スパイダーマン:ハーツ・オブ・ダークネス2010 作:ESP
エンパイア・ステート・ビルの頂点から突如として極光が放たれた。
自由の女神に取り付き蝕んでいた異形の軍隊が統率を失い散っていく。
朝日がもう完全に姿を現す寸前で条件は揃った。
最後の魔法陣は消去され地獄の結界が消え去った。
ソーサラー・スプリームの口角がほんのわずかに上がったかに見え――『詠唱』を始めた。
「開眼せよ!大いなる魔術師の遺産、アガモットの眼。
胸に下げたタリスマン。
ソーサラースプリームの証でもあるこの秘宝は通常休眠状態にある。
緊急事態以外では使用を制限されるアーティファクト。
「真実を見通し、悪意を払い、全ての権能を今ここに。我が肉体と魂に宿る魔力を対価として!」
その代償の大きさから使用は制限がある。
一部の魔術師達しか知らない空間に封印されている刻の秘石との接続によりその全ての力が解放された。
タリスマンの眼が開く。
ストレンジの魔力が暴力的なまでに増幅され、空間を歪める膨大な力が魔法陣を形作る。
幾何学模様に魔術文字が浮かんだ輝く白の魔法陣が魔術師を中心として球状に展開。
神秘の極致の一つ。
立体構造型流動式魔方陣。
刻の秘石の力を宿した
限られた時間の中で急遽構築された術式。
その発動が今始まった。
ストレンジの指が印を結ぶ。
「ヴィシャンティ!白き魔術と秩序を司る至高の守護者達、魔術の神々よ。我が呼び声に応じ3柱の力を今
魔法陣が3つの領域に分かれそれぞれ独自の記述へと変貌する。
同時に朝日に劣らない強烈な光が放たれ周囲の異形を消滅させた。
陣が最初はゆっくりと回転し始め、徐々に速度を上げついには捉えきれない速度に達した。
「太古の魔術師、アガモットの眼を遺せし原初のソーサラー・スプリームたるアガモット!その真実を見通す瞳をもって世界の邪悪を白日の元に映し出せ!」
魔法陣から発生した波状の魔力波動がニューヨークの街へと高速で広がる。
全ての邪悪が捕捉され暴き出される。
異形の足跡から空を飛んだ経路、魔力の流れた形跡。
結界の構築に至ったその全貌を真実を覗き見る神の眼が完全に捉えた。
空間が震え街の全員が一瞬めまいを起こした感覚に襲われる。
統率を失い暴れる全ての地獄の軍勢がその動きを止めた。
「
街へと広がった波動に強力な守護の力が上乗せされる。
全ての建築物、人々に堅牢な魔力障壁が付与された。
その圧倒的な守りはこれ以上の領域の瓦解の一切を許さない。
ストリートで市民救助に全力を尽くしたヒーロー達がその変化に愕然としていた。
雑兵と化した異形の悪行は完全に防がれる。
「全能なるオシュトゥール!白き魔術の湧き出る源泉よ。その慈愛の光と真理の法則の元にはびこる邪悪の全てを浄化せよ!」
魔法陣の輝きが増す。再度放たれる魔力の波動。
白に染まった浄化の光がニューヨーク全土を照らした。
ヴィシャンティを創設したとされる女性の概念を備えた彼女の息吹が街を優しく癒す。
人々の恐怖に染まった魂に安らぎが訪れ平静を取り戻す。
そこかしこから響いていた恐慌の声が一瞬にして静まった。
路頭に迷う地獄の残骸が洗い流され何も残さず消え去っていく。
「この地に集いし人々の祈りよ。女神の
その身を包んでいた魔法陣が分離し女神の頭部へと吸い込まれていく。
朝日に照らされてもなおその輝きはニューヨークの人々に届かんとする別の属性を持った光源として機能していた。
「地獄に
松明のエネルギーが強さを増し女神自身の肉体も白く染まり始める。
島そのものが魔術の触媒としての機能を発揮し始めた。
抱え持つ独立宣言書が明滅し始める。
聖歌に似た、としか表現しきれない不思議な音が女神から発声される。
頭に
太陽神の光冠を原型に持つその属性が朝日を浴びて込められた願いを具現化させた。
「この意思に呼応せよ。全ての事象に宿る小さな因果を頼りに刻の秘石のよるべに従い元の正常なる姿を想起し――」
独立宣言に見慣れぬ文字で書かれた十行の箇条書きが刻まれる。
島を囲む海の水が円状に割れた。
堰き止められた海水は轟音を放つ滝のように水底が露出する。
「宇宙よ!万物たるそのもの!この捻じれた世界をその手で修正せしめることを
女神を依り代とした宇宙意志への祈り。
歪んだ街を清浄なる姿に戻すための極限の術式。
完全に白に染まった女神からすべてのエネルギーが天上へ向けて昇華する。
空にわずかな瞬間――宇宙が広がった。
その刹那をすぎた空を白い優しさが覆い尽くしていく。
「繋がり、集い、受け継がれしニューヨークの魂よ。あと少しと言わず、より長くこの朝日を見るために」
完成する。
「――ハーツ・オブ・ニューヨーク――」
街に季節外れの雪が降りそそぐ。