スパイダーマン:ハーツ・オブ・ダークネス2010 作:ESP
本日8日、日曜の注目トピックは、トニー・スタークCEOが設備投資のため来豪、インドの災害救助ファンタスティック4中心のヒーローチーム活躍、ニューヨークウイルスは2週間で収束。死者は一人のみ細菌研究者の失敗を追う、でお送りします。
(昨日少し頑張りすぎたかな……)
ラジオを聞き流しながら眠い目をこすり、ピーターは朝食の準備をすすめていた。
焼きたてのパン2枚、ベーコン、スクランブルエッグにサラダ。そしてコーヒー。
「パンにベーコンとスクランブルエッグをのせて、もう1枚はやっぱりバターだよね。コーヒーに砂糖は……特別に二個入れちゃおう!」
ささやかだけど温かい食卓がゆっくりと眠気を払っていく。
口にコーヒーの苦さといつもより強い甘さが広がる。
(メイおばさん……先に食べてって、ボランティアの準備に忙しそうだ)
手伝わなきゃ、と考えるも前日に今日は自由に遊んでらっしゃいと釘を刺されている。
グッと衝動をこらえて食事に集中することにした。
食器を洗い、身支度を整えると親愛なる隣人は扉から外に飛び出した。
「行ってきます!メイおばさん!」
冷たい空気を切り裂きながらビルの渓谷を渡り巡る。
厚着の人々を眼下に見ながらビルに反射した日の光に照らされる。
(調整した望遠及び地図機能は問題なし。光学系と簡易録画撮影……これもOK)
レンズを通して見える人々の顔はまだ、どこかしら暗く見えた。
ウイルスの影響は街にまだ不安の影を落としたままだ。
その時、前方から中型犬がこちらに向かって走っているのを見つける。
着地、犬は目の前で座ると嬉しそうに尻尾を振る。
首輪から伸びるリードが劣化で切れていた。
そっと下から手を差し出し優しく頭をなでる。
「よしよし、いい子だ。君のご主人様はどこにいるんだい?」
返事をするかのように吠える。
少しして犬が来た方向、その遠方からランニングウェアの若い女性が走ってくるのが見えた。
「すいません!ありがとうございます。リードが、切れて、しまって……」
「どういたしまして。賢い子でこっちも助かりました。代わりのリードはありますか?」
女性は頷いた。
「もうご主人を置いて行っちゃダメだぞ、約束だ」
再びウェブを伸ばし飛翔する。
(今日はブロンクス方面に行ってみようかな)
スパイダーマンが飛翔する。
女性の顔は心なしか明るさが戻った顔でそれを見上げていた。
ブロンクス地区。
街の北部に位置するスラム街の文化が色濃く残るこの場所は常にトラブルで溢れていた。
「オラッ!立て、クソが!テメーにはまだやり返し足りねえんだよ!!」
「グぅ……うがっ!」
横たわる大男の背中を小柄な男が蹴っている。
周りには喧嘩を煽る、遠巻きに見る、無視する。
三者三様の小さい人の輪。
(着いて早々この状況って……毎度飽きないよねほんと)
予想を裏切らないお決まりの日常風景が路地裏を抜けた広場で繰り広げられていた。
即座に割って入る。
「はいストップ!ちょっと待ってちょっと待って。決着はついてるし話し合おう落ち着こう」
両手を広げて2人を引き離す。しかし――
「またてめえか、このクモ野郎!」
言葉を無視して男が肩に掴み掛って来た。
(……強い!?こんな力いったいどこから出てるんだ。薬物かな?)
予想外のパワー。焦点の合って無い目。
異常性を感じたピーターは即座にウェブで拘束することを選択した。
「うおっ、畜生なんだこの、外しやがれクモ野郎!」
地面に転がってもがき続ける男からは正気が失われているように感じた。
地面で丸まって寝転がる大男にちかよる。
「大丈夫?もうすぐ救急車と警察が来るから」
「……助かった、大丈夫……だ。歩ける。ありがとよ」
立ち上がり壁際へゆっくり歩くともたれかかり――腰をおろした。
スパイダーセンスに独特のノイズが走る。
(まいったな、タイミングが悪い。先生まだ帰ってきてないのに……)
そう思いながら警察と救急に連絡を入れて状況を伝える。
一度帰って検証が必要だ。科学者としての側面が思考を回す。
「はい、喧嘩騒ぎはこれまで!もう警察来るからね。解散解散!」
集団は様々な感情を表情に浮かべながら散り散りにばらけていった。
「ここはこれで良し、後は警察と救急に任せるとして……問題はこっちだ」
センスのノイズが強くなる方角を探す。しかし、
(……駄目だ反応が弱すぎて場所の特定が難しい。ここは一旦記録だけして他の地区を回るほうがいいな)
地図座標を記録しスラムを軽く周った後に警察が来た。
話を通し次の地区への巡回に切り替える。
時間の余裕はまだまだある。
少しでもいい、街を明るくしたい。
大いなる力の使い道。
それがいつもの彼の変わらない日常だった。