スパイダーマン:ハーツ・オブ・ダークネス2010 作:ESP
――杖が完成した。
長さはピーターの足元からみぞおち程。
手首と同じ太さ、白色の直線円柱形。
その両端に彫られた魔術刻印。
基礎設計と加工をドクター・ヴードゥーが。
内包する地獄エネルギーをゴーストライダーが。
エネルギーをインク状に置換し強度補強魔術をドクター・ストレンジが。
そして、自動筆記システムをピーター・パーカーが。
小規模ポータルを通して手渡され、軽く振る。
重さはほとんど感じない。
しかし温かみを感じる四人の力の結晶。
「できた……間に合った!……ブードゥーさん、この杖の名前なんていうんですか?」
命名権は基本設計者にあるはずだ。
「今回は使い手である君が決めるべき。ピーター」
「え?僕が?ネーミングセンスに自信ないけど……4人の点をつないで十字……よし!スタッフ・オブ・ザ・クロスにしよう」
直感的になんとなく、それっぽい名前を付けてみる。
杖の片側の先端が十字状に変形した。
「……ブードゥーさん、魔術の杖ってこういう仕様がデフォルトなんですか?」
呪術師は苦笑いを浮かべた後、嬉しそうに笑った。
そして、もう一つのピーター発案のガジェットを机の上に置く。
「ジョニーさんのバイクにGPSが無かったんで、地図と魔法陣捜索の補助用です」
ピーターが持ってきたGPSをこれまた4人で調整した一品。
魔法陣に最速で辿り着くための一手。だが――
「でも……残り時間で間に合うかどうか……」
ジョニーが自分のバイクがあるホールへ親指を向ける。
「俺が運ぶ。乗っていけ」
「乗せてくれるんですか!」
あの科学原理とはかけ離れたバイクに乗せてもらえる。
エンジニア魂が燃える。
「ただし条件がある。絶対俺から手を放すな」
「はい!はい!絶対放しません!」
ストレンジが軽く咳払いをし、口を開く。
「最終確認だ。二人は南西から時計回りに魔法陣を消去。最後の一つはピーターが単独で、ジョニーが中心部でブラックハートを抑え込む」
歪んだ魔法陣の中心点付近、ランドーマークとして鎮座するはマディソン・スクエア・ガーデン。
「そして私はここで領域遅延を展開し、条件達成後に浄化送還魔法を行使する」
魔術師の指が机上の地図の1点。リバティ島に置かれた。
「各自、準備開始」
ピーターは杖を背中に固定する装着器具。
右手には壊れたシューターの代わりに自動筆記補助システム端末と特殊ウェブ補充カートリッジ。
左手には魔術強化されたシューター。
ストレンジはブードゥーとは意匠の違う閉じた眼が彫刻された首飾りを下げている。
ジョニーが炎に包まれ変身しバイクに
「ゴーストライダー、これを」
呪術師が黒いビー玉のようなモノを渡す。
「使い方はわかるな?」
「ああ、助かる」
――準備完了。ストレンジが号令をかける。
「13日金曜日、現時点より作戦を開始する。残り時間は朝日が完全に昇るまでの66分6秒」
緊張が走る。
「
地獄のバイクが黒い霧のたちこめる街を常軌逸した速度で疾走する。
地面から湧き出し始めた大量の異形を蹴散らしながら。
「うわああああああああー!」
手を離すな、ではない。離したら終わりだった。
ピーターは必死に掴まり張り付き耐えていた。
(何キロ出てるんだこれ!?地獄の法定速度ってどういう設定……)
自分の蜘蛛の力にこれ程感謝することになるとは。
前方に見える異形に追われ叫びながら逃げ惑う人々。
縫うように隙間を走り異形を潰し人を避ける。
この速度で。
(街の人を助けたい。でも、僕は……)
葛藤。人外の運転技術を駆使する男が口を開いた。
「死人は出ない。奴は痛めつけ恐怖させ感情を搾取する」
「じゃあ、なおさらだ!悪夢じゃないか!見過ごせないよ!」
どこからか聞こえる悲鳴。
しかし成すべき事がある。どうすれば……
「事前に頼れる男に頼んである。この街のヒーローはお前だけか?」
どこかで響き渡る銃声と壁を砕く音が聞こえた気がした。
(そうだ、僕だけでなんとかなる状況じゃない。ここは……ニューヨークだ)
腹を、くくる。心が晴れる。
「わかりました、ジョニーさん。ところで今何キロ出てます?」
「あまり喋るな。舌を噛む」
さらに速度が上がった。
「ええええ!まだ、あがっ!」
忠告は意味をなさなかった。
そして前方にT字路。横への重力加速度へ備える。
だが直進した。
「ジョニーさん!前が、あがっ!」
学ばなかった。そしてバイクが速度を落とすことなく建物の壁を垂直に登る。
(ダメだ!この人にも科学的根拠を求めちゃいけない!)
先生が僕にこの役目を任せたのは完全な計算の上だと思い知る。
驚異的な速さで最初のポイントが見えてきた。
チェルシー・ピアーズ。
ハドソン川沿いにある大規模スポーツ系複合施設。
ゴルフ、スケート、サッカー。多岐に渡る。観光スポットとしても有名。
その前に黒い壁の様な物が見える。
距離が詰まる。
大量という表現が甘く感じる異形の集団。
「突っ込む。準備しろ」
「はい!?」
壁を焼き払いながら軽く円を描くようにドリフト。
「行け」
降りたピーターはスーツの中で真顔のまま固まっていた。背中から杖を抜く。
「なにこれ!いくらなんでも多すぎる!」
心からの叫びだった。