星の王子と花の姫君 作:百合魔神
白いジャケットのデザイン画は、翌週には本物の衣装となって、きららの前へ吊るされていた。
金糸の刺繍が施された長い上着に、細身の白いパンツ。肩から流れる短いマントと、星形の飾りがついた細身の剣まで用意されている。
「思ったより本格的じゃん」
きららがマントの端を持ち上げると、衣装合わせに立ち会っていた舘響子が満足そうに腕を組んだ。
「童話を題材にした特集なんだから、半端なものは作れないでしょう。きららには、城を訪れた王子を演じてもらうわ」
「王子役は分かってるけどさ。男の子に見せればいいってこと?」
「それだけなら、最初から男のモデルを呼んでいるわ」
響子はジャケットをきららの身体へ当て、肩の位置を確かめる。
「必要なのは、差し出された手を取りたいと思わせること。性別ではなく、立ち姿と眼差しで相手を導いてちょうだい」
「なるほどね」
男の子の真似をすればいいわけではない。
幼い頃のように、女の子の身体から目を逸らすための服でもない。天ノ川きららというモデルが、求められた王子を作り上げる仕事だ。
「分かった。やるからには、誰よりかっこよく決めるよ」
きららが笑うと、響子は当然だと言わんばかりに頷いた。
衣装合わせが終わった後、きららは一枚の見学証を受け取った。撮影当日は、関係者以外の人間を一人だけ招いてもいいらしい。
誰へ渡すかは、考えるまでもなかった。
翌日の放課後、きららは校舎を出たところではるかを呼び止めた。
「はるか。これ」
「なあに?」
差し出された見学証を受け取ったはるかは、印刷された撮影名を読み、すぐに目を輝かせた。
「王子様の撮影、見に行ってもいいの?」
「見学枠が一人分余ってるんだって。来たいなら来れば?」
「行きたい! 絶対行きたい!」
予想以上の勢いに押され、きららはわずかに身を引いた。はるかは見学証を両手で持ち、大切な招待状でも受け取ったように眺めている。
「ただし、約束が一つ」
「うん。何?」
「撮影現場で『キラくん』は禁止。あたしの昔を知ってる人なんていないんだから」
「分かってるよ。お仕事をしてる今のきららちゃんを、ちゃんと見に行くんだもん」
迷いのない返事に、きららは一瞬言葉を失った。
「……なら、いいけど」
きららははるかから視線を逸らし、先に歩き出した。
撮影当日、スタジオには銀色の木々と白い城門が組まれていた。天井近くには巨大な三日月が吊られ、足元には薄い霧が流れている。まだ照明が点いていないにもかかわらず、そこだけが絵本から切り取られた世界のように見えた。
見学証を首から下げたはるかは、スタッフの邪魔にならない場所で何度も辺りを見回している。
「すごい……本当にお城みたい」
「近づきすぎるとセット倒すから、気をつけてよ」
「分かってるよ。きららちゃんこそ、剣を振り回しちゃ駄目だよ?」
「あたしを何歳だと思ってんの」
きららが呆れていると、背後から笑い声が聞こえた。
「相変わらず、きららは面倒見がいいのね」
振り返ると、青いドレスを着た少女が立っていた。長い黒髪を片側へ流し、首元には月を模した銀色の飾りをつけている。
香月レイナ。きららより一つ年上で、同じ事務所に所属するモデルだ。何度か広告の仕事で共演しており、互いの間の取り方をよく知っている。
「レイナ。もう着替えたんだ」
「きららが遅いのよ。王子様が来ないから、プリンセスが待ちくたびれちゃった」
「はいはい。すぐ支度するって」
レイナはきららの隣にいるはるかへ目を向けた。
「その子が、今日の見学者?」
「うん。学校の友達のはるか」
「春野はるかです。今日はよろしくお願いします!」
「香月レイナよ。よろしくね、はるかちゃん」
差し出された手を、はるかは少し緊張しながら握った。
「きららが撮影に友達を呼ぶなんて珍しい。いつもは学校の話、あまりしないのに」
「レイナ、余計なこと言わなくていいから」
「でも、この前のスポーツウェアの撮影では、寮の友達が面白いって話していたでしょう?」
「あれはレイナがしつこく聞いてきたから」
二人の会話には、学校で見せるきららとは違う気安さがあった。
はるかは笑って聞いていたが、見学証を握る指に少しだけ力が入る。それに気づくより先に、きららはスタッフから名前を呼ばれ、メイクルームへ向かった。
髪は後ろでまとめ、横髪を流して短く見えるよう整えられた。目元には普段より濃い影を入れ、眉の形も鋭く描かれる。白い衣装へ袖を通し、肩にマントを留めると、鏡の中にいたのは幼い頃のキラとはまるで違う王子だった。
昔の自分は、男の子らしい服の陰へ隠れようとしていた。
今の自分は違う。
鏡の前に立つきららは、自分の身体も、名前も、そこに至るまでの時間も否定していない。天ノ川きららとして積み上げてきたものを使い、王子という役を自分の側へ引き寄せている。
「悪くないじゃん」
剣を腰へ下げ、きららはメイクルームを出た。
スタジオの入口で待っていたはるかが、息を呑む。大きく開かれた瞳が、きららの髪から靴の先までをゆっくりと追った。
「キラ――」
その呼び声は、最後まで形にならなかった。
はるかは一度唇を閉じ、今度ははっきりと言い直す。
「きららちゃん、すっごくかっこいい!」
呼び間違えかけたことには気づいていた。それでも、はるかが現在の名前を選んだことも分かっている。
きららは剣の柄へ手を置き、得意げに顎を上げた。
「当然でしょ。誰だと思ってるの?」
「王子様!」
「モデルの天ノ川きららです」
はるかが楽しそうに笑う。その笑顔を見ていると、写真を見られた時に感じた恥ずかしさも、少しだけ軽くなる気がした。
最初に撮影するのは、城門を訪れた王子がプリンセスへ手を差し出す場面だった。
きららは決められた印へ片膝をつき、階段の上に立つレイナを見上げる。照明が点くと、銀色の木々が月光を浴びたように輝いた。
「もっと顎を引いて。レイナはすぐに手を取らず、王子の目を見て」
カメラマンの指示を聞き、二人は呼吸を合わせる。
きららは右手を差し出した。
「お手を、お姫様」
写真に音声は残らない。それでも、役へ入り込むために口にした言葉だった。
レイナが微笑み、その手へ指を重ねる。きららは細い指先を包み込み、立ち上がりながらレイナを階段から導いた。
シャッター音が続く。
「いいね。きらら、もう少し柔らかい目で見て。初めて出会ったプリンセスを、舞踏会へ誘うんだ」
きららは一度目を伏せ、顔を上げた時には表情を変えていた。
強引に連れていくのではない。相手が自分から手を預けたくなるように、静かに待つ。口元には笑みを残しながら、視線だけでレイナを先へ促す。
カメラマンが立て続けにシャッターを切った。
その向こうで、はるかが自分の右手を左手で包んでいるのが見えた。
撮影が始まってから、はるかはほとんど声を出していない。先ほどまではセットを見るだけであれほど喜んでいたのに、今は妙に真剣な顔で二人を見つめている。
昔を思い出しているのだろうか。
きららの脳裏に、公園で泣いていた幼いはるかが浮かんだ。あの時も、自分は座り込んだはるかへ手を差し出した。
だが、今は仕事中だ。きららは意識をレイナへ戻し、次の指示を待った。
続いて撮影する短い映像では、二人が舞踏会へ向かう様子を撮ることになった。
きららはレイナの腰へ右手を添え、左手で相手の手を取る。足元に印された順番を確かめながら、音楽に合わせてゆっくりと回った。
レイナの青いドレスが広がり、きららの白いマントと重なる。
「二人とも、そのまま顔を近づけて!」
きららがレイナの身体を引き寄せる。互いの額が触れそうな距離まで近づいたところで、見学席から声が飛んだ。
「近い!」
音楽が止まり、スタジオ中の視線がはるかへ集まった。
「えっ?」
声を上げた本人も、自分で驚いているらしい。はるかは顔を赤くし、慌てて両手を振った。
「ち、違います! カメラが近いなって! カメラマンさんがぶつからないかなって思っただけです!」
「俺はちゃんと離れてるけど」
カメラマンが困ったように笑い、周囲からも小さな笑い声が起こった。はるかは首を縮め、見学席の椅子へ座り直す。
きららはレイナを支えたまま、眉を寄せた。
「はるか、何やってんの……」
「かわいい友達ね」
レイナは声を潜め、楽しそうに笑った。
撮影が再開すると、はるかは今度こそ黙って見ていた。しかし、きららとレイナが近づくたび、膝の上に置いた手が忙しなく動く。
休憩へ入った途端、はるかは水のボトルを持って駆け寄ってきた。
「きららちゃん、水分補給!」
「ありがと。でも、さっき飲んだばっかなんだけど」
「じゃあ、タオル!」
「汗かくほど動いてないし、メイク崩れるから触らない方がいいよ」
「それじゃあ、マントを直すね。ちょっと曲がってる気がするから」
「衣装さんが直してくれるって」
伸ばしかけたはるかの手が止まる。
「そ、そうだよね」
「はるか、今日どうしたの?」
「何が?」
「何がって……」
きららが聞き返そうとしたところで、レイナが隣へやってきた。
「きらら、次は抱き留めるカットですって。足の位置を確認しておきましょう」
「分かった。今行く」
「レイナさん!」
呼び止められたレイナが振り返る。はるかは何かを言おうとして口を開いたが、結局は深く頭を下げた。
「次の撮影も頑張ってください!」
「ありがとう、はるかちゃん」
レイナは微笑み、きららと並んでセットへ戻る。その途中で、レイナが小さな声で囁いた。
「あの子、本当にきららのことをよく見てるのね」
「そう?」
「きららが友達を連れてきた理由、ちょっと分かったかも」
「変なこと言わないでよ」
きららは前を向いたまま答えたが、なぜか頬が熱くなった。
最後は、王子が倒れかけたプリンセスを抱き留める場面だった。
レイナがきららへ背中を預け、上体を後ろへ倒す。きららは片腕で腰を支え、もう片方の手でレイナの手を握った。
「きらら、相手を落とさないように気をつけて」
「分かってる。レイナ、いくよ」
「いつでもどうぞ、王子様」
音楽に合わせ、レイナが身体を倒す。
きららは踏み出した足へ重心を移し、レイナを受け止めた。顔を寄せ、相手の瞳をまっすぐに見つめる。
シャッター音が連続して響いた。
「そのまま! きららは、やっと見つけたプリンセスを二度と離さないつもりで!」
きららは腕へ力を込める。レイナも応えるように、きららの肩へ手を添えた。
見学席から声はしなかった。
だが、撮影の合間にそちらへ目を向けると、はるかは笑っていなかった。怒っているわけでも、悲しんでいるわけでもない。ただ、何かを我慢するように唇を結んでいる。
撮影が終わると、スタッフから拍手が起こった。
きららが腕を緩めると、レイナは自分の足で立ち、青いドレスの裾を整える。
「お疲れさま。やっぱり、きららとはやりやすいわ」
「レイナもね。途中で重くなったとか言い出さなくて助かった」
「女性に重いなんて言わないのが王子様でしょう?」
「もう撮影終わったし」
二人は笑いながら手を合わせた。
「それじゃあ、またね。きらら王子」
「次は普通の服でよろしく」
レイナがはるかへも手を振る。
「はるかちゃんも、今日はありがとう」
「はい。レイナさん、とってもきれいでした!」
「本当? 嬉しい。また会いましょうね」
はるかはきちんと笑って答えた。レイナが控室へ戻っていくと、その笑顔は少しずつ小さくなる。
きららは、その変化を見逃さなかった。
着替えを終えてスタジオを出た後も、はるかは普段より口数が少なかった。
撮影がどうだったか尋ねれば、かっこよかったと答える。レイナについて聞けば、きれいで優しかったと言う。どちらも嘘には聞こえないのに、すぐに会話が途切れてしまう。
きららは建物の外にある自動販売機の前で足を止めた。
「はるか」
「どうしたの?」
「それ、こっちの台詞。今日ずっと変だったよ」
はるかは目を瞬かせた後、慌てて笑った。
「変じゃないよ?」
「じゃあ、レイナに何か気に障ること言われた?」
「ううん! レイナさんは何も悪くないよ。すごく優しかったし、きれいだったし、きららちゃんとも息がぴったりで……」
最後の言葉だけが、妙に小さくなった。
「なら、何なの?」
はるかは俯き、自分のスカートを握った。すぐに答えは返ってこない。
きららは急かさず、はるかの言葉を待った。
「私ね、今日の撮影、すごく楽しみだったの」
やがて、はるかはゆっくりと話し始めた。
「王子様になったきららちゃんを見られるのが嬉しかった。昔のキラくんとは違ったけど、今のきららちゃんもすごくかっこよくて……やっぱり、きららちゃんはすごいなって思ったよ」
「それなら、なんでそんな顔してんの?」
「分からないの」
はるかは胸元へ片手を当てる。
「レイナさんの手を取った時も、抱き留めた時も、きららちゃんがちゃんとお仕事してるだけだって分かってた。あんなにきれいな写真を撮れるなんて、すごいことだとも思った。でも、見てたら胸の中がもやもやして、だんだん嫌になってきて……」
「仕事だよ?」
「うん。分かってる。レイナさんも、きららちゃんも悪くないよ」
はるかは一度唇を噛み、それから顔を上げた。
「でも、きららちゃんが、ほかの子の王子様になるのが嫌」
車の音が、二人の前を通り過ぎていく。
きららは何も言えなかった。
十七歳の男子高校生だった頃の感覚が、こんな時だけ妙にはっきりと蘇る。
女の子から、ほかの子の王子様になってほしくないと言われた。それをただの友情として受け取れるほど、前世の自分は鈍くなかった。
だが、目の前にいるはるかは、自分の言葉の意味に気づいていない。困ったように眉を下げ、きららの反応を待っている。
頬が熱くなる。衣装を脱いだ後なのに、首元まで窮屈になった気がした。
「……はるか」
「うん」
「それ、どういう意味で言ってるの?」
「どういう意味?」
本気で分かっていない顔だった。
「だから……あたしがほかの子の王子様になるのが嫌って、どういうこと?」
「えっと……」
はるかは腕を組み、真剣に考え始める。
きららの鼓動だけが、無駄に速くなっていく。ここまで聞いておきながら、答えを期待している自分に気づき、余計に腹が立った。
しばらくして、はるかは申し訳なさそうに首を傾げた。
「分からない」
「分からないの?」
「うん。でも、嫌だったのは本当だよ」
あまりにも素直な答えに、きららは片手で顔を覆った。
「意味分かってないくせに、よくそんなこと言えるね」
「ご、ごめんね?」
「謝らなくていいけど……はるかって、案外独占欲強いんだ」
「独占欲?」
はるかは初めて聞いた言葉のように繰り返した。
「友達を誰かに取られたくないって思うような気持ち。たぶんね」
「そっか。じゃあ、そうなのかも」
はるかは納得したように頷いたが、すぐに表情を曇らせた。
「でも、ほかの友達が誰かと仲良くしてても、こんな気持ちにはならないよ」
「……それ、あたしに聞かせる必要あった?」
「きららちゃんが聞いたんだよ?」
正論を返され、きららは言葉に詰まる。
やはり、はるかは何も分かっていない。分かっていないからこそ、思ったことをそのまま口にしてしまう。
「モデルのあたしは、仕事なら誰の王子様にだってなるよ」
きららがそう言うと、はるかの肩がわずかに下がった。
「求められた役を一番よく見せるのが、あたしの仕事だから。そこは譲れない」
「うん。きららちゃんがお仕事を大切にしてるの、知ってるよ」
「でも、仕事が終われば、あたしはあたし。誰か一人のために王子様を続けるつもりはないよ」
はるかが顔を上げる。
「本当?」
「本当。そもそも、あたしは王子様じゃないし。モデルで、プリキュアで……はるかの友達でしょ」
「うん!」
はるかは、ようやくいつもの笑顔を見せた。
その顔を見て、きららも安心する。安心したはずなのに、胸の奥には説明のつかない引っかかりが残っていた。
「それなら、よかった」
「何が?」
「きららちゃんが、私の知ってるきららちゃんじゃなくなるわけじゃないって分かったから」
はるかは照れたように笑い、歩き出す。
きららはその場に立ったまま、数歩先へ進んだ背中を見つめた。
ほかの友達には、同じ気持ちにならない。
そんな言葉を付け加えておきながら、本人だけが何も気づいていない。今すぐ追いかけて問い詰めたい気持ちと、これ以上聞けば戻れなくなるという予感が、胸の中でぶつかり合う。
「きららちゃん、置いていっちゃうよ?」
「今行く!」
きららは考えるのをやめ、はるかの隣へ駆け寄った。
その夜、はるかは寮の本棚から、古びた一冊の絵本を取り出した。
花に囲まれたプリンセスが描かれた表紙は、何度も開いたせいで角が丸くなっている。幼い頃、公園へ持っていった『花のプリンセス』だった。
「その絵本、久しぶりだね」
机で絵を描いていたゆいが、鉛筆を置いて振り返る。
「うん。ちょっと、確かめたいことがあるの」
「確かめたいこと?」
「今日、きららちゃんが王子様の役をしたんだけどね」
はるかは撮影の様子を話しながら、絵本のページをめくった。最後の見開きには、城の前で王子がプリンセスへ手を差し出す場面が描かれている。
昔は大好きだった絵だ。
その手を取れば、プリンセスの夢は叶う。王子に見つけてもらい、二人で幸せになる。それで物語は完成するのだと思っていた。
けれど今は、王子の差し出した手よりも、それを見つめているプリンセスの顔が気になった。
「ゆいちゃん」
「なあに?」
「プリンセスって、王子様に選んでもらったら完成するのかな」
ゆいはすぐには答えなかった。
はるかの顔と、開かれた絵本を交互に見る。その瞳には、何かに気づきかけたような色が浮かんでいたが、ゆいは答えを決めつけなかった。
「はるかちゃんは、どう思うの?」
「それが分からないから、もう一度読んでみようと思ったの」
はるかは最初のページへ戻り、花畑に立つプリンセスを見つめた。
同じ頃、きららは自分の部屋のベッドへうつ伏せになっていた。
撮影は成功した。響子から届いた仮写真も、狙いどおりの仕上がりだった。白い王子と青いプリンセスが月明かりの下で見つめ合う姿は、童話の一場面として申し分ない。
それなのに、きららの頭へ浮かぶのは、カメラの音でもレイナの姿でもなかった。
――きららちゃんが、ほかの子の王子様になるのが嫌。
きららは枕へ顔を押しつける。
「意味分かってないくせに、あんなこと言うなっての……」
苦情を言いたい相手は、今頃何も知らずに眠っているかもしれない。
誰かの王子様を演じる仕事は、もう終わった。それでも、はるかの一言だけは衣装のように脱ぎ捨てられず、いつまでもきららの胸に残っていた。