スパイダーマン:ハーツ・オブ・ダークネス2010 作:ESP
「試験が近づいてるからってこの仕打ちはひどくない?」
連日の宿題という名の山に向かって独りごつ。
学校の先生が悪魔にしかみえなかった。
(調査に行きたい。学校じゃMJからもネッドからも事件に関係がありそうな話は聞けなかったし……)
泣きっ面にハチ。いくら文句を垂れた所で宿題が減るわけではない。
数科学系はお手の物、だけど他学科も物量で押してくるのは勘弁して欲しかった。
それでも時間を工面しスラム街周辺区域を重点的に調査していたせいで疲労は溜まり――集中力が切れかかる。
「……休憩っ、ちょっとだけちょっとだけ休憩!」
情報サイトにアクセス、今までの状況整理ログ一覧を呼びだす。
ハンクさんに頼って送ってもらったファイルに触る。
――あの男から薬物反応は無し、特殊な検査結果も出てない。
その間も自分で気になる箇所を閲覧。
(コーヒーに頼るしかないな、これは、うん)
立ち上がり準備に入りかけたその時、響くシステム音。
「よし、よし、よし!引っ掛かったぞ。これは……オカルト系か?」
噂話の中でも限られたジンクスなどを扱うサイトだ。
「ええと……スラム街で夜中に黒い霧を見つけると願いを叶えてくれる?」
(これだ、あの違和感と合致するこの情報。間違いない)
能力とは全く関係の無い、ピーター・パーカー本人の勘が告げている。
即スーツに着替え、無音で夜の闇へ飛び出した。
ブロンクスのスラム街は静まり返っていた。しかし、センスに前より強いノイズが走る。
(いる、間違いない)
反応が強まる方へ迷わず歩を進める。
路地裏を奥に、奥に。
暗がりの中、レンズが細身の若い男を捉えた。
(なんだ?!黒い……糸?レンズには何も映ってないのに!)
光学ではない。
脳内に直接イメージとして出力された黒い糸が棒立ちの男に絡みついている。
(助けないと!)
反射的に糸を引きちぎるため接近しようと加速を試みる。
だが、体はピクリとも動かない。男がゆっくりと倒れこむ。
(首から上は動く、他はダメだ。でも!動け!動け!)
ピーターの動くはずのない右腕がわずかに震える。その時――
「理解できないものに安易に触れるなと教えたはずだが?」
天から声が降ってきた。待っていた声が。
赤いマントをはためかせ、彼がおりて来る。
「先生!」
仰ぎ見る。至高の魔術師、ソーサラー・スプリーム。
――ドクター・ストレンジ――
地上に降り立つと同時に体の自由が戻る。
「あの人を助けないと!」
「落ち着け眠らせただけだ、私が診る」
魔術師が男に近づくと印を結び小さな魔法陣を展開する。
「――まずいな」
魔術はもう解けている。
なのにピーターの体が再度硬直した。
冷汗が全身を伝う。
(今まで先生から『まずい』なんて聞いたことない……でも!)
体を意思の力で無理やり動かし救急に連絡を入れる。
座標を送信し連絡を終えた頃にちょうど魔術師から声が掛かった。
「センスの反応が強い方向に案内を」
先生のいつもの『試験』だ。自分の魔法で探知は容易なはず。
だけど僕を試すように頻繁に行われてきた。
「わかりました。だけどなんでこの場所にピンポイントで来れたんですか?」
「右手のそれに追跡魔法をかけてある」
右手のウェブシューターに視線を向ける。
あいかわらず魔術師世界の倫理ってどうなってんの?と思いつつ、
「いつの間に!?プライバシーって言葉知ってますよね?変だと思ったんだ、右のシューターだけ調子も消費も何故かデータがずれてた!」
「6回目の仕事で。今回は13回目だ。さあ道案内だ。時間が惜しい」
(仕事を手伝うようになってそれなりに経つけど本当に先生って人は……)
センスを頼りに路地裏を進む。
最終到達地点は壁に描かれたスプレーアートだった。
「ここです。前に来た時はわからなかったんですけど、今は違います。反応が段違いです」
ピーターがカメラで撮影するとストレンジは分析を始め――結果が即座に出力された。
「私と系統の違う魔術だ。分析がいるな。スパイダーマン、明日の日が昇ったら街を周ってこれと同じものを後5つ見つけてサンクタムに届けてくれ」
「明日は友達と一緒に勉強する約束が、それに宿題もまだ…」
必死の抵抗も虚しく、
「ニューヨークの危機だ」
高校の創立記念日を利用して今月末の試験勉強と宿題を同時に終わらせる計画は即座に無に帰った。
「先生お願いがあります。宿題を手伝ってください」
「私の領分ではない。学生としての責務を果たしてきたまえ」
ピーターが背を伸ばし頭を下げた間にポータルを構築、彼を実家近くのビルの屋上へと繋がるそれに押し込んで即閉じた。
「さて、こちらの責務も果たさなければな」
同じく自らの拠点へと帰還する。
ここは――地獄の一丁目。