が姉貴の元へ行こうとしたときだった。ドームの入り口付近に青白い光が現れ、光の中から錦糸のような黄金色の髪をしたシルフ族の少女剣士、リーファが現れた。

 

 彼女は一度周囲を見回すと、俺に気が付き駆け寄ってきた。

 

「アウストくん。キリトく――お兄ちゃんはもう行った?」

 

「ああ。ついさっきな」

 

「そっか……」

 

 リーファは俯きながら返事をした。やはりまだ心の整理ができていないようだ。まだ先ほどの一件から二十分も経っていない。この時間だけで整理しろと言うのが無理と言うものだ。

 

 さすがに目の前でこのような悲しい顔をされると、男としては何かしないわけにはいかない。

 

「恐いか? リーファ」

 

「ちょっとだけね。何を言えばいいのかわかんないし、お兄ちゃんから何を言われるのかもわからないし」

 

「まぁそうだわな。うーん、なんて言えばいいものか……」

 

 かっこつけて「恐いか?」などと聞いてみたはいいものの、次の言葉が繋がらない。だから俺は、自分の気持ちに素直に従った。

 

「あー、こまけぇこと考えるのはやっぱナシだ! いいか、リーファ。本名は直葉って言うみてぇだけど、聞け」

 

 俺の声にリーファ/直葉は俯かせていた顔を上げた。

 

「いつまでもウダウダ引き摺ってる時間も、なんて言えばいいとか、なんて答えればいいなんて迷ってる時間も無駄だ。だったらどうする?」

 

「……」

 

「やれることをしないで迷ってたり、立ち止まってるだけじゃ何も解決しねぇんだよ。だから、今お前がやるべきことを迷わずに、それを兄貴にぶつけて来い」

 

 俺は言い切り、リーファの前に拳を突き出す。俺の言ったことと、突き出された拳の意図が理解できたのか、リーファは先ほどまでの陰鬱とさせていた表情から、いつもの明るい笑顔を見せた。

 

「うん、そうだね。アウストくんのいうとおりかも。やれることをしないで後悔するよりも、やってスッキリした方が楽だもんね!」

 

「おう。その意気だ。ついでにあの野郎の顔面にぶち込む位の勢いでやってやれ」

 

 答えながら俺とリーファは拳を打ち鳴らす。そして彼女がキリトの待つテラスに飛び立とうとした時だった。

 

「やっと見つけたー! 捜したよー、リーファちゃん!」

 

 なにやら若干間の抜けた声が響いた。声がしたのは上だったが、すぐにその声の主と思われる影は俺と、リーファの前に降立った。

 

 現れたのは黄緑色の髪色をしたシルフの少年だった。髪型はなんとなくキノコっぽい。

 

「れ、レコン!?」

 

「知り合いか?」

 

 リーファの素っ頓狂な声に俺が問うと、彼女は頷いて説明を始めた。

 

「私がALOを始めたときにやり方とか少しだけ教わったんだ。リアルだとクラスメートなんだよ。あと、シグルドの裏切りを教えてくれた子」

 

「レコンです。よろしくってアレ? リーファちゃん、あのスプリガンは? 解散して今度はインプと組んでるの?」

 

 レコンが言っているスプリガンと言うのはキリトのことだろう。しかし、このレコン少年が俺を見たときに感じた恨めしそうな瞳は……。

 

 ……あー、なーるほろ。

 

 なんとなく予想が付いたが、口には出さずに俺は頷いておくと、リーファが声をかけてきた。

 

「ごめん、アウストくん。レコンと一緒に待っててくれるかな。ツバキさんにも言っておいて。終わったら合流するから」

 

「あいよ。んじゃ、また後でな」

 

「うん。それじゃあレコン! あたしが戻ってくるまでその人たちと一緒にいなさいよね!」

 

「うぇぇ!? リーファちゃんは何処行くのさ!」

 

「あたしはやることがあるって言ったでしょ! じゃあ、またね」

 

 リーファはそれだけ言い残し、北のテラスに向かって飛び立った。残されたレコンは「あー……」とまだ何か言いたげだったが、ついて来るなと念を押されたようで、その場でがっくりと肩を落とした。

 

 が、彼はすぐにその状態から回復すると、ツカツカと俺の元にやって来て問いを投げかけてきた。

 

「つかぬ事をお伺いしますが、貴方とリーファちゃんの関係は?」

 

 彼はしっかりと声を発しているつもりなのだろうが、緊張しているのか微妙に声が震えている。

 

「安心しな。別に俺はアイツとお前が思っているような仲じゃねぇよ。友達だ、トモダチ」

 

「ほ、本当に!?」

 

「ああ。ホントーだよ。まぁ、お前さんが自分の気持ちを伝えるかどうか走らんが、玉砕覚悟でがんばれや」

 

「え、僕、試合しないウチから負けてる感じなの!?」

 

「さぁな。けど、可能性が0ってわけじゃないだろう?」

 

 最後に付け加えると、「だよね! そうだよね!」とレコンは騒がしく声を発した。どうやら、彼は本当にリーファに惚れているらしい。

 

「あぁそうだ、自己紹介が遅れたな。アウストだ。よろしくな、レコン」

 

「うん。よろしくね、えっとアウストさんの方がいいのかな?」

 

「あー、さんづけはしなくてもいいぜ。好きに呼んでくれ」

 

 とりあえず握手をするために手を差し出すと、彼も握手に答えてきた。姉貴はと言うと、まだ端のほうで胡坐をかいて座っていたので、邪魔をせぬようにレコンに紹介しておく。

 

「あっちはツバキな。今は静かにしといてやったほうがいい」

 

「わかった。で、リーファちゃんは何をしにいったの? 結構慌ててるみたいだったけど」

 

「気にすることでもないさ。まぁ、俺たちはリーファが帰ってくるまで待ってようぜ」

 

 俺は言いつつドームの前の広場にあるベンチの一つに寝転がって、澄み渡った空とそれを覆い隠すように生い茂る世界樹の枝葉を見やる。

 

 けれど、俺は寝転がったところで、姉貴に対して話しておくことがあったのを思い出して、彼女の下に駆け寄った。

 

 

 

 

 

 

 

 キリトとリーファが連れ立って返ってきたのはそれから三十分もしない頃だった。

 

 二人が帰ってきたことに最初に気が付いたのはレコンであり、我先にとリーファの元に駆け寄っていった。

 

 彼に続き、俺も姉貴の肩を叩いて二人の下へ歩き始める。

 

 そして俺たちが全員揃ったところで、タイミングよくレコンが百面相の後に疑問の声を発した。

 

「えっと、つまりどういうこと?」

 

「世界樹を攻略するのよ。ここにいる全員で。勿論あんたも含めてね」

 

「そ、そう……って、ええ!?」

 

 笑顔のリーファの声にレコンは顔面蒼白になって半歩後ずさった。

 

 しかし、俺はそんな彼よりも迷いが吹っ切れたようなリーファの姿が見れてよかった。どうやらキリトを話をつけられたようだ。

 

 が、リーファはドームを見上げ、眉間に皺を寄せる。恐ら先ほどキリトが無残にやられた時のことを思い出しているのだろう。

 

 キリトもそれは同じな用で、唇をかんでいるのが見て取れる。すると、いやな空気になりそうなところで、ツバキが俺の背後から声を上げた。

 

「聞きたいのだが、いいか?」

 

「なんですか?」

 

「あの守護騎士――ガーディアンだったか。あれは秒間でどれほどポップされる?」

 

 その問いにキリトは、思い出したように胸ポケットを叩く。

 

「ユイ、いるか?」

 

 すると、彼の言葉が終わらないうちに光の塊が現れ、毎度おなじみのピクシーが現れる。ただ、今回はやや機嫌が悪そうだ。

 

「もー、遅いです! パパが呼んでくれないと出て来れないんですからね!」

 

「悪い悪い。すっかり忘れてた」

 

 苦笑しながら謝るキリトが差し出した掌の上にチョコンと乗るユイ。が、そんな彼女に対して、レコンが首を伸ばした。

 

「うわ、こ、これプライベートピクシーってヤツ!? 初めて見たよ! うおお、スゲェかわいいなぁ!」

 

 唐突にレコンが近づいたことにより、ユイは目を丸くし、その身を少しだけ引いた。

 

「な、なんなんですかこの人は!?」

 

「こら、恐がってるでしょ」

 

 リーファがレコンの耳を引っ張って、彼女から遠ざける。二人が離れた所で、姉貴が一歩前に出てユイに問うた。

 

「ユイ。それであのガーディアンは秒間でどれくらいポップするかわかるか? 私の見立てでは、再接近した際には十体ほどだと思ったのだが」

 

「はい。凡そツバキさんの見立てで間違いありません。個々の力はたいしたことはありませんが、再接近時の最大ポップス数は秒間十二体です。あのポップではもう攻略不可能の域に達しているとしか……」

 

「なるほどな。毎秒十二体か……」

 

 ユイの情報に姉貴は口元に指を当てて考え込む。

 

 秒間、即ち一秒間に十二体の敵が同時に出現するということだ。想像しただけでも絶望的な数字だが、やるしかない。

 

「個々の力は闘ってみてわかったが、実際のところは対して高くない。そうだったなキリト」

 

「ああ。でも、それを総体とした見た時には絶対無敵の巨大ボスと同じってことだな。プレイヤーの心を煽るだけ煽って、興味を引くギリギリのところまでフラグ解除を引っ張るつもりなんだろう。しかしそうなると厄介だな……」

 

 キリトは考え込むが、そこで不意小さな笑い声がもらされた。俺を含めて全員がそちらを見ると、姉貴がこめかみのあたりを押さえて、肩を震わせて笑っていた。

 

「どした? ツバキ」

 

「いや、少し可笑しくてな。先ほどキリトはあれが絶対無敵と言ったが、断言しよう。この世に絶対無敵は存在しない。どんなに圧倒的な力や数の差があっても、それを覆す手段は誰もが持っている。肝心なのは、絶望しないことだ。自分が選んだ道だ、決して迷うな。一瞬でも迷い、臆せばそれが他者に伝染する。私達はもう決めたのだろう? グランド・クエスト、即ち世界樹を攻略すると。ならば、進もう。ただひたすらに進み続けるんだ」

 

「ツバキさん……」

 

 呟いたのはリーファだった。楽観的過ぎる考えかとも思えたが、今のツバキの声によって、俺を含め、キリトリーファの覚悟は決まったようだ。

 

「そうだな。確かにツバキさんの言うとおりだ。迷ったら負けだ。確かにもっと人数を集めて攻略するのはわかってる。けど、もう時間が残されていない気がするんだ。だから、力を貸して欲しい」

 

「元からそのつもりだっての」

 

「私は闘えればそれで満足だ。弱くともアレだけの数ならば渇きも多少は潤ってくれるだろう」

 

「うん、わかった。もう一度がんばってみよ。あたしに出来ることならなんでもするよ。もちろん、コイツもね」

 

「うえぇ~……」

 

 今度はリーファに肘で小突かれ、情けない声を漏らすレコン。が、なにやらブツブツと呟いた後、大きなため息交じりにその頭をかくんと降ろした。

 

 

 

 地の底から響くような重低音のを轟かせつつその大口を開けた石扉の中からは形容し難いエネルギーのようなものが溢れているようで、俺は肌がピリ付くような錯覚を覚えた。

 

 そしてキリトが剣を抜いたところで、俺は大剣を抜き放ちながら彼に告げる。

 

「なぁ、キリト。アスナを助けるために一人じゃ心細いだろう? だから、俺も行くぜ。世界樹の上にな」

 

「いいのか? そこまで巻き込むつもりは……」

 

「一度乗りかかった船だ。最後まで付き合うさ。じゃ、気ぃ引き締めていこうぜ」

 

 ブォン! と音がするほど大剣をすばやく抜き放ち、それを担ぐように構える。既に全員の抜刀が済み、全員がいつでも闘える姿勢になっている。

 

 キリトが全員を視線を交わし、最後に俺と視線を交わすと、全員が翅を広げる。

 

「…………行くぞッ!!!!」

 

 俺たちはキリトの号令と共に地を蹴ってドームの中へ突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 ドームの中に突入したツバキはキリト、アウストと共に天蓋へ向けて急上昇を開始した。が、彼等の行く手を阻むように、天蓋の発光部分から守護騎士がボトボトと音を立てるように生み出された。

 

 守護騎士たちは雄たけびとも取れる咆哮をあげながら殺到してくる。並行して飛ぶキリトとアウストがそれぞれ大剣を構え、臨戦態勢に入るが、ツバキが前に出ることでそれを制する。

 

「すまんが、先に私が行かせてもらうぞ」

 

 薄く笑みを浮かべる彼女は、二人の返答も聞かずに殺到する十数体の守護騎士に単身で向かって行く。

 

 相対するは彼女の身長のほどもありそうな巨大な剣を持った、のっぺらぼうの守護騎士。普通の人間であれば恐怖するであろうその容貌に、ツバキは一切の恐怖を覚えなかった。

 

 振り下ろされる巨剣はツバキの肩口を狙う。ツバキは守護騎士の動きを理解し、抜いていた白刃を巨剣が振り下ろされる前に、守護騎士の首へ向けて薙いだ。

 

 首を落とされた守護騎士は力なくその場で消滅しそうになるが、その体が完全に爆散する前に、ツバキはその体を引っ掴み、後続の守護騎士達の合間を駆け抜ける。

 

 その速度たるやまさしく一瞬。ほぼ瞬間移動とも取れる速度で敵陣を駆け抜けた彼女の後ろでは、合計十三体いた守護騎士が一体も残らずに爆散していた。

 

 爆煙の先では、ツバキが斬りぬけた姿勢で止まっていた。その瞳には研ぎ澄まされた殺意がはっきりとあり、冷酷な光が灯っていた。

 

 けれどこの程度の攻撃で、ほぼ無限に生み出される守護騎士が止まるわけがなく、彼女の両脇から再び守護騎士が現れた。が、守護騎士の剣は彼女に届かず、キリトとアウストそれぞれの大剣に防がれ、そのまま守護騎士は大剣によって両断された。

 

「いいタイミングだ」

 

「そりゃどーも。つか、姉貴。全力でやっていいぜ」

 

「ほう……。いいのか? 全力でやっても。どうなっても知らんぞ」

 

 ツバキは近寄ってきた二体の守護騎士を一気に両断してアウストに忠告した。

 

「こんなクエスト自体どうかしてんだ。リミッター外したって誰も文句は言わないさ」

 

「確かにそうか。いいだろう、全力を見せてやる。いままでは瞬間的な全力だけだったのでな」

 

 ツバキはニヤリと笑みを浮かべると、天蓋から続々と生み出され続ける守護騎士を見据えてシラヌイを構える。

 

「では、システムによって制御された傀儡どもよ。貴様等がどこまでやれるのか……」

 

 彼女が言っているうちに守護騎士が再び五体の小隊を組んで突っ込んできた。が、彼等の剣はツバキには届かず、あっけなく空を斬り、五体の守護騎士はまたしても一瞬にして切り裂かれた。

 

「……せいぜい足掻いて見せろ」

 

 瞬間、嵐が巻き起こった。

 

 凄まじい速度で飛んだ彼女は、ほぼ壁のようになった守護騎士の軍勢の中に単身で飛び込んでいった。普通ならば、あんな軍勢の中に突っ込めば一瞬にしてHPが0になるだろう。しかし、彼女は違う。

 

 ツバキ、いいや、萩月椿は普通ではない。剣術という天賦の才を持ち、剣の道をひたすら進む剣帝。それが彼女だ。

 

 剣帝が進んだ後には何も残らない。全て彼女がことごとくを凌駕し、突き進む。それが今、具現されている。

 

 守護騎士の軍勢は彼女をとめることが出来ない。挟み討とうとしても、多数で囲んでも、どんな戦法を持ってしても、彼女は止まらない。否、止められない。

 

 

 

 

 

 

 

 荒れ狂う暴風のように守護騎士の軍勢を叩き潰していくツバキと、彼女ほどではないにしろ、圧倒的な強さを見せるキリトとアウストの姿を見て、ドームの下方にいたリーファとレコンは回復魔法をかけながらも呆然としていた。

 

「あ、あの三人、スゲェ……」

 

「うん。次元が違う」

 

 リーファはレコンの言葉に頷き、視線の先で暴れまわる三人を見やった。

 

 キリトは大剣をふるいながら軽やかに守護騎士の攻撃を避けて戦っていく。アウストはと言うと、キリトとは正反対で細かな動きはあれど、その戦いはキリトのものよりも大きな大剣を使った豪快な戦い方だ。二人は時折背中合わせで戦いながら、息を合わせたコンビネーションを見せている。

 

 そんな二人を足してみてもいくらかお釣りが来る様な動きで闘っているのがツバキだ。彼女が飛んだ背後では切り裂かれて四散した守護騎士の爆煙が列を成すように並んでいる。

 

 圧倒的ともいえる彼女の強さと、肌をピリつかせる殺気を味わったリーファは、やはり彼女の姿を憧れの人と照らし合わせてしまう。

 

 ……やっぱりツバキさんはあの人なのかな。

 

 思い、再び視線をツバキに戻そうとした時だった。ちょうど回復魔法をキリトとアウストにかけ終わった時、守護騎士の数体がリーファとレコンに対して視線を向けたのだ。

 

 彼等にターゲットされないためにリーファとレコンは回復に徹するという予定だった。本来モンスターは反応圏内にプレイヤーが侵入するか、遠距離から攻撃スペルや弓などで攻撃されない限り襲っては来ない。

 

 このドーム内にいる守護騎士はそうではないようだ。より悪意のあるアルゴリズムを植えつけられた彼等は、回復や補助スペルにまで反応するようで。前衛にアタッカー。後衛にヒーラーというオーソドックスな陣営すらも使えないようだ。

 

 リーファは唇を噛んで、レコンに対し「自分が囮になって奴らをひきつける」と言おうとした。けれど、その声が発される前に、こちらに向かってきていた守護騎士の一体に碧色の長槍が突き刺さった。

 

「え?」

 

 疑問の声を上げたのはレコンだった。

 

 碧の長槍が飛んできた方向はリーファ達の背後、即ちドームの入り口からだ。すると、背後から聞きなれない声が聞こえてきた。

 

「ほらやっぱり! アンタがちんたらしてるから、アウスト達、先に入っちゃてたじゃん!」

 

「しゃーないやろー。わいかて色々準備とかあるんやからそれにホラ、まだ生き残っとるやん」

 

 見ると、入り口近くには二人の人物がいた。一人は身長190cm以上はあるかと言うぐらい長身のシルフの青年。もう一人はリーファと同じぐらいの身長で、深紅の頭髪のサラマンダーの少女だ。

 

 が、彼等が攻撃したことにより、リーファに向かっていた守護騎士が方向を変えて二人に迫った。サラマンダーの少女はそれに反応すると、深紅の剣を抜き放って一気に二体の守護騎士を切り裂いた。

 

「ひゅう。さすが」

 

「ふざけてないで加勢しに行くよ! ほら、さっさと槍回収して!」

 

「あいあい」

 

 シルフの青年は碧の長槍を回収すると、少女と共にアウスト達の下へ飛んで行こうとした。

 

「ちょ、ちょっと待って! 貴方たちはアウストくんの友達なの?」

 

 思わずリーファは彼女らを呼びとめてしまった。すると、サラマンダーの少女は振り返り、こくんと頷く。

 

「うん。私とこっちのノッポはアウストの友達だよ。世界樹を攻略するって言われたから手伝いに来たんだ」

 

「まったく、話が急すぎわなー。急に言うんやもん」

 

 二人はヤレヤレと言った風に肩を竦めたが、そこへアウストの声が飛んできた。

 

「ヨミ! さっさとこっち来て手伝え!! それとマシュー、お前は下でリーファ達を守ってろ!」

 

 守護騎士を三体ほど同時に叩き潰しながら言う彼に対し、ヨミと呼ばれた少女は「はいはい」と従い、マシューという青年は「しゃーないなー」などと言いながらレコンに向かってきていた守護騎士を叩き潰した。

 

 マシューはリーファとレコンの前に浮かぶと、巧みな槍捌きで連続してやってくる守護騎士の装甲の弱いところを突き刺し、撃破していく。

 

「リーファ言うたな。とりあえず、わいがお二人さんのことは守るんで、もうちょいがんばってくれや。そのうちまた手助けが来るやろうし」

 

 向かってきていた最後の一体の頭に槍を叩き込んだマシューの言葉に、リーファは小首をかしげる。手助けが来るというのは、まだアウストの友人が来てくれるのだろうか。

 

「それってどういう……」

 

 リーファは問おうとしたが、レコンが上を見上げて「うぁ……」と恐怖にも似た声を上げたことに反応し、天蓋を見上げた。

 

 瞬間、彼女は自分の足から力が抜けそうになってしまいそうになった。

 

 天蓋近くには壁があった。いや、正確に言うならば守護騎士達で構成された肉の壁か。とにかくとんでもない数の守護騎士達がひしめき合っていたのだ。ツバキやアウスト、キリト、ヨミがどれだけ必死で戦っても、凹んだ肉の壁は再び騎士達が寄り集まって修復される。

 

「こりゃあ、さすがにキツイな」

 

 こちらを守るために立ちはだかっているマシューも、上空の様子を見て苦笑いを浮かべている。

 

「……無理だよ、お兄ちゃん。こんな……こんなの……」

 

 リーファの苦しげな声が漏らされる先では、戦線に加わったヨミや、アウスト、ツバキ、キリトが闘い続けていた。




はい、お疲れ様です。

今回は世界樹に突入したところで終わりですね。
まぁ、前回と比べれば短かったですねw
マシューとヨミ参戦!

ツバキさん、あんたやっぱりこの世界に生まれてくるべきじゃなかったね……
ヒースクリフさんだって涙目だよ。

次回は攻略していよいよ来るか!?ゲ須郷さん!!

殺ってやるぜえええええええええ!!!!

では、感想などあればよろしくお願いします。
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