スパイダーマン:ハーツ・オブ・ダークネス2010   作:ESP

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Scene9:復讐の精霊

マディソン・スクエア・ガーデン。

 

 

スポーツ、音楽、宗教に至るまでありとあらゆるイベントが行われたエンターテイメントの殿堂。

 

入場口から一人の男が鎖とブーツの音を響かせながら歩く。

 

最奥から底知れぬ悪意が漏れ出し、空間がすでに歪みきった此処は地獄の中心部。

 

通路を抜け観客席へ足を踏み入れた時、それはやって来た。

 

反対側のバックヤード方面から黒い巨体が姿を現す。

身の丈は電話ボックス程。

 

体の分厚さはボディビルダー世界チャンピオンをゆうに超える。

 

シルエットはシャープさを残しながら長い尾、ヤマアラシの針状の頭髪、太い手足に生えるトゲ、鋭い爪。

 

悪意のエネルギーで構成された黒色の本体。

 

 

地獄の王子・ブラックハート。

 

 

赤い双眼を怨敵に向けながら会場中央へ重い足音で歩み寄る。

 

「その身一つで来たのか。復讐の精霊。以前のように焼き尽くす算段か?」

 

二人の距離はまだ遠い。しかし声ははっきりと空間に響き渡った。

 

復讐の精霊も歩みを進める。

 

「愛車なんでな。その肩書で呼ばれるのは何時(いつ)ぶりか。以前より背が縮んだように見えるが?」

 

速度を上げながら、距離が詰まっていく。

悪魔が握り拳を作る。

 

「密度を上げてある。貴様を殺すにはこの形が最適だ。あの虫けらが何かできると思っているのか?」

 

ストレンジを封じ、スパイダーマンは戦力外通告。

狡猾さと傲慢の言葉。

 

「お前にあの戦士の強さは理解できん。街を焼く必要も無い」

 

間合いはもはや双方の打撃の攻撃範囲に入っている。

 

「我が領域内の情報は全て握っている。時が来る。それだけだ」

 

その顔に口は無い。

しかし愉悦の笑みが浮かぶ様に顔のエネルギーが流動する。

 

「全て、か。川を供給経路に使う知恵。成長する悪魔。今回も地獄に帰ってもらう」

 

遂に超近接戦の距離まで達した。

睨みあう――悪魔が唐突に前蹴りで復讐者を蹴り飛ばした。

 

両腕でガードするも衝撃で後ずさる。かなりの距離を空けられた。

 

「力の差は歴然。(なぶ)り殺す。時間の限りな」

 

 

――復讐者の燃える鎖が自らの体を縛り上げ始めた。

 

「……貴様ッ!」

 

悪魔の放つ悪意が跳ね上がる。

 

それに呼応するかの様に復讐者の体が地獄の業火で燃え上がる。

 

一人の男から2つの声色が漏れ出し開戦の狼煙をあげた。

 

 

 

  リ 限

ミ 

テ 

  ッ 定

  リ 開

  ス 放

 

 

  イ 領

  ェ 域

  ル ・

  ノ 地

  イ 獄

  ・ の

  ・ 監

  ル 獄

 

 

 

炎を(まと)い続ける鎖が弾け飛び正方形の金網の(おり)を組み上げた。

 

復讐の精霊の存在が膨れ上がり――

 

その姿が瞬時に消え、気が付いた時には悪魔の喉元に炎を(まと)った右腕が叩き付けられていた。

 

凄まじい衝撃が悪魔の巨体を回転させながら金網まで吹き飛ばし反動で元の位置まで跳ね返す。

 

その身を焼かれながら宙を舞い戻る巨体を復讐者がキャッチし地面へと投げ捨てた。

 

大地が割れ巨大なクレーターを作る。

 

土ぼこりが立ちこめ視界を奪う。

 

 

のそりと黒い影が立ち上がり土煙の中で赤い目が光る。

 

そして――お互いが相手の首を両手で掴み締め上げた。

 

復讐の炎と悪意の雷が腕を伝い強力な干渉を起こし爆発する。

 

吹き飛び間合いが離れる。

双方両腕が跡形もなく消滅した。が、

 

即両腕が再生される。まるで何事も無かったかの様に。

 

悪魔が浮遊すると巨大な赤いエネルギー塊を大量に生み出し、怨敵に向かって放つ。

 

復讐者は回避しながら突進。

回避できない目の前の赤弾を相手に蹴り返す。

 

後方に着弾した弾が地面を抉り爆音が響く。

 

跳ね返された先に悪魔の姿は無い。

転移。

 

復讐者の真後ろから貫手(ぬきて)が迫る。

 

分かっていた、とでも言わんばかりの振り返りざまの前蹴りが迎え撃つ。

 

鈍い音をたて、互いの腹を貫通。

突き刺さったまま復讐者は残った片足で跳躍――蹴りを繰り出し悪魔が尾で迎撃する。

 

重い音が互いを打ち()える。

足と腕が千切れる。再び距離が開いた。

 

当然の如く腹の穴は塞がり、足と尾は再生。

 

復讐の精霊の体から炎の渦が生み出され空間を埋め尽くす。

 

悪魔の雷が全身から放射され力が衝突する。

 

プラズマ化した高圧縮エネルギーが満ち溢れ大気が焦げる。

 

炭化した体が同時に修復され――静寂が訪れる。

 

 

「今の我と渡り合うその力、時限制だろう?」

 

「……『俺達』に負けは無い」

 

 

2つの声とすら認識する事の怪しい咆哮(さけび)を合図に距離を詰め、

 

復讐者と悪魔は防御を放棄した殴打の嵐を巻き起こした。

 

双方一歩も退かぬ暴の豪雨。

顔面と体に必殺の打撃が降り注ぐ。

 

 

どれほどの時間が経ったのだろう。

 

 

巻き起こったハリケーンが勢いを弱め始めた頃――形勢が傾いた。

 

片膝をつく復讐者を仁王立ちした悪魔が見下ろしている。

 

「我が勝利だ。ゴーストライダー。時が来る」

「ああ、時が来た」

 

悪魔は急激に自分のパワーダウンを感じた。

 

「なんだ!?何が起きている!?」

 

天井、周囲の壁を見渡す。

 

いまだ炎の監獄は維持されている。しかし地獄領域が消滅していた。

 

「ブラックハート」

 

ゴーストライダーの右手が黒い何かを弾いた。

指弾。

ブードゥーの秘術が悪魔の体にめり込み消えた。

 

「何だ!?」

 

反射的に見てしまった。

まだ解放した精霊の力がわずかに残るその男の瞳を。

 

「俺の目を見たな!」

 

目の奥が輝きを放つ。

 

 

贖罪の目――ペナンス・ステア。

 

 

悪魔の体が硬直し、膝をつき、そして地に伏した。

指一本動かせない。

 

本来なら魂の存在しない悪魔には効き目がほぼ無いゴーストライダーの切り札。

 

「な、ぜ、だ」

「咎人の魂を打ち込んだ。隠し(だま)だ」

 

炎上する金網が崩落し鎖に戻る。

 

しばらくして――

 

マディソン・スクエア・ガーデンに白い光の粒が室内にも関わらず降り始めた。

 

悪魔の体に接触した光が悪意の肉体を削り取っていく。

 

「ナゼ、マ、ケ、ル?」

「スパイダーマン」

 

 

その言葉の意味を最後まで理解できぬままブラックハートは地獄へと送還されていった。

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