TS転生令嬢は婚約したくないので魔法研究で身を立てようと思います   作:Fiomia

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素材採取実習

学院の馬車は王都から一時間ほど走り、小高い丘に囲まれた森林の入口へ到着した。

 

「ここが本日の実習地です」

 

担当教員の声に、学生たちは次々と馬車を降りる。

木々の間を涼しい風が吹き抜け、夏の日差しも森の中では幾分和らいでいた。

辺りを見回すと、既に別の学科の学生たちも集まり始めている。

騎士科の制服。

貴族教養科の制服。

魔道産業経営科の制服。

普段は別々に講義を受けている学生たちが一堂に会する光景は、どこか新鮮だった。

 

「それでは、班編成について説明します」

 

教員が前へ立ち、一枚の紙を掲げる。

 

「今回の実習では、各班五名から七名で行動してください」

 

黒板代わりの携帯掲示板へ、条件が一つずつ書き出されていく。

 

「一つ目、五名から七名であること」

 

「二つ目、男女混成であること」

 

「三つ目、複数学科で構成すること」

 

「四つ目、貴族・平民の双方が含まれること」

 

ざわり、と学生たちが動き始める。

 

「交流も実習の目的です」

 

「普段接点の少ない学生同士で協力してください」

 

その説明を聞き終えると、ガブがすぐこちらを向いた。

 

「よし!」

 

「とりあえず俺たちは一緒でいいよな?」

 

「ええ」

 

私は頷く。

リリーもエレノアさんも異論はないようだった。

四人で集まると、ガブが指を折って数え始める。

 

「俺、ロザ、リリー、エレノア」

 

「四人か」

 

「あと一人ですね」

 

私は周囲を見回す。

条件を満たすには問題ない。

研究科、騎士科、貴族教養科、魔道産業経営科。

男女も揃っている。

貴族と平民も混成だ。

けれど五名以上という条件だけが足りない。

 

「どうしましょう」

 

エレノアさんがおずおずと尋ねる。

 

「どなたか、お誘いしますか……?」

 

「そうですね」

 

とはいえ、知り合いはそれほど多くない。

誰へ声を掛けようかと考えていると、ガブが「あっ」と声を上げた。

 

「あそこ」

 

その視線を追う。

少し離れた木陰で、一人資料を読んでいる人がいた。

 

「ハーバルじゃないか」

 

ハーバル様だった。

周囲を見ても、まだ誰かと班を組む様子はない。

一人で内容を確認しているようだった。

 

「ちょうどいい!」

 

ガブは迷いなく歩き出す。

 

「あ、ガブ」

 

止める間もなく、ハーバル様の前まで行ってしまった。

 

「ハーバル!」

 

「班決まってるか?」

 

ハーバル様は資料から顔を上げる。

 

「いいえ」

 

「まだです」

 

「じゃあ俺たちと組まないか?」

 

あまりにも自然な誘いに私は少しだけ緊張する。

ハーバル様は数秒考え、それから静かに答えた。

 

「構いません」

 

「条件も満たしています」

 

「よし!」

 

ガブは満足そうに笑う。

 

「これで五人だ!」

 

そのまま私たちの方へ戻ってくる。

 

「決まり!」

 

「ハーバルも一緒だからな!」

 

「よろしくお願いいたします」

 

私は一礼した。

 

「こちらこそ」

 

ハーバル様も丁寧に頭を下げる。

いつも通り、必要十分な返事だった。

 

「よろしくお願いします!」

 

リリーが柔らかく微笑み、エレノアさんも少し緊張した様子ながら続く。

 

「よ、よろしくお願いします」

 

「よろしくな!」

 

ガブは相変わらず気負いがない。

五人が並ぶ。

改めて見ると、不思議な組み合わせだった。

研究科二名、騎士科一名、貴族教養科一名、魔道産業経営科一名。

貴族三名に平民二名。

そして男女も偏りがない。

まさに学院が意図した班編成そのものだ。

 

「それでは班ごとにこちらへ」

 

教員が地図を配り始める。

私たちも前へ進んだ。

 

「皆さんの担当区域はこちらです」

 

地図には森の一角が赤く囲まれている。

 

「採取対象は薬草三種類、樹液一種類、魔力鉱石一種類」

 

「制限時間は三時間です」

 

「危険区域へは近付かないように」

 

最後に教員は周囲を見渡した。

 

「分からないことがあれば、すぐ近くを巡回している教員へ報告してください」

 

説明が終わる。

ガブが地図を広げた。

 

「じゃあ行こうか」

 

「ええ」

 

私たちは並んで森の中へ足を踏み入れる。

木漏れ日が揺れ、小鳥のさえずりが静かに響く。

緊張はある。

けれど、それ以上に胸が高鳴っていた。

初めての本格的な野外実習。

そして初めて、この五人で協力する一日が始まろうとしていた。

森へ入ると、空気がひんやりと変わった。

高く伸びた木々が日差しを遮り、木漏れ日が地面へまだら模様を作っている。

 

「担当区域は、この辺りですね」

 

私は地図を確認する。

教員から指定された範囲は思っていたより広い。

 

「最初は薬草から探しませんか?」

 

リリーが提案した。

 

「薬草は日が高いうちの方が見つけやすいそうです」

 

「詳しいんだな」

 

ガブが感心したように言う。

リリーは少し照れくさそうに笑った。

 

「領地で薬園を管理している方から教えていただいたことがあるんです」

 

そう言うと、足元の草むらへしゃがみ込む。

 

「ほら、これです」

 

細長い葉を持つ植物を指差した。

 

「見た目はよく似ていますけれど、葉脈が一本多いでしょう?」

 

私は隣へしゃがみ込む。

本当だ。

教本の挿絵では見分けられたつもりだったが、実物になると難しい。

 

「こちらが薬草です」

 

「もう一方は似ていますが、薬効はありません」

 

「根ごと抜かず、この辺りで切ると翌年も育つそうですよ」

 

リリーは茎の途中を丁寧に切り取り、採取袋へ入れた。

 

「なるほど」

 

私は思わず感心する。

 

「実物を見ると分かりやすいですね」

 

「ありがとうございます、リリー」

 

「お役に立てて良かったです」

 

その後は五人で手分けしながら薬草を探していく。

エレノアさんは採取した素材を丁寧に袋へ分け、種類ごとに札を付けていた。

 

「経営科では保管方法も習いますので……」

 

「混ぜると価値が下がる素材もあるんです」

 

「さすがですね」

 

私は素直に感心する。

同じ実習でも、それぞれ得意分野が違う。

自然と役割分担ができていることが少し面白かった。

 

「ロザ」

 

ガブが少し離れた場所から声を掛ける。

 

「鉱石っぽいの見つけたぞ!」

 

「今行きます」

 

私は足早に向かう。

その途中だった。

木の根へ足を取られ、身体が少し前へ傾く。

 

「あっ……」

 

転ぶ。

そう思った瞬間。

 

「危ないです」

 

すぐ横から腕が伸びてきた。

私の肘を軽く支え、身体が前へ倒れるのを止めてくれる。

「……ありがとうございます」

姿勢を立て直して顔を上げると、そこにはハーバル様が立っていた。

 

「足元をご確認ください」

 

「木の根が露出しています」

 

言われて足元を見る。

落ち葉へ隠れていて、ほとんど見えていなかった。

 

「申し訳ありません」

 

少し恥ずかしくなる。

 

「助かりました」

 

ハーバル様は私の腕から静かに手を離した。

 

「転倒すると怪我をします」

 

「採取も続けられません」

 

「ですから、気を付けてください」

 

それだけ言うと、何事もなかったように採取へ戻っていく。

私はその背中を見送った。

 

(今のは……普通に親切ですよね……?)

 

もちろん、その言い方には感情らしいものはあまり感じられない。

心配してくださったというより、事実を述べただけなのだろう。

それでも。

 

「ロザ、大丈夫か?」

 

ガブが駆け寄ってくる。

 

「ええ、大丈夫です」

 

私は笑って頷いた。

 

「ハーバル様が支えてくださいましたから」

 

「なら良かった」

 

ガブは安心したように笑う。

私はもう一度、少し先で薬草を観察しているハーバル様へ目を向けた。

 

(以前は失礼な方だと思っていましたけれど……)

 

以前の印象は、今も完全には変わっていない。

言葉は少ないし、思ったことをそのまま口にする。

けれど今日だけでも、班へ誘われれば自然に加わり、私が転びそうになれば迷わず手を貸してくださった。

少なくとも、意地悪な方ではない。

そんな気がした。

 

「ロザモリアさん」

 

エレノアさんが採取袋を掲げる。

 

「こちらで全部揃いました」

 

「確認しましょう」

 

私は気持ちを切り替え、皆のところへ戻る。

指定された素材は順調に集まりつつあった。

森の中は静かで、風が葉を揺らす音だけが響いている。

実習は、予定どおり順調に進んでいた。

誰もが、この穏やかな時間がもう少し続くものだと信じながら。

 

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