ソードアート・オンライン -宵闇の大剣士-   作:炎狼

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第三話

 宵の冥窟に入って既に三十分、二個目の照明結晶を使ったところでオレは振り向いてみた。しかし、振り向いても出口の光りは見えることはなく、照明結晶によって照らされた範囲以外は全て闇に包まれている。

 

 それに小さくため息をつきつつ前に向き直り、再び歩みを進めるが、目の前に広がる代わり映えのしない暗闇にまたしても溜息が出てしまう。

 

「なんつーか昔を思い出しちまうなぁ」

 

 肩を竦めつつ言ってみるもののその呟きは空しく反響するだけだった。

 

 SAOに閉じ込められた年をあわせて十年前――――。

 

 オレは自身の弟を守るために肩を怪我した。今でもあの痛みを思い出すことがある。潰されるような鈍痛に加え、突き刺されるような激痛。十歳のオレには耐えられないほどの痛みだった。

 

 でも痛みはすぐになくなった。その代わりと言う様にオレから全てを奪っていったが。

 

 肩をあげることが出来ず、大好きだった剣術から強制的に引き離され、生きる意味を見失ったオレの世界はまさにこんな感じだった。

 

 特にたまに見る夢は現状と似ていた。暗闇の中をオレの身体だけが照らされていて、行けども行けども出口が見えない暗闇を進んでいるような雰囲気はまさに今の状態と同じだろう。

 

 ふとオレは我に返り軽く頭を振った。まったくクエスト中だというのに随分とナイーブになってしまった。一応頭をしっかりと覚醒させるために頭を殴っておく。

 

 だがオレはちょっとした疑問にかられていた。

 

「宵の冥窟ってこんなに長かったっけか?」

 

 そう、今現在入り口から入って既に四十五分程度が経過している。以前情報屋に聞いた話では、この洞窟は三十分も行けば大きなドーム状の突き当たりにたどり着くはずだ。

 

 なので普通ならもう到着しているはずなのだが……。

 

「クエストのせいで拡張でもされたかね」

 

 まぁどんなに長くとも所詮はクエストだ。迷宮区ほど長くはないだろう。

 

 などと考えてそのまま十数分歩き、三個目の照明結晶を使った時、これまでとは打って変った開けた場所に出た。

 

 見上げてみると天井もやたら高く、僅かな光量でもここがドーム状になっているのが理解できた。どうやらここが最深部のようだ。「やっと着いたか」と思いながらそのまま少し進んだ時だ。オレは自身の目の前に何かが現れるのを感じた。

 

 弾かれるようにその場所から飛びのいて先ほどまで自分がいた場所に目を凝らす。

 

 そこには青色のオーラらしきものを纏った巨躯の狼がいた。しかしただの狼ではない。その狼には目が六つ付いていたのだ。真紅の光を放つ瞳はそれぞれが真っ直ぐこちらを見据えており凄まじい威圧感だ。

 

 やがて狼型のモンスターのカーソルが表示され、オレはソイツの名前を読む。《The Solitude Wolf》。HPバーを確認すると二本と半分。その多さとこの名前からしてこいつがボスモンスターで間違いないだろう。

 

「ザ・ソリテュードウルフ……孤独な狼か。ハッ! ソロ狩りにはちょうどいい名前じゃねぇか!!」

 

 言いつつ背中の大剣に手をかけると、あちらも地を這うような咆哮をあげた。瞬間、オレは駆け出してソリテュードウルフに斬撃を放つ。

 

「先手は頂くぜ!」

 

 言いながら大剣を振りぬくが、ありえないことが起きた。剣がソリテュードウルフの体を通過したのだ。まったく相手のポリゴンを削らず、ダメージを意味する赤いライトエフェクトも発生しない。まるで幽霊を斬ったかのようだ。

 

 それに驚いているのも束の間、ソリテュードウルフはその強靭な前足を振るってオレに攻撃を仕掛けてきた。オレはすぐさまそれに反応して大剣のガード体勢をとる。

 

 刹那、襲ってきたのは凄まじい衝撃と金属と金属がこすれあうような甲高い音だ。

 

 そのまま大きく後ずさったオレは自分のHPバーを確認する。どうやらガードが間に合ったおかげでそこまでHPを減少させずに済んだ様だ。でも今はそれよりもソリテュードウルフに攻撃が入らなかったことの方が問題だ。

 

「レイス系のモンスターってことはねぇよな。だとすると――」

 

 そこまで言ったところでソリテュードウルフが首をもたげた。口の端からは青色の炎のようなエフェクトが発生しているため、ブレス攻撃だろう。流石にブレスの場合、ガードしても多大なダメージを受けるのでソリテュードウルフに近づき、スライディングするようにヤツの腹下に潜り込む。

 

 それと同時に溜めていたブレスが吐かれるがこの場所なら余波もこない。だからこそオレの取った行動はただ一つ。

 

「――普通のときに攻撃がきかねぇってことは、テメェが攻撃時にくらわせる事が出来るフラグなんだよォ!!!!」

 

 叫びながら大剣を構えると空色のライトエフェクトが光りを撒き散らす。そしてすぐさまシステムサポートが入り、その構えのソードスキル、《ヴィントシュトス》が放たれる。

 

 上に対して放つ四連撃は的確にヤツの腹部を捉えたようで、「グルゥオアアアアア!!」という苦しげなうめき声を上げた。

 

 HPバーを確認するとクリーンヒットの影響なのか、半分のHPバーをギリギリ残した状態で削り取っている。

 

「テメェみたいな特性持ったヤツなんざ山ほど相手にしてきてんだよ!!」

 

 ニッと笑みを浮かべたオレは硬直状態から解けたので次の攻撃を待つ。だが、ヤツのAIも学習したのか早々大きな隙を作らない。

 

 それでもちまちまと攻撃を積み重ねていくことにより、二十分ほどかけて二本と半分あったHPの半分を削り取ることが出来た。

 

「よし、このまま一気に――ッ!」

 

 そう余裕の笑みを浮かべたときだ。ソリテュードウルフの六つ目がそれぞれギラリと光り、先ほどまでとはまったく別の雰囲気が辺りにはびこる。

 

 また、先ほどまで出ていた青色のオーラが変化し、ドス黒い、オレが装備している剣よりも遥かに青黒いオーラが出始めた。それを確認したのも束の間、ソリテュードウルフは音もなくその場から掻き消えた。

 

 否、掻き消えたのではない崩れるようにいなくなったのだ。

 

 オレは反射的に大剣を真正面に構えるが、ヤツはいつまでたっても現れない。一瞬逃げたのかとも考えたが、こんな閉鎖された空間からどうやって逃げるというのか。第一、カーソルはいまだ残っておりライフも半分残っている。

 

 考えを振り払い索敵スキルをフルに活用してみるが未だにヤツが現れる様子はない。

 

 何分が経過しただろうか。いや、実際は何秒だろう。周囲が暗いことでかなり時間感覚がおかしくなっているようだ。

 

 そんなことを気にしつつもオレは照明結晶の残りの効力時間を計算する。照明結晶の持続時間は一個につき三十分。戦闘が始まって二十分が経過していることから考えて後十分以内には決着をつけたいものだ。ただでさえ照明結晶を使う時は隙が出来る、そこを狙われるとHPを大幅に削られてしまうだろう。

 

「ったく、面倒なところだ」

 

 舌打ちをして悪態をつくと、まるでそれに答えるように背後にソリテュードウルフの気配が現れた。弾かれるようにそちらを見るが、オレの目に入ってきたのは驚くべき光景だった。

 

 なんとヤツは影の中から飛び出してきたのだ。正確には、照明結晶によって出来た光りの範囲の外の暗闇の部分から飛び出してきたというほうが正確だろうか。流石にこの攻撃には面食らったが、オレは冷静に判断を下し、ヤツの攻撃線状にナイトメアレイヴンをかかげ通り抜けざまに真横に振るった。

 

 手応えがあったのでダメージは与えただろうが、それはこちらも同じことだ。腹部を見るとまるで意趣返しのようにダメージを示す赤いエフェクトが発生していた。ヤツの爪が当ったのだ。

 

 HPを確認するとグリーンゾーンにあったものがイエローゾーンまで削られている。中々の攻撃だ。次喰らえばレッドゾーンでギリギリ残る程度だろう。

 

 普通のプレイヤーならば恐怖や不安を表情に表すかもしれない……。だが、オレはどうしてこんな性格をしているのだろうか。手鏡があればすぐにわかる。

 

 オレは今笑っている。この状況を楽しんでいる。しかもイエローゾーンだけでは物足りないと思っているようだ。

 

「……我ながらなんてドMな性格してんだか……」

 

 自嘲気味な笑みを浮かべたオレは一度目を閉じて大剣を真正面に向けて構える。そして大きく深呼吸。

 

 別にSAOで呼吸は要らないが、リアルでやっていた精神集中の真似事だ。何度かそれを続けると高揚していた気分が落ち着き、心がクリアになる。

 

「今度ははずさねぇ……」

 

 言うと同時にオレはナイトメアレイヴンを担いだ。同時にライトエフェクトがじわじわと刀身を侵食し始める。

 

 そのままの状態で十数秒が経過した。今度は正確に判断が出来ているのでそれだけ感覚が鋭敏になっているのだろう。昔からこの戦いが長引くほど感覚が鋭くなっていくのは気持ちがよい。

 

 冥窟の中に凄まじいほどの静寂が包んでいる。

 

 しかし次の瞬間その静寂は次の瞬間、空気を激震させるような咆哮で破られた。

 

「ゴァアアアアアッ!!!!」

 

 ソリテュードウルフが現れたのはオレの右側だ。大きく開かれた口の中には鋭利で強靭な牙が光っている。恐らくこの攻撃を喰らえば死ぬだろう。

 

 しかしこの命をかけたギリギリの攻防は本当に面白い。自分が生きているという感じがよりいっそう強くなる。

 

 オレは口角を吊り上げて軸足に体重を乗せて身体を回転させることで、ソリテュードウルフと真正面から向き合う。

 

 既にヤツの大口は目の前にまで迫っていたが、こちらもソードスキルの準備は完了している。

 

 そしてソリテュードウルフの頭が眼前まで迫った瞬間、担いでいたナイトメアレイヴンがソードスキルのシステムアシストによって、蒼き軌跡を描きながら振りぬかれた。

 

 真一文字に振りぬかれた大剣はソリテュードウルフの頭にクリーンヒット。かつてないほどの手応えが腕に伝わるが、攻撃の手は緩めない。続けて斜め右上に斬り上げ、さらに振り下ろすことで三角形を描くように三連撃。

 

 しかしまだこれだけでは終わらない。今度は逆に三角形を描くことによりライトエフェクトの軌跡が六芒星を描いた。

 

 隠し技というわけではないが、モンスターの残りHPを考えた結果発動させたこの技の名前は《ツェアシュテールングス・ヘクサグラム》。六芒星を描くように剣閃が奔る片刃大剣の上位ソードスキルだ。でもこの技は最後の一撃が残っている。

 

「うぉらあああああああッ!!!!」

 

 オレは大剣を引き両手でソリテュードウルフに突きつけるようにして構えた。瞬間、システムアシストが入ったことで恐るべき速さで大剣が突き放たれた。

 

 凄まじい突きはソリテュードウルフの額のど真ん中を直撃し、刀身の三分の二が埋まってしまっている。同時にソリテュードウルフは身体を硬直させている。見るとHP残量は一ミリすらも残っておらず、次の瞬間、ソリテュードウルフはその巨体を無数の光り輝くポリゴンに変えた。

 

 ガラスが割れるような破砕音が宵の冥窟に反響し、光り輝く欠片がドーム状の壁を照らし出す。

 

 それらに少しだけ目を奪われていると、目の前に『Quest Clear!!』の文字が表示され、その下に換算された経験値とコルが表示され、一番下には手に入れたインゴットの名称が表示されている。

 

「《アウインライト・インゴット》か……。つーかあの狼、インゴットをドロップするとはな。五十五層の白竜は水晶を齧ってたって言うけど、こいつはこの洞窟の壁でも齧ってたか?」

 

 などと別段どうでもいいことを呟きつつ、オレは入手したインゴットを受け取って切れかかっていた照明結晶を使った。

 

「さてっと、そんじゃあリンダースに戻ってリズに作ってもらうか」

 

 オレは踵を返して宵の冥窟の入り口を目指して歩き始めた。

 

 

 

 

 

 リンダースのリズベット武具店に到着したのは午前十時ごろだった。転移結晶で移動してもよかったのだが、別に大した距離でもないし、急ぎの用事でもないので歩いてくることにしたのだ。

 

「へぇ~、影に潜む狼かぁ。随分と特殊なモンスターもいたもんねー」

 

「まぁ確かにな。SAOだと初めての敵だったから中々焦ったぜ」

 

 出された椅子に逆向きに座ったオレは肩を竦めてリズに返答した。すでに彼女には入手した濃い藍色のインゴットを渡しており、今はふいごで風を送られた真っ赤な火の中にぶち込まれている。

 

「《アウインライト・インゴット》ねぇ。初めての素材だから結構緊張するわね」

 

「マスターメイサーでも緊張することがあるんだな」

 

「あったりまえでしょ。っと、そろそろいい感じね」

 

 リズは言うと炉の中で赤々と熱せられたインゴットをヤットコで取り出して金床の上に乗せ、壁の鍛冶ハンマーを取り出してこちらを見て聞いてきた。

 

「片刃大剣でいいんでしょ?」

 

「もち。つーか聞かなくてもわかるだろ」

 

「形式よ、形式」

 

 リズは小さく笑みを浮かべるとインゴットに向き直って小さく息をついた後、赤く光る金属を力強く叩いた。甲高い音が工房に響き、鮮やかな火花が花を咲かせる。

 

 その様子を見ながらオレは改めて目の前のマスターメイサーの少女の腕前に感服する。両手剣使いの頃にも何度か鍛冶屋に鍛えてもらったが、リズほど手際がいいヤツには会ったことがなかった。

 

 ただ無心でハンマーを振り下ろす姿はそれだけで様になっている。実際彼女がいなければ大剣の整備だって余り出来なかったかもしれない。

 

「……ホントにいい鍛冶屋紹介してくれたよ、アスナは」

 

 肩を竦めながら呟いてみるものの、オレの声はすぐに鍛冶の音にかき消されてしまった。

 

 

 

 

 

 そのまま鍛冶を眺めていることしばらく。オレがあくびをしたときだった。

 

 リズがひたすらに叩いていた長方形のインゴットが青黒い光りを放ち始めた。そして見る見るうちに形が変化し、金床全体を覆うのではないかというほどの広さまで広がった。それに続き鍔と柄の部分が変化していく。

 

 オレは思わず立ち上がってその様子を間近で眺める。この新しい武器が作られるという瞬間はなんともわくわくするものだ。

 

 やがてオブジェクトのジェネレートが完了したのか、金床を覆うぐらい大きくなった大剣が姿を現した。

 

 一言で言えば目の前の大剣はなんとも禍々しい剣だった。剣の刃はいままで使っていた《ナイトメアレイヴン》と同じ片刃。色は全体的に深い藍色だが、鍔の部分には赤い瞳のようなものが取り付けられており、それを封印するかのように鎖が巻き付いていた。柄尻の先からは獣の毛のような装飾品が取り付けられている。

 

「名前は《ズィーゲルゲシュペンスト》。名前は聞いたことないから普通に新しい武器でしょうね。まぁ大剣自体あんまり数が出回ってないから当たり前だけど」

 

「だろうな。にしてもなんだこの外見。呪われそうだな」

 

「ゲシュペンストって響きからしてドイツ語?」

 

「ああ。確か意味は幽霊だったか亡霊だったかな。直訳すれば「封印されし亡霊」ってかんじか?」

 

「うーわー……ますます呪われそう」

 

 リズは呆れたように肩を竦めたが、ゲームなのだから呪われることはないだろうとオレは大剣の柄に手をかける。

 

 ズシッとくる重みが腕に伝わり、オレは思わず頬を緩ませる。そのまま肩に担いで適当な広さのあるところでソードスキルを発動してみる。空色のエフェクトと共に鍔の赤い瞳のようなものが発光して孤を描く様は中々に綺麗だ。

 

 オレは大剣を背中に背負ってからリズに向き直る。

 

「いい剣だ。重さもちょうどいい」

 

「そう、ならよかった。それじゃあオーダーメイド料、よろしく」

 

「ああ」

 

 オレは答えるとリズに対してコルを送った。彼女はそれを確認すると一度「うん」と頷いた。

 

「はい確かに受け取りましたっと。これからもよろしくね」

 

「おう。今日はサンキューな、リズ」

 

 オレはそれだけ言い残すと軽く手を振って工房を出た。

 

 工房を出て空を見上げて大きく深呼吸をした後時間を見てみると時刻は午後零時。ちょうど昼時だ。マシューから依頼のあった素材集めはあとで行えばいいとして、昼飯を食おうにも余り腹は減っていない。

 

「どうすっかねぇ――あ」

 

 リンダースの街を歩きながら考えていると、オレは一つのことを思い出す。

 

「そういやそろそろ行く日だったか」

 

 オレは呟いた後少し急ぎ気味に転移門まで走り、なれた感じで告げた。

 

「転移。はじまりの街」

 

 

 

 

 

 はじまりの街に到着したオレは東七区の教会へと向かった。

 

 ここはじまりの街はSAOで最大の都市だ。まぁゲーム開始当初一万人も収容してたんだから当たり前だ。現在も二千人ほどのプレイヤーがここを拠点としているが、トッププレイヤーや攻略組みはこの街へは滅多に足を踏み入れない。

 

 別段露店やNPCの店の品揃えがわるいとか、街がだだっ広くて迷いやすいとかそういうわけではない。

 

 ここは《軍》――。《アインクラッド解放軍》のテリトリーなのだ。しかし、実際のところ解放軍などとは銘打っているが、彼等が前線で戦っているところなど二十五層までの話だ。それ以来は前線に出てくることもなく、下層の治安維持などという腰抜けなことぐらいしかしなくなった。

 

 そればかりか最近は徴税部隊などという、ていのいいカツアゲ部隊を組織してはじまりの街を訪れるプレイヤーやここに住むプレイヤーから金を巻き上げているらしい。

 

 だがそれをするようになったのは、ギルドマスターのシンカーではなく、彼の下にいるキバオウという男らしい。まぁオレと《軍》はそれなりに因縁があるのでそんな情報も入ってくるのだが、ハッキリ言ってキバオウは無能なヤツだ。それに引き換えシンカーは有能なのだが、どうやら権力争い的なものが起こっているらしい。

 

 そんなことを考えながら小走りに東七区へ向かっているとあっという間に教会の前についてしまった。アスナほどではないにしろ敏捷度を上げているからだろう。

 

 オレは教会の中には入らず、教会の少し手前でフレンドリストを開いてからこの教会を管理しているプレイヤーにメッセージを送った。

 

 索敵によって教会内に人がいることは把握できているので、いることは確かだろう。熟練度九七〇は伊達ではない。

 

 数分の間建物の壁に背を預けていると、教会から一人の女性プレイヤーが出てきた。

 

 暗青色の髪はショートヘアにされ、顔には黒縁の大きな眼鏡をかけ、その奥の瞳は鮮やかな深緑色だ。しかし、その奥には若干の怯えも見られる。装備も簡素なもので、シンプルなプレーンドレスに武器は小さな短剣というものだ。

 

 すると彼女はオレに気が付き少しだけ顔を明るくさせてこちらにやってきた。

 

「お待たせしました、アウストさん」

 

「いいや。急に呼び出して悪かったな、サーシャ」

 

 オレの言葉にサーシャは被りを振って否定した。彼女、サーシャはここでSAOに閉じ込められた子供たちを養っているのだ。簡単に言ってしまえばこの教会は彼女の経営する孤児院だ。知り合ったのはつい三ヶ月ほど前だが、あることがあってからオレはこうしてよく顔を出すようになった。

 

 まぁオレが顔を出すのは別にサーシャに会いに来ているわけではない。オレはメニューウィンドウを展開して自分の所持金からコルを取り出してサーシャに送った。

 

「ほらよ、こんだけあればしばらく困らねぇだろ」

 

「こんな大金……。ありがとうございます、アウストさん。でもいいんですか? 私たちにこんなに……」

 

「気にすんな。オレが好きでやってることだ。そんじゃあ今日は帰るから、ガキ共にはよろしく言っといてくれや」

 

 申し訳なさそうなサーシャの額に軽くデコピンを当ててから、アイテムウィンドウから転移結晶を取り出して告げようとしたが、そこでサーシャが声をかけてきた。

 

「アウストさん。攻略がんばってください」

 

「おう、またな……転移、アルゲード」

 

 そう告げると青い光がオレを包み、次の瞬間にはサーシャの姿は見えなくなった。

 

 

 

 

 

 

 アルゲードに着いたオレを急な空腹が襲ってきた。時刻は午後零時半。三十分経って腹の虫が反応し始めたようだ。

 

 オレは適当な店に入ろうと歩き始めようとしたが、不意に大音響の声が後ろから投げかけられた。

 

「見つけた!! アウストッ!!!!」

 

 その声にオレは若干の嫌な予感を感じながらも振り向いた。先ほどの大声のせいで他のプレイヤーからやや注目を受けているが、声の主はそんなことどこ吹く風のようだ。

 

 オレの視線の先には一人の女性プレイヤーがいた。青銀色の髪は肩にかかる程度まで伸ばされており、所謂シャギーになっている。ツリ目がちの瞳は気が強そうな雰囲気を現していて、口からは八重歯が覗いている。

 

 装備は赤と黒で纏められており、オレと同じノースリーブのインナーに胸当て。下半身は内側がミニスカートになっており、腰マントがついている。背中にかけられている片手直剣も赤と黒のものだ。

 

 背丈は平均的な女性のもので、胸も特に突出してなにかあるわけではないが、かなりの美人である。アスナと同格といえるだろう。

 

 普通ならこんな美人に声をかけられて嬉しいものだが、オレはあんまり嬉しくなかった。

 

「ハァ……何の用だよ、ヨミ」

 

 そう、この女性プレイヤーこそオレを散々探していたヨミだ。そしてオレのフレンド第一号でもある。




はい、今回はやや長めでしたね。
おつかれさまでした。

戦闘描写がへったくそで申し訳ないです。
ま、まぁとりあえず新武器が手に入りましたw
ネーミングは言わないでください。わかってます、厨二病丸出しです。

アウストと軍の因縁はそのうち明らかになります。多分ユイが出てくるあたりですかね。
また、ユイとも若干色々あります。その他ヒースクリフともあるかもしれませんが、それは追々ですね。

やっとでましたヨミさん。
この後は結構行動を共にします。

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