スパイダーマン:ハーツ・オブ・ダークネス2010 作:ESP
本当に5分かからなかった。
最後に固めた特大の異形団子を放り投げる。
飛ばされた塊《かたまり》がウィリーした炎の車輪で打ち砕かれ消滅した。
着輪、即座にピーターの元に寄せ一言。
「こっちだ」
飛び乗ったと同時に発進。ハドソン川に程近い地面にそれはあった。
異様で奇怪な魔方陣。
ピーターが右腕の端末操作を完了し杖を構える。
(映像入力、座標同期、描画パターンレイヤリング。システムグリーン。よしいける、杖さん宜しくね)
祈り、悪魔の陣のふちにそっと突き立てた。
白い光を放ち杖が画像の軌跡を自動追尾する。
ほぼぶっつけ本番のシステムは完璧に機能し――
地面には白い魔法陣だけが残された。
「やった!やったぞ!上手くいった!完璧。……ちょっと不安だったけど」
心をなでおろす。ふと、ジョニーへ視線を向ける。
彼はハドソン川を凝視していた。
「……そういうことか。成長しているな」
ピーターには全く言葉の意図が分からなかった。
ただ、相当ヤバイ何かがある。
それだけが伝わってきた。
「次だ、時間が惜しい」
これを後4か所。時間的余裕は――未知数のまま。
リバティ島。
自由の女神で有名な島。
周囲の海域はニュージャージー。島はニューヨークの飛び地という特殊な背景。
本来フェリーで渡るこの世界有数の観光地に到着したストレンジは地獄領域遅延魔術を展開しながら浄化送還魔法の発動準備を進めていた。
ブードゥーの指定地点に陣を地獄のインクで描画。
女神その人にも魔術を
一般の魔術師ならこの時点で力尽きる大作業。
水平線から太陽は顔を覗かせていない。
だが明るさを増した空が時間を告げる。
そして全ての準備が完了した。
「女神よ、今は見下ろす事を許せ。ニューヨークを救うために」
上空に待機し時を待つ。
唐突に――悪意はやって来た。
マンハッタン方面の空から向かってくる赤黒い壁。
万里の長城の如き邪悪が迫る。
(来たか、予定より遅かったな。しかし、量は想定以上だ)
人間大の羽付き黒緑のガーゴイル型に加えて、バスケットボール程の大きさの赤い球体に裂けた口をもつ異形の混成部隊。
ストレンジを球状に包囲する。
羽の異形が集団で突進。輝く魔法陣があっさりとそれを切り刻んだ。
羽を
(やはりそうか。時間稼ぎと削り狙いの悪魔らしい作戦だ)
赤い球体を消去した際にほんのわずかに魔力を削られる感覚。
時間切れと魔力切れを両立させるための組み合わせ。
地獄領域が解除されない限り無限に湧き続ける――消耗戦特化の対魔術師用部隊。
「私を直接叩きに来ないとはゴーストライダーに余程の執着があると見えるな。この程度は想定済みだ」
複数の魔法陣を展開、羽虫がたかるかのごとく押し寄せる波を高速で切り刻む。
(そして推測ではあるが、私を生かしたままの地獄化の完成。スプリームの権威を落とすのが狙いか)
ハイリスクハイリターンの極致。
狂気にまみれ肥大化した傲慢の塊。
しかしこれこそが儀式を成立させている矛盾。
しばらくして突如、異形の軍団の動きが変わる。
女神に向かい降下。対象を変更。
彼女を殺されれば浄化送還魔法は発動不可能。
短い時間で組み上げた魔術。
限定発動条件により防衛は必須。
「サンクタムの時と変わらぬ汚物の発想。徹底している所は評価しよう。だが許さん」
冷静と合理の極致と狂気と悪意の極致がぶつかる。
高速で飛行しながらすれ違いざまに排除を繰り返す。
それでも排除しきれぬボールが女神に憑りつき防護魔法を削る。
物理的障害として機能するガーゴイル、魔術を削るボール。
想定以上の大群。無限召喚。
ブードゥーの補佐無しには防衛は不可能だっただろう。
(来年のスプリームとして文句の付けようがない実績だ)
2人の偉大な魔術師が協議考案したスプリーム交代制。
今それが最高の形で実を結んだ。
しかし――狂気もそれに負けじと抗う。
複数のガーゴイルが集まり融合、ボールも同様に。
大きさが膨れ上がる。
即座に残りの魔力と時間を計算。
(魔力、時間共に切迫している。後は二人次第)
ストレンジの指が常人の目では追えない速度で印を結ぶ。
強い輝きを放ち魔力が形を成す。
顕現するは女神の掲げるたいまつと同じ程の巨大な十字架。
「ピーターの影響だな。だが悪魔祓いと言えば定番の形だ。レディの髪をショートカットにしないよう注意が必要だがね」
祈りの聖具が高速で回転を始め――巨大化した異形を細切れにしていく。
そして――ついに太陽の上弦が水平線に顔を出し始めた。