ソードアート・オンライン -宵闇の大剣士-   作:炎狼

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第九話

 はじまりの街の東七区の教会近くの安宿の一室で起床アラームに叩き起こされたオレはもぞもぞと布団から這い出た。

 

 時刻は午前八時半。

 

 SAO内での《強制起床アラーム》には恐れ入る。どんなに安眠していようと音楽一つで目が覚めてしまうのだ。これが現実世界に導入されれば遅刻するものなどいないだろう。

 

 二度寝をすると言う手もあるが、オレは子供の頃から父親に「二度寝はあまりするな」と言い聞かせられているので、余りにも疲れているとき以外は一発で起きるようにしている。

 

「まぁ毎朝五時に起きて朝の修練してたからなぁ。ほぼ習慣だわ」

 

 肩を竦めたオレは部屋の中にポツンとある洗面台まで行って顔を洗った。この行為自体に対して意味はないが、やはり目を覚ましたら顔を洗うだろう。その後適当なパンを齧って朝食を済ませた後、再度洗面台に赴き歯を磨く。これも顔を洗うのと同じで特に理由があるわけではない。

 

 SAOでは風呂に入ったりなどのことは出来るが、アバターが汚れて異臭を放つこともないので殆どのプレイヤーは風呂に入らない。口も同じで歯垢がたまったりはしないので歯を磨いたりする者はいない。ただ、どうにも気になってしまうのだ。

 

 歯磨きを終え歯ブラシ的なものをアイテムウインドウに格納し、続けてフィギュアを操作して装備を整える。

 

「うし、行くか」

 

 部屋のドアノブを回し階段を下りたオレはそのまま宿屋を後にした。

 

 オレは教会へ続く道を歩きながらオレは昨日のユイのことを思い出す。あの後ユイは物の数分で目を覚ました。特に異常も見られずキリトは帰ろうといったのだがアスナがそれに反対した。あのような怪現象の後に転移するという移動法をとりたくなかったのだろう。

 

 そのため彼等は昨晩は教会の空き部屋に宿泊した。サーシャはオレも誘ってくれたのだが、部屋の数も限界であったし何より考えたいこともあったので近場の安宿をとることにした。

 

 そして宿に着いたオレが考えたことはユイが発作を起す前の言葉だった。あの時彼女は確かに「みんなのこころ」と言っていた。「みんな」と言うのがどの「みんな」であるのか、オレが脅した軍の連中か、はたまた軍に脅されていて解放された子供たちとサーシャであるのか、それともあの場にいた全員か、更に言えばアインクラッドにいるプレイヤー全員か……。

 

 どちらにせよ彼女は心を感じることが出来たのかもしれない。だとするのならば彼女は一体何者であるのか。そのようなことばかり悶々と考えていたが、結局答えは見つからず昨晩は眠りについたのだ。

 

 ……だけど、もしオレの予想が正しかったらあの子は――。

 

 思ったところでオレは顔を上げて前方を確認した。深く考え込むうちに教会の前についてしまったようだ。けれどそこで教会の入り口のところに誰かがいる。

 

 索敵スキルを使ってみるとその奥に更に二人いる。考えられるとすればサーシャとキリト辺りだろう。

 

 近づいていってみると入り口にいたのは《軍》の女性用制服に身を包んだ女性だった。銀色の髪をポニーテールに後ろで纏めている姿は後ろから見ても美人であることが分かる。

 

「お、アウスト」

 

 近くに来るとオレに気が付いたキリトが声をかけてきた。それと同時にサーシャも視線を向け、銀髪の髪の女性も振り向いてきた。

 

 振り向いた女性はやはりというべきか美人であった。瞳は鋭く、怜悧という様が良く似合う女性だ。それでいて彼女からは怖さは感じられない。

 

 すると彼女はオレを見て軽く頭を下げてきた。彼女からは敵意は感じられず、むしろ友好的な雰囲気が伝わってくる。その様子から昨日の一件での抗議というわけではないことは分かった。

 

「はじめまして、アウストさん。私は《ALF》のユリエールです」

 

 アルト調の声に一番上の姉がこんな感じだったなぁと思い出しつつ、オレは彼女のといに返答した。

 

「アウストだ。そんで今日は軍が何のようだ?」

 

 やや挑発気味に聞いてみると彼女は少し目を泳がせる。

 

「ここじゃ言い辛いか?」

 

 その言葉にユリエールは静かに頷いた。オレもそれに軽く頷き返すとサーシャに告げる。

 

「サーシャ。今使ってない部屋使わせてもらっていいか?」

 

「はい、大丈夫です。どうぞ」

 

 サーシャが中に入るように促すとユリエールは深く頭をさげて「ありがとうございます」と礼をした。

 

 オレも彼女達についていくがその途中でキリトに声をかけた。

 

「キリト、アスナとユイもつれて来い」

 

「え、なんでだ?」

 

「何でもいいからさっさとつれて来い。ちょっと気になることがあってな。場合によっちゃお前等の力を借りるかもしれねぇ」

 

 キリトは怪訝な表情を浮かべていたが一応納得したのか食堂にいると思しきアスナとユイを呼びに行った。

 

 その様子を見送ったオレは一足先にユリエールが通された部屋に入り、彼女に後数人増えることを伝えた。彼女も特に何か言うこともなく了承してくれた。やはりこの女性は話がわかる人である。

 

 やがてキリトとアスナ、ユイが部屋に入りサーシャによってお茶が入れられたところで軽く自己紹介を終えたユリエールは話し始めた。

 

「ではまず昨日の件なのですが……誠に申し訳ありませんでした。派閥は違うとはいえギルドの連中が多大なる迷惑をかけたようで」

 

 彼女はオレ達を前に深く頭を下げた。その姿勢に一番驚いていたのはアスナだ。彼女だけはユリエールの最初の姿勢を見ていないからだろう。

 

「それとアウストさん。連中に痛い目を見せてくれたこと感謝します」

 

「ちょ、ちょっと待ってください。えっと、ユリエールさんは軍の人なんですよね? 軍は確かアウストさんを指名手配しているはずですけど……」

 

「あぁ……。それは一部の派閥の者達だけなんです。私は個人としては彼の行動は感謝をする限りです。やり方はかなり危なっかしいですが、それでも感謝しています」

 

「はぁ」

 

 ユリエールの言葉にアスナは意味が分からないという風な表情をしている。その様子を見たオレは手早く説明を開始した。

 

「アスナ、前に言ったと思うけど軍では今権力争いが起こってるんだ。そのうちオレのことを狙ってるのはキバオウ派って連中なんだよ」

 

「キバオウって確か……」

 

 アスナはハッとして口元に手を当てた。その様子から彼女はキバオウのことを知っているようだ。キリトも同様であるらしく眉間に皺を寄せていた。

 

「けどこのユリエールはもう一方の方、ギルドマスターであるシンカー派ってわけ。そうだろ?」

 

「はい。今アウストさんが言った通りです。ギルドマスターであるシンカーはアウストさんを指名手配などはしていません。自分達が勝手に手を出して逆ギレしているのがキバオウ一派なんです。それに元々はALFという名ではなく、MTDという名でした。聞いたことはありませんか?」

 

 ユリエールの問いかけにアスナは首を傾げたがキリトがすぐに答えた。

 

「《MMOトゥデイ》の略だろう。SAO開始当時の、日本最大のネットゲーム総合情報サイトだ。そのサイトの管理者ギルドを結成したんだ」

 

 キリトが解説するとユリエールは小さく頷きオレの方に向き直った。

 

「アウストさん。貴方とシンカーは旧知の仲だと聞いています。不躾だとは思うのですが、どうか力を貸していただけないでしょうか」

 

 懇願するような表情を浮かべて言う彼女の瞳は僅かに涙で潤んでいる。その様子とシンカーの名前を出してきたことから彼に何かあったことは明白だろう。

 

「なにがあった?」

 

 そう問うとユリエールは感謝するように軽く会釈をしたのち、ぽつぽつと話し始めた。

 

「七十四層で軍の部隊が多大なダメージを負った事は知っていますか?」

 

「まぁあの場にいたからな」

 

「そうですか。では話が早いです。あの日、部隊を送り込んだのはキバオウです。彼は自身の一派の中で不満がたまっているのを察知し、それを解消するために配下の中でも特にハイレベルなコーバッツ達を派遣したんです。ですが、結果は知ってのとおりです。

 このことでキバオウは激しく糾弾され、後一歩でギルドから追放することができるところまで行ったのですが……彼はシンカーを迷宮区の最奥に通じる回廊結晶を使って罠に嵌めたのです。シンカーはキバオウの『丸腰で話し合おう』という言葉に騙され、装備の類はおろか転移結晶も置いて行ってしまったようなんです。これが、三日前の出来事です」

 

「み、三日前!? それじゃあシンカーさんは……」

 

 焦った様子のアスナが言うと、ユリエールは静かに答える。

 

「黒鉄宮の《生命の碑》を確認したところ生存は確認できました。私が助けに行こうにも迷宮区のレベルが高すぎて私ではとても。でもそんな時にアウストさんが現れたと聞き、ここに来た次第です。本当に不躾で身勝手だとは思うのですが、どうか私と一緒にシンカーを助けていただけないでしょうか」

 

 ここに来て何度目かの頭を深く下げて懇願するユリエールにオレは小さく息をつく。キリト達はオレの方を見て訝しむような、疑念を抱いているような視線を送ってきた。

 

 彼等の視線は十二分に理解できる。SAO内で人の話を簡単に信じることは出来ないからだ。もしかしたら今の話が全て嘘で、逆にオレ自身が迷宮区に閉じ込められてしまう可能性もあるからだ。それに今回は軍の問題というのもあるからなおさらだろう。

 

 オレもそのことは分かっている。けれどオレは口角を僅かに上げてから、頭を下げているユリエールに告げた。

 

「いいぜ。シンカーを助けに行ってやるよ」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「嘘は言わない主義なんでな。それにお前さんの話も嘘じゃなさそうだし」

 

 肩を竦めて言うが、そこでキリトに肘で小突かれた。もっと警戒しろということなのだろう。だが、こちらはキリト達よりは軍の内情には詳しいつもりだ。

 

「……アウスト、一体なにを根拠に了承したんだよ……」

 

「……ユリエールの目を見れば大体分かる。目は口ほどにものを言うってことわざあるだろ? それと同じだ……」

 

 小声で言ってくるキリトに返すと彼は未だに眉間に皺を寄せていた。アスナも同じであるようで、ユリエールの言うことが本当ならばシンカーを助けたいと思っているようだが、裏づけが取れない限りは……と言う感じなのだろう。

 

 すると、今までアスナの隣でつまらなそうにしていたユイがユリエールを見やって二人に告げた。

 

「だいじょぶだよ。パパ、ママ、その人うそついてないもん」

 

 その言葉は昨日までの舌足らずなたどたどしい幼児のような声音ではなく、しっかりとした声だった。オレ以外の全員が驚いた様子だったが、オレは昨日の彼女の言動からなんとなく予想はついていたので特に驚かなかった。

 

 ……やっぱりユイは人の心を読めるっていうのが妥当か。

 

 ふむ、と小さく息をついて頷くとオレはキリトとアスナに向き直る。

 

「ほらな? ユイもこう言ってる事だし大丈夫だって。子供は結構的を射た言葉を言うからなぁ」

 

「……そうだな。でも気をつけろよ」

 

「おうさ。つーわけだ、ユリエール。もうちっとしてから行こうぜ」

 

 オレが言うとユリエールは立ち上がってもう一度だけ深く頭を下げた。

 

「ありがとうございます……!」

 

「そんなに頭を下げるな。女に頭を下げられるとこっちがきつい」

 

 冗談交じりに行ってみるとユリエールはすぐに頭をあげた。その後、サーシャの計らいで適当に食事を頂く事になった。朝飯代わりのパンは一個食ってきたと言ったのだが、「迷宮に行くなら力をつけていかないと!」とサーシャに押し切られてしまった。

 

 

 

 

 

「ぬおおおおおお」

 

 気合の声を上げながら右手の剣を振るい。

 

「りゃあああああ」

 

 今度は左手の剣で続いて突撃してきたモンスターを切り裂く。

 

 オレは久々に二刀流を使用してストレス発散をするように戦うキリトを眺めていた。戦いぶりからして相当体を動かしたかったのだろう。

 

 そんな彼から下がること十メートルと少し。オレは大きなあくびをしていた。

 

「キリト来るならオレいらなかったジャン」

 

「そうは行かないですよ。ユリエールさんから依頼をされたのはアウストさんでしょ?」

 

 そういうアスナの手ははしゃいでいるユイをとどめていた。それを眺めつつオレは小さく息をつく。

 

 話は少し前に遡るが、オレとユリエールが食事を終えて、さぁシンカーを助けに行こうと教会を出ようとしたところでユイがこういってきたのだ。

 

「わたしもいっしょに行く」と。

 

 無論キリトとアスナ、サーシャは彼女を止めたもののユイは頑なだった。二人がどんなに言いくるめようとしても、彼女は「アウストについていく!」の一点張り。理由を聞いたところ「アウストはともだちだから、ともだちのわたしがたすけるの」とのことだった。

 

 その結果ついに二人が折れ、ユイ共々オレ達について来ることになった。ユリエールの情報によると迷宮に出現するモンスターのレベルは、六十層くらいのモンスターらしい。この情報によってレベルが87であるアスナと、90を越えているキリトにアウストがいるのだから問題はないだろうという結論に至り、ユイをつれていくことになったのだ。

 

 また、迷宮区は意外や意外。はじまりの街の地下に展開しているのだ。βテストのときになかったのでここは上層の進み具合で解放されるのだろう。

 

 因みに、迷宮に入って最初はキリト達は戦闘に参加せず、オレが戦うのみに留めておこうということだったのだが、迷宮に入ってオレの戦いを見ていたキリトが触発されたようで現在はキリトが戦っている。

 

「ユリエール。シンカーの様子は?」

 

「はい。場所は探知できているので安全地帯にいると思われます。そこまで行けば転移結晶が使えるでしょう」

 

 彼女が言いながらウインドウを開くとアスナ共々覗き込む。確かに紫色に発光するウインドウの中にはシンカーの名前と、彼のカーソルが赤く表示されていた。

 

「でもいいんでしょうか。キリトさんに任せきりで……」

 

「鬱憤がたまってたみたいだしいいんじゃね? 鬼嫁にでも色々制限されたんだろ」

 

 瞬間、喉笛に細剣が突きつけられた。首にはあと数ミリで届くだろう。

 

「すこし痛い目を見てみますか?」

 

 絶対零度の声音が聞こえた。目だけをそちらに向けるとイイ笑顔のアスナがいた。

 

「心の底からごめんなさい」

 

「わかればよろしい」

 

 アスナは言いながら細剣をおさめた。それを見ていたユイはさぞかし怖がったことだろうと彼女を見てみたものの、ユイは楽しげに笑っていた。まったく肝っ玉の据わった少女である。

 

「いやー戦った戦った」

 

 言いながら巨大ガエルの大群を蹴散らしたキリトが戻ってきた。表情は実にすっきりとしている。

 

「お疲れさん。で、どうだ? 久々の戦いは」

 

「大分おもしろかったよ。なまってた体も動かせたし」

 

「そいつぁよかったな。アイテムとかもドロップしたのか?」

 

 オレが問い返すとキリトは「ああ」と短く答え、誇らしげにアイテムウインドウから赤々としたグロテスクなものを一つ取り出した。それを見た瞬間、アスナが「ひっ」と短い悲鳴を上げる。

 

「これは……さっきのカエルの肉か」

 

「おう。《スカベンジトードの肉》ってアイテムだ。アスナこれ後で料理して――」

 

 言うが早いかキリトの手の中の肉は姿を消した。見るとアスナが遥か後方に放り投げた後だった。後方ではスカベンジトードの肉が煌めくポリゴンとなって中に消えたのが見える。生の肉だから耐久値が低いものなのだろう。

 

 アスナは続けて結婚によって共通となったアイテム欄を開き、残った《スカベンジトードの肉》を全てゴミ箱にぶち込んだ。

 

「あーあ、もったいねー」

 

「もったいねー」

 

 オレが言うのに続くようにユイが言うとアスナがユイに向き直った。

 

「ユイちゃん。女の子がそんな言葉遣いしちゃいけません。それとアウストさん、もったいないことないです」

 

 きっぱりと言い切るアスナだが、キリトはそれに食い下がった。

 

「いくらなんでも捨てることはないだろアスナ! ゲテモノほど旨いって言うじゃないか! 一回ぐらい料理してくれても」

 

「絶対嫌ッ!!」

 

「そう言うなよアスナ。オレの曾祖父さんから聞いた話じゃ、ペルーには生きたカエルをそのままミキサーにぶち込んで、ドロドロにしたカエルジュースってもんがあるらしいぜ。しかしこれが栄養満点で精力増強の効果もあるらしい。だから、ホラ……旦那の、息子がホラ」

 

 そこまで言った所で今度はオレの顔面のすぐそばを細剣のソードスキルであるリニアーが通過していった。

 

「本当に死にたいですか?」

 

「ゴメンナサイ、不謹慎でした。……いやでもさぁ、カエルにだって食用ガエルはいるし、オレなんか蛇食ったことあんだぜ?」

 

「マジか!? 蛇ってどんな味がするんだ!?」

 

 食いついてきたのはキリトだ。先ほどのカエル然り、彼はゲテモノ系を食したい傾向にあるようだ。

 

「蛇はまぁ鶏肉みたいな感じだな。タンパクで結構旨いぜ。塩で食べるのがオレは好きだ」

 

「なるほどなぁ。ホラ、アスナやっぱりゲテモノほどうまいんだって!」

 

「どんな理由があろうともカエルは絶対に料理しません!! 蛇もね!」

 

「えー……!!」

 

 キリトは心底残念そうにへこたれたが、このやり取りを見ていたユリエールがくっくと笑った。同時にユイが嬉しそうに声を上げる。

 

「お姉ちゃん、はじめて笑った!」

 

 その声はユイ自身本当に嬉しそうな声だった。そしてオレはふと思い出す。そういえば昨日ユイが発作を起したのは、子供たちが笑顔を浮かべたときではなかっただろうか。となると彼女は人の正の感情にいち早く反応することになる。だがそこまでわかったとしても彼女が何者であるのかは検討がつかない。

 

 ユイの笑顔にアスナたちも笑みを浮かべて、オレ達はさらに奥へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 時間にして二時間ほど迷宮を進み、水生生物系からゴースト系やゾンビ系のモンスターを相手にし、キリトが黒いガイコツ剣士を吹き飛ばしたところでその奥に光のもれる通路が見えた。

 

 間違いなく安全エリアだろう。また、先ほど確認したシンカーの位置情報と照らし合わせてもあそこでほぼ間違いないだろう。

 

 索敵スキルを使用して通路を観察すると、案の定グリーンのプレイヤーがいた。ほぼ確定でシンカーだ。

 

「いるな、あそこ」

 

「ああ」

 

 同じく索敵スキルを使用したキリトも頷いたところで、ユリエールが駆け出した。

 

「シンカー!!」

 

 安堵と嬉しさの色を孕んだ声でシンカーの名を呼びながら駆ける彼女の後をオレ達も追った。

 

 安全地帯までの距離はさほどなかったようであっという間にもう少しと言う所の十字路の手前までやってきた。その先には安全地帯である光の漏れる小部屋が見える。するとその中から人影が見えた。逆光で顔はわからないものの、次に漏らされた声にオレは聞き覚えがあった。

 

「ユリエーーール!!」

 

 その声は間違いなくシンカーのものだ。彼の声にユリエールも答える。

 

「シンカーー!!」

 

 感動の再会というヤツにオレ達は笑みを浮かべるものの、シンカーが漏らした次の言葉でそのムードは一気に破壊されることになる。

 

「来ちゃダメだッ!! その通路には……!!」

 

 一瞬彼の言葉に走る速度を緩めそうになったが、オレは強く地面を踏み込んで速度を上げた。前方を行くユリエールはシンカーの声が届いていないようで走る速度を緩めていない。

 

 オレは彼女に「止まれ!」と声をかけようとしたが、それよりも早く十字路の右側の死角となっている通路に黄色いカーソルが現れ、その下には見覚えのある定冠詞の固有名が表示された。

 

《The Fatal-scythe》。直訳すれば運命の鎌。間違いなくボスモンスターだ。

 

 ボスはゆっくりと交差点に接近するユリエールのほうに近づいていく。

 

「待って! 止まってユリエールさん!!」

 

 後ろからアスナの悲痛な声が聞こえる。それと同時にオレは更に早く駆け、前を行くユリエールに接近すると彼女を抱きこむようにして自分の胸に引き寄せると、そのまま背中の大剣を地面に突き刺し強制的にブレーキをかける。

 

 ガリガリという耳障りな音と火花が散るがそんなことを気にはしていられない。そしてオレ達の体が交差点に少しだけ出た瞬間、黒い影が僅か数センチ前を通り過ぎていった。

 

 影はそのまま左の通路へと移動したが、オレはユリエールを即座に立たせると突き刺した大剣を引き抜き、彼女をシンカーのいる安全地帯の方へ放り込む。キリトとアスナも合流し、ユイをユリエールにあずけると、二人はシンカーのいる安全地帯へと退避した。

 

 オレは大剣を構えながら先にボスと対峙しているキリトの隣に立つ。しかし、オレはボスを見上げた瞬間息が詰まるのを感じた。

 

 ボスの姿は一言で言い表してしまえば死神だ。髑髏の頭には人間と同じように目二つだが、その上には更に二つの穴が開いている。ボロボロの外套からは足が出ておらず換わりに質量のある闇が見える。所持している大鎌からは鮮血が滴り落ちている。

 

 人間の幻視的な恐怖を具現化したような存在に思わず溜息をつくが、問題なのは恐怖感とかそういうのではない。

 

 隣のキリトもこのボスの異常さを察知したようでオレに視線を送ってくる。

 

「キリト、コイツデータが見えねぇぞ」

 

「ああ。たぶん九十層クラスだ」

 

 その言葉を聞いていたのかアスナが背後で声を詰まらせる。キリトの頬にも汗が浮かんでおり、かなり焦っているのがわかる。そして彼が口を開こうとしたところで、先にオレが告げる。

 

「キリト、アスナ。お前等は安全地帯まで退避して転移結晶使って転移しろ」

 

「……」

 

「アウストさんはッ!?」

 

「後から行くさ。なぁに安心しろ。シンカーは装備なしでここを切り抜けられたんだフル装備なら何とかなるさ」

 

 言いながら徐々に迫ってくる死神に大剣を向ける。そして死神が大鎌を振り上げた所でオレは告げる。

 

「行けッ!!」

 

 弾かれるようにしてキリトがアスナを抱えて安全地帯に退避した。それと同時にオレに向かって凶悪な光を宿した鎌が振り下ろされた。

 

 それに答えるように大剣を、頭の上で地面と平行になるように構える。次の瞬間、恐るべき衝撃と圧力が上から加わった。鎌と大剣が激突したのだ。

 

 頭上では大剣の刀身と鎌が凄まじい火花を散らせ、床に降りかかっている。

 

 ……重い……ッ!!

 

 今まで体感したことのない程の攻撃に思わず膝をつきそうになるが、ここで態勢を崩せば間違いなく殺されると思ったオレは足に力を込める。

 

 幸い防御のタイミングが良かったからかHPはまだグリーンゾーンだ。けれど次の攻撃を喰らえばイエローは確実。直撃を受ければレッドか死が待っている。

 

 それだけはなんとしても避けなくてはなるまいと後退し、追撃に備える。

 

 その際安全地帯に残っているキリト達が見えたが、オレは怒声をとばした。

 

「早く行け!! そこなら脱出できるだろ!!」

 

 と言った瞬間だった。オレの眼前に大鎌が振り下ろされ、地面を抉った。その衝撃に耐え切れず、オレは床に叩きつけられ、壁に激突し、再度床に叩きつけられた。

 

「ぐッ!!」

 

 なんとか持ち直して大剣を杖代わりに立ってみるものの、今の攻撃でHPはイエローの後半まで削られていた。アレが直撃ならば死んでいただろう。周りを見ると正面に安全地帯が見えることから最初の位置に戻されたようだ。

 

 態勢を立て直す間にも死神は大鎌を掲げてオレを殺そうと近づいてくる。

 

「……ハッ。ここまでってことかよ……。最期が死神ってのはどんな皮肉が込められてんだ?」

 

 冗談交じりに言ってみるものの、内心ではあきらめていない。オレは次の攻撃に《アオスヴルフ》を当てて死神を大きく後退させようと考えていた。たとえ九十層クラスのボスであってもソードスキルが通用しないことはないだろう。

 

 だからこそ精神を集中させ大剣を構えるが、そこでアスナの声が耳に届いた。

 

「ダメ! 戻ってユイちゃん!!」

 

 その声に反応し声のしたほうを見ると、キリトとアスナの制止を振り切ったユイがしっかりとした足取りでボスに向かってきているではないか。

 

「なにしてる! 戻って転移しろ、ユイ!!」

 

 怒声交じりのオレの声に動じた様子もなくボスに向かって行くユイ。彼女の瞳には一切の恐怖は見えなかった。そして彼女は凛とした声音でアスナとキリト、そしてオレに向かって告げてきた。

 

「だいじょうぶだよ。パパ、ママ、アウスト」

 

 言うが早いか死神はユイに気が付き彼女のほうに向き直る。そして大鎌をオレではなく彼女に向けて振り下ろした。

 

 空気を切り裂きながら放たれた大鎌はユイの身体に吸い込まれるように落ちていく。

 

 が――。

 

 次の瞬間襲ってきたのは剣と剣がぶつかり合った時のような大音響。そしてオレは見た。ユイの頭上に【Immortal Object】の文字が表示されているのを。

 

 それは決してプレイヤーが持つことのない文字。システムによって保護された絶対的な不死の表示だった。

 

「どうなってる……?」

 

 驚愕の声を漏らしたのも束の間、ユイが右腕を上げたかと思うと、轟ッ!! っという音ともにその手から紅蓮の火焔が巻き起こり、辺りを炎色に染め上げた。

 

 一度周囲に散った炎は再びユイの手に凝縮し、形をかえる。そして現れたのは炎と同じ色をした剣だった。しかしその大きさは桁違いでオレの持つ大剣の数倍以上はある。

 

 その剣が纏う火焔によってユイの服は焼け落ちるが、彼女が元々着ていた白のワンピースだけは残っている。彼女はそのまま空中にふわりを浮き上がると、長大すぎる剣の重さを感じていないかのように振るう。

 

 それだけで炎熱が巻き起こり、周囲を赤く照らし出す。死神は奇怪な声を上げながら防御の姿勢をとろうとするが、ユイはそれに一切の容赦なく紅蓮の巨剣を振り下ろした。

 

 鎌の柄で一度は防御されたものの、剣はあっさりと柄を切り裂き次の瞬間には死神の脳天に剣が食い込んでいた。死神は断末魔のようなものを上げているが、剣はそのままズブズブと頭に食い込み、あっという間に死神を真っ二つに切り裂いてしまった。

 

 同時に眩い光で目がくらむ。やがて炎の熱さも消え、静寂が蔓延ったところでオレは目を開ける。

 

 そこには死神の姿はなく、ユイが持っていた炎剣によって発生された残り火が煌めいているだけだ。その奥には白いワンピース姿のユイがいる。

 

 更に奥にはあっけに取られた表情をしているシンカーとユリエール。そして驚きを露にしているキリトとアスナがいた。彼等を見つつ大剣を背中におさめたところでいつの間にかここまでやってきたユイに声をかけられた。

 

「大丈夫ですか? アウストさん」

 

「あ、ああ。大丈夫だけど、ユイ……お前は一体……?」

 

 怪訝な表情で問うてみるとユイはつい先ほどまでは見せたこともなかった、苦笑を浮かべると静かに言った。

 

「全部、お話します。わたしがどのような存在であるのかを、すべて」

 

 

 

 

 

 安全地帯にはオレとキリト、アスナ、そしてユイの姿があった。シンカーとユリエールには先に戻ってもらっている。

 

 オレ達はここでユイの話を聞いたものの、それはオレの想像を遥かに超えたものだった。

 

 彼女の話したことはこの《ソードアート・オンライン》というゲームの根幹の話だ。彼女の話では、この世界は巨大なシステムである《カーディナル》によって制御されているという。カーディナルは人間の手を必要としないシステムで、二つのコアプログラムが相互にエラー訂正を行い、その下の無数のプログラム群によってこの世界は調整されているらしく、それはNPCやモンスターのAI。その他アイテムの出現率や通貨など、全てがカーディナルによって調整されているということだ。

 

 けれどもほぼ完璧ともいえるカーディナルにもほころびがあったらしい。それは人間の精神性に由来するトラブルだ。そればかりはシステムであるカーディナルも対処が出来ず、人間のスタッフである所謂GMが必要とされるはずだったという。

 

「だった」ということから分かることだが、GMは実際は用意されなかったのだ。

 

 そしてここからがユイがどんな存在であるのかの話だった。彼女の正体はカーディナルの開発者達が試作した《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》、MHCP試作一号、コードネーム《Yui》。それが彼女の正体だった。彼女は人工的に開発されたAIだったのだ。

 

 自らのことを告白した彼女の双眸からは止め処なく涙が溢れ出していた。同時に彼女はキリトとアスナに謝っていた。「感情模倣機能によってもたらされたもので、この涙も偽者だ」という彼女だが、オレにはその言葉が彼女の真意から来るものとは思えなかった。

 

 アスナがユイを抱きしめようと一歩歩みだしたものの、ユイは被りを振ってそれを拒否した。

 

 だがそこで疑問が残る。AIである彼女が記憶喪失などに陥るのだろうか? オレはユイに聞いてみようと思ったが、俺よりも早くアスナが問う。

 

 ユイは一度顔を伏せるとぽつぽつと語り始めた。

 

《ソードアート・オンライン》が正式サービスを開始した日。カーディナルはユイにプレイヤーとの一切の干渉禁止命令を下したらしい。それによってユイはプレイヤーたちをただモニタリングすることに徹したらしいが、状況は最悪だったという。

 

 プレイヤー達は恐怖、絶望、怒りといった負の感情に心を支配され、時として狂気に陥ったものもいたらしい。本来ならばユイがその場に赴いてプレイヤーをケアするのだが、カーディナルによって身動きの取れなくなったユイはただただモニタリングをするほかなかったのだ。そうしたことが続きエラーを蓄積させたユイは、やがて崩壊して行ったのだという。

 

 オレは彼女が崩壊するのも無理はないと痛感した。本来ならばシステムによってプレイヤーの元へ行かなければならないのに、行けないという矛盾。そして目の前のモニタで恐怖や狂気に囚われるプレイヤー。しかもゲーム開始当初は、外周から落ちればログアウトできるという根拠もない情報のせいで、多くのプレイヤーが身を投げた。中にはこの世界で生き残ることを選ばずに、自ら命を捨てた者もいる。

 

 それら全てをモニタリングしていたユイが壊れてしまうのは、仕方ないのかもしれない。普通の人間がその状態であったら心神喪失してしまうだろう。

 

 だがその状態であってもユイはモニターを続けていたらしい。そして今までとはまったく別の感情、喜びや安らぎ……けれどそれ以外にもある不思議な感情を持つプレイヤーが現れたのだという。それがキリトとアスナだったのだ。

 

 ユイは二人に興味を抱き二人のモニタリングを続け、いつしか二人に会って話してみたいという感情を抱くようになったらしく、二人が結婚した後、一番近いコンソールから実体化してやってきたらしい。

 

「なるほど……でも、引っかかることがある。ユイ、どうしてオレの名を知っていた?」

 

「それは貴方のことをゲーム開始当初からモニタリングしていたからです」

 

「オレを?」

 

 問い返すとユイは静かに頷きオレを見てきた。

 

「貴方の感情はゲーム開始当初からまったく変わることはありませんでした。キリトさんやアスナさんのような喜びや安らぎ、嬉しさというような感情ではなく、貴方の感情はこのゲームを純粋に楽しむという幸福感に満たされていました。無論多少の不安はありました。でも貴方はこのゲームを心の底から楽しんでいる。今もそうでしょう?」

 

「……参ったな、全部お見通しか」

 

「はい。最初からどこか変わった人だなぁって思ってました」

 

「そうだな。オレは変わってたかもしれない。まぁそれを聞けた納得したよ。でもさ、ユイ。自分の感情が偽物だなんて言うなよ」

 

 小さな笑みを浮かべて言うと、ユイは伏せていた顔を上げた。

 

「お前はさっき言ったじゃないか。キリトとアスナに興味を抱いて、自分の意思でコンソールを操作して、二人に会いに行った。これはお前の言うような偽物の感情なのか?」

 

「それは……」

 

「オレは違うと思っている。お前はお前の意思で二人の元に行った。これは絶対にカーディナルやプログラムによって調整されたものじゃない。だからお前の感情は偽物なんかじゃないよ」

 

 オレは言い切った後にキリトとアスナに目を向けた。彼等も頷くとキリトがユイの前まで進み、彼女に問うた。

 

「ユイの望むことはなんだい?」

 

「わたし……わたしは……」

 

 ユイは両手をいっぱいに広げ、涙ながらに告げる。

 

「ずっと一緒にいたいです……パパ……ママ……!」

 

 その声に我慢しきれなくなったアスナが涙を流しながらユイを抱きしめた。キリトもそれに続いて二人を抱きしめる。

 

 そこにはシステムとかプログラムとか、そういったものはなく、三人は本当の家族のように見えた。

 

 けれど二人の胸の中でユイは首を横に振る。

 

「でも、もう遅いんです」

 

 彼女の言葉にオレも含め全員が疑問を抱いた。ユイは自分の座っている立方体に触れる。

 

「この石はただの装飾的オブジェクトではなく、GMが緊急アクセスする際のコンソールなんです」

 

 彼女が言うと光の柱が立ち、続いて電子音の後に淡く発光するホロキーボードが展開された。

 

「先ほどのボスモンスターはプレイヤーがこれに触れないようにするために、カーディナルが配置したものだと思われます。わたしはアレを倒すためにコンソールからアクセスし、《オブジェクトレイサー》を使用してボスモンスターを削除しました。それと同時に言語機能も復元できたのですが……。カーディナルは今まで放置していたわたしに気が付き、注目してしまっています。今はコアシステムがわたしを走査していますから、すぐにでも異物として削除されるでしょう」

 

「そ、そんな……!」

 

「どうにかならないのか、ここから離れたりすれば!」

 

 二人は焦った様子で言うもののユイはいたって冷静に微笑を浮かべた。

 

「パパ、ママありがとう。これでお別れです。アウストさん、パパとママとよろしくお願いします」

 

「……」

 

 健気で消えてしまいそうな細い声に、オレは答えなかった。いいや、答えられなかった。答えたらオレ自身も泣き出してしまいそうだったからだ。

 

 するとユイの体が僅かに発光しはじめた。ついにカーディナルによる削除が実行され始めたのだ。

 

「ダメだ! ユイ、行くな!!」

 

 キリトの悲痛な声が木霊するが削除は止まらない。

 

「パパとママがいればみんな笑顔になった。わたしはそれが嬉しかったです。だから、これからはわたしの代わりに……みんなを、助けてあげてください。二人の喜びを……みんなに分けてあげて……」

 

 絶え絶えに言う彼女の姿はどんどんと透け、光の粒子が宙を舞う。

 

「やだ! やだよ、ユイちゃん! ユイちゃんがいなかったら私笑えないよ!!」

 

 消えてしまいそうな手を握りながらアスナは大粒の涙を流す。ユイは彼女に答えるようににこりと笑みを浮かべて、彼女の頬を撫でるが――。

 

 次の瞬間、一際眩い光が視界を支配した。再びオレが目を開けるとそこにユイの姿はなく、ただただ泣き崩れるアスナと悔しげに膝をつくキリトの姿があった。

 

 その二人を見て、オレは目頭が熱くなるのを感じた。そしてついにオレの瞳からも涙が溢れ始める。同時に、オレの中に二人を悲しませ、ユイと言う少女を奪ったカーディナルに対する怒りが芽生える。

 

「……ざけんな」

 

 小さく呟きながらオレは背中の大剣に手をかけ、石畳を踏んで黒い立方体に迫り、大剣を振り下ろした。

 

 的確に振り下ろされた大剣は立方体を捉えたはいたものの、発生したのは立方体の破壊ではなく、【Immortal Object】と表示される紫色の無機質で機械的な冷たい表示。

 

 しかしオレは何度も何度も大剣を振り下ろす。そしてそれと共に怒りの声を発した。

 

「ふざけんじゃねぇぞカーディナル!! テメェに……テメェにユイの生き方を奪う資格があるのかよ!! ソイツはまだコイツ等と一緒にいたいと言ったんだ!! ユイがAIだろうがなんだろうが関係ねぇ! アイツにはアイツの意思があった、それをエラーコード一つで奪うんじゃねぇ!!」 

 

 オレのこの行動に意味があるとは思えない。しかし、オレは自分を抑えることが出来なかった。

 

「ユイの居場所を奪うなああああああッ!!!!」

 

 絶叫し、一際強く大剣を振るったところで剣が吹き飛ばされ、背後の石畳に突き刺さった。でも相変わらず表示されるのは【Immortal Object】の文字唯一つ。

 

 オレは下唇を噛み、悔しさをあらわにするが不意にキリトが前に出てホロキーボードを展開した。

 

「キリト、お前なにして……」

 

「今ならまだGMアカウントでアクセスしてシステムに割り込めるかも知れない。お前の言うとおりだアウスト。これ以上カーディナルに好き勝手はさせない!! 俺とアスナの娘を返してもらう!!」

 

 言いながら彼は凄まじい速さでキーボードを叩き、いくつものコマンドを入力する。そして小さなプログレスバー窓が出現し、横線が右端に到達したかいなかの瞬間。

 

 突如として黒い立方体が発光し、キリトの体を弾いた。彼はそのまま床に叩きつけられたものの、駆け寄ったオレとアスナに笑みを見せ、掌にあったものをアスナに渡した。

 

 彼の掌には大きな涙滴型のクリスタルがあった。

 

「これは?」

 

 アスナの問いにキリトは起き上がりながらオレ達に説明した。

 

「ユイの心だよ。さっきGMアカウントでアクセスしてシステムに割り込みをかけて、ユイのプログラムだけを取り出してオブジェクト化したんだ」

 

「それじゃあユイは……」

 

「ああ、そこにいる」

 

 彼の言葉にオレは驚きを通り越して感動を覚えた。自分よりも年下かもしれない少年が、あの一瞬でシステムに割り込みをかけて自分の娘を救ったのだ。

 

「まったく、大したヤツだよ。お前は」

 

 オレが言うとキリトは苦笑いを浮かべ、安堵の涙を流すアスナの肩に手をかけた。

 

 その光景を見たオレは彼等の間に幸せそうに微笑むユイの姿が見えたような気がした。

 

 

 

 

 

 はじまりの街の孤児院ではガーデンパーティーが催されていた。

 

 子供たちは料理が出てくるたびに歓声をあげる。庭にはシンカーとユリエールの姿もあり、シンカーに至ってはアスナが作ったバーベキューに幸せそうな表情でかぶりついている。

 

 オレも教会の壁に背を預けながら彼等を見ながらサーシャや子供たちが持ってきてくれた料理を食っていた。

 

「うま」

 

 相変わらずプロ級の腕前である。さすが料理スキルをコンプしたアスナ嬢と言ったところか。

 

「アウスト」

 

 不意に声をかけられたのでそちらを見るとシンカーとユリエールがいた。

 

「よう、シンカー。元気そうだな」

 

「ああ。いやそれよりも、昨日は本当に助かった。ありがとう」

 

「アレぐらいいいさ。そんで? キバオウは除名したのか?」

 

 オレの問いにシンカーは頷くとあの後のことを話し始めた。

 

「キバオウと彼の配下は全員除名した。軍も解散しようと思ってるんだ。軍は余りにも大きくなりすぎてしまったからな」

 

「だから言っただろうが、テメェは甘すぎたんだよ。ギルドマスターするんだったらもっと厳しく行くべきだったな」

 

「本当にそのとおりだな。解散後はもっと平和的な互助組織でも作ろうと思ってるんだ」

 

「そうした方がテメェの性に合ってそうだもんな。つーか、ユリエールとは結婚しねぇの?」

 

 特に気にした風もなく聞いてみると、ユリエールは顔を赤く染め、シンカーは飲んでいた飲み物を噴出した。

 

「なに驚いてんだか。ユリエールの様子を見ればそういう仲だってことなんざわかるっつーの」

 

「そ、そうか?」

 

「そうだよこのリア充が、爆発しろ」

 

 ジト目を二人に送るとシンカーは頭を掻き、ユリエールは軽く咳払いをした。すると彼女は話題を変えるように問うてきた。

 

「そ、それよりもアウストさん。ユイちゃんはどうしたんですか?」

 

「……アイツは家に帰っただけさ」

 

 オレは微笑を浮かべるとアスナの首から下がっているネックレスを見やった。

 

 銀鎖で作られたネックレスの先には涙滴型のクリスタルが下がっていた。ここから見ても僅かに発光しているそれは、ユイがそこにいるということをあらわしているようだった。




はい、今回も予告どおり出来ました。

まぁ原作どおりって感じですが、最後のほうでアウストを活躍させることも出来ましたし良かったと思われます。
最初のほうアウストが気が付いている節がありますがあくまで仮定ですw

次はスカルリーパー戦をやる感じで……終わるとすれば十一話か、急かもしれませんが十話でSAO編は終わりやもしれません。
まぁ本音を言うとALO編がはよう書きたいんですwww

では感想などありましたらよろしくお願いいたします。
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