スパイダーマン:ハーツ・オブ・ダークネス2010 作:ESP
燃える
炎がまだ
一瞬全身が火炎に包まれるとそこに背はピーターと同じ程度だが遥かに筋肉質な体。
青い瞳に赤みがかったブロンド。
圧倒的存在感を持つ年齢不詳の男が立っていた。
「ジョニー・ブレイズだ。ゴーストライダーのほうが通りはいいか。
ピーターは開いた口が塞がらなかった。
(え?身長が変わった?バイクも普通のバイクに…)
科学者の好奇心が少し顔を覗かせた、しかし――
「……先生、ごめんなさい。僕のせいで、こんな」
「ピーター、間違えるな。
胸が熱くなる。眉一つ動かさずに魔術師が続ける。
「
魔術を発動。壊れた扉エントランスホールを瞬く間に直していく。
その間にピーターはおずおずと声を掛ける。
「えっと……初めましてジョニーさん。僕はピーター・パーカー」
「スパイダーマン、この街の人々にとって最も身近なヒーロー。若いな」
自分のことを知っているのに驚きつつも、この人からは有無をいわさない凄みを感じていた。
「応接間で話そう」
修復を終えた魔術師が隣の部屋に誘導する。
部屋は当然のごとくめちゃくちゃだった。
あっさりとこの場所も修復された。
が、下に散らばる古い古書だった何かを拾い上げつつ魔術師が表情一つ変えず小さくつぶやいた。
「■■■■、■■■■■■■■■■■■■■」
スパイダーセンスが最大警報を鳴らす、すさまじいまでの魔力ノイズが走る。
(ダメだ、いまなにか軽口でも叩こうものならどうなるかわかったもんじゃない)
「ピーター、君は今なにも聞かなかった。いいな」
首を縦に振り続けるしかなかった。
「では、ジョニー。話を」
「敵はブラックハート、地獄の
ストレンジが顔をしかめ、ピーターは地獄と悪魔という言葉に戸惑う。
魔術師は即座に決断する。
「その道に詳しい
手で大きく円を描くと魔術の鏡が宙に浮かぶ。
一人の男の顔が映し出された。
暗褐色の肌に黒い短髪。筋肉質の体に白い儀式衣装。
そして首元に精霊の護符。
「ストレンジ、こちらの後始末はほぼ終わり…ゴーストライダー!?どういう状況か?君を先に帰還させて正解だった」
通信魔術ごしに会話が続く。
「ああ、相手は地獄の悪魔。サンクタム内に
「その前に自己紹介が必要。ワタシはドクター・ブードゥー。精霊と魂、呪いと土着の魔術が専門分野。今年はストレンジの補佐役」
緊張しつつ口を開く。
「初めましてドクター・ブードゥーさん。僕はピーター・パーカー。スパイダーマンです」
ジョニーが顔を鏡に向ける。
「いつぶりだ?ブードゥー。息災のようだな」
「メキシコの事件以来。ストレンジ。ありったけの情報が欲しい。予感が正しければ極めて危険な状況」
ストレンジは頷くと立ちあがった。鏡がその動きに連動する。
「上階に行ってくる、待機していてくれ」
腕を軽く振ると2杯の紅茶が目の前にあらわれ香りが鼻孔をくすぐった。
移動の間の会話の断片がピーターの耳に届く。
(……マダ……継承……ウイルス……インド……月……)
(……予知……精神……感覚……領域……ノイズ……負……情……)
途切れ途切れの単語はさっぱり理解できなかった。紅茶を一口。そして――
「あの……ジョニーさん……」
「なんだ?」
立ち上がり、ジャパニーズオジギを再度試みる。
「バイク!見せてもらえませんか…?」
恐る恐る頭を上げる。不安そうな目。
「かまわない、だが触るな」
「ありがとうございます!」
恐ろしい速度でホールに駐車してあるバイクに張り付く。
「ハーレーチョッパー型エンジンはVツイン…いや変だこれ。どういうカスタマイズだ?ピーキーすぎる!操縦できるのこれ?」
ジョニーがブーツを鳴らして近寄る。
「他人が乗るのは無理だ」
「ですよね!?ステアリング設定からおかしい、少しの操作ミスすら許されない。メーターが2万越え……レース用?」
初対面なことすら忘れてエンジニアトークでまくし立てる。
それに言葉少ないながらもはっきりとした答えを返す無骨な男。
そんなやり取りが続いているうちに、魔術師達が戻って来た。
「科学もいいが今は魔術の時間だ」
上階で何をしていたかは分からないが、険しい顔の2人。
「これより地球防衛戦を開始する」
ストレンジの口から放たれたのは
「作戦は全てブードゥーに任せた」
部屋へ移動からの第一声。ピーターは驚きを隠せなかった。
あの先生が作戦を全部任せた?その事実の重さは計り知れない。
呪術師が鮮明な低い声で話し始めた。
「現在
ピーターが疑問を投げる。
「六芒星なら6か所じゃないんですか?」
あの時自分が持ち込んだ苦い過ちがまだ心を
ジョニーが話に割り込む。
「俺が来た時に一つ焼き払った」
疑問が焼却され、呪術師が続ける。
「全ての魔法陣を上書きし、その後悪魔を地獄に送還する。タイムリミットは次の朝日が昇り切るまで。失敗は地球の地獄化」
「そんないくらなんでも早すぎる!地獄の悪魔だからって、準備されていたからって!」
蜘蛛の子を散らす音量で叫ぶ。
その疑問に地獄を熟知する処刑人が告げた。
「クリストズ・クラウン。NY州北部。敵の生誕の地が近い。ホームアドバンテージといえば分かるか?」
沈黙――突如机上に地図が広がる。ポイントが5つ淡い光を放っていた。
南西:チェルシー・ピアーズ
北西:イントレピッド海上航空宇宙博物館
北 :タイムズスクエア
北東:国際連合本部ビル
南東:エンパイア・ステート・ビル
「先生のポータルなら楽勝で間に合いますよね?」
「地獄領域干渉で指定座標外に飛ばされる危険性がある。サンクタム内限定かつ小規模なら可能だ」
却下。外部から人を通すのも無理。
「じゃあ、ジョニーさんのバイクで扉の時と同じように……」
「駄目だ。残りの魔法陣は契約者の魂を縛っている。焼けば魂は地獄行きだ」
提案の焼却。スラムでの黒い糸の記憶が脳内に映し出される。
「じゃ、じゃあ、ブードゥーさんが……」
「ワタシの術式は今回の事件と相性が悪い。逆利用される可能性」
ピーターが沈黙したのを見てストレンジがはっきりと告げた。
「魔法陣の上書き役は君だ。ピーター」
予想外の指名。魔術、地獄。自分と縁遠い世界からの要請。
「ちょっと、ちょっと待ってください!僕が?魔法陣の上書きってそんな簡単なの?」
無理がある。
魔術師の手伝いをしただけで魔法を教えてもらった事は一度も無い。だが――
「ピーター、君は何者だ?」
意味の分からない質問が先生から飛んできた。
「え?え?僕はピーター・パーカー。スパイダーマン……」
ジョニーのバイクが頭をよぎる。
「……科学、そうか!そうだよ!
呪術師が
「道具作成はワタシの分野、ちょうど余っている。知人から押し付けられたトネリコの木」
そして魔術師が引き継ぐ。
「ジョニー、君の魔力を分けて貰いたい。調整は私が行う」
処刑人が肯定の意を返す。
「先生、今から必要な道具をかき集めてきます!」
危険を