スパイダーマン:ハーツ・オブ・ダークネス2010 作:ESP
エンパイア・ステート・ビル玄関口。
明るさを増した空に照らされる最上階展望台。
そこが決戦の地。
本来なら他の四つの魔法陣と同様に大量の異形がたむろしているはずのこの場所は静寂が支配していた。
「魔法陣を上級眷属が守っている」
ジョニーが言葉短く告げ、ピーターが見上げる。
幾度も登った経験のある高層建築。
「よし、行ってきます」
ここからは一人。自分が成し遂げなければならない。
一歩を踏み出そうとしたその時、
「待て」
バイクから降りた歴戦の猛者が近寄りピーターの両肩に手を置いた。
「スパイダーマン。お前は『独り』では無い。忘れるな」
肩から熱が体の中心へと伝わる。
「行け、ここは任せた」
ヘルサイクルに炎が宿る。
足のつま先が少し動いた時にはもうその姿は遥か彼方だった。
ビルを全速力で駆け上る。
(ウェブの残量は……何とか足りそうだ)
ビル半分をかなり過ぎた辺りでそれは唐突に視界に映った。
南の空に浮かぶ赤黒い球体。あの方角は――リバティ島。
「先生!」
声が漏れ、一瞬足が止まる。
しかし、はっきりと残る体の熱が迷いを焼き払う。
(そうだ!『独り』じゃ無い!)
壁をけり、昇る速度が跳ね上がる。そして、
「見えたぞ!最上階展望台!」
展望窓が光を反射して輝く。
階の上にある一部の人間しか知らない点検用の入り口を無理やりこじ開ける。
(壊してごめんなさい。後で直すから許して)
そして、内部に降り立った。
保守用に電灯がついているが極めて狭い室内。
野球のピッチャーマウンドの倍に届かない程度に拡張した円形に近い構造。
そこに数本の鉄骨柱と中央部付近にエレベーターシャフトが通っている。
高さは自分の身長の2倍ほどしかない。動ける範囲があまりに限定されていた。
(ブルースさんが入ったらあっさり崩落しそうだ……)
本人の前で口にしようものなら投げ飛ばされるであろう想像をしながら中央を見る。
シャフトの壁面に最後の魔法陣。
「それで隠れてるつもり?かくれんぼが幼稚園生以下なんだけど?」
魔法陣の真下。床にどう照らされても存在しえない丸い影。
そこからサンクタムで見た黒い霧が吹きだし再び形を成す。
自分とほぼ同じ大きさ。
霧状ではない赤黒いエネルギーが流動する筋肉質なマネキン。
尾や棘は無い。
ただ赤い目は2対、4つの眼光がこちらを見ていた。そして、
「虫けらよ貴様は主の命によりコロス」
ピーターは固まった。
マスクの中で口角があがり笑いを抑えようと必死になる。
「……喋った」
眷属が右腕をこちらに向けた。
「こっちの言葉が通じるって事でいいよね?確定だよね?」
向けられた腕から黒いエネルギー弾が飛来する。
あっさり回避。
「他の魔法陣の奴ら全員話通じないし、僕の頭ばっか
眷属の両手が突き出され二つの弾が形成される。
「わかる?最後の方なんて羽生えて飛ぶからネットで虫取りだよ。クモの力はあるけどさ」
魔力弾が軌道を変え左右から襲う。
跳躍、天井に張り付く。
弾は壁に当たると溶けて消えた。
「遅すぎるねそのボール。野球ならホームランだ。あ、2球同時は反則で退場処分か」
眷属がとうとう口を開いた。
「羽虫でもないのに音を出ス、黙って潰さレロ」
天井からウェブを中央シャフトに向けて放つ。
眷属がそれを腕に
「羽無しで音を出す虫なんて沢山いるね。あと君の言語なんか変じゃない?プログラム不備かな?」
眷属の全面の空間が歪む。
地面に降り、杖先端の横棒を掴む。
トンファーの型。
衝撃波が津波のごとく迫る。
杖を高速で回転させると白い光の輪が衝撃波を打ち消した。
「凄くない?前の戦いで回したらこうなったんだ。先生の防御魔法ってやっぱり性能壊れてるよね。後それ前に食らった事あるからもういいよ」
眷属が突進、間合いを詰め接近戦を仕掛けて来た。
手刀が襲い掛かる。
杖で受けウェブを外側の鉄骨に飛ばし距離を取る。
「あれあれ魔法陣から離れちゃっていいのかな?」
ウェブを今度は眷属に向かって撃つ。――眷属は回避した。
「避けるって事は先生達が調整済みのウェブは君に効くって事で良さそうだね」
赤い4つの目が光る。
「怒った?これから本気出す?そうだよねだって君の攻撃で部屋が壊れてない。あ、部屋が壊れると困るからかな?」
ピーターは限界だった。
今までの相手が問答無用。脳みそ無し。
最後の最後で溜まりに溜まった言葉がダム決壊の如く放流された。
「ダマレ、イイカゲンニシネ」
「壊れた?壊れちゃった?言語回路焼き切れちゃった?」
魔力弾が雨あられの如く襲い掛かる。
壁にはりつき、ウェブで移動し、狭い室内を高速で跳ね回る。
誘導弾が飛んでくれば杖で打ち消す。
「残念だけどここは僕の
眷属が魔法陣前に戻る。
「時間も無いし、決着させないと先生とジョニーさんに大目玉食らっちゃう」
立体起動からの接近戦で決着を試みようとしたその時、センスが真横からのアラートを鳴らした。
視線を向けることなく壁に張り付く。
そこには霧状の眷属の分身。
本体と同時に放たれた十字砲火が頭の近くを通過していく。
「ブンシン!ニンジャなの?地獄でも流行ってる?でもカラテが大事らしいよ」
シューターに杖をセット――発射。
霧の分身を貫き霧散させる。手元に引き戻す。
「なるほどね、本体はどうやらその場所から動けないみたいだね。分身に撃たせて接近戦が遥かに効率的だし」
ならば魔法陣に相手の弾が当たる位置取りをすればいい。
考えを実行に移そうとしたその時、
分身が4体に増えた。
「……多重カゲブンシンってやつ?」
さすがにまずい。カラテに持ち込めそうにない。
バカみたいな量の弾と衝撃波が飛んできた。
弾き躱しはしたが1発が脇腹をかすった。
力が少し抜ける感覚。
「デバフとか君さ、汚ないねさすが悪魔きたない。先生が機嫌を損ねるのも納得だ」
「シネシネシネシネシネシネシネシネシネ」
刻々とタイムリミットが迫る。